004.弟子は心配性
「お、お、お、お、お師匠さーんっ!!」
自称弟子のオリビアは半泣きである。
「あん?なんだい、あんた。
泣いてんのかい?」
「お師匠さーんっっ。」
オリビアはもう泣いていた。
「だから、なんだい。煩いねぇ。」
「何で、あの人たち、ここに来たんですか?」
「はぁ。大方、どっかとの戦争に参加してくれとか、そんなとこだろうよ。」
「そ、そんな簡単にーっ。」
「あたしが歴史に出てきたのなんて、百年以上前だよ。
いや?そろそろ、二百年は経ってるか?
そんなのに頼ろうなんて、どうかしてるよ。まったく。」
論点はそこなのか。
オリビアはよく分からなくなってきた。
「あの人たち、また来たり……しませんよねぇ?」
涙声で問う弟子に、魔女は嫌な顔をした。
「あんた、ちょっと、縁起でもないこと言わないどくれよ。」
そして、フラグはしっかり立っていた。
弟子の心配した通り、デリオ御一行様はまたやってきたのだ。
「あんたが余計なこと言うから、面倒事がやってきたじゃないか。」
「えええー。私のせいなんですか?!」
弟子は目をぐるぐるさせていた。
「あんなもの、いちいち気にしてるからだよ。
はぁ、どうしようかねぇ…。」
「ど、ど、どうするんですか?」
「ひとまず、お帰り頂くしかないねぇ。
後は、そう、この一帯に隠蔽魔法でもかけとくかね。」
魔女は軽く首を傾げた。
「隠蔽魔法、ですか?
でも、ここ……かけてましたよね?」
そう。隠蔽魔法はかけていた。
森に迷ってうっかり……な人間が寄り付かないように。
「ああ、軽くね。
はぁ…。もういっそ、引っ越すかねぇ。」
「引っ越し、ですか?」
「ああ。ちょいと面倒だけど、それが確実だろうさね。」
「お師匠さん。……私も連れてってくれますよね?」
上目使いで縋るようにしてくる弟子に、魔女は苦笑するしかない。
「そりゃ、あたしは構わないけどさ…。」
「お師匠さーんっ。ありがとうございますっ。
大好きですっっ。」
可愛いこと言ってくれるじゃないかと、魔女は僅かに笑んだ。
「ところで、このお屋敷はどうするんですか?」
七面倒な使者御一同様を追い払い、適当に夕飯を済ませて、お茶を楽しんでいる師弟の団欒である。
「お屋敷?
あんた、今、このボロ屋をお屋敷って言ったのかい?」
魔女は顔を顰めた。
「お師匠さんにとってはボロ屋でも、私にとってはお屋敷ですよ。」
「はぁー。そうかい…。」
どうにも座りの悪い魔女である。
ここはあたしの家なのに、居心地悪くなるじゃないかと、心の内で文句を言う。
「そうだねぇ。
研究に必要なものだけ鞄に詰めて、建屋は封印するのもありなんだけどねぇ。」
「研究道具や資材だけでも、かなり手間がかかりそうですね。
というか、鞄に入りきりますか?」
「あん?取っておきがあるのさ。」
「大容量の収納鞄、ですか。
……便利そうですね。」
「そうだろう?」
「お師匠さん。今度、作り方、教えてくださいねっ!」
ふふん、仕方ないね。
と言いながらも嬉しそうな魔女と、また新しいことを学べると燃える弟子である。
弟子も大容量の収納鞄を作った。
魔女ほどの容量はないが、かる〜く馬車百台分くらいは入りそうな鞄だ。
今回弟子が作ったのは黒色の2wayバッグで、肩掛けにも手持ちにもできるタイプ。勿論、撥水加工──というか付与術──も施されている。
移動に便利で、アウトドアグッズの出し入れも出来るような口の広さが特徴だ。
これには師匠も絶賛である。
「なかなか見てくれもいいじゃないか。」
「ありがとうございます〜♪」
荷物が増えるのは嫌なので、いつも持ち歩く4wayボストンは新しいマジックバッグに放り込んでしまう。
後はテントと短弓、食料品、書籍、各種調理器具類に錬金釜、その他諸々だ。服はあまりない。
「お師匠さーん。用意できましたよー。」
「ちょいとお待ち。こっちはまだだよ。」
「あ、手伝いまーす。」
魔女の持ち物には希少な素材が多いので、扱いにも慎重になる。
「えーっと。これは、どうしたらいいですか?」
「片っ端から、こっちの小袋に分けてっとくれ。
大物はそっちの布で包んでいけばいいさ。」
「はーい。
あれ、れ?
これって、もしかして……緩衝材とかの役目もあったりします?」
「ああ。状態保存の付与だね。」
「結構な数がありますね……。
布の方は……縮小化……?
ちょっ?!
お師匠さんてば、どれだけ魔法具溜め込んでるんですかっ?!」
「これくらい、別に大した量じゃないさ。」
「…………………………。」
状態保存の小袋が山となっている。
もう、これだけで一財産ではないだろうか。
魔女の非常識には慣れてるが、それでも少し呆れてしまう。
地階は殆どが魔女の研究室だ。
日光に弱い素材も多い。
勿論、作り貯めた魔道具類もたんまりある。
師弟がフル回転で整理しても2日はかかる量だった。
「よし、行くよ。」
「はい、お師匠さん。何処へでもついていきますよー。」
こんなマジックバッグがあるといいなぁなんて
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