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Another World  作者: Jell&アサト
3/3

アサト:2

ーーさて、どうしたものか。

 チアキとセツナと名乗った二人は辺りを確認する為に行ってしまったし、残されたミオを名乗った女の子と二人きり。

 こんな訳のわからない状況ではあるが、俺としてはまず確認しておきたい事があった。ここに集まったのは知った名前の四人ではあるが、本当にあの小学校に通っていた四人なのか。

 異世界に飛んだ時一緒に居たセツナは、同じく一緒にこちらに来てしまった可能性はあるが、図書室のあの場所にチアキもミオも居なかった。偶然にしては出来過ぎているし、名前だけが同じ別の人間の可能性はあるだろうか。

 ずっと、おろおろしたままだったミオを名乗る女の子に尋ねてみる事にした。

 聞きたい事があるんだけど、と切り出すと、ビクッとしながらも女の子は頷いてくれた。

「ミオさん、だっけ?ここに来る前は何をしていたのかな?」

 遠回しな聞き方だったかもしれないが、万が一別人だった場合の保険だ。

 女の子はまだ混乱しているのか頭を抱える素振りを見せながらも、何とかここに来た経緯を思い出そうとしているようだった。

「……学校、に居た、と思う」

 学校と言う単語が出た時点で確定的だろう。だが念には念でさらに尋ねる。

「学校と言うのは高校、かな?」

 学校。見た目の年齢から想像すれば高校生だろう。だが中身は。

「…小学校」

 確定した。ミオは間違いなく、あのミオだ。

「ミオ。こんな姿になってしまっているけど、俺はカイだよ。隣のクラスの!」

「カイ?……え、あの、カイなの?」

 驚いた様子ではあったが、徐々に理解が追いついてくると、何もわからず不安だった中にようやく安心の材料を見つけたような柔らかい表情を見せてくれた。だがそれも一瞬の事で、またすぐに不安な表情に戻ってしまった。

「ねぇ。一体どうなってるの?ここどこ?どうしてカイが一緒に?」

「ごめん、それは俺にもわからない。ただ、まだ確定ではないけど、さっきの二人……あれは俺達の知ってるチアキとセツナかもしれない」

 先程の会話の内容からも、俺が名乗る前からカイだと察していたチアキはもちろん、自称情報通のセツナ……まぁ確定なんだと思う。

 さて。だとして小学校の仲良し四人組が異世界に飛ばされた理由はなんだ?図書室のあの本……あれが原因なのだとしたら俺と、その時一緒に居たセツナが飛ばされたのはわかるとしても、チアキとミオはどうしてだ?

「チアキも……そっか」

 安心した様子で落ち着きを取り戻したようだったが、セツナのことは忘れてしまったのだろうか。なんて心の中でツッコんでしまうのは性格が悪いからなのか、単に自虐なのか。

 せっかく訳のわからない状況なんだからいっそ忘れてしまいたかったが、そうもいかないらしい。

 探索に出る時のセツナの視線はそういう意味か。

(恨むぞ、セツナ)

 こんな状況でミオと二人きりなんて拷問みたいなものじゃないか。俺の恋は始まる前に終わってしまったんだから。

 それに、チアキもチアキだ。どうしていつもの四人だと察しておきながら、ミオではなくわざわざセツナを連れ出したんだ。意図せず、大きなため息が出てしまった。

「どうしたの?」

「あ、いや……えーと」

 おっと、いけない。俺とした事が、ネガティブな感情が隠しきれなくなっていた。誤魔化すようにこれからの事を話した。

「とにかく、どうやったら元の世界に帰れるのか、方法を探さないとな」

「元の世界って、何?」

 そうか。俺はゲームやアニメが元々好きだったし、少しは小説なんかも読む人間だった事もあって何となく異世界というものを、大した混乱も抵抗もなく受け入れてしまえたが、そうではない人間からしたら異世界に来たなんて急に言われても普通は理解できないか。

「ミオ。落ち着いて聞いて欲しいんだけど、ここは異世界なんだ」

「異世界?」

 異世界と言うものが、まずわからないようだ。どう説明すれば伝わるのかと考えていたが、そんな時、ミオがやっていたゲームを思い出した。確かあれは王道ファンタジーのRPGで、攻略について二人で話した事があったはずだ。

「前にゲームの事を話したの、覚えてる?」

「覚えてる、けど……それ、なんか関係あるの?」

「うん。厳密には違うのかもしれないけど、多分ここは、そういうゲームの中の世界……みたいなものだと思う」

 自分で説明していてもあまり説得力がないように思ったし、案の定ミオには伝わっていないようで、意味わかんない、と言われてしまう。

「ここが異世界じゃなければ、小学生だった俺達が今こんな姿になっている事もおかしいし、あんな魔物がいる事が説明出来ない」

 ミオは黙り込んでしまう。

「どうしてこんなことになったのか理由はわからないけど、こちらの世界に来た以上帰る方法もあると思う。絶対とは言い切れないけど、それを探すのがとりあえずの俺達の目標になると思う」

「……ねぇ、なんでそんなに落ち着いてるの?」

 何か疑われているのだろうか。俺だって混乱してるし、不安だ。だけど、ミオの前で格好悪い所を見せたくなくて、今更意味は無いのかもしれないけど、ちょっと無理してるだけだ。だって、そんなにすぐに人の気持ちは変わらない。

 俺はまだミオのことが好きなままだ。

「みんなよりゲームとか好きだったから、何となくこういう世界の事わかるから、かな」

 それは本当のことだ。セツナとはゲームの貸し借りをするくらいだったので、あいつもそれなりに順応するのが早いかもしれないし、ミオはたまにゲームするくらいの感じでこれだし、チアキなんてバスケ一筋でゲームなんて、たまに誰かの家で遊ぶときにちょっとやる程度の知識しかないだろう。異世界では大抵そういった知識が役に立つ。

 納得したのかしないのか、ミオは微妙な態度だったけど、そのあとは何となく当たり障りの無い話題を選んで時間をやり過ごした。

 そうこうしている内に、チアキとセツナが戻ってきた。その表情は暗い。

「……ここは、オレ達のいた世界じゃ無いかもしれない」

 落ち込んだチアキを見て、オレはミオを顔を見合わせる。何となく、ちょっと笑ってしまった。

「私達、それ、もう知ってる」

 だってさっきまでその事を話してたから、とミオが言った。俺はミオにだけ聞こえる声でこう言った。

「少しは信用した?」

 ミオは恥ずかしそうに目を逸らしながら言った。

「まぁ……少しは」

 それで俺は満足だった。俺はともかくミオも、チアキとのことに関しては触れないようにしていたようだったし、お互いに気不味くて開いてしまった微妙な距離感を少しは詰めることが出来たような気がした。

「それで、他に何かわかった事はあったのか?」

「えーとねぇ、ここは高い山の上にある洞窟……と言うか祠だって言う事と、森を超えた先に街がある事はわかったよ」

 さすがセツナはある程度の知識があるだけに、必要な情報を心得ている。

「街まではどのくらいかかりそう?」

「半日も歩けば、って感じかなぁ。見た目の距離だから何となくの想像だけどね」

「十分だ。とにかく今の俺達は情報が足りない。元の世界に帰る方法を探す為にも、まずは街を目指そう」

 幸いにも自分達はある程度戦う能力はあるようだし、魔物が出ても何とか乗り切れるんじゃないだろうか。

「森には魔物も出るかもしれない。ミオは戦えそう?」

 さっきの戦闘のような状態だとこの先厳しいかもしれない。

「怖いけど、大丈夫だと思う。何となく戦えるみたい」

「こっちの世界での記憶か。確かに俺達もそのお陰で戦えた訳だし」

 だがその記憶もかなり不鮮明だ。こちらの世界で生きてきた全てを思い出せるわけではなくて、これまで戦ってきた体に染み付いた技術が自然と使えるだけ。

 個人差があるのか、みんなそうなのかはまだわからないけれど、それは歩きながら話せばいい。

「チアキとセツナもそれで良いかな?」

「さっきは倒せたけど、本当に大丈夫なのか?あれよりヤバいやつが出てきたらどうする?」

 チアキが不安を言葉にするが、セツナは賛成してくれた。

「私はそれでいいと思うよ。ずっとここにいる訳にはいかないし、ここより街の方が安全だと思う」

「そうだな。食事にしても、寝るにしても、こんな場所だと不自由しかしないしね」

 ミオとの事がある以上、チアキに対してどんな感情で向き合って良いのかも今は正直わからないが、それでも俺は、それに、と付け足す。

「俺達なら大丈夫だろ?」

 何があっても、俺達は親友だと思っていた。でも俺の気持ちを知っていたにも関わらずチアキは何も言わずミオと付き合い始めた。俺は、裏切られたのだと思った。だからこれは、精一杯の強がりだ。

「……そうだな。お前とならきっと大丈夫だ。俺はお前を信じるよ」

「……ありがとう」

 これで方針は決まった。今はこれでいい。祠を出ると、セツナが言っていた通り遠くに街が見えた。山を下っている時に、セツナがこっそり話しかけてきた。

「カイ、大丈夫?」

 何が?と聞き返すと複雑な顔をされた。

「や。だって今あの二人と居るのは……」

「……ああ、そうだな。でも置いてく訳にもいかないし」

 それはそうなんだけど、と言いながらもセツナは納得がいかないようだ。

「良いんだよ、今は。あの本が原因でこの世界に来てしまったのなら、みんなを巻き込んだのは俺だ。だから少なくとも無事に帰れるまでは、何とか頑張ってみるよ」

 それは間違いなく本心だった。それを聞いたセツナも意を決したように言った。

「なら私も協力するよ。私だってあの時一緒に居たしね。だから一人で抱え込まないでね」

「いや、セツナだって巻き込まれた一人じゃないか」

 わざとらしく考える仕草をした後、セツナは言った。

「私の事は気にしなくて大丈夫!それに……情報屋のセツナさんの力が必要でしょ?」

「ごめん……ありがとう」

 セツナだって不安なはずだけど、気丈に振る舞うのは俺を心配しての事だろう。今は素直に甘えておく事にした。


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