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Another World  作者: Jell&アサト
1/3

アサト:1

 この世界は理不尽だ。


 昼休み。小学6年生の俺、カイは親友のチアキを探していた。今日の給食は嫌いな食べ物が多くて、俺は昼休みを半分ほど削る羽目になってしまった。いつもならチアキは昼休みにバスケをやっているはずだが見当たらない。諦めて他の友達と遊ぼうか、と考えながら校舎裏を訪れた時に、それは唐突に訪れた。

 チアキとミオがそこにいた。何を話しているかまではわからないが割って入れる空気でもなさそうだったので、俺は何となく校舎の影に隠れたままその様子を眺めていた。昼休みが終わるまで。

 午後の授業中は、クラス全体が浮わついていた。そしてそこら中から噂話が漏れ聴こえてくる。

「チアキとミオが付き合い始めたらしい」

 なるほど。さっきのあれはそういう事か。授業が終わり、帰りのホームルームで担任が俺を呼んだ。

「カイ。お前、先週図書室に借りた本を返していなかったそうじゃないか」

 そう言えばそうだったな、と思い出す。だが、そのまま認めるのも面倒だったのでちょっと言い訳をしてみる。

「まだ読み終わってなかっただけですよ。本ならほら、こうやって今持ってますし、今日返そうと思ってたところです」

 我ながらそれらしい言い訳した、と思っていたが、担任は呆れた様子で俺を見ていた。

「理由は関係ないんだ。図書室で借りた本は毎週返す。読み終わってないなら一度返却してもう一度借り直す。それが、ルールだろ?」

 ごもっとも。付け足すなら、読む気はなくても毎週図書室で本を借りなければいけないのも、この学校のルールだ。

「必ず今日中に図書室に返すんだぞ」

「もちろんそのつもりですよ、先生」

 しまった。今日は本を忘れた事にしておけば、この後図書室に行かなくて済んだ。少なくとも、今日はそんな気分ではないのだが。

ホームルームが終わり、仕方なく俺は図書室に行くため教室を出た。

「ちょっと待ってカイ。私も図書室に行くよ」

 俺を呼び止めたのは、同じクラスのセツナだった。セツナは学年一の情報通で、例えばどこのクラスの誰が、誰の事が好きで、みたいな事を全てノートに書き溜めている。そしてそのネタを元にまた新たなネタを仕入れる事を生きがいとしている、少し変わったやつだ。図書室に向かう途中、セツナが言い辛そうに、周りを気にしながら聞いてきた。

「ミオのこと、聞いた?」

 ああ、なんだ。こいつは俺の事を心配してついてきたのか。

「噂くらいは」

「だよね……大丈夫?」

 そう、セツナは知っているのだ。俺が、ミオの事を好きだった事を。

「どうかな。今は、わからない」

 俺とミオは毎日の様に一緒に登下校していたし、休みの日はよく一緒に遊んだ。最初は仲が良いだけの友達だったが、いつしか俺はミオが好きになっていた。チアキもそれは知っている。俺はその気持ちを、卒業の時に伝えよう、と密かに思っていた。

 それが、この結果だ。俺は勝負する前から負けてしまった。

「あのさ、しばらくはミオと距離を置いた方が良いかも」

 心配したいのか追い詰めたいのか、どっちなんだ。

「そりゃ自然とそうなるんじゃないか?」

 ミオはチアキと付き合い始めたわけだし。

「そうじゃなくてさ。噂ってのは実はもうひとつあって。そっちはまだ一部でだけなんだけど」

 セツナが何を言いたいのかわからない。

「なんだよ、もうひとつの噂って」

 するとこれまで以上に言い辛そうにしていたので、耳を貸すと小声で彼女は言った。

「……カイが、ミオのストーカーなんじゃないか、って」

 一瞬、言葉の意味がわからなかった。いや正確には、言葉は聞こえているし、言葉自体の意味も解るが、思考が追い付かない感覚を初めて味わった。

「どういう事だ?」

 努めて冷静を装った。

「みんな、予想外だったんだよ。私達のクラスとミオのクラスのほとんどは、カイとミオがよく一緒に居るのは知ってた。付き合ってるんじゃないかって噂があったくらい。……でも実際ミオが付き合い始めたのは、チアキだった」

 その通りだ。だから俺も、どうして良いのかわからないんだ。

「つまり、ミオはずっとチアキの事が好きだったのに、カイに付きまとわれてたんじゃないか、って」

「……は?」

 思わず言葉に詰まってしまった。俺は、勝負する前から負けて、何も出来なかった。なのに、予想外だった?ただそれだけの理由で、俺がストーカー扱い?そんなの、あまりにも理不尽じゃないか。俺は、ただただ、ミオの事が好きだっただけだ。

「もちろん私は二人の事知ってるし、そんな噂が広まらないように、って思ってる。けど……」

 セツナは言葉を濁したが、悪い噂は広まるのが早い、ということなんだろう。ミオとチアキが付き合い始めた話を、更に面白可笑しく装飾する為の誰かの心無い言葉が噂話となり、いずれみんなに知れ渡る事になる。そして俺は白い目で見られるようになるんだろう。

「カイ、図書室!」

 考えていたらいつの間にか目的地を通り過ぎようとしていた。

「あー、ゴメンゴメン」

 とにかく今は早く用事を済ませて、帰って落ち着いてから色々考えよう。図書室の扉を開け中に入る。図書委員は席を外しているようだ。返却棚に本を置き、図書カードに返却の日付を記入し、返却の処理は終了だ。そして、全く気分ではないが次に借りる本を選ぶ。どうせ読まないなら、適当に手に取った本でも良いのだが、何となく棚を眺めていると、少し気になる本があった。といっても単に、背表紙にタイトルが書かれていないからだ。

 手に取ってみると、表紙にも裏にもタイトルは書いていなかった。流れでずっと隣に居たセツナも不思議そうな顔をしていた。

本を開いてみた。中身は、何も書かれていない真っ白なページだった。その白いページが光を帯び始め、徐々にその明るさは増していく。

「カイ!何これ!?」

「わからない!!」

 光が溢れ、そして次第に何も見えなくなった。真っ白な世界に包まれた後、一転して真っ暗な世界になった。何も見えない世界で不安になった俺は、直前まで隣に居たセツナを探した。

「セツナ!」

 叫んだ声は暗闇に吸い込まれていく。そして声の反響具合から、先程まで居た図書室の広さではないと感じた。どこまで続くか解らない暗闇に、どうしていいか解らないまま立ち尽くしていると、頭の中に言葉が浮かんだ。

「……武器を、取れ?」

 意味が解らない。武器? よくゲームとかであるのは、剣、だろうか。頭に剣が浮かんだ瞬間、目の前に光の柱が現れた。俺は訳も解らず手を伸ばした。瞬間、光が弾け世界が開けた。

 そこは見たこともない、岩壁に囲まれた、洞窟のようだった。周りを見ると、他にも3人の人が同じように立ち尽くしていた。知った顔はそこにはなかったが、その格好を見て違和感を感じた。今まで見たことのない服装。俺は自分の姿を確認する。そして自分もそれまでとは違う格好をしている事に気付く。そして先程思い浮かべた剣を持っていた。周りの他の人たちも戸惑っているようだった。他の三人の内、男は槍、女の子は弓と短剣を持っていた。その時、洞窟の奥から空気が振動するほどの咆哮が響いた。

「な、なんだ、今の……」

 誰ともなく呟いた。洞窟の奥から現れたのは、これまでゲームやアニメの世界でしか見たことのない、巨大な猪のモンスターだった。そこで俺は、確信した。これは、いわゆる異世界転生、というやつだろう。だが、俺は一つ声を大にして言いたい。異世界転生と言うのは、大抵は社会に適応出来ないダメな主人公がトラック事故に遭って転生し、それまでの後悔と知識を活かして、無双するものだろう。それに引き換え、俺は小学生で、それが今は恐らく青年で。

「これじゃあ逆だろう!!!」

 俺の叫びに残り三人は驚いていたようだが、今はそれどころではない。恐らくこちらの世界での記憶が流れ込んでいるのだろうが、俺は剣と風属性のスキルを使えるようだ。

「今はとにかくコイツを倒すのが先だ」

 他の三人に促す。

「とりあえず、連携するために名前だけ教えてくれないか!」

 それぞれが反応を返す。チアキ、セツナ、ミオ、と。

「嫌がらせか……」

 俺達は最初の壁に立ち向かおうとしていた。


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