明日の天気は俺が決める! ~コストの無駄と言われクビになった宮廷天気予報士。実は天候操作で防いでいた未曽有の大天災が国を襲いピンチのようですが知りません。新天地は楽して幸せなので関わらないでください~
正午過ぎ。
王城のベランダには、王都中に声を届かせる装置がある。
陛下の声を民衆に届ける目的で設置された装置であり、特別な行事でしか使われない。
というのは、今から二年前のお話。
今はこうして――
「おほん」
貴族でもない俺が、王都中の人々に声を届ける。
話す内容は簡潔に、一言で。
「明日の天気は――晴れです」
宮廷天気予報士。
それが俺のテンペスティア王国での仕事だ。
ただ明日の天気を伝えるだけ。
あまり重要そうには見えないだろう。
他の国であれば、これが仕事になることもなかったかもしれない。
ここテンペスティア王国では、明日の天気を知ることが何より重要だった。
「お疲れさまでした。フェザー殿」
「ありがとうございます。この後の予定は?」
「はい。西のウィンディスで、もう雨が一月以上降っていないそうです。次にいつ雨が降るのか見えていただきたいと」
「わかりました。今から向かいましょう」
俺が宮廷天気予報士になったのは二年前。
当時の俺は下っ端の騎士だった。
それが今や宮廷付きで、貴族さながらの好待遇を受けている。
騎士団のみんなは俺を羨み、中には嫉妬してか、俺のことを戦いから逃げた臆病者なんて呼ぶ者もいた。
悲しくはあるけど、今の生活に満足していて、あまり気にならなくなっていた。
この国は俺のことを必要としている。
責任のある立場で、自分の仕事に誇りも芽生えだしていた。
だから信じられなかった。
突然――
「宮廷天気予報士フェザー、本日をもって宮廷付きの任を解く」
クビを宣言された。
ウィンディスでの仕事を終えて戻った俺は、陛下に呼び出されて王座の間に入った。
そこで陛下から告げられたのは、宮廷付きの解任。
簡単に言うと、解雇通告だった。
「お、お待ちください陛下! なぜそんな……」
「もう必要なくなったのだよ」
「必要……なくなった?」
「そうだ。外を見よ、晴れ渡った青空を」
陛下に言われ窓の外を見る。
澄んだ青空に、白い雲がゆったりと流れる。
穏やかな空模様だ。
「君の宮廷付きに任命した二年前は、天候が安定せず、あのような空は見られなかった。いや、極端だったというべきか。だが昨今は非常に安定している。近隣の街も同様だ」
「そ、それはそうですが……」
「それだけではない。我が国の優秀な魔道研究者が、天候を調べる装置を完成させたのだ」
天候を調べる装置?
そんなものを作っていたのか。
「君の存在意義はなくなった。これを量産するためにも資金がいる。より優良なものに資金を使いたいのだよ。君一人を雇うより、こちらのほうがコストも安い」
「……」
「これ以上の説明がいるかな?」
ああ、駄目だ。
このままでは俺は仕事をクビになってしまう。
仕方がない。
広まれば大きな騒ぎになるかもしれないし、本当は話したくはないのだけど……
「陛下、私の話を聞いていただけませんか?」
「話? 何がだ?」
「まず謝罪を。私は陛下に隠していたことがございます」
「ほう、隠し事だと? この場で打ち明けるとは、一体何を隠していた?」
「私は……天候を予知していたわけではないのです」
「何?」
「予知していたのではなく、私が天候を操り、明日の天気を決めていたのです」
陛下は目を丸くする。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「明日はー晴れだ!」
「ホント―?」
「うん! だって僕、天気のことならなんでもわかるんだ!」
最初に気付いたのは子供の頃だ。
友達との間で、明日の天気を言い合うただの遊びだった。
子供の頃の俺は、明日の天気を言い間違えたことがなかった。
その頃から大きくなって、色々なことを知って、自分には天気を予想する力があるのだと考えた。
時は経ち、ニ十歳になった。
俺は騎士団に入って、王国のために働いていた。
「なぁフェザー、明日は晴れるのか?」
「えっと、晴れますね。夕方くらいから曇りますけど、雨は降らないです」
「そっかサンキュー! 明日はデートなんだよ」
「なるほど」
騎士団の仲間にも、俺の天気予報は特技として広まっていた。
なんてことはない。
ただ天気がわかるだけで、凄い力とも言えない。
遠征とかもあるから、そういうときには便利だけど、騎士として優れているかと問われたら、まったく関係ない力だ。
単なる特技。
天気がわかるだけ。
だけど、そんな力が重要になる事態が発生する。
その年から急に、王都を中心にして悪天候が続いた。
今までに体験したことのない大豪雨に見舞われ、付近の川や湖が増水し、近くにあった畑も全滅してしまう。
王都内の水路の水も溢れて、一階は水浸しになったり。
汚水も交じっている所為か、感染症も大流行してしまった。
多くの死者が出た。
それは留まることなく続き、前触れもなく収まる。
と思ったら、今度は二か月以上雨が降らず、空気も乾燥し始めた。
次第に乾燥はひどくなり、日差しも増して気温が上がる。
地面はひび割れ、作物を育て直そうとしていた畑の土は死んでしまった。
その後も異常気象が続く。
大雨と激しい雷雨に見舞われた数日後に寒波が来て雪が降ることも。
穏やかで安定した気候が続いていた王国に、日々目まぐるしく変化する異常気象に対応する準備はなかった。
後手後手の対応によって、どんどん状況は悪くなり、人々の生活に影響が出始める。
「せめて天候さえ予想できれば、対処することも……」
「……そうだ! 確か騎士団の団員に、明日の天気がわかる男がいたはずだ!」
「それは真か? すぐに呼べ!」
陛下に呼び出された時は、何か悪いことでもしたのかとヒヤヒヤした。
話を聞いて、実際に天気を予想することになった。
この時にはもう、俺は自分の力に気付いていた。
天気を予想しているのではなく、俺が天気を決めている。
俺が晴れだと言えば晴れるし、雨だと言えば雨が降る。
無意識に力を使っていたことを知ったのは、遠征先で困っている街の人たちを見た時だ。
雨が全く降らない。
その所為で作物が育たなくなってしまった。
苦しんでいる人たちを見て、俺は空に向って命令したんだ。
「なぁ、雨を降らせてくれ」
その一言で、空に雲が集まり、雨が降り始めた。
自分でも信じられなかった。
後から自分で試した結果、今まで無意識に天候を操って、天気を当てていたことに気付いた。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
天候を操作できる。
そんな力は聞いたこともなかった。
ただ、強大な力であることに違いはない。
もしも周りに知られたら、悪用しようと考える者も出てくるだろう。
他国にまで広まれば、暗殺や誘拐に発展するかもしれない。
大事にして、穏やかな生活が送れなくなるのを恐れた俺は、誰にも話してこなかった。
だけど今、宮廷付きとしての安定した生活が終わろうとしている。
打ち明けるしかないと思った。
「異常気象はまだ終息しておりません。私が日々天候を操り、嵐や寒波が来ないように防いでいる結果なのです」
「天候を……君が?」
「はい」
「そうか、そうかそうか! 君は私を馬鹿にしているようだな」
陛下の声が低くなり、目が鋭く俺を睨む。
後から考えれば当たり前のことだ。
天候を操れる。
そんな力を誰も知らない、聞いたこともない。
いきなり出来ると言われて、信じるはずがなかった。
「へ、陛下?」
「その男を城から追放せよ」
「ま、待ってください陛下! 私は本当に!」
「まだ嘘を口にするか。これ以上私を馬鹿にするのであれば、この場で舌を斬り落とすぞ」
「うっ……」
「良いか? 二度とこの城に……いいや、わが国の領土に足を踏み入れるな。一月もあれば出て行けるであろう? それ以降にまだいるようであれば、罪人として捕らえる」
「そ、そんな……」
俺がいなくなったら悪天候がまた続くのに……
宮廷付きになったばかりの頃は、天候を当てるだけで何度も褒めてくれた。
嬉しかったことを思い出す。
目の前にいる人と、同じ人だとは思えない程、陛下は怒っていた。
もう、何を話しても無意味だ。
「……わかりました」
俺は腹を括り、この国を出て行くことにした。
残れば罪人として殺される。
そんなのあんまりだろ。
荷造りをして、王都を出る準備をする。
お世話になった人たちに挨拶をしたくて、騎士団にも顔を出した。
「聞いたぞお前、クビになったんだってな~」
「えぇ……はい」
「可哀想にな~ せっかく出世できたのに、今じゃ国民ですらなくなるなんてな~ 人生何が起こるかわかんないぜ。なぁ?」
「……」
同期、先輩、後輩までも。
誰一人、俺がいなくなることを悲しんではくれなかった。
宮廷付きになった時点で快く思われていなかったし、めちゃくちゃ期待していたわけじゃない。
それでも、せめて最後くらいは……なんてことも、期待しすぎだったのかもしれない。
「まっ、どっか適当な山にでも住んでろよ。明日の天気はーとか言ってさ。何の役にも立たないだろうけどなぁ~」
「……そうですね。でも、あなた方よりはマシですよ」
「あ?」
こんなことを言うつもりはなかった。
でも、今まで俺の耳に聞こえてきた陰口や悪口が思い返されて、ゲラゲラ笑う彼らを見ていたら、無性に腹が立ってきたんだ。
陛下に対してもだ。
黙っていたのは俺だし、信じてもらえないのも俺に非があると思う。
だからって、一方的過ぎじゃないか?
最初はもてはやしておいて、いらなくなった捨てるとか。
俺は物じゃないんだぞ。
「騎士の仕事は国民を守ることですよね? だったら明日から頑張って守ってくださいね。剣が空に届けばいいけど」
「な、何だとてめぇ!」
騎士が剣を抜いて襲い掛かってくる。
俺は背を向けたまま一歩進む。
「落ちろ」
天からの雷が落ちる。
俺と襲い掛かってきた騎士の間に。
「な、何だ今の……」
騎士は驚いてしりもちをついた。
他の騎士たちも唖然としている。
「気を付けてくださいね? 空は俺ほど……甘くないので」
ある意味これで吹っ切れた。
もう、この国に未練はない。
新天地を目指そう。
偉い役職なんていらないし、豪華な屋敷もなくて良い。
ただ、居心地の良い場所で、静かに暮らしたい。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
フェザーを追放した翌日から、天候調査装置の量産が開始された。
動作実験はすでに終えており、足りなかった分の開発費が足されたことで、計画は最終段階へ移行する。
「生産出来次第、各街へ運びましょう」
「うむ。人口が多い街、特に貴族が多く在住している街から優先して運べ」
「はっ! しかしあの男の言い訳は傑作でしたな」
「まったくだ。怒りを通り越して今は愉快にすら感じる。天気予報士よりも道化師のほうが向いておろう」
ガハガハと品のない笑い声が王座の間に響く。
その翌日、雷鳴が響く。
さらに翌々日、天候は荒れ、嵐が王都を襲う。
「凄まじい雨だ。おい! 明日の天気はどうなっておる?」
「あ、明日も同じく雨が続くと」
「そうか。いつまで続く?」
「も、申し訳ありません。今の精度では翌日の天候を調べるだけしか」
「むぅ……まぁよい。いずれ収まるだろう」
だが収まらなかった。
悪天候は翌日、翌々日、さらには一週間続く。
次第に雨風が強くなり、水路の増水が起こる。
初めてではないため対策していたが、それを上回る雨量が続き、街中がの家が水浸しになる。
「これいつまで続くんだよ……」
「またあの頃に戻ってしまったのか?」
「そういえば、数日前から天気予報の声が変わったが……まさか何か関係があるんじゃ……」
民衆の不安が高まり、様々な噂が飛び交う。
さらに日が進み、フェザー追放から一月後。
「な、何だあれは!」
王都の空を覆う雲が笑っている。
比喩ではなく、どす黒い雲が形を変え、鬼のような顔が空に浮かんでいた。
彼らは知らない。
二年前から起きていた天候の悪化が、単なる自然現象ではないということを。
恐ろしく強大な力が迫り、悪天候という形で現れていたに過ぎない。
それを食い止めていたのが誰なのか……
「ま、まさか……あの男の言っていたことは真だったのか」
すでに手遅れ。
彼を失ったことで、せき止められていた力があふれ出し、未曽有の大天災となって王都を襲う。
やがて天災は広がり、疫病の大流行、作物の不作による食糧難。
天候悪化から半年後――人口の半数が死亡する。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
森の中をフラフラと歩く。
視界も霞んできて、頭も痛くなってきた。
「はぁ……はぁ、っ……」
空腹と疲労感が限界を迎え、どこかもわからない森の中で倒れ込む。
何より水分も足りない。
脱水状態が続くと、人間は活動できなくなる。
身体がしびれ出した。
王都を出て約一か月。
休みもほとんどなく、ただひたすら歩き続けた。
一か月で国土を出ろと簡単に言うけど、ほぼ無一文で追い出されて、馬も借りれない状況ではギリギリも良い所だった。
休んでいたら間に合わない。
殺すとまで脅されていたから、一先ず国土へ出たくて、必死に歩いた。
ここはどこだろう?
国土は出られたと思うけど、知らない森の中。
雨が降っていない所為か、ほとんどの木が枯れてしまっていた。
「水……ぅ……」
雨、そう雨だ。
何度か雨を降らせて、その水を飲んで喉を潤していた。
今はそれをするだけの体力すらない。
天候を操っても、空から食料が降ってくるわけじゃなかったから。
ああ、本当に限界だ。
せっかく国土を出られたのに。
新天地を探して、自由に生きるって決めたのに……
「あ、あの……」
その声は綺麗で、耳にスゥーっと優しく入り込む。
淡い緑色の髪がなびくのが見えた。
綺麗な肌にと胸を見て、女のことだと先に気付き、顔をちゃんと見ようと目を見開く。
「大丈夫ですか?」
声をかけてくれたのは、エルフ族の女の子だった。
人間以外の種族を初めて見たとか、どうしてこんな場所にいるとか。
一瞬でいろんな考えが頭を過ったけど、最初に出たのは……
「み、水ぅ……」
とても情けない声だった。
「み、水ですか? ちょ……ちょっと待って……わかりました。飲めますか?」
エルフの女の子はバックから水筒を取り出して、飲み口を俺の口に当てた。
口の中に水が流れ込む。
特別冷たくもないし、美味しいかと言われれば微妙だと思うけど、この時の俺にとっては至福の時間だった。
「ぷはぁー、た、助かったよ。ありがとう」
「どういたしまして」
エルフの女の子はニコリと笑う。
水とはいえ、お腹に少し入ったことで、空腹感も若干だが紛れた。
お陰で身体を動かすくらいは出来そうだ。
「あ、えっと、フラフラですけど」
「大丈夫。喉が潤ったし、多少楽になったから。それより君は? こんなところで何してるの?」
「私の住んでる村が近くにあるんです。食べ物を探してる途中で、あっ! その前に名前ですね。外の人とお話しするなんて久しぶりだから忘れちゃうところでした」
外の人?
俺のような人間のことを言っているのだろうか。
「私はシルフィーです!」
「俺はフェザー」
「フェザーさんですね! フェザーさんこそ、どうしてここに?」
「えっと、色々事情があって……住む場所を探してたんだ」
「住む場所? 旅人さんですか?」
「うーん、ちょっと違うけど、大体そんな感じかな。この先に村があるの?」
「はい。私たちの村です」
「そうか」
ここ一週間くらい、人が暮らしている場所はどこにもなかった。
村があった場所なら見つけたけど、とても暮らせる状態ではなかったな。
村があるなら、一度身体を休めたい。
食料も少し分けてもらえれば……
そんな淡い希望を胸に、彼女に尋ねる。
「もしよければ、君の村に案内してくれないかな?」
「村にですか?」
「ずっと歩き通しで、そろそろ限界なんだ。少しで良いから休ませてもらえないかなって」
「……」
彼女は俺のことをじっと見つめている。
迷っているように見えたが、ニコリと微笑み頷く。
「わかりました!」
その後、村に案内してもらって――
「馬鹿者! なぜ人を連れてきたのじゃ!」
「ご、ごめんなさい! 困ってるみたいだったから」
シルフィーは村長にこっぴどく怒られてしまった。
話を聞いていると、部外者を許可なく村に入れてはならないという掟があったらしい。
そこはエルフだけでなく、他の種族も一緒に暮らしている村だった。
建物の数や広さにしては人数が多い。
そして何より、目に見えて貧しさを感じ取れる。
「外の者よ、すまないが出て行ってもらえるか? この状況を見れば、ワシらにそなたを迎え入れる用意がないことはわかるじゃろう?」
「ま、待ってください村長さん!」
「ならん。ワシらとて生きていくのがやっとの状況じゃ。外の者にまで回す水と食料がどこにある?」
「そ、それは……」
村長さんの意思は固く、俺も争いになるのは嫌だったから、村を出ることにした。
「ごめんなさい。せっかく来てもらったのに」
「いいよ。俺のほうこそごめんね? 俺を連れてきたせいで、君まで怒られて」
「私は良いんです」
「あのさ。さっき水と食料もないって言っていたけど……本当なの?」
俺が尋ねると、彼女はショボンと悲しそうにうなずいた、
彼女から聞いた話によると、数年前までここはもっと大きな村だったそうだ。
たくさんの種族が、別々で村をつくって暮らしていた。
しかし突然、天候の悪化が連日続き、作物が枯れ果てた。
嵐が治まると、今度は雨がまったく降らなくなり、大地や草木が枯れ、動物たちも減ってしまったという。
どこかで聞いたことのある話だ。
ここも、王国と同じ悪天候に見舞われていたんだな。
それに……
「水、貴重だったんじゃないの?」
「え? あ、はい。まぁ……」
もう三月以上雨が降っていない。
村に残っている水も、限界に近付いているらしい。
そんな状況で貴重な水を、初めて会った俺にくれたのか?
なんて……なんて優しいんだ。
「天候さえ元通りになれば……村のみんなも快く受け入れてくれると思うんですけど……」
「……わかった」
「え?」
決めた。
「俺が何とかするよ。雨を降らせればいいんだよね?」
空腹と疲労は回復していない。
まだフラフラだ。
それでも力を振り絞れ。
彼女がしてくれた優しさに応えるために。
「今日の天気は――晴れのち雨だ!」
雲を呼び寄せ、空が暗くなる。
ポツリ、ポツリと水滴が落ちてくる。
「あ、雨だ! 雨が降った!」
「ああ……恵みの雨だ。でも、まだこれからだよ」
「フェザーさん?」
「君が……君の村が元通りになるまで……明日の天気は俺が決める!」
雨が降る中、俺は決意した。
彼女がくれたのは水だけじゃない。
ぬくもりも一緒に感じる。
命を救ってくれた彼女に、この恩を返そう。
ここが俺の――新天地だ。