第96話
「ね、お兄ちゃん」
「ああ、なんだ?」
「こっち来てよ」
「ああ、そっちな」ベッドの中で湊と華怜がくっつく。
「なにかお話しして」
「お話か?」
「うん、なんかお兄ちゃんのお話聞きたくなって」
「うーん、俺の話か」
「うん、なんでもいいから」
「そうだな、砂漠に降る雪の話とか」
「あ、それでいいよ、お兄ちゃん」
「じゃあ、いくぞ」
昔々、砂漠の国がありました。昼は一年中暑く、夜は凍えるような寒さです。
でも、その国には雪が降ったことはありません。その国の人は雪のことも知りません。
ある日旅人が、その国を訪れました。
可愛い少女がその旅人のお世話をしてくれました。
旅人はその少女のために色んな話をしました、ジャングルの話、大きな滝の話、大きな、大きなクジラの話。
その中には寒い国で降る雪のこともありました。
少女は雪の話が大好きで、何回もその話を聞かせてもらいました。
でも、周りの人は雪なんて想像もつきません。
少女に変なことを吹き込んだと旅人はとうとう追い出されてしまいます。
旅人がその国を去ってから、何年もして、その少女も大人になった頃、一度だけ、その国に雪が降りました。これがあの旅人が話してくれた雪なんだ、そう思いました。
「こんな感じでいいか?」
「ん、雪かあ」
「ああ、雪だな」
「ありがとう、お兄ちゃん」
「どういたしまして」
「ねえ、キスして」
「あ、うん」華怜のくちびるに軽くキスをする。
「お兄ちゃん、大好き」
「ありがとう、華怜」




