第50話
東京都交通局の運行する池袋から滝野川方面へ行くバスは本数が多い。いくつかの系統が途中まで同じルートを通り、そのルート上に滝野川があるからだ。
今日もバス停に着くと、既にバスは停車しており、乗客が乗り始めていた。湊たちは最後尾に並んでバスに乗り込む。
もう10時ということもあり、バスの中は会社帰りの人が多い。学生は湊たちを除くとほとんど乗っていない。
小雨が降る明治通りをバスが走る。車内が静かなので、湊たちも無言で乗っている。
最寄りのバス停に着くと、順番に降りて行った。
バス停からは5分で着くが、3人はいつものように横に並んで歩いていた。
華怜が湊の手をぎゅっと握る。
「帰ったら、テスト勉強だな」
「うん、そうだね、湊」
「私も、少し頑張るよ」
「お、華怜の口から頑張るなんて言葉が出るのか、すごいな」
「もう、からかわないでよ、お兄ちゃん、私だって普通の女子高生ですから」
「まあ、普通かは分からないけど、やる気になっているのはいいことじゃないかな」
話しているうちに、家に着く。青空と華怜はまずは着替えるとそれぞれの部屋へ戻っていった。
湊は「ただいま」と親に挨拶して上にあがる。まずはタオルで頭を拭く。
いつものようにTシャツと短パンになり、テーブルの上を片づけていると、華怜が入ってきた。ピンク色のキャミソールだ。
「先に風呂入ってくるから、青空に言っておいて」そう言って下へ降りる。
雨で少し湿度が高かったため、シャワーは気持ちがいい。それでも、15分くらいで上がる。
部屋に戻ると青空が青いキャミソール姿でテーブルについて勉強していた。
「お風呂入ってきなよ」
「そうだね、華怜行こうか?」
「うん、お姉ちゃん」
二人でお風呂へ行く。
一人になるとテーブルで湊は黙々と勉強をする。華怜が東大か、と思う。
逆に自分は文雄大学へ行って何になりたいのだろうと思う。
普通の会社員だろうか、別にそれでもなにも不満はない。ただ、華怜を後押しするのに、自分はそれでいいのだろうかとも思う。
小さいころ、何になりたかったのだろう。物心ついた時には華怜がいて、3歳の時には青空と海汰兄ちゃんと知り合って。
この、小さな世界がずっと自分の世界だと思っていた。




