第44話
地下駐車場から出庫し、滝野川方面へ向かう。
BMWはかなりの加速で坂道を登っていく。
・・・え?私泣いているの?なんで?
華怜の両目から、涙がこぼれ落ちていた。海汰がそっとハンカチを差し出す。
二人とも、何も言わなかった。車内には午前中と同じようにJPOPの曲が流れている。
そのまま、20分走り、冨永家の前についた。
「着いたよ、華怜ちゃん」
「あ、うん」華怜の目はまだ真っ赤だ。
車のドアを開けて、二人で玄関へ向かう。華怜の両親が出迎えてくれて、華怜は大変な子でしょう?付き合ってくれてありがとうね、などと言ってくる。
車、邪魔になると思うので、動かして、そのまま返してきますと伝えて、海汰はBMWで走り去った。
華怜は湊の部屋になんとなく行く気になれず、自室に戻った。
部屋を真っ暗にして、スマホからお気に入りのロックを大音量で聴く。1時間くらいそうしていただろうか、部屋のドアが開いて湊が入ってきた。
「華怜、こっちに来なよ、青空も心配しているよ」
「お兄ちゃん」言って湊に抱き着いて大声をあげて泣く。
「どうした?」
「ううん、私、悪い子だよ、海汰ちゃんに全部言わせて、自分の思い通りに、海汰ちゃん、多分苦しかったと思う」
「ああ、そうか」
「ねえ、ねえ・・・」
「うん、うん」
「ねえ・・・」もう言葉にならなかった。嗚咽だけが部屋に響いていた。
華怜の髪の毛をなでて、ただじっとする。
「お兄ちゃん、キスして」
「ああ」華怜のくちびるにキスをする。いつもより少しだけ長い間くちびるが重なり合う。
「今日はお姉ちゃんに会いたくない、なんとなく」
「そうなのか?」
「うん、お兄ちゃん戻っていいよ」
「華怜は大丈夫なのか?」
「私は一晩寝たら大丈夫だよ、今日は海汰ちゃん帰らないらしいから、お姉ちゃん泊まって行くよ」
「そうか、いつでも俺の部屋に来ていいからな、華怜」




