第112話
「ねえ、お兄ちゃん」
「なんだ?」
「キスして」
「ああ」
「お兄ちゃん」ぎゅっと抱き着く。
湊は華怜の髪の毛をなでつけてあげる。華怜は嬉しそうにされるがままになる。
「ねえ」
「なんだ」
「大好きだよ、お兄ちゃん」言って湊の胸に顔をうずめる。
「くすぐったいな」
「ねえ、幸せだよ」
「ああ、そうだな」
「いい子いい子して、今回も学年トップだったんだよ」
「ああ、本当にいい子だ」
「当たり前じゃないんだからね、いつも、何もしないでできるわけないんだから」
「ああ、分かっている、華怜は勉強すると、本当は頭が痛くなるんだろ?」
「そう、なんだ、本当は勉強なんて1秒もしたくないの、けどさ、それだとお兄ちゃんのそばにいられなくなっちゃうからさ」
「一緒にいられなくなるわけじゃないぞ、でも、毎日頑張っているな」
「そーだよ、ほんとはね、もう勉強したくないんだ、お兄ちゃんとこうやってくっついているだけで、ずっと、ただそれだけでいいんだ」
「ああ、ほんとだな」
「だから、この部屋だけ切り取られた空間でお兄ちゃんと永久にこうしていたい」
「そんなことがあるのかな」
「あるんだよ、多分、私にもよくわからないけど」
「まあ、そんな世界もあるのかもしれないな、もしかしたら」
「この部屋の外には豪雨しかなくて、雨が落ちる地面すらなくて、ただ、この部屋だけが世界の中心で、そこにお兄ちゃんと私がいて、2人が愛し合うためだけの世界」
「そうか、華怜はそんな世界が望みなのか?」
「そうだよ、お兄ちゃんは神様なんだから叶えてよ、ねえ、いいでしょ?」
「どうだろうな、青空がいない世界か」
「お兄ちゃんはお姉ちゃんのこと本当に好きなの?」
「本当と言われると、難しいけど」
「お姉ちゃんは美人だし、スタイルもいいし、ずっと一緒にいるし、完璧な恋人かもしれないけどさ」
「ああ、多分、そうなるのかな」




