第107話
少し待つと、雷は遠ざかって行った。
「華怜、もう大丈夫だよ」湊が肩をたたく。
「うん・・・」
外の雨は相変わらずひどかったが、もう雷鳴も聞こえなくなった。
「模試の勉強やろうか、青空」まだ華怜が腕にしがみついているが、とりあえずは放っておいて、話しかける。
「うん、そうだね、今日いれても3日しかないからね」
華怜はマスコットのように湊の左腕にくっついたままだ。とりあえずは、勉強を進める。
「華怜、せめて、参考書取ってくれないか?」
「あ、うん」湊の勉強机まで行って参考書を取ってくる。
「よしよし、いい子だ」頭をポンポンする。
「うん」少しずつ落ち着いてきたようだ。それでも、湊の隣から離れない。
「俺、ちょっとトイレ行きたいんだけど?」そう言っても湊のシャツを掴んだままだ。
「一緒に行くか?」
こくっと頷く。
「ちょっと行ってくるな、青空」
「はーい、行ってらっしゃい」
トイレは2階にも子ども用に1つある。そこへ湊と華怜が向かう。
「もしかして、ドアの前で待っていることもだめ?」
「だめ、一緒に入る」
「あ、ああ」
湊がトイレに入ると華怜も一緒に個室に入ってくる。
「せめて下向いていて」
「あ、うん」華怜は素直に下を向く。シャツは握ったままだ。
湊がトイレをしている間もずっと華怜は湊から離れない。
「終わったよ、華怜」そう言って手を洗う。
「戻ろう、お兄ちゃん」
部屋に戻ると、青空は勉強に集中していた。
湊も勉強に戻る。華怜は湊の背中に頭を預けて目をつぶる。
女性ボーカルが歌うカバー曲がBGMで流れていた。
湊も青空も英語の勉強をしている。
華怜の方に意識を向けると、どうやら寝ているみたいだ。
小学校に上がる前の華怜になったように甘えだした。華怜にはそういうところもあるとは思っていたが。
湊は、華怜をおんぶしてあげた頃を少し思い出した。




