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僕桃まとめコーナー  作者: カンデル
裏の裏
59/81

桃太郎今昔物語(口伝)

昔々

あるところにおじいさんとおばあさんが住んでいました。


おじいさんは鬼の討伐を生業とする山柴一族の当主で、当代随一、いえ歴代最強と言わしめるほどの剣豪でした。

おばあさんはおじいさんのところに嫁に入っていましたが、元は千条家という陰陽師の出で、未だ衰えぬその霊力は、おじいさんに引けを取らぬほどのバイオレンスさでした。

二人は力を合わせ、鬼の討伐に明け暮れていましたが、寄る年波から徐々に自分たちの限界を感じていました。唯一の心配事は次世代につながる後継者がいないことでした。

ちょっと鬼を狩ることに集中しすぎたようです。それだけ二人が破格の強さだった、てことなのでしょうけれど。



鬼。それは人の心に巣くう悪の心が増大し、人身ならざる姿に変えたものでした。そして人々を惑わし、多くの鬼を生み出す「母なる大鬼」という物の怪がいることはわかっていました。

最初は自分たちの代で「母なる大鬼」を討伐しようと考えていましたが、まるで霞を掴むような如く、その存在をあらためることが出来ませんでした。


おじいさんとおばあさんは「母なる大鬼」の伝承を再調査し、なんとかその所在を掴もうとしていましたが、その際にわかったことが二つ。「母なる大鬼」は消滅と再生を繰り返していること。そして霊山である蓬莱山に不老不死にまつわる伝説があるということでした。

おばあさんはおじいさんの制止を拒み、一人蓬莱山へと旅立ちました。最終的におばあさんの旅立ちを受け入れたおじいさんは、羅刹の如く一人、鬼を狩り続けました。

怒りの矛先を向けられた鬼からしてみたら、たまったものじゃありません。一人になったのに弱体化するどころか、手の付けられない「ネジの外れた殺戮マシーン」です。年老いてからの男の嫉妬は怖いということに納得です。



数年の時が過ぎ、いよいよおじいさんの限界を迎えようとしたとき、おばあさんがぼろぼろの姿で「蓬莱白桃」を手におじいさんのもとへ帰ってきました。

過酷な旅路だったことがその姿からうかがえます。おじいさんはおばあさんの姿を一目見て、変な方向に誤解し、ありもしない仮想敵国へと向かおうとしました。

が、おばあさんの平手打ち一発で制止することが出来ました。流石は老いても陰陽師です。


おじいさんとおばあさんは不老不死の果実「蓬莱白桃」を食す決心をしました。不老不死になる。それは生命を捨て去るということと同義であり、自分達の生命を新たな生命体へ受け渡すということと同義でした。

新たに生まれた生命体は桃太郎と名付けられました。それは鬼を滅するために生まれた生命体でした。

おじいさんはその技、胆力を「宝刀鬼殺し」に込め、生命を手放しました。

おばあさんはその霊力を「宝玉黍団子」に込め、桃太郎の眷属に託し、生命を手放しました。


桃太郎の眷属。それはおばあさんが使役していた元魔獣でした。

魔犬、それは人間を玩ぶように喰らう魔獣。

魔猿、それは人間を無機質に喰らう魔獣。

魔雉、それは人間を狩りの対象として喰らう魔獣。

おばあさんはそんな魔獣達を恐怖で使役し、代わりに霊力を与えることで均衡を保っていました。おばあさんは一抹の不安を感じていましたが、桃太郎はそのひょうひょうとした人柄で魔獣達を眷属として共に歩むことが出来ました。

おばあさんは桃太郎の性格に、ちょっと不満でしたがおじいさん由来であるからしかたがありません。



その後、桃太郎はおじいさんとおばあさんの期待通り、鬼どもをまるで泥人形を蹴散らすが如く、ばっさばっさと駆逐していきました。眷属たる魔獣達も嬉々として鬼を蹂躙していきます。

いわゆる「俺TUEEE!」状態、チート野郎の集団です。


ただし、鬼とて元人間ですから、おじいさんとおばあさんは心を痛めます。どうしたものかと思案していたところ、「蓬莱白桃」の種が残っていることに気が付きました。これをベースに神の加護を受けることが出来ぬものかと試行錯誤した結果、コノハナサクヤヒメの生成に成功しました。

神の加護どころか神降臨。いえ神生誕です。

もっとも「八百万神」の国の話ですから、さほど珍しいことでもないのかもしれませんね。


コノハナサクヤヒメは霊体でしたが、依り代を使うことで具現化することが可能でした。依り代の巫女に降りたコノハナサクヤヒメ、或いはコノハナサクヤヒメの力は「宝鏡かぐや」と呼ばれました。その力は相手の能力を写しだし、解析し、再構築し、発動させることでした。

この力を用いれば桃太郎の抑止力になる。おじいさんとおばあさんはそう考えます。

なお、その頃のおじいさんが柴刈から竹取りにジョブチェンジしていたかというと、そういうわけでもなかったようです。



奇しくも時を同じくして、桃太郎とその眷属たる魔獣達はついに「母なる大鬼」の住まう鬼ヶ島にたどり着きます。

七日七晩と続いた死闘の果て、ついに桃太郎が「母なる大鬼」の首を撥ね、鬼退治の終焉を迎えたその時、おじいさんとおばあさんがそこに見たものは、地獄と化し累々と鬼の死体が転がる大地と、血しぶきを全身に浴び、赤黒く染まりながらも笑い佇む桃太郎です。

B級スプラッター映画も引くレベルです。


これはもはや桃太郎そのものが鬼と化していると言っても過言ではありません。

これこそが「母なる大鬼」の目論見だったのでしょうか。

おじいさんとおばあさんは苦渋の決断を下します。この先、あと何度、決断を下さねばならないのでしょうか。それが不老不死を得て、鬼退治に全てを捧げるということなのでしょうか。


おじいさんとおばあさんは「宝鏡かぐや」を使い、桃太郎の固有能力である「桃源郷送り」を発動させます。「母なる大鬼」が殺された事実は「桃源郷」へと吹き飛ばされ、殺される直前まで戻りました。

「母なる大鬼」は、満身創痍となった身体を捨て去り、転生を始めます。

そうです。これが消滅と再生を繰り返す「母なる大鬼」の能力、「黄泉がえり」のからくりでした。


おじいさんとおばあさんは、その能力を「宝鏡かぐや」をもって発動させ、桃太郎とその眷属を転生させることにしました。これにより人間として生まれ変わらせ、人間としての心を育ませようと考えました。



おじいさんとおばあさんの長い、気が遠くなるほど長い物語はまだ始まったばかりです。


手始めに、おじいさんとおばあさんは「宝鏡かぐや」からコノハナサクヤヒメを解放し、依り代の巫女を元の、何一つ変哲もない、それが本当の幸せであるところの、普通の生活に戻します。きっと必要な時に、必要なタイミングで、コノハナサクヤヒメたるところの「宝鏡かぐや」はまた現れることでしょう。

残された「宝刀鬼殺し」はおじいさんが預かりました。

残された「宝玉黍団子」はおばあさんが預かりました。



「母なる大鬼」がいなくなったとて、鬼がいなくなるわけではありません。


ある時は「ウチデノウイルス」、通称「一寸法師」を作り出し、おじいさんとおばあさんは鬼退治を試みます。

鬼退治は達成されましたが、残念ながら副作用で「一寸法師」に感染した女性が淫乱になってしまうので、今後の使用は諦め封印しました。


ある時は「金太郎」つまり「坂田金時」という侍が活躍して鬼退治したと聞きました。おじいさんとおばあさんの手に寄らずとも、普通の人間だって頑張っています。おじいさんとおばあさんは胸をなでおろし、たいそう喜びました。

もちろん討伐された酒呑童子は、鬼・中鬼・大鬼の段階で考えると中鬼、そのなかでも上の下レベルでしょうか。


ある時は桃太郎の「魂の足跡」、西洋学で言うところのDNA的なものを利用し、おじいさんとおばあさんの不死細胞を使うことで「垢太郎」いわゆる「力太郎」を生成して、鬼退治に対応します。

桃太郎の劣化版とは言え、改良を続けて生成され、量産された「力太郎」は、鬼・中鬼・大鬼でいうところの鬼ぐらいは単体で倒し、中鬼も数で勝負しました。

これにより、鬼退治も安定期に入ります。



もちろんその間にも、何度か「母なる大鬼」と桃太郎とその眷属は転生し、大戦を繰り広げることがありました。


ある時は「母なる大鬼」が織田信長に取り入りやがったので、歴史的な大ごとになり過ぎて、おじいさんとおばあさんはその後の処理も含めて大変苦労しました。

ちなみにその時の桃太郎は明智光秀で、「母なる大鬼」は森蘭丸でした。


またある時は戦後の混乱期に乗じて「母なる大鬼」が暗躍していたので、おじいさんとおばあさんは暗黒社会との深い関わり合いを持つこととなり、それはそれで結果オーライでしたが、心労が絶えませんでした。


この頃から山柴本家は商社を経て家電屋と表の顔を持つようになり、また一族から多くの人材を輩出し、政界、経済界へと人脈が広げていきます。ちなみに裏の顔は「洗濯屋」、いわゆる資金洗浄ですね。

結局は金の力かよ、とか思っちゃいますが、お金は大事です。


山柴本家がそんな状態でしたから「鬼討伐」を本業から切り離し、武闘派集団の「裏柴」が浦島家として独立しました。またおばあさんの一族、千条家は陰ながら山柴家を支え続けました。むしろ千条家が「洗濯屋」を担当していました。流石は陰陽師です。



時代が流れるにつれて、おじいさんもおばあさんも、人に悪しき心が芽生える限りこの戦いは終わらないものと悟りました。

とはいえ、それは諦めとは違います。おじいさんとおばあさんが不老不死の果実である「蓬莱白桃」を食すと決心した時同様、この先も鬼退治を続けていくという決心であり、誓願です。

この世が続く限り悪は無くならず、悪がある限り鬼は発生します。

鬼の根源たる「母なる大鬼」を滅するということは、桃太郎がこの世を終わらせるということです。きっとこの世はすべて「桃源郷送り」され、消滅してしまうでしょう。

それを避けるためには、何度も何度もこの戦いを続けていかねばなりません。



おじいさんは思います。この戦いは永遠に続くのだろうか。それとも終焉があるのだろうか。


おばあさんは思います。終焉を迎えるということは、正しい答えにたどり着くということなのだろうか。

それともすべてが消滅するということなのだろうか。



そして現代を迎えます。


コノハナサクヤヒメたるところの「宝鏡かぐや」がおじいさんとおばあさんの前に現れます。


「母なる大鬼の転生が確認されました。」


おじいさんとおばあさんの戦いがまた、始まるのです。

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