表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
僕桃まとめコーナー  作者: カンデル
裏ミスミ
38/81

真面目を失ったらボクは(裏)

 屋上にて降下の準備を整え連絡を待つ。腕時計を確認する。1743。

日没は近い。


『ククーよりフェゼント。

 警備室及び1階、制圧完了。現時刻をもって警備システムのD区画をオフ。

 2分30秒後に再びオンにする。

 合流地点には2名連れて向かう。

 ……、ゆるいな。』


『油断するな。風は瞬時に変わる。』


 応答と同時に降下する。開いたままの窓から静かに内部へと侵入。

警報は当然に発報しない。そのまま廊下を突き進む。階下から上がってきた隊員と合流。

ここまでは静寂を保ってきたが、目的の部屋のドアは盛大に蹴り破った。


「なっ! なんんんん~~~っ!!」


 何だね君たちは、と言いたかったのかもしれないが、現実はそうはならない。

驚き動きが止まる職員を銃口と共にゆっくりと見渡し、情報通りの人数、2人だと確認する。


「名乗るような名前は持ち合わせていません。

 ですが用件は決まっています。この施設を制圧させて頂きます。100%」




 その場にいた職員の2人を拘束し、ククー隊の一人に連行させる。

ここにいた者に用はない。決定権こそあれど実行力の無い者達なのだから。用があるのは最低限の技術者だけでいい。拘束された職員らは外で解放され、山柴の息のかかった警察職員に保護されることだろう。これも人命救助の一環だ。


「まさかテロ組織の真似事をさせられるとはね。」


「有事ですから綺麗事は言っていられません。

 状況が味方したのですから打てる手は打ちます。先手番が有利、籠城する側が有利なことを使わない手はありませんので、100%」


 ククーの苦笑いを無視し、入手した名簿に目を落とす。

この変電所を稼働させるに必要な最低限の人員は6名。思ったより多い。現在の施設内にいる技術者は、交代要員と補佐を含め11名。全員、残すか減らすか。

名簿を撮影し、画像データをW&Cへ転送する。非番の者をバックアップで押さえておいた方がいいと判断する。



『ストークより全隊へ。

 正面ゲートにて鬼の複数と交戦開始。数は30体程度。

 Pを予定通り戦線から引き離し、離脱する。オーバー。』



 ボクに思考する時間は与えられない。


『ククー隊へ、拘束した職員は東側から解放しろ。

 残りの職員、技術者を確保する。急げ。

 確保次第、変電所のメインシステムをダウン。全てを遮断し3号バンクへと接続。』


 変電所への襲撃。その目的は単に支配するだけとは思えない。

87%の確率で破壊行為だろうと推測。であれば通電状態のまま攻撃を受けた方が破損率が高くなる。停電したとしても復旧が早い方がまだましだ。メインシステムをシャットダウンさせ、独立している蓄電システム、3号バンクで仮しのぎすることを決断する。残りの懸念は送電線が切断されることだろうか。


「ククー、警備システムの掌握はどうなっていますか?」


「ローカルシステム(外部と無接続)を我々の独自回線と接続した。

 間もなくこちらの装備と同期される。使用可能だ。」


「スタンドアローンを維持でお願いします。」


「本隊に外部コントロールはさせないと?」


「外の干渉を受けたくないので。」


 ククーが首を傾げたのか頷いたのか、微妙なジェスチャーで返答する。

もし彼女の両手が装備で埋まっていなければ、肩をすくめて両手のひらを上にして上げたことだろう。



「相変わらずだな。」


「相変わらずですか?」


「ひたむきで“真面目”だよ、お前さんは。」


「少しは変わってしまったかと思ってましたが。

 それを聞いて安心しました。」


 警戒しながら次のポイントへと急ぐ。後方からの声にボクは気持ちを引き締める。第一ステップは侵入を外周、建物の外、そして内側の三段階での防衛体制の構築。

この建物は特殊だ。2階部分が倉庫のように広くそして天井が高い。そこに巨大な変電、蓄電の機材が所狭しと配置され接続されている。メインシステムのある場所。1階には警備室の他、食堂、更衣室、休憩所。そして制御室。ボクが侵入した3階は部分的に作られた場所だ。2階のメインシステムを確認するために作られた長い廊下と、先程の偉い人たちがいる数部屋、会議室。

攻めやすく守りにくい構造。監視は容易だが守るべきものが大きすぎる。


「それで、どう読む?」


「正直なところ読めません。

 地上からの侵攻が72% 空中からの侵攻はコンマをを切ります。

 鬼の大量輸送は可能なようですが、そもそも現地に中鬼がいる必要があるとみてます。

 つまり、入られなければ問題はありません。」


「その割には確率が低いね。」


「未確定要素が多すぎますから。

 人の……、鬼のやることの全てをボクは読めるわけではありませんので。」



 ククーの溜息なのか深呼吸なのか。その音を聞いた時に、嫌な予測が脳内を掠める。

「人は話すことによって考えを纏めることが出来る。」とはよく言ったものだ。


「ククー、この場での現場指揮は任せます。

 ボクは見落としていた箇所の確認に行きます。」


「ヘイヘイ、任されましたよ。」


 ククーが合図のように上腕のポケットから取り出したペンを掲げ、そして咥える。視線がボクから外れ2階を望む。

それを横目で見届け、目の前のガラス窓を撃ち破り下へと飛び降りた。

ガラス片が粉雪のように煌めきながら降り注ぐ。銀の世界がボクを迎える。



『フェゼントよりストーク。

 正面に出現した鬼の出現方法の詳細と、Pの状況を至急送れ。』


『ストークよりフェゼント。

 情報にあった「黒づくめの中鬼」が一般人を装い出現。

 第一撃、一斉掃射によるも生存、下水道マンホールを通じ鬼の複数体を出現させる。

 中鬼はその下水道より戦線離脱。

 現在、人造桃太郎(ネクスト)により出現した鬼と交戦、制圧の兆しあり。

 なおPにあっては我々が保護中。戦線より離脱中。』


『了解した。

 フェゼントより()()()

 至急、この建物に接続されている下水管の図面を送れ。』


『了解。

 至急、送信する。』


『なお警備室、及び制御室は完全閉鎖し、水も入らぬように密閉しろ。

 逆に……、外窓は封鎖するな。』


『警備室、了解。』


『制御室よりフェゼント。こちらに外窓はない。

 技術者の確保、及び指示の送電切り替えは完了済み。

 なお控え技術者は休憩室にて拘束中。指示を送れ。

 なんだ? 滾るジュニアを抑えきれずにもう来たのか?』


『まだだ。だが今この瞬間に来ると思え、優先し密閉を済ませろ。

 休憩室、至急その場から離脱し3階へ技術者の控えを移送。

 その後、2Fと合流し備えろ。』


『あいよ。休憩室、了解だ。』


『オーバー。』


『ククーが引き継ぐ。

 2Fの隊は床より()()()()()()()()

 また退避経路は各々3F、上階へと再設定しろ。』


『離脱には外を拝める窓が無ぇ。

 なかなかの冗談ですな。』


『任務は完遂。報酬は上々。死に地は好きにしろ。

 安心していい。お前の死体ごと後始末はこっちで受け持つ。

 墓に花を手向ける隊長様の姿を想像しとけ。』


『それが一番想像できねぇな。

 2F配置完了だ。オーバー。』



 引き継がれた通信がボクの中で一つの情報に変わっていく。

ゴーグルの内面に受信を知らせるサイン。視界に同期され展開される下水管の図面。

制御室と警備室の下は配管されていない。ネズミならまだしも人間が通れるような配管は外部までのようだ。3階へと伸びる配管の場所を確認。2か所。2Fに降りたところで1本に集約されている。そこからは1Fへと直接伸びている。1Fのその場所を特定し向かう。


 ハンドガンを抜き、マガジンを抜いて実弾入りを装填し直す。

低く響く通気ファンのモーター音だけが占める広い構内に、小さく手元から響く高い金属音。その音を置き去りにして階下へと急ぐ。


 目的のパイプシャフトの扉を開ける。何の配管が並んでいるかゴーグルの内面に示される。

ハンドガンのスライドを引き、装填されていた一発目を抜きポケットに入れる。

再装填。下水管へ向け3発実弾を放ち破壊。硝煙に交じり下水特有の異臭が漂う。



「ありゃりゃ、またもや先手打たれた感じの荒渡。

いやな予感はしてたんすよねぇ。」


 背後、長い廊下の先から聞こえる声。

再度ハンドガンのマガジンを抜き、対鬼仕様に装填し直す。

振り向きざまに一発目を天井の火災感知器に実弾を発砲。無線を入れなくともこれで部隊に「敵襲撃あり」は伝わるだろう。


「口を開かないでもらえますか? 100%

 あなたから聞き出したい情報は皆無なので。」


 照明が遮断され、非常灯が灯る。非常ベルと共に避難を促す放送が流れる。


 非常灯によって紅く染まる世界の先に、気だるそうに佇む中鬼に向けてボクは銃口を向けた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ