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僕桃まとめコーナー  作者: カンデル
裏ニコナ
24/81

本能あるままに自由に(裏)

 激しい打ち合い、攻防から一転し、互いが如何に自身のペースに乗せるかという闘いになっていた。


 兵跡は「キックボクシング」のスタイルは変えていない。勿論、オールラウンド、総合格闘家としての経験は十二分に生かされている。空手やカンフー、テコンドーなどの立ち技主体の武術。柔道、合気道、レスリングに代表される、掴む、投げる、極める等を主体とした武術。あらゆる武術に対し、「キックボクシング」という一つの格闘技で対処していた。

それは一つを純粋に極め、そしてあらゆる世界に対抗するために進化させた姿、完成体。


 対するニコナはどうだろうか。その戦い方はまさに「複合型」。主要な格闘技、近代格闘技の技が随所に混ざる。まさに変化自在。自身が初めて身に着けた中国武術を主体としながらも、適切なタイミングで「型にとらわれない」技が発動する。

そしてそこに過去世の()()()培ってきた武術が加算される。特に顕著に見受けられるのは「二代目の魔犬」と言えばよいのだろうか。初めて人間に転生した時代に身に着けた琉球唐手。文字通り「致命傷」を躊躇なく繰り出す武術。

全てが「本能」の元に集結する。その本能とは魔犬の持っていたそれそのもの。人を、全てを、あらゆるものを蹂躙し、王として己を打ち立てんとする欲望。


 人間として転生を繰り返し、そして今現在の「ニコナ」には受け入れ難いその本能。ただ己を誇示すること、蹂躙すること、生き様を闘うことでしか表現せぬ魔犬。

魔犬だった時に一番争っていたのが魔猿。何の感情も感じられない、面白くない魔物。

それを冷ややかに、漁夫の利を狙うかのように横槍を刺してくる魔雉。

あいつらとは違う。俺は己が闘うために生きていることを知っている!

ただ直向きに! ただ真っ直ぐに!!


 一時期はニコナの理性をその「本能」が覆い、暴走させた。

だが今は違う。それを受け入れ、あたしはあたしとして闘う! その本能も「あたし」として包蔵する!




「……、何をした。」


「わかんない、」


 カウンター気味に懐へと入り込んだ。がしかしそれは兵跡からの誘導。その意図された隙に引っかかり、クリーンヒットとして放たれたミドルキック。選ぶべき行動はただ一つ。自身の攻撃をキャンセルし防御すること。

ただ「本能」は二つの選択をした。

防御することと、そのキックを無視して懐に打ち込むこと。


 兵跡があたしの左脇へ打ち付けた拳によって吹き飛ぶ。

と同時にあたしは、兵跡のこれ以上ないぐらいのキックを受け、自ら飛ぶ形で消力して着地する。

互いに居る場所は違うが、不思議なことに距離は変わっていない。


「ただ、防がなきゃ!ってのと打ち込む!ってのを本能的に思っただけ。」




 魔犬と魔猿だけの争いならば、いずれ共倒れしていたことだろう。だが魔雉がいたせいで長い間、三つ巴の様相だった。誰も勝たず誰も負けない均衡。ひたすらに続く闘い。

その均衡を崩したのは他ならぬ「千条ヤチヨ」だ。


「くそったれな魔獣どもが勝手に争って勝手にくたばるのはいい。

 然しながらあんたたちは人を殺しすぎ。いい迷惑じゃ。己らだけの世界と奢るな。」


 手始めに狩られたのはあたし、魔犬だった。

その日の夜には魔猿が狩られ、何を考えているのか魔雉が投降した。


「私が力を貸してやろう。目障りな魔猿を倒せばいい。」


 その言葉に乗りヤチヨの霊力で魔猿を倒した。ただ今迄のように本能に従って闘っただけだったが、己が増えた気分だった。全てを得るという喜びで言えば最上の時だった。




「どういうトリックかはわからないが、

 それならばそれで闘うだけだ。」


 再び兵跡がファイティングポーズを取る。

あたしは本能に任せて最適であろう構えを取る。




 結局のところ、千条ヤチヨに騙された。

力を得る代償に式神として支配されるに至った。同じように式神にとなった他の二人は抵抗すらしなかったが、あたしは隙を見ては抗った。


「私の支配下で聖獣として生きるか、今すぐ死ぬか選べ、駄犬。」


 毎度毎度言われる言葉はそれ。そしてあたしの選択肢は一つ。生きてヤチヨの首を噛みちぎることだけ。再び自由に世を蹂躙することだけ。


「まったく。そんな不器用な生き方しかできないから、いつまでたっても駄犬なんだよ。お前は。」


 今のあたしはどうだろうか。生き方は不器用かもしれない。

そして目の前にいる男も不器用だったのかもしれない。あたしは運よく鬼側に堕ちなかっただけなのだろうか。

ふと、琴子とヒヨリンの笑顔が目に浮かぶ。

違う。あたしは彼方側に行くことは無い。あたしは友達に恵まれた。おじいちゃん師匠や色々な道場で色々な先輩たちにたくさんのことを教えてもらった。

おばあちゃんが茶碗蒸しを作ってくれた。お父さんもお母さんも仕事ばかりだけど、あたしといる時はちゃんとあたしの眼を見てくれた。

そしてあたしには、ずっとずっと共に歩んでくれるにぃちゃんがいる。

あたしは一人じゃない!

あたしはやっぱり不器用だけど、みんながあたしを支えてくれている!

だから「本能に従って」進んでいける!!




「……、次元干渉・多重。八仙花。」


 これが魔犬に与えられた力。本能を本能のままに顕現する力。

そこにあるのは甘美な自由。支配される代償に与えられた自由。解き放たれる己の本能。


 魔犬(あたし)が魔猿に勝てなかったのは、あいつが三匹だったから。

単純に対複数戦ならいい。だけれどあいつはただの三匹じゃない。三位一体、繋がった三匹。単純に三倍の攻撃と防御。

それに対抗するためには、あたしが増えるしかなかった。手数で凌駕するしかなかった。


 ヤチヨの力でねじ伏せたまでは良かった。

そう、魔猿はヤチヨの力を得ると、消えるとかいう暴挙に出たのだから。

それじゃあ、あたしがいくら増えたって闘いようがない。また決着がつかなくなってしまったのだから始末に負えない。



 受ける。打つ。極める。蹴る。

本能のままに選択肢を増やす。同時に思い攻める。

徐々に文字通り手数が増えていく。兵跡のハイキックに対し、その足を受けながら取りにかかり、躱しながらカウンター気味に上体を捻り浴びせ蹴りを放つ。

そんな複数同時攻撃であっても、兵跡は取られる事無く蹴りを防いだ。鬼であることを差し引いても類い稀なる防衛技術。


「Excellent」


「ずるいでしょ? これ。

 でもさ、本能を本能のあるがままに全て出そうと思ったらこうなるわけ。」


「ずるいとは思わん。

 ただ、羨ましくはあるかもしれないな。

 あそこでああしておけば良かった、こうしておくべきだった、などという言い訳をしないで済む。全ての選択を出し切っているのだから。」



 防戦を強いるようになったとはいえ、経験値の差だろうか。こちらの取りえる選択肢が増えど、兵跡は繰り出されるあたしの手数の全てを予測し、最適解を選択していた。これが天才というやつなのだろうか。

そしてそんな中でも好機を探るように、勝機を見つけようとするかのように、ブラフ、フェイントが挟まれ、鋭い反撃が襲ってくる。


 兵跡が己の最適解を選ぶ。

それを越えなければあたしはこの男を葬る事はできない。




 まるでリングの自陣コーナーへと引くように、互いに距離を取る。


「……、次を最終ラウンドにしようと思うんだけど。」


「面白い。

 俺もそう思っていたところだ。」


 言い切るや兵跡が飛び膝蹴りで一気に跳躍する。

直線的であるものの、その速度は常人が対応できるような、意識で反応できるような速度ではない。まさに渾身の一撃。そこにブラフも迷いも無い。純然たる闘争心そのもの。


 対するあたしは複数の「本能」が答えを出した。


 だがそれはいずれも同じ答え。


 白から始まり、八色の輝きを放ちながら白い光に全てが収まる。




 ニコナが気が付いた時には、その手刀が兵跡の鬼門を貫いていた。

八方の本能からの導き出された「最適解」はただ一つに集約された。躱す、受ける、流す、潜る、ずらす、ブラフを入れる、捨て身で行く、後の千を取る。いずれにしてもその手は兵跡を貫くことに集約されていた。



「見事なものだな、少女よ。

 俺は、やっと終わりが見えたようだ。」


「あたしは貴方のおかげで先が見えた。」


「Good luck

 また闘いたいものだ。」


「うん、また……」



 ニコナの手の中で氷像が砕け散る。光となって輝く。

瘴気は煙ることなく昇華していく。兵跡という闘うためだけに生きた男が散り往く。




 少女の視線は地に下ろしたままに立ち上がる。

そこにあるのはなんなのだろうか。栄光か死か。勝利か敗北か。


 ただそこに息づく命の息吹か。


 わからない。考えてもわからないことは、考えても仕方がない。

ただ生きるしかない。生きて、生きていることの意味を見つけるしかない。


 それがあたしに出来る唯一のことなのだから。

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