表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
僕桃まとめコーナー  作者: カンデル
裏ニコナ
23/81

頂に至る二つの光(虚)

「本気出してくれたのはひしひしとわかるし、

 殺しに来てるのもわかるし、

 あ~、今のあたしじゃ敵わないなぁ、って思うし。

 でもさ、悔しいじゃん、

 それって。」


 少女はそう言い口元を結ぶ。氷結の闘鬼を見る。


「ねぇ、でもさ、

 鬼に堕ちてまで何がしたかったの?」


 一点を見据え、駆ける。


『駄目だ! ニコナッ!!』


 その叫び声は少女へと届いていた。だが少女は止まらない。

その強い意志は、彼女自身が「敵わない」と理解していても止められるものではない。彼女は闘うために在るのだから。それが意思なのだから。


「……、逆に問おう。

 強さの先に、闘いの先に何を見る。

 少女よ。」


 氷結の闘鬼、兵跡は構えを解き少女に相対する。

少女の蹴り、突き、打撃の全てが兵跡へとヒットする。少女の培ってきた武、技術、力。その想いが兵跡を撃つ。だがその全てを拒絶するように、今までのそれは無駄だというように、届くことは無い。閉ざされた氷の世界を砕き届くことは無い。


「強さはこの先の道へ進むための力!

 闘うのはあたしに出来ること! それしか出来る事ないから!

 あたしは!!

 多くの人に支えられてきた! それを多くの人に教わった!

 だからあたしは! その人たちを護るために闘う!!」


 それでもなお、届かぬことを知りながらもなお、少女は連撃を繰り返す。


「そんなものが闘う者に必要だというのか。NONSENSE

 俺はその先の道とやらに進むために、この力へと手を伸ばした。

 ただそれだけだ。」


 兵跡は少女に撃たれながらも微風(そよかぜ)程度というように、平然と、ゆっくりと再び両椀を構えていく。徐々に右脚を上げていく。


「君の到達点は此処までだ。

 この先に道はない。」


 蹴りが来る前に内に入り込もうとした少女。その速度よりも早く蹴りが放たれる。その蹴りは脚が消えたかのように速く鋭く、少女の胴へと的確に撃ち込まれる。

地吹雪のような氷の結晶の煌めき。それが走り抜けていく。

遅れて、放たれた弾丸のように吹き飛ばされる少女。

その身体が数度地面を跳ね、地煙を巻き上げ、そして地煙に沈んだ。




『ニコナーーーッ!!』


 地に伏した少女、軒嶋ニコナは駆け寄った青年が辿り着くに合わせたかのように、ゆっくりと立ち上がった。

あの一撃によるダメージはある。だけれど動けないほどじゃない。


「……悔しい。

 悔しい悔しい悔しいっ!」


 ニコナは、心配そうに見下ろす青年の腰へと抱き着いた。その感情を言葉に乗せてぶつける。青年は慌て動揺するも、その思いを受け止め優しくその両肩を抱いた。



 そこから……、



『のっ、フロント・スーーープレェェーーックスゥ!

 いや、ノーーーザンライト・スーーープレィックスゥゥーーーッ!!』


 青年がニコナにホールドされ顔面から地に落ちる。

大地に頭からのめり込む青年の姿。仮に人が飛行機などから落下したとてこうはならないだろう。まさに瞬発的な突貫力。


 ゾンビのように緩慢な動きで大地より這い出る青年。

地に伏す者と立つ者の立場が、一転して入れ替わる。


『ここは……、

 悔しがる妹を優しくハグし、慰める兄のシーンかと思っていたのだが……

 乱心したか! ニコナッ!』


 ニコナが目をつぶりゆっくりと深呼吸をする。

まるで自身の血の巡りを、四肢を、身体を理解しようとするかのように。

一つ一つを確認していくかのように。


「……、免・許・皆・伝っ!」



 開眼。




『は?』


「え?」


『いや、なぜ僕は投げられたのだろうか。

 なにゆえに地に打ち付け、人柱にされかけたのだろうか。』


「いやだって、奥義くれるんだよね?

 だったら倒さないと貰えないじゃん。」


『いやいやいや、宝玉が奥義かどうかはわからないけれども。

 それはともかくとしてもだよ!

 師匠的な人物を倒して強くなるというのは、その……

 ニコナの世界だけなんじゃないか? それが普通ではないと思うぞ!』


「う~ん、

 にぃちゃんはまぁ確かに師匠ではないか。

 にぃちゃんは、うん、にぃちゃんだよね。」


 ニコナがゆっくりと両椀を高く掲げ、大気を体内に取り込む。


『まぁそうだが……

 その……、大丈夫なのか、ニコナ。

 怪我とか、もしその、あれだったら』


 青年が立ち上がり、いたわるように手を差し伸べる。

先程、手痛い仕打ちをされたのにもかかわらず手を差し伸べる。

だがニコナは大きく掲げていた手を降し、その言葉の続きを制した。


「大丈夫。一発で決めてくるだろうと思ったから全力で防いだし。

 あばらがちょっとひび入ったぐらいかな?

 でもこれは、あたしが此処まで来たっていう証。

 これはあたしの証明。」


 ニコナが青年へと振り返る。

そこには譲らない強さがあった。自身の生きてきた証を譲らない。あたしがあたしで来た道は誰にも否定させない。それが優しさだったとしても。


「だからそのまま闘うね、にぃちゃん。」


 そしてニコナは清々しいほどの明るい笑顔で答えた。


「ありがとう。にぃちゃん!

 ここからはあたしに任せて!」


 自分を想う優しさはわかる。それを有り難く感謝もしてる。だけどやっぱり自分の生きてきた道を自分で肯定したい。きっとにぃちゃんならわかってくれる。あたしのそんな我儘も。




『……、わかった。

 ニコナ! この先にも、ずっと向こうにも道はある!

 続いている! それは共に歩む僕が保証する!』


「うん! やっつけてくるね!」




 ニコナが兵跡に自然体で歩み近づく。


「さてっと。

 残念だったね、終わらなくて。」


 ニコナが形意拳、四足歩行の獣のように身構える。

呼応するように兵跡もファイティングポーズを取った。


「あたしの道はまだ続いてるから。

 んじゃ、第4ラウンドといこっか。」


 炎のように山吹色のオーラが立ち昇り煌めく。

光を増したその熱意が白色化していき濃度を上げ、ニコナの体表を覆う白銀の毛並みとなる。毛先がちりちりと闘争心の余波を炎にして宿す。


 対する兵跡からは青白い冷気。何もかもを拒絶し、研ぎ澄まされた純度100%の闘気。

冷酷、冷徹。ただ闘うことのみを追求した姿。



 同時に動く。

奇しくも二人は白銀に輝く光となる。一方は山吹色を帯び、一方は蒼色を帯びてはいるが、その当体は突き詰めるところ同じ。ただ闘うために白銀の光となる。


 激しい攻防。

打つ、蹴る、極める。躱す、返す、防ぐ。

二つの光がぶつかる。求めてきたものは同じ。進んできた道は異なり。到達し見たものは同じ。ただその想いは明確に異なり。


 何処で違えた光か。

二人の光は頂を同じくするのだろうか。それとも刹那の交差なだけなのか。


 常人成らざる速度で攻防が繰り広げられていたが、その実態は自分と相手の確認行為。互いに先程までの「人間」ではない。方や聖獣を宿し、方や鬼と成りし者。

己の力は通用するのか、相手の強さはどはくらいのものか。スタイルは? 有効間合いは? ウィークポイントはどこにある。

探り合いというよりは、相手のつかみ合い。いかに己と相手を把握するか。



 示し合わせたわけではなかったが、互いに激しい一撃を相打ちさせると、大きく飛び退き距離を取った。


「……まだ全力じゃないか、少女。」


「手抜きしてるわけじゃないけど、うん。

 まだまだ上がれそう。」


 ニコナが自身の両手を握ったり開いたりしながら確認する。自然と笑みが溢れる。


「そうか。

 では全力で応えよう。第5ラウンドだ。」


 互いに間合いをつめていく。


「手抜きしてたみたいな言い方じゃん。」


「different from、手抜きとは違う。

 今迄は全力を出すチャンスがなかっただけだ。

 その前に相手が沈んできたしな。」



「あたしはまだ沈まない!」


 少女が笑みを浮かべ、ノーモーションから一気に間合いを詰めて回転蹴りを放つ。己が進むために。この先の道を切り開くために。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ