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君が戴く世界の明日4

「俺が次元の狭間に墜ちて、さ迷っていた時間的感覚は数日だ」


 レイは口元を片手で覆い戸惑いをみせた。


「それなのに戻ってみたら半年以上過ぎてて、レティがやけに大人びて綺麗になって可愛くなってるし健気だし……なんか前よりドキドキが苦しくて平静でいられなくて」


「昨夜一緒でしたよね?」


 ギルは嫌々聞いてみた。


「あまり覚えてなくて、勢いと衝動と本能諸々で……はあ、ギルどうしよう、俺はこれからどうしたらいいんだ。こんなにキュンが」

「何話してるの?」


 簡素なワンピースに着替えたレティが戻って、二人に近付いて来た。


「は、レティ、何でもない」


 うろたえるレイを冷たく一瞥すると、ギルは入れ替わりにその場から逃げた。


 その時、ヒュルルルと高い音がして花火が空に咲いた。


「わあ、花火久し振りだよ」


 レイの隣で目を輝かせてレティが興奮ぎみに言う。

 手すりに置いた彼の手に、自然な仕草でレティの手が重なった。


「レイ、一緒に見られて良かった」

「…………キュ、キュウン」

「ん?ワンコどしたの?」


 ******************


「レイ君、緊張してるの?」

「ま、まさか」


 レイが何となくよそよそしい。


 花火を見ていた時も、花火じゃなくて私ばかり見ていたし、さっきも一緒にお風呂に入ったら、息を荒げていたのはいつもだけど、いきなり鼻とかを押さえて「もうダメだ!」と叫んで先に湯船から出ちゃうし………大丈夫なんだろうか。


 湿った髪を横に流した私は、ベッドに座っている彼を見つめる。

 ふい、と目を反らして落ち着きなく布団を触ったり、指輪を弄っている。


「レイ………もしかして怒ってるの?」

「え、は?!」


 彼の前で立ちすくみ、泣きそうになるのを、レイがびっくりしたような表情でようやくこちらを見上げた。


「もしかして、私が勝手に魔界のことを色々決めたから怒ってる?レイの魔王の座まで取っちゃったし」

「あ……レティ」


 じわじわと涙を浮かべたら、レイが酷く慌てて私を引き寄せる。


「ち、違う違う!お前があまりに……」

「ふえ、あまりに?」


 かあっと頬を染めて、レイは言いにくそうに呟く。


「レティ、その、俺がいない間に凄く頑張ったんだな。お前は、よくやっている」

「え」

「それに、綺麗になった」


 聞き間違いかと、直ぐ傍にある彼の顔をぼうっと見上げていたら、レイの腕がそろそろと私の頭を自分の肩に押し付ける。


「俺は、そんなレティが好きだ。ほ、惚れ直した」

「ワンコさん、ベタ甘だ……」


 まさかそんな言葉が彼から聞けるとは思わなかったから、くすぐったくて照れ臭くて、レイがどんな気持ちで言ってるかと思うと可笑しくて、ついクスクスと笑ってしまった。


「レイ君、好きだよ」

「ぐはっ、あ、ああ」


 ベッチャ甘の雰囲気で、彼に抱きついて囁くと、身を震わせたレイが唇を寄せた……ところで思い出した。


「あ、忘れてた」

「ちゅうう……あれ?」


 唇を空振りさせたレイの腕を一旦振りほどき、私は立ち上がると隅の机の引き出しから小さなビンを取り出した。


「何だ?」


 ビンの中には清潔な水が満タンに注がれていて、私がそこから取り出した物に、レイは目を見開いた。


「それは……」


 ハンカチの上に丁寧に置いたのは、レイの失われたはずの二本の指だった。


「私からレイへプレゼントだよ」


 それを持って隣に座ると、微妙な顔をするレイ。


「レティ……よっぽど俺がいなくて淋しかったんだな、俺の指なんかを大事に持っているとは。そ、それをいつも眺めてたのか?触ってすりすりしてたり」

「いや、違うから」


 そこまでじゃないよ、私はあくまでモフ専だから!


「手を出して」


 レイの手を掴むと、その指を切断面に宛がう。


「指にね、ギルさんの体の時を止める力と私の治癒の術を応用したのを三日に一度込め続けたの。きっとこれなら……」


 詠唱を唱え、一本づつ慎重にレイの指に治癒を掛ける。


「…………これは」


 包んでいた手を離すと、そこには元通りに指のくっついたレイの手があるだけだった。


「良かったあ!成功した」


 指を曲げ伸ばして確かめて、目を見張っていたレイだったが、やがてその手で私を抱き締めた。


「レティ」

「えへへ、これが私のプレゼントだよ」

「この為にずっと持っててくれたのか?」

「だって」


 恥ずかしくて、彼の胸に顔を埋めて小声で言う。


「こうやって、ぎゅっとしてくれる時に、指が足りないと淋しいから」

「うぐ……」


 言葉が出ないらしくて、呻いたレイは代わりに私の頬にキスをした。それから私がゆっくりと目を閉じたら、今度こそ唇が重ねられた。


 治った手で頬をなぞられて、くすぐったくて少し笑ったら彼も笑う。


「レティシア」


 染み渡るような甘い声音が、私の名を呼ぶ。

 灯りが消された暗闇に、金の瞳が揺れていた。


 炎のように揺らめく輝きが私を映していて、それを薄く目を開けて見とれていた。


 ああ、綺麗だな。


 優しく横たえられて、触れ合う熱に満たされてホッとする。


 このヒトと迎える世界の明日が、私は楽しみで仕方なかった。











ちょこっとその後の話、終わりです。

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