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ファースター ギニアピッグ モルモル!  作者: もげもげ
第1章
2/3

モルちゃん見知らぬ森でピンチ。

「ぐぇぇぇほぇえ、ちもしーがないもるー」


 モルはどこかわからない森の中にいた。てこてこ歩いていたが、ついに盛大に腹をならせて行き倒れになった。


 このアホなモルモットがこうなった経緯を説明しよう。

 グラサン全裸の自称神によって、吹き飛ばされたモルモットはどこともわからないところにいた。

 モルモットは起きた瞬間、何故みよちゃんの家のケージにいないのかさっぱりわからなかった。とりあえず変な夢をみていたことは分かった。


 でも、モルは深く考えなかった。

 妙に頭が冴えて、自分が天才になってみたいにスッキリ気持ちよかったからだ。

 自分は自由になったとウキウキ気分で森を歩きまくった。

 初めて吸った森の空気は新鮮で、木漏れ日の森の中はまるでファンタジーショウのようだった。

 変な形の花を触ったら臭いにおいがしてびっくりしたし、見たことのない色のてんとう虫が鼻先に止まって大笑いした。上では小鳥がさえずっているし、実に気分の良いお散歩だった。


 ご機嫌のモルだったが、二時間も歩くと飽き始めた。

 もうそろそろみよちゃんの家に帰ろうとしたのがだが、ここがどこかわからない。噂に聞いた近所にある二丁目の森なのかもしれないと思って、最初は深くは考えなかった。でも、一日中歩いても、森、森、盛り盛りの森。どこもかしこも緑色で、建物が見えなかった。


 さすがにのんきしていたモルも、これには焦って、木漏れ日が消えて、闇が降りかかってきた時には、恐ろしくなってあちこちをむやみに走り回った。しかし、どこに行っても、地面はアスファルトではないし、コンクリートの建物も見えなかった。どこまで行っても森なのだ。


 やがてモルはおなかがすいて、走るのをやめた。そういえば、一日中ごはんを食べていない。モルは家に帰るのはいったんやめて、ごはんを探すことにした。


「ちもしー、ちもしー、ちっちもしー、ちもちもちもしー、ちっちもしー♪」


 空腹の自分を元気づけるためにチモシーの歌を口ずさんであたりを探したが、しかし、探せども探せどもごはんはない。モルが常食していたチモシーはどこにもなかったのである。

 いつもいつもみよちゃんが透明な袋から出していたから、モルも透明な袋を探していたが、森の中にそんなものが落ちているはずはなかった。


「どこにもないよ、ちもしー」


 そもそもあたり一面に雑草が生えていたが、ケージ育ちのモルにはそれが食べられるものだと、全然わからかったのである。我々が野草を食べられないと思うのと同じだろう。


 しかし、無駄に頭がよくなってしまったせいで、そんな考えにとらわれてしまって、本能のまま雑草を食べることができなくなっていたのだ。


「しぬ。しんじゃうー」


 モルは歩き疲れるとその場に佇んだ。もう歩く気力もなかった。


「ちょっと休憩ー」


 木の根っこに腰かけて、うとうととし始めた。うとうととし始めたのだけれども、眠いわけではなかった。体がしんどくて動かなくなっていたのだ。


「体がだるいもるー。モルちゃん、つかれたもるよ。ごはん食べなきゃ。いっぱい」


 モルはこくりこくりと首を落としながら、ちょっと休憩したらチモシーを探すつもりでいた。しかし、思いのほか、体が動かなくて、ぼんやりとしてしまった。


「もうちょっと休憩してから探しに行くもるー……」


 そうぽそぽそとつぶやいて、モルは目をつぶった。



     *


 近くに、ぼて、という音が聞こえた。


「何もるか?」


 疲れ切ってしまって、微かな声しかでなかったが、モルは物音がした方向を確かめた。あたりは暗闇に潜んでいたが、短い耳をそっちのほうへ向ける。すると、ずるずると何かを引きずる音とともにかさかさという音が聞こえてきた。それがどこかで聞いたことのある音だった。


 ――そうだ! チモシーの中でモルが動く時の音だ。足が短いモルモットがおなかを引きずりながら牧草の中を歩いている音にそっくりなのだ。モルは向こうからモルモットの友達が餌を持ってきてくれているのだと夢見心地で思いついた。


「早くご飯食べないと、死んじゃうもるよ。はやく……早く……」


 音はすぐそこの茂みまでやってきていた。


「モルはこっちもるよ。ごはん、ごはん……」


 モルは茂みに潜むトモダチに話しかける。トモダチはずりずりと音を立ててしばらく潜んでいたが、しばらくして姿を現した。


 しかし、それはどこにも毛は生えていないし、つるつるしているし、手も足もなかった。

 だけども、体だけは以上に長くて、黄色い目で舌先をちろちろ出していた。

 モルは、モルモットってこんなんだったっけと思っていたが、近くまでやってくると、ぞわぞわを背中が寒くなった。


 そこで、モルは初めて気が付いた。こいつはモルモットじゃない!

 そいつはモルの近くまでやってくると、月明かりにその姿がはっきりと見えた。これは蛇とかいうやつだ! モルの十数倍の大きさを誇る大蛇だった。


「なにもる。モルはお前になんか用はないもるよ。あっちいけもる。しっし。あっちけあっちけ」


 モルはそうやって、蛇に向かって怒ったが、蛇は意に返さなかった。蛇は動けないモルをぐるりと取り囲むと、こういった。


「こんなところで鼠さんが何をしているのかね」

「ごはん探してて疲れたから、休んでるもる。疲れてるから、あっち行くもるー」

「やあやあ、奇遇だね。オイラも疲れちまったからご飯を探してたんだ。そしたら、下の方でちろちろとしてるじゃないか。きになってねえ」

「気にしなくていいから。モルの気持ちわかるよね。あっちいってよ」

「あんたこそ、わかるだろ、俺の気持ち。空腹ってのはみじめだって」

 そういうなり、大きな口を開いて、モルにかみついた!

「ももも!」


 モルはあわてて飛び上がると、運よく蛇の上顎を飛び越えた。

 カチン!と顎がかち合う音があたりに響いた。

 モルは地面に尻餅をついて、一度弾んだ。そのまま倒れ混んでしまいそうになったが、コロコロと転がって、一目散に逃げだした。


「あら、活きのいい鼠」


 全く運がよかった。あそこで飛び上がらなければ、モルはたちまち蛇の胃袋の中にいたかもしれない。


「もるもるもるもる! 食べられちゃうもる!」


 後ろから、蛇がのそりのそりとやってくる。蛇も空腹であるというのも本当なのだろう。

 息を切らしながらのろのろとやってきていたが、しかし、足の短い、しかも空腹のモルモットの全力疾走など取るに足らないものだった。


 モルは必死に走った。見えなくなったら、追いかけるのはあきらめるだろうと思っていた。モルは暗闇の中、木や小石にあちこち体をぶつけながら走る。

 しかし、蛇は後ろからぶつかりもせずにやってくる。

 蛇は夜でも目が効くらしい。蛇はそれを知っていたため、後ろからのんびりと追いかけているのだ。

 モルは蛇の卑劣な作戦を知ると、歯ぎしりをして地団太を踏みたくなったが、どうにかして逃げなければ、生きることはかなわない。

 しかし、モルはもう限界だった。空腹状態で消耗した状態で全力疾走するのだから、すぐに限界がきて当然だった。

 モルの足が上がらなくなって、ちょっとした小石につまづくともんどりうって、倒れこんだ。

 それからびくびくと体を痙攣させると、モルは動けなくなってしまった。モルは息をピーピーさせたが、立ち上がることができない。


「ピー……逃げなきゃ、逃げなきゃ、……ピー。体がうごかないー」


 ずるりずるりと後ろからやってくる大蛇。モルはもはや逃げられない。


「シー、シャー。ようやくおとなしくなったか。じゃあ、いただきます」

「あ」


 蛇は大きな口を開けるとモルモットをゴクンと丸のみにした。モルはうごうごして暴れたが、大蛇にとっては虫の抵抗だった。


「ふふん、無駄無駄」

「やろー、だすもる! モルはまずいもるよ。毒があるかもだし」

「毒があるときは毒があるときさ。でも、そういう口答えをする奴はたいてい毒はなかったね。ゆっくりと一日かけてじっくりどろどろにしてやるからじっとしてな」

「ぎやー! そんなの嫌もる! せめて、最後はみよちゃんのベッドの上で死にたかったもるー。こんなとこで死ぬの、いやもるー。みよちゃん、みよちゃん。助けて。みよちゃん。くっそー、モルが大きくなっちゃえばこんなやつ倒せるのにー! 今から、大きくなれ! すぐ大きくなれ! お前より大きくなって逆に食べてやるもる!」

「何言ってるんだ、この鼠。大きくなるはずないだろ。おとなしく消化されていな」

「ばかにしやがってー! みてろー!」


 モルモットは全身に力を入れた。蛇は無駄無駄と胃の中の鼠を締め付ける。

 時々鼠が内側から殴っているのか、ぷくぷくと腹が膨らんでくるが些細な抵抗だろう。

 蛇は大あくびをするとしっぽの先で腹をポンポンと叩くと横になって休んだ。

 しかし、いつまでたっても腹のぷくぷくが収まらないので、「おい、いい加減あきらめろ」と言い放った。


「死に際を安らかにしたかったら、おとなしくしな!」


 いい加減、腹が立った蛇は腹を締め付けて、鼠の骨を粉々にしようとした。しかし、いつもならくしゃりと子気味のいい音を立てて、つぶれてくれるところ、この鼠はなかなかつぶれなかった。


「ずいぶんとカルシウムをとっているじゃないか。珍しい。どぉれ、久しぶりにひねりを加えてみるかな」


 なかなか、つぶれないので、蛇は体をぞうきんのように絞り始めた。

 昔、狐とやりあって丸のみにしたことがある。

 その時もこれを使ってボキボキも砕いたものさ、とにたりとした。しかし、ひねっても、いくらひねっても、鼠の骨の音どころか、悲鳴すら聞こえなかった。代わりに聞こえてきたのは、「もるもるもるもる」という謎の掛け声だけだった。


「なんだこいつ、修行でも積んでいたのか。ああ見えて、名のある格闘家だったのかもしれぬ。面倒くさいやつだ」


 蛇は体を絞ったまま、今度はシュルシュルと木の上に上り、木の幹の一番高いところに上ると、鼠がいる胴体部分を一番下にしてとぐろを巻くと木の幹から飛び出した。


「ジャイアントヘビープレス!」


 その技はジャイアントヘビープレス!

 完全に胃袋で固定した獲物の脳天に大蛇の体重そのものを叩き込む大技だ!

 幾度となく飲み込んだ獲物を粉砕してきた技だ。飲み込んだイノシシもこれで頭蓋骨を粉砕してやった。あんな小さい鼠などひとたまりもない。


「そろそろ死んだかな?」


 蛇は舌先をちろちろさせて腹の中でミンチになっているであろう鼠の様子を確かめた。


「……なんだ! まだ息があるじゃないか!」


 なんということだろう。腹の中にいる鼠はうめき声のような奇妙な唸りを上げているではないか。


「もるもるもるもるもるもるもるもるもるもるもるもるもるもるもるもるもるもるもるもるもる!」

「う、打ちどころが悪かったかな。まあ、腹が減ってて力が出なかったし。それじゃ、もう一度。いや、次はひねりも加えて、スピニングジャイアントヘビープレスだ!」


 蛇は口を大きく開けて、また木を登ろうとした。

 ……が、妙なことに体が動かない。栄養が不足して体が動かないということではない。まだ余力を残していたはずだった。どちらかというと、何か体の中におもりがあるような……。


「おも、り?」


 蛇は首をかしげた。確かに体の中におもりがあるような気がした。しかし、おもりとなるようなものは体の中にあるはずがない。二日ほど前に食った狸の骨を吐き出し忘れたこともないし、鼠以外に大きな石を入れたこともない。何も体の中におもりとなるものはないのだ。

 そこで蛇は気が付いた。いや、一つだけおもりになるものを入れたのだ。考えられなかったが、それしか心当たりがない。


 蛇は困惑しつつ腹を見た。腹の中にいるのはこの鼠だけだ。この鼠が急に重くなったのだ。


「もるもるもるもるもるもるもるもるもるもるもるもるもるもる!」

「なにがそうしたってんだ、……!?」


 蛇はとんでもないことに気が付いた。自分の腹が明らかに大きくなっている。鼠一匹食ったところで大きくならなかったが、今ではすでに普段の銅の大きさの5倍ほどになっていた。

 気づいた時には遅かった。もはや体は動かなくなり、呼吸ができなくなるほど胃袋を内側から圧迫してき始めた。


「びびびび、こいつ、急に成長期がやってきたのか!」

「モルモルモルモルモル、モル―!!!!!!!!!!!!!!」

「びび、これ以上大きくなったら、破裂しちまう!」


 蛇は慌てて口を開けると、体を木の根元に巻き付けて、胃の中をしごいて、中の鼠を吐き出した。


「くえー!」

「で、でたもる!」


 にゅぽん! と飛び出したモルはすでに大きなイノシシの体を超えていた。


「なんで、そんなに大きくなってんだ! 成長期なら言えよ!」

「じゃあ、食うなもる! 馬鹿にしてるのかモル!」


 そういいつつも、なお大きくなるモル。ぐんぐん巨大化していき、ついに、大蛇を縦に引き伸ばしても目線の高さしかないぐらい大きくなった。


「おお、モルはカイジューだったもるね。お前、よくもやってくれたなー、もるー」

「へび、へびびびび、でかすぎる! お前、魔獣だったのか! きいてないよー!」

「何言ってるかわからないモルけどー、お前に復讐してやるもるー! お前なんか、ソーメンみたいにお口にくわえてちゅるん、もるよ!」

「や、やめてくれ!」


 一目散に逃げだす蛇だったが、今は立場が逆転している。追いかける間もぐんぐん大きくなっていき、森の木々も見下ろすぐらいになった。大きさが段違いだ。木々の間を抜けて逃げ出そうとする蛇であったが、モルはその木々すらへし折りながら追いかけて、あっという間に蛇を捕まえた。


「えい! やっはー、ふははえはもふー」

「はなせ、ごめん。ごめんって、食べたこと謝るから」

「ゆふははいほふほ、ほほままふふんのふ」

「やめてくれー、ちゅるんしないで……」

「ちゅるん!」


 モルは蛇の懇願も聞かずに一息にちゅるんした。そして血の中でもごもごした。


「うーん、なんかびちびちしてるし、まずいもるねー。げろまずー」

「や、やめてくれー! 命だけは助けておくれよ!」

「モルはにょろにょろしたのなんか食べないもるよ、モルが食べるのはチモシーだけモルからね」

「じゃ、じゃあ、吐き出しておくれよ」

「わかったもる。じゃあ、あっちの方にいってね」

「わかった、あっち行く、あっち行く」

「じゃあねー。お口からポーン!」


 モルは勢いよく蛇を口から吐き出した。スポーン! 蛇は悲鳴を上げながら遥か彼方に飛び出していった。


「もっもっも。ざまあみろもるー。モルちゃんは超強いカイジューなんもるよ!」


 モルは高らかに笑いを挙げた。


「でも、もう限界モル。しんどいー」


 モルはその場に手足を放り出して寝そべった。そうしている間にまた蛇みたいな怖いやつがやってくると思っていたが、もうこんなにでかくなったのだから、襲い掛かってくるのはいないだろうとお思い直した。

 下ではモルが見たこともない動物、猪、熊などの猛獣が逃げている。


「みんな逃げてくもる。モルが強いからしょうがないね。もっもっも……。……ふう、やれやれもるー。これでゆっくり休憩できるもるね……」


 モルはグデッとする。


「みよちゃんちはどこもるか」


 目線は森の木々よりも高い。夜闇で詳しくは見えなかったが地平の彼方まで見える。

 大きくなった今、森は小さなものだったが、森の向こうには平原が伸びており、モルが知っている夜も明るいコンクリートジャングルなどはかけらもなかった。


「ご飯食べたいもるよ。お布団しきしきしたところで寝たいもる。でも、こんなに大きかったらおうちのなかは入れないもる。みよちゃんびっくりしちゃうもる。ふふふ」


 モルは力なく笑った。


「でも、ごはんどうしようかな。チモシーの袋、いっぱいいるモル。100個ぐらいいるかも。大きくなるって嫌もるな。……でも、今はもう眠いもる……」


 モルはウトウトし始めた。

 もう夜中だ。いつも、夜七時になったら寝る健康的なモルモットだったから、今日は夜更かししすぎた。

 モルは美しく星が煌めく満天の空の元、漠然とした不安を抱きながら眠りについた。

 寝言で飼い主の名前を呼びながら。

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