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第4話:来栖家の剣

 でん、と大きく構えられた門。周囲を囲む城壁の如き塀の向こう側、巨大な建物が見えてくる。決して小さくはない我が家と比較しても、その巨大さは明瞭である。見るものを思わず感嘆させる、その来栖家の巨大な財力を前に、僕もまた思わず溜息を吐いた。――これでまだ、来栖家の一端だというのだから末恐ろしい。

 その門の脇には帯刀したメイド。眼を見ただけでわかった、彼女達は同業者だ。どうやら、来栖家のメイドへのこだわりは、別の方面でも遺憾なく発揮されているらしい。

 物々しい雰囲気を放つ来栖家の門を前に、楓姉は鼻歌交じりにバイクを止めて、なんとも気さくに門番のメイドに話しかけた。


「私だぁ、開けてくれい」


 非常識であるのは重々承知だが、楓姉に敬語やら細かい所の作法などを僕は端から期待していない。常に仕事をする間柄とはいえ、顔パスで通ると考えているあたり楓姉の思考回路がよくわかる。

 来栖家の門番とはこういったやり取りをずっとやってきたのだろう。相手の対応も非常に慣れたものであった。


「……その雑な挨拶をやめろ、と常に言っているのだがな」


 その女性の呆れた声に僕は申し訳なく思う。いや、本当に。僕の気持ちなんか考えない、物理特化の筋肉ウーマンが「はっはっは」と笑っているのも、僕の顔面を赤くする理由の一つだ。


 改めて門番のメイドを見る。なんとも鋭利な眼光を持つ女性だ。失礼なのは重々承知だが、メイド服よりは軍服を着た方が似合いそう――そんな感想を持たせてしまうほど、その女性がメイド服を着るのには違和感があった。別に体格が男みたいである、とかそういうわけではなく、彼女の持つ雰囲気が抜身の刃のようである。


「その子が御剣棗か?」

「おう、私の可愛い()だ!」


 ――え? 思いも寄らない楓姉の爆弾の投下に、僕は固まってしまう。

 どうやら、先方には僕が女であると伝えてあるらしい。冷静に考えてみれば、相手が男であると知っていて、メイドになることを要求するはずはない。いや、我が家の変態達と思考回路が一緒であれば、その限りでもないだろうが相手は来栖家だ。幾ら瑠璃様がメイド好きとはいえ、男にメイド服を着せようとは思わないだろう。

 

 だが、そうなると厄介なのは僕だ。


「ちょっと、楓姉……!」

「なんだぁ、棗。お姉ちゃんの耳は引っ張っても伸びないぞー?」


 万力の如き握力で、僕は楓姉の耳を抓む。これはいったいどういうことか、説明して貰わなければ納得できない。そもそも事前の説明もなしに、他人の家に女の子として仕事をしに行くなんて不可能だ。しかも、相手はあの来栖家。


 もし僕が男であるとバレたら、どうなるか――まず間違いなく、僕の人生は終了する。二重の意味で。


「なーに、大丈夫だってぇ。椿姉の作ったメイド服を信じな。着てよし、飾ってよし、愛でてよし! そのメイド服を着た最高に可愛い棗なら大丈夫だ! お姉ちゃんが保証しよう! 全裸で建物の中を歩いたりしない限りなぁ!」

「全裸で他人の家の中を歩くわけないでしょ! もう、これどうすればいいの……」


 ひそひそと何やら話す僕と楓姉を不審に思ったのか、門番のメイドが訝し気にこちらを見る。だが、こちらはそれどころではない。今、この場で僕が男であることを報告するべきか。いや、それは御剣家の虚偽を証明してしまう……!

 ぐるぐると高速回転する僕の頭脳をよそに、傍らで二人は話を勝手に進めていた。


「なんだ、何か問題か?」

「いや、悪い悪い。棗のやつ、ちょっと早めのホームシックってやつだ。はっはっは、可愛いもんだろう? ほれ、お姉ちゃんのキスで我慢してくれい」


 適当なことを言って、楓姉は自然な流れで僕の額に接吻する。

 ……もう、ここまで来てしまえば後には退けない。どの道、女装することに変わりはないし、男であるということを、依頼主からも隠せば良いだけだ。――いや、難易度は凄い勢いで跳ね上がったが。

 

 ん? ホームシック?


「それじゃあ瑠璃様が卒業するまでの三年間、頑張ってこいよぉ」


 ぶちり、と。縫い合わせたばかりの堪忍袋の緒が再び切れた。 


◇◇◇◇◇◇


「これからよろしくお願いしますね、ええっと……」

「ああ、私は御堂弥生(みどうやよい)。護衛メイド長をやらせてもらっている。こちらこそ、よろしく頼む。御剣の名、期待しているぞ」


 少しでも来栖という名前に繋がりがある者であれば、御剣が作り上げた偉業を知らない者はいない。時に重く背中に伸し掛かる御剣の名。


 ――その名を掲げる者に、闘志無き者はいない。


 そんなことを考えて、徒に心を乱す男は今、メイド服を着用している。信じられるだろうか、これが御剣家次期当主の姿なのである。


「ところで、楓の奴はどうすればいい?」


 鳩尾に肘鉄を受けた楓姉は、見事に悶絶している。女装して三年間、同い年の女の子に性別がバレないようにしながら同じ屋根の下で過ごすという、胃が幾つあっても足りない仕事である。確かに依頼内容をしっかりと確認しなかった僕にも非はあるだろうが、女装メイドという依頼内容で思考がそこらに回す余裕が無かったのだ。

 しかし、突然の長期依頼という衝撃の内容で、確かに気が動転していたも事実である。一時の怒りに身を任せて姉に当たるとは何たることか。楓姉には本当に悪いことをしてしまったと、僕自身も反省している。


「粗大ごみにでも出しておいて下さい」


 だから丁寧に埋葬することにした。


「はは。仲がいいな。わかった、どこかの空き室で休ませておこう。さて、だ。早速、仕事の内容だが」


 僕はその台詞だけで身構えた。護衛メイド。まあ字面だけでどのような内容であるか概ね想像がつくが、聞き漏らしては過失に繋がる。女装メイドというインパクトによる、精神的動揺という言い訳は二回もできない。


「私達は瑠璃様の護衛を専門にしている。そして棗、お前は瑠璃様と同年ということで、瑠璃様の最も近い護衛になってもらう。要は最終防衛ラインだ。本来であれば、何人でも瑠璃様に付けておきたいのだがな。戦闘力と判断力があり、且つ同年代であり、信頼の置ける同性となると数限りない」


 なるほど――それならば、僕は適任だろう。一つのカテゴリーを除いて。


「今は一人、お前とは別に護衛のメイドが瑠璃様に付いているが、彼女には荷が重くなり始めてな。それで瑠璃様の入学祝という形で、御剣家に増援を求めたわけだ」


 御堂さんの声には憂いが混じっている。それは、大人である自分達では、万全に瑠璃様を守れないという自責なのか。あるいは、瑠璃様の側近である護衛メイドを思ってのことか。

 そして、僕は同時に瑠璃様の護衛が難しくなってきた、という事実に嫌な予感を覚えた。それは、次女である瑠璃様に狙いが定まり始めたという事。 


「なるほど。それなら、期待に添えるかと。僕は御剣家に名を連ねる――来栖家の剣の一本ですので」


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