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第31話:ドレスアップ

早めの更新で戦闘シーンに繋げられなかったことを誤魔化していくスタイル。

 意を決さなければならない時が来た。果たして、僕に次期当主の座が務まるのか。そして、瑠璃様を守るのに相応(ふさわ)しい存在なのか。

 この数日で、着慣れてきたメイド服――壱式の調子を確認する。良好。機械のことなんて、これっぽっちも分かりはしないが……なんだか、今のこいつは調子が良さそうだ。


 運命の時――などと、恰好をつける趣味はないが。少なくとも、ここで行動を間違えれば僕らに未来が無いことは明白だ。

 

 御剣棗の編入試験。建前は、こうなっているのか。だが、これから僕の身に降りかかるのは、そんな優しいものではない。

 下手をすれば御剣家どころか来栖家の存続も危ぶまれるイベントだ。学校行事でもない、一生徒の編入試験がここまで大きく取り上げられることも、そうないだろう。

 武闘派御三家、最強の御剣となれば注目されて然るべき? それもあるかもしれない。だが、彼らの目的は、御剣家の人間である僕が無様に地面へと横たわる光景を見たいのだ。


 最強が挫かれることがあれば最後、来栖家は古河家と桐坂家との力関係に大きく水をあけることになる。

 

 僕の意志なんて関係ない。ただ、一途に。ただ、ひたすらに。僕は瑠璃様が生徒会長の椅子に座れるように、全身全霊を掛けるだけでいい。


 控室で僕は椅子に腰かけながら、壱式の最終確認を入念に行っていると――誰かが控室の扉をノックした。


 瑠璃様だろうか? と考え、否定する。瑠璃様ならば、もう観覧席に着いたはずだ。なにより、この控室に僕が入った時点で、部外者どころか関係者も立ち入りを禁止される警戒ぶりだ。全く、御剣をなんだと思っているのだろうか。


「開いてますよ」

 

 編入試験のための、最後の説明だろうか。なんとも段取りの悪い、と感じながらも僕は扉の外にいる人物を招き入れた。


「残念だったな。お姉ちゃんだ」


 ……そこに立っていたのは、椿姉だった。いつも通りのダボダボとしただらしない服装に、櫛一つ通していないボサボサとした髪型。出不精と不摂生な生活サイクルが祟り、こんな有様だが、それでも美人に映えるのは地が良いからだ。


「って、どうやって入って来たの!?」

「そりゃあお前、『華舞(ハナマイ)』使ったに決まっているだろーが。お姉ちゃんにすっぴんで人前に出る勇気なんてありませーん」


 桜花血風流。その全ては、必ずしも相手に危害を加えるものだけではない。『華舞』もまた、その一種だ。己の血液を一滴ほど、対象の人物の血に混入させて意識を乗っ取る技……自分で言っていて何だが、普通に危害を加えるよりも凶悪ではないか? とはいえ、僕の家族みたいな別格はともかく、使える御剣はそう多くない。というか、僕だって使えない。ぽんぽんと使う方がおかしいのだ、こんなアクロバティックな技は!


「……監視カメラだってあったはずだよ」

「可愛そうになあ。今頃、監視カメラ見ている警備員はループ再生される数分前の動画を視聴しているころだ。そんなもの見るくらいなら、私はB級映画を見るけれどね」


 まあ、機械系のことだから、何かしら手は打っていると思っていたが。椿姉が本気を出したら、大抵の場所は侵入可能だ。


「それで、どうしたの? こんな時に来るんだから、何か重要なことじゃないの?」

「ん? ああ、そうだった。よし、時間がないからさっさと話しを進めよう」


 こほん、と椿姉は咳払いを一つして――それはそれは、明るい笑顔で僕に言った。


「棗、スカートをたくし上げてくれ」


 ◇◇◇◇◇◇

 

 さて、今の僕の状態を話そうか。

 ロングスカートをたくし上げ、そのスカートの中に顔を突っ込む椿姉。ははは、何の冗談だ。


「ちょっと、本当にこれ、壱式の調整なんだよね?」

「当たり前だろうが。これは棗が桜花血風流を使えるよう、壱式を調整しているんだdぞ。断じて私利私欲で棗のスカートの中を合法的に覗けるとか、お姉ちゃん思っていません」

「誰もそこまでは言っていないんだけれど」


 語るに落ちるとはこのことか。


 がちゃがちゃと、何やら工具で僕のスカートの中を弄る椿姉。時折、椿姉の柔らかい五指が僕の太ももに触れ、生温い吐息が無防備な僕の肌を這う。むず痒いやら、恥ずかしいやらで、一刻も早く終わって欲しいと僕が願っているのは言うまでもない。

 

「ぐへへ、役得役得……」


 判決、有罪。


「椿姉……!」

「そーら、終わったぞ。こいつで棗の異能は、ある程度緩和することができるはずだ」


 僕の言葉を遮るように、ぱんぱんと二度ほど僕の太ももを叩いて椿姉はスカートから顔を出した。あまりにも鮮やかな犯行である。


「え、もう終わり?」

「なんだ、もうちょっとお姉ちゃんにスカートの中を弄って欲しかったのか?」


 言い方。


「冗談はさておき。簡単に説明しておくぞ。今、私が壱式に施したのは元々備わっていた機能の解放だ」

「元々備わっていた?」

「ああ。ま、棗が他の異能力者と戦うにあたって、普通のパワードスーツじゃ荷が重いからな。棗が桜花血風流を使えるよう、壱式の機能を開発するのが今回の私の仕事だったんだ」


 楓姉が言っていた言葉を思い出す。あとで椿姉に感謝しておけ、というのはこういうことだったのだ。


「そんで、一昨日からずっと棗の身体をモニタリングして、その最終調整を今終えたってわけだ。本当は実用試験も一回くらいはやりたかったんだがな。スケジュールがきつすぎて、ぶっつけ本番だ」


 スケジュールがきつい、と椿姉が漏らすのは珍しい。いつもは鼻歌交じりに、ハードな仕事を熟している彼女がそう言うのであれば、相当な仕事量を片付けているに違いない。


「ありがとう、椿姉。僕、頑張るよ」


 たった一人で戦うわけではない。僕には支えてくれる家族がいる。

 ならば、今度は僕は瑠璃様を支えねばならない。それが御剣の名を受け継ぐ者の使命なのだから。


「いい面構えだ。可愛い弟をもってお姉ちゃんは幸せだぞ。それじゃあ、最後にお姉ちゃんからプレゼントだ」


 そう言って、椿姉は僕の耳元に口を寄せて、何かを呟いた。


「盾には気を付けろ。迂闊に近づくな。仕留めるときは一撃で。……これくらいだな。初見殺しには引っ掛かるなよ?」


 まるで、呪文のような忠告に一瞬戸惑うが……椿姉が意味の無いことを態々僕に言うことはない。これはきっと、編入試験で鍵になる言葉だ。


「わかったよ。絶対に勝つから、安心して見ていて」


 ここまで椿姉や楓姉に支えられているんだ。負けるわけにはいかない、必ず瑠璃様の学園生活を死守しなければ!

 


次回、次回こそは……!

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