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第3話:メイド好きな家族

 女装ミニスカメイドの爆誕は、御剣家を大いに沸かせた――主に、姉妹と母さんを。


「かわいいわ、棗ちゃん! ロングスカートも良かったけれど、やっぱり生足が見えなきゃ駄目ね! こんなことなら、来栖家に出す前にメイドとして我が家で働かせれば良かったわ……!」


 正気を疑う――その発言も、茫然自失の僕の耳には入ってこなかった。

 ミニスカ? え、ミニスカってミニスカートの略なの? ミニスカイフルーツとかじゃなくて? でもスカイフルーツって強精強壮の効果もあるから、それはそれで下ネタっぽい? あははー、さっきからネタも寒ければ足も寒いや。

 

「お兄ちゃんの生足、スベスベで綺麗……! すごい肌触り……!」

「おいおい、これが男の尻なのか……! え、布越しでこれなのか……!?」

「ふふふ、驚くがいい。パッドも使わない、ウィッグも使わない、全ては棗という素材を活かすため……! これが先人の発想と私の探求心が生み出した、最強の男の娘メイドだ!」


 いけない、意識が飛んでいた。気付けば、僕の尻に顔を埋める楓姉と足を頬擦りする葵。膨らみのない(あってたまるか)僕の胸を撫でるのは椿姉。母さんは持ってきたカメラで熱いフラッシュを僕に浴びせている――ちょっと待って、なにこの地獄絵図。


「椿姉、怒らないから答えて。なにコレ?」


 しっし、と纏わりつく姉妹を払いながら僕は椿姉に尋ねる。


「なに、とは野暮な質問だな、棗。今でもメイド服のロングスカート派とミニスカート派の醜い争いは続いている。きのことタケノコなんて、ちゃちな問題は比較にならないぞ。いいか、棗。もし瑠璃様がミニスカート派だったらどうする? お前に彼女の心が救えるか?」

「いや、何で僕が他人の趣味趣向を救わなきゃならないのさ」


 たとえ瑠璃様の心であっても、それは僕の管轄外だ。是非とも、電気都市のミニスカメイドの働きに期待したいところである。


「冗談はさておき。人類の結晶であるロングスカートを、敢えて戦闘に特化させるために機能美を優先させたのが戦闘強化侍女装具壱式――まあ、ミニスカメイド服だ」

「ミニスカメイド服だ、じゃないッ! なにこれ、お尻丸見えじゃん! 最悪だよ、こんなの男が着て天下の往来を歩いたら――変態じゃないか!?」

「変態なわけないだろうが。むさいおっさんが着ていれば――それこそ、親父が着ていれば、私は躊躇いなく1を二回、0を一回プッシュするが――」


 哀れ、父さんは豚箱行き。


「――男の娘が着ても問題はない! なぜなら、男の娘が着るからだ(・・・・・・・・・)!」


 ああ、なんてことだ。地球の言語で会話しているはずなのに、僕には椿姉の言っていることが少しも理解できなかった。


「もう椿姉は僕の知らない遠いところにいるんだね……」

「ところがどっこい。目の前さ」


 現実逃避を許さない、というように僕のことを抱きしめる。豊満な胸と、武術で鍛えられた腕は、柔らかくも少々息苦しく。


「初めての来栖家の依頼だと緊張しているな? 安心しろ、お前には私と楓と、葵と、そして最強の母さんがいる。この布陣で、次期当主という肩書を重荷と感じる必要はないだろう?」

「それは――」


 僕の周りにいる家族を見る。椿姉、楓姉、葵、そして母さん――あ、父さんは裏切ったからノーカウントで。

 御剣家、最強の布陣。確かに、来栖家の初めての依頼だと緊張しすぎたかもしれない。恥ずかしいことに、家族には僕の緊張がバレていたようだ。

 

「みんな――」


 そうだ、僕は次期当主である依然に、御剣家の一員なのだ。

 ここで告白すれば、許されるかもしれない。


「やっぱり、このメイド服を着なきゃダメ?」

「「「「ダメ」」」」


◇◇◇◇◇◇


 エンジンの音が空気を叩く。心地よい風が頬を撫で、春の日差しが風景に似合わないメイド服を照らし出す。それは、まるで僕が男なのに女装しているのを咎めているような天気であった。


「もう諦めろって。十分可愛いから、気にするなよぉ」

「楓姉、バイクの速度が速いから、もっと強く掴まるね」

「おっとぉ、棗の愛が身に堪えるなぁ。はっはっは、ごめん、マジで痛い……!」


 現在、僕は椿姉の運転するバイクの後方に座っている。乗り心地はあまり良いとは言えない。楓姉曰く、浪漫と利便性の両立は難しいから好きな方を取った、とのこと。良く分からない言い分である。

 気分は乗り心地の悪いバイクの後部座席にいることも相まって、憂鬱であった。

 バタバタと、風が無防備なロングスカートを靡かせる。スカートが大きく動く度、僕は今、女装しているのだと実感させられるのが腹立たしい。


「そういえば、棗はあれから来栖家の敷地に入るのは初めてかぁ?」

「まあ、そうなるね」


 風とエンジンの音に掻き消されそうな楓姉の言葉を、僕はどうにか拾いながら返事をする。

 あれから、もう十年以上経つのか。感慨深くおもう。あれから、僕は成長できただろうか。あの頃の僕が、今の僕を見たらどう思うだろうか。


 ――女装好きの変態。


「その発想は危険過ぎる……!」

「どうした、棗ぇ? エッチな本を隠し忘れたか? 安心しな、姉ちゃんが責任持って隠してやるからな!」

「何、その拷問!? 言っとくけど、エッチな本なんて持っていないからね!」


 時代はデータだ。


 こんな馬鹿な会話を、清々しい街並みを背景にして、僕と楓姉は来栖家に着くまで続けていた。


   

 

 

  

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