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婚約破棄王子  作者: 男爵令嬢名無しさん
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婚約破棄王子~幸福の王子

『婚約破棄王子』


アスーリア王国の第一王子であるオータック殿下を国民がそう呼ぶことに、私たち家族は心を痛めていた。

ルイス子爵家。

ルイスは名誉男爵の息子だった父の名で、子爵位を賜ったときに、王からそれを家名としなさいといわれたそうだ。

父には新たにドーデンという名が与えられ、ドーデン・ルイス子爵となった。

母は伯爵家の出で、身分は父が下だったが、深く愛し合って結ばれた。

父と母が出会った当時、母はオータック殿下の婚約者だった。

父も母も、オータック殿下を裏切るつもりはなく、互いの想いを胸に秘めて、母がオータック殿下と結婚する日を迎えるつもりだった。


「弟のように愛していたから、結婚すれば、きっと、いつかは夫として愛して支えられると思っていたのよ。でも、殿下は私のために、解毒魔法が得意なお父様に功績を挙げさせて、爵位と私を・・・。」


わざと、毒を飲んでそれを助けさせることで父に爵位を与えて、母との婚姻を可能にした。

しかも、先に破棄されているとはいえ王子の婚約者だった母がすぐに、その男と結婚したということで責められない様、領地を比較的遠くに与えてしばらく王都から離してくれた。

そしてすぐに自分は新しく婚約を整えて世間の目を自分だけに向けてくれたのだそうだ。


「あの優しい殿下にいつか恩返しをしないといけないわ。」


そういう母は幼い頃から娘である私に殿下との思い出を語ってくれた。

幼馴染であった母と殿下は婚約していた間だけではなく、母が結婚して王都を離れるそのときまで親しく姉弟のように過ごしていた。母の思い出の殿下はいつも優しく、穏やかで、暖かい人だった。

そんな殿下に私がいつしか憧れを抱いたのは自然なことだろう。


父が宮廷医療魔術師団の団長を命じられて王都に戻った私が、殿下が実は令嬢たちの間では『幸福の王子』とも呼ばれていたのを知ったのは18になったときだ。

殿下はすでに14回の婚約破棄をされていた。


「だって、オータック殿下と婚約すれば、『真実の愛』に出会えるのよ。」

そう夜会で笑う令嬢たちに私は怒りを募らせていた。

失礼な話だ、最初から殿下と結ばれるつもりもないのに『真実の愛』を求めて殿下と婚約するなんて。

でも、騒いだりして殿下のお耳にそんな話が入ってはお気の毒だ。

憤る私に母が、ある茶会への参加を勧めてきた。

茶会のメンバーを聞いただけで脚がすくんだ。


母も宮廷医療魔術団の団長夫人でそれなりの立場だが、他のメンバーもすごかった。


まず、第二王子妃。

他には近衛隊隊長夫人、宰相閣下の長男夫人、たまたま滞在されいたという隣国の王太子妃、

そして国でもっとも勢いのある公爵家の公爵夫人。第2騎士団長夫人。年齢も身分もばらばらだがいずれも現在、国内でかなり有力な家の方々である。


他にも商工ギルド長夫人、国立劇団の団長夫人で脚本家の女性。いずれも元は貴族令嬢だったが降嫁して平民となった方だそうだ。



「この茶会はね、王子の幸福を願う会なのよ。」


ここに集まった女性は皆、オータック殿下の幸せな結婚を願っているのだという。

茶会での話題は

オータック殿下がなぜ、婚約破棄を繰り返してしまうか?

とか

どんな女性ならオータック殿下と並ぶのにふさわしいか?

などだそうだ。


「思うに、殿下は自己評価が低すぎるのがいけないのではないかしら。だから、婚約者令嬢に負い目を感じて遠慮がちな接し方をされてしまう。」

「そうね、それをさびしいと思った令嬢が、殿下以外の方に愛を求めてしまうのね。」

「殿下はすぐに、私など・・・っておっしゃるのよ。いくら殿下は素晴らしい方ですとお伝えしても、苦笑されてしまって。」

「お世辞だと思われるのでしょうね・・・」



この茶会に参加されている方は皆さん、オータック殿下の幸せを本気で考えていらっしゃるのね。

なんて、ぼうっと話を聞いていたらうっかり、お茶をこぼしてしまった。


「まあ、ノーマ。落ち着きのない。そんなだから貴女ももう18だというのにお相手が見つからないのですよ。」

「まあ、ノーマ嬢はもう18歳にもなられるのね。そういえばお母様のお若い頃によく似ていらっしゃる。」

「もう、とんだ、お転婆で・・・刺繍も下手でお恥ずかしいですわ。」

「あら、でも、とても健康そうで、まるで元気を分けていただけてるようです。」


おほほほと笑いあう女性に囲まれ私は赤くなった。


「・・・ねえ。わたくし、思うのだけれど・・・」


第二王子妃がにこやかにきりだした。


「わたくし、ホラ、フージョさまの次の婚約者でしたでしょ?破棄された理由が『フージョが忘れられない。』だったのだけれど、あれ本気だったのではないかしら?そりゃあ、私は婚約披露の場で、夫と互いに一目ぼれしてしまって、それをオータック殿下に知られてしまって殿下が身をひいたようになっているけれど、それだけではないように思うの。」


「まあ・・・私も騎士団から専属を選ぶように言われて夫に惚れてしまったのだけれど、オータック殿下はいつも『あなたのように優れた女性に私はもったいない。』とおっしゃられて、とてもお辛そうにされていたのよ。そんなお顔をみるのもお気の毒で婚約破棄も受け入れてしまったけれど。確かに、私のときも、フージョさまの絵姿を見て切なそうにしていたらしたわ。」


「え?・・・あの皆様は?」


「そう。ここにいるのは皆、かつて殿下の婚約者だった女ばかりなの。」

いたずらっぽく笑う母たちに私は目を丸くするしかなかった。


今の若いご令嬢たちはどうか分からないが、ここにいる皆様はオータック殿下と真剣に婚約をされていて、いずれは殿下をお支えしようと彼女たちなりに殿下との結婚を考えていた方ばかり。


確かに、殿下と婚約破棄をして他の男性と結婚したけれど、殿下が望んでくだされば、ちゃんと殿下と結婚して、いずれは恋を忘れ、殿下おひとりを愛することができたはずだとおっしゃる。

だって、オータック殿下は素晴らしい方だから。

でも、オータック殿下から婚約破棄を言い出されてどうにもできなかったのだと。



「そこでねえ、殿下の初恋であろうフージョ様にそっくりで、他の令嬢よりちょっとダメダメな、貴女の娘は意外と殿下と合うのではないかと思ったのよ。」


さりげに貶められたが第二王子妃の顔は真剣だった。


「殿下ももうすっかり大人になられたわ。私たちはみんな『お支えする。』ためにがんばってしまって逆にお若い殿下に劣等感を与えてしまった・・・最近でいえば、『もったいない』と最初から殿下もちょっとひいているようよ。でも、殿下が『仕方ないなあ』とか『かわいい』とか感じて、殿下の方が『助けてあげよう』とするような令嬢ならどうかしら?」

「あら、いいかも。殿下がもらってあげないと他に行き場のなさそうなって感じがいいかも知れないわ。」


ちょっと・・皆様、私に失礼ですよ。

でも、待って、この方々の後押しがあれば子爵令嬢にすぎず、実は殿下にあこがれるばかりに婚期を逃しそうな私でも殿下のおそばにいけるかも・・・?


「ノーマ嬢のお気持ち次第ね。」

「私はずっと、オータック殿下をお慕いしています。」


恥ずかしい・・即答してしまった。


「そう、ではもし、今の婚約が流れたときにはノーマ嬢を押してみましょう。」

「今日、お会いしたばかりですのに・・・よろしいのですか?」


コロコロと女性たちが笑う。


「貴女の人柄と、オータック殿下への思いは十分伝わりました。殿下の幸せのために尽くしましょう。もちろん、今のご婚約者の令嬢もすばらしい方よ。その方と殿下がうまくいけばそれはそれでお祝いしましょう。」


・・・・。


私がオータック殿下の婚約者になったのはそれから3年後。

間に殿下は2回の婚約破棄をして、私は16番目の婚約者に選ばれた。





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