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婚約破棄王子  作者: 男爵令嬢名無しさん
1/3

婚約破棄王子~過去とこれから

全3話の予定です。

「エレナ、君との婚約は破棄させてもらう。」


2年前に頬をうっすら桃色に染める彼女と肩を並べて婚約披露パーティーを開いた。

まだ、少女といってもおかしくない年齢だった彼女も、2年の間にすっかり女性らしくなった。

私は彼女と本当に幸せな結婚をしようと思っていた。


しかし・・・


「ありがとうございます。殿下・・・。」


ああ、やはり、礼を言われて終わりなんだ。





「殿下!これで15回目です。15のときからほぼ2年おき、すでにあなたは来年40歳。殿下が世間でなんて呼ばれているかご存知ですか?!」


知ってるよ。

うんざりするくらい耳にする。

この、アスーリア国の第一王子をつかまえて、国民は口をそろえてこう呼ぶのだ。

「婚約破棄王子。」


「オータック殿下。私はクイズをだしたわけではありません。どうだ、正解だろうってドヤ顔やめてください。


怒られた・・・。


大体さ、王子って世間はもっとこうキラッキラしたイメージだと思うんだ。

その点、私は顔は平凡だし、茶髪だし、瞳も茶色、背は高くもなく低くもない。

半端な長さの髪を後ろでひとつにくくってリボンで結ぶと馬の尻尾のようだ。

剣技に優れてもいなければ、魔術も人並み。

一応、第一王子だけど父王陛下16歳のときの息子だから、父王陛下はまだまだ現役!

っつうか、私が王になる日はないね。

平均年齢の80歳まで現王陛下がそのままで、その頃既に60歳すぎてる私が王になるより、甥っ子がなった方がいいもんね。弟の子は今、すでに20歳だから、ひょっとしたらもう1世代下でもいいくらい。


それでも私は王子なわけだ。


で、王子だからいろんな姫と縁談がくる。

王にならない可能性が高いせいか欠席を許されているため、夜会にもあまりでない。。


で、婚約して初めて、会うでしょ?

彼女たちの顔に浮かぶのは

『これか~(ないわ)』

なわけ。

正直、いくら私でも傷つくんだよね。


それでも、婚約している間は、私なりに彼女たちに好かれようとするんだよ?

でもなんでか、彼女達は私との婚約期間中に、『真実の愛』に出会っちゃうんだよな。

涙ながらに「あの方を思うことだけお許しください、王子妃としての勤めは果たします。」

ってきりっと言われても、私も困るわけ。

国にとっても全くお得物件ではない王子の私が、こんな悲壮な覚悟の妃となんかやってけないでしょ?


この国では婚約期間は3年と決まっている。どんなに愛し合っていても3年は婚約。

逆に全く、愛し合っていなくても3年婚約したら結婚する。

この3年婚約が難しい。大抵2年くらいで相手の女性に他に真実好きな人ができちゃう。


「オータック殿下は人が良すぎます。いいじゃないですか、他の好きな男がいようが3年婚約したら結婚できるんですよ?わざわざ殿下の方から婚約破棄しなくても。」

「いいんだよ。どうせ、私は王になるわけもないし、のほほんと余生を過ごすよ。」

ぶっちゃけ、明日、万が一、父王陛下が崩御されてももう、甥っ子でいいじゃん。







「ご婚約が整いました。」

え~・・・もういいじゃん。諦めようよ・・・



「フージョ?」


16人目の婚約者を目にして私は目を見開いた。

「フージョは母です。殿下。」


「ああ、そうだよね。あれからもう、20年以上経つのだものね。すまなかったね。母上は息災か?」

「はい。殿下には本当に感謝申し上げていると・・・私も小さい頃から殿下のお優しさを聞きながら育ちました。お会いできるだけでも光栄ですのに、婚約していただけるなんて。」

「いや、私にそんな価値はないよ。しかし、フージョの娘さんか、良く似ている。まあ、2年程度のお付き合いだ。よろしくお願い致します。私と婚約していると『真実の愛』にめぐり合えるそうだから、気楽に過ごしなさい。」




フージョは当時15の私より3つ年上で、幼馴染で私の最初の婚約者だった。

お互いに読書が趣味で、おだやかな家庭を築けるものと思っていたが、婚約した途端に、彼女に運命の男が現れてしまった。


人が恋に落ちる瞬間を見てしまった。

そして、絶望する瞬間も。


大事な幼馴染がそんなこの世の終わりのような顔で私に嫁ぐなんて嫌だと思った。


彼女が恋に落ちたのは名誉男爵の息子。名誉男爵は1代限り。親が男爵でも子供は平民だ。

王子の私と婚約するくらいだからフージョは伯爵家の姫だった。

二人が結ばれるのには障害が多い。かくいう私自身もだ。


「フージョ、婚約期間はまだ2年以上ある、その間に彼に功績を挙げさせよう。今は戦もないが・・・何か考えるから。だから、ぎりぎりまで私の婚約者でいておくれ。」


打算もあった。

2年のうちにやはり、私を望んでくれないかという。

女々しい気持ちが。

しかし、彼女も、彼も決して諦めることなく、ほとんど逢瀬も重ねられないというのに互いを思いあう気持ちが薄れることはなかった。

なんとかならないものかと思っていたときに、第一王子、つまり私の暗殺計画が立った。

本当は私の影が事前に計画を知ったので阻止できたけれど、私はこれを使おうと考えた。

暗殺者の選んだ手段は『毒殺』。

彼は解毒・治癒魔法に特化していた。

これは使える。


毒に侵された私は、苦しい息でこうなっては結婚はできまいと愛しい婚約者に婚約破棄を告げた。


毒の種類が特定できないと助からないという状況の中、毒の成分に関わらず解毒できる魔力をもった男に私は救われた。

毒から第一王子を救った男は1代限りではない子爵の地位と、王子に婚約を破棄された伯爵令嬢を手にいれた。


彼の魔力を知っていたからこそ毒入りの茶を飲むことができたが正直ヒヤヒヤだった。

実際に毒を飲んでいたと知ったフージョは泣きながら怒った。

本当に死んでしまったらどうするのかと。


・・・貴方は弟のように愛しいのに・・・


こうして私は最初の婚約破棄と、最初で最後の失恋を経験した。


それから、体調が整った途端に次の婚約が整った。

今度は私より年下の令嬢が選ばれた。

しかし、婚約して1年経つか経たないかのうちに彼女もまた、私ではない男と恋に落ちた。

「フージョが忘れられないようだ。すまない。」

そういって婚約破棄をした。


それからも、次々にきまる婚約者、そして決まって彼女達は私ではない男に恋をする。


ついたあだ名が、『婚約破棄王子』


父王陛下に一度、まじめな顔で『男色では?』と聞かれ、へこんだ。



そんな私の16番目の婚約者はノーマ・ルイス子爵令嬢。

ついに私の婚約者は子爵家まで家格がさがったのかとじいが嘆いていた。

まあ、そりゃあ16人目だしね。

貴族だっただけでも救いだよ。

しかも、最初の婚約者の娘だって。どんな喜劇?





「ねえ、ノーマ。そんなに私とばかりいたら出会いを逃すよ?」

「なんで、婚約者がいるのに出会いが必要なのですか。私はオータック殿下といたいのです。」


窓辺で本を読む私の足元に座り込み刺繍をする彼女は記憶の少女と重なって私の心を切なくさせる。


「君、ソレ、何を刺繍しているの?猫?犬?いや・・鹿か・・・?」

「し・・失礼な!馬です。」

「ああ、馬か。」


「ノーマ、君のがんばりは認めよう。でも2度と厨房に入ってはダメだ。」

彼女の手作りだというクッキーらしき菓子はその日から私の夜食になった。

皿に山盛りのクッキーを消費するのに実に3日はかかった。

しかも、味がないのだ。

彼女の名誉のためにも他の人間に食べさせるわけにはいかず、私はがんばった。


「誰か、私の万年筆を知らないか?」

「あの・・・申し訳ありません。」

「ノーマ・・・どうしたらこんなに先を割ってしまえるんだい?」

「だって・・・オータック殿下のものだとおもったら手が震えてしまって。」

「いや、そもそも私のを使う必要もないよね・・・」

「だって、オータック殿下のものですから・・・」

ギュッと握る彼女の手からいつも彼女が持ち歩いているポーチをそっと取り上げる。

「あっ・・あっ」

「ノーマ・・・欲しいものは言ったら買ってあげますから・・」

私の羽箒、私が先週使っていたリボン、私が昨日しおりがわりの落書きした紙。先日、あわてて脱ごうとしてふっとばしたシャツのボタン。

「あっ・・・それは。」

「ノーマ・・・」

あきれた私の手には今日の昼食で私が使用したナプキン。刺繍がはいっているため私のものだとわかるのだ。




16人目の婚約者は少しおかしい。

婚約から2年が過ぎて、過去の女性と重なるところはない。

刺繍も、料理もこんなにできない女性ははじめてだ。

そして、私を見る目の熱さも、他の女性にはなかったものだ。

いささか重過ぎて変態ちっくではないかと思うときもあるが、どうやらこのまま3年が経ってしまうようだ。





ノーマはストーカーですね。いいんです。かわいいは正義ですから。

ノーマについては次話で。

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