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幻創の楽園 外伝シリーズ  作者: 士宇一
第3章外伝 sideA
7/13

3A-04a ロウの『お肉』 1

 

 +++

 

 

 奴が立ち上がった時。そこからが本番だった。

 

 

 山のようにでかい蜥蜴の化物が4、50メートルくらいの怪獣になったんだ。あれは……そう! 《戦慄のドレッドキング》によく似ていて……ん? ドレッドキングっていうのはな、初代コメットマンの第8話で登場した怪獣で……

 

 〈中略〉

 

 見上げた巨躯は堅牢強固。惚れ惚れするほど逞しくて、だけど意外と細身で俊敏な動きをみせる。2本脚ではその素早さを活かした体当たりが使えないようだったが、ただでさえ硬いくせに立ち上がることで、あいつの弱点らしい頭に俺の拳は届かなくなってしまうんだ。

 

 蜥蜴も頭いいんだなと思った。サイズだけ見れば、人の脳みその何百倍もあるんだろうから当然かも知れない。

 

 奇策を使ってきた相手に対し、俺は燃えてきた。

 

 一撃入れるにはまずは転ばせないといけない。そう考えた俺は、砂山を吹き飛ばす奴の尻尾を掻い潜り、脚に向かいひたすらローキックを……

 

 〈中略〉

 

 ……そして。死闘の中で俺は遂に見つけたんだ。奴のもう1つの弱点を。

 

 

 俺はあいつの足の小指に、タンスの角をぶつけるように鋭く、死角を突いた1撃を……

 

 

 

 

「タンスだけにシカクかよ」

 

 宴の席にて。大和の語る武勇伝に光輝が突っ込む。

 

 +++

 

 

 光輝たちは集落の外、つまり仮設住居である天幕群の離れに向かった。大和が獲ってきたという『肉』を見に行くためだ。

 

 案内された場所に向かうと、そこにはもう人集りができていた。

 

「なんだよ……これ」

「大きな岩、だよね?」

 

 大和が持って帰ってきたものを見たアギとリュッケの兄妹は、『それ』を見て何なのかよくわからなくて唖然としている。

 

 『それ』は、間断ない凹凸のある岩肌の、全長30メートルはあるとても大きな岩の塊だった。

 

 誰もこの巨大な岩塊を見て、魔獣の尻尾とは思いはしないはず。光輝だけが『それ』の正体を見抜いていた。

 

「……ロウ」

 

 光輝は呆れながら大和に訊ねる。

 

「狩ったのか?」

「勝ったんだ」

 

 訊くと大和は今朝、朝早くに集落を発って、わざと落としてきた荷物(光輝特製の発信機付)を頼りに《西の大砂漠》へと戻っていたという。「勝負を預けていた」『王蜥蜴』との決着をつけるためだ。

 

 この時大和は大砂漠に魔獣がたくさんいた事を思い出し、再戦ついでに狩りをしようと思い立ったという。

 

 自慢気に答える大和。決め技は彼にしては珍しいジャイアントスイング。最後は尻尾を切られ、『王蜥蜴』は砂の中へと逃げたらしい。

 

 

 大和は自分の拳を見ては『王蜥蜴』を殴った硬い感触を思い出し、笑みを浮かべる。

 

「楽しかった。また闘りたい」

「どこの戦闘民族だよ。それであの尻尾は部位破壊の戦利品ボーナスか」

「もったいないから持って帰ってきた。それで尻尾あれ、食えると思うか?」

「知るかよ」

 

 

 と言いつつも。

 

 結局、大和がどうしてもと言うので、尻尾が食べれるか調べてみることにした。

 

 所詮大和など「ヒトの三大欲求とは何か」と訊ねられて「食欲、睡眠欲、肉欲」と答えるような猛者だ。4つめの戦闘欲を満たした今、肉のことしか考えていないはず。

 

「また変なこと考えていないか」

「まさか。期待するなよ」


 食べられる。それを疑っていないのはきっと大和だけだろう。

 

 誰もが遠巻きに見ている中、光輝は巨大な尻尾の前に立つ。

 

 

 光輝は誰にも『目』見られないように背を向けて、それから眼鏡を外した。文字通りに『目の色を変えて』、尻尾を見てみる。

 

 分析するには専門の知識が必要だ。まずは《黄金模写ストレージ》内を検索。

 

 

(流石に《再生世界ここ》の知識きおくなんてないからな。まずは参考になるものを……って)

 

 

 驚いた。『金色の瞳』の中に蓄積された記憶に《再生世界》の情報があったのだ。1度認識したことで検索範囲が一気に倍に広がる。

 

 

(400年前の勇者とやらにゲンソウ術。……すごいな。『こっち』にはないものばかりだ。……これは)

 

「《再生世界ここ》も《世界》の一部。だからなのか?」

 

 

 思わず声を漏らす。そうでないと再生世界の知識が『目の中にある』説明がつかないのだ。光輝が『目』に蓄積した知識の中で身に覚えのないもの、その殆どは彼がその『目』で《世界》を見た事による影響だから。

 

 自分の持つ異能の『異常化』を改めて思い知る。しかしこうなると、新たに解析する必要がないので知識の取得は容易い。

 

 『潜る』のはまた今度にするとして、光輝は網膜ネットを通して検索、『王蜥蜴』の情報を引き出して『見る』。

 

 

(……これだ。『王蜥蜴デザートロード』。砂漠地帯に棲む『砂蜥蜴』の魔力変異体ミュータント。『岩蜥蜴ロックリザード』の上位種グレーター、『山蜥蜴マウンテンリザード』の稀少亜種レアリティの1種。……発生原因は100年単位における魔力の長期過剰摂取。進化形態は肉体強化型で魔力的な抵抗力は……)

 

 

 視界は一面に輝く黄金。

 

 光輝の意識は次第に、《世界》を写した情報の海に埋もれはじめる。

 

 

(っ、時間がない。余計な情報は無視。肉質は…………調理法……)

 

 

 煩雑な情報を選りすぐり、並行して『速読』。

 

 今度は暗記して自分の頭の中に『王蜥蜴』のレシピを素早く叩き込む。傍目から見ると、光輝は尻尾を目の前に棒立ちしているだけだが。

 

 

「あいつ、何する気だ?」

「あの尻尾が食えるかどうか調べてもらう」

「尻尾? それに……食うだあ!?」

 

 岩を食べるなんて信じられない。そんなアギの驚きの声は周囲に広がる。それで光輝たちのことを奇異の目で見はじめる人も現れはじめた。

 

 

 解析完了。力の反動で目眩のする頭を抑えながら光輝が戻ってきた。

 

「どうだ?」

「大当たりだな。質で言えばアギの獲った蜥蜴の4グレード上だ」

「はあ!?」

 

 馬鹿な! と驚くアギに、光輝は「蜥蜴の王様の尻尾だぞ」と答える。

 

「王蜥蜴だって? そんなの《西の大砂漠》にいるつうジイさんどもの迷信だろ。見たことねぇくせに冗談言うなよ」

「見てないのはお前の方だろ。別に信じなくていいから手を貸せ。あれで焼き肉をする。肉を解体するのに人手が欲しい」

「焼肉か。いいな!」

 

 大和の目が輝く。

 

 だけど。「みんなで準備やろう」と言う大和とは逆に、アギの目は胡乱になって、

 

「……勝手にしろよ。おいリュッケ、行くぞ」

「え。兄?」

 

 アギの態度に戸惑うのはリュッケ。

 

 奇人変人。言ってることもやってることも、ついていけない。正直そう思う。

 

 アギはリュッケを連れて集落に戻る。それで野次馬も一緒に尻尾と光輝たちから離れてしまう。

 

 

 取り残される光輝と大和。

 

「……まあ、いい。2人で食うか」

 

 早速解体作業に取り掛かろうとする光輝。彼はアギの態度など気にもしない。

 

 しかし、そんな光輝を大和が呼び止めた。

 

「待ってくれ、コウ」

「なんだよ。早く加工しないと魔力が揮発して腐るぞ」

「アギと約束したんだ」

「ああ?」

 

 

 ――じゃあ、倒したやつを俺にくれよ

 

 

「それが約束? ここに来る前の話か。覚えちゃいないだろ。反故にしろよ」

「そうはいかない。俺だって肉は食いたい。だけど勝手に食べるな。……これも何かの縁なんだ。みんなで仲良く焼き肉をしよう」

 

 人が良いというか律儀というか。こうなると大和は頑なだった。

 

 

「……俺にどうしろっていうんだよ」

「役割分担。考えるのと皆を『けしかける』のはコウの仕事だ」

 

 光輝は嫌そうな顔をした。

 

 +++

 

 

 集落に戻ったアギは自分の天幕に戻って、急に旅支度をはじめた。運び屋の仕事を再開するためだ。

 

「家に戻っていきなり、どうしたの?」

「明日にでも近くの遺跡に行って仕事もらって来る。悪いがまた留守を頼むぞ」

「アギ兄?」

 

 突然のことに驚いたリュッケ。

 

「どうして? この前の旅から帰ってきてまだ3日しか経ってないよ。ちゃんと休まないと体壊しちゃう」

「そうも言ってられないだろ? 金も飯も、全然足りねぇんだから」

 

 それを言われるとリュッケは黙るしかない。

 

 

 砂漠の民の主な収入源は遺跡の採掘品。だけどこの辺りにある遺跡は質が悪く、稼ぎが少ない。しかも光輝たちが撃退したのとは別にアギのいない間にも帝国兵の襲撃があったらしく、集落の蓄えが激減していた。

 

 長にだって頼まれている。しばらく家を空けていたので、妹のためにもアギはもう数日休もうと思っていたが、このままでは皆が先の冬を乗り切れそうもない。

 

 

 今の暮らしが厳しいことは、集落で暮らすリュッケの方がわかっている。だけど。今のアギは仕事を理由に何かから逃げようとしているように感じる。

 

 いったい何から?

 

「ねえ兄。せめて、マガヤンさんたちがいる間だけでもうちにいたら……」

「いいかリュッケ。俺はな、あいつらみてぇに無駄な穴掘ったり、馬鹿でかい岩持ってきて食おうとしたりして遊ぶ暇なんてねぇんだよ」

「アギ兄!」

「あいつらは旅人なんていう道楽者なんだ。ここでも適当に過ごして、飽きたらすぐに出ていくさ」

 

 リュッケはアギの言葉に悲しくなった。

 

「……どうして? 変な人たちだけど、兄が連れてきた人たちなんだよ。そんなこと言わないでよ」

「リュッケ」

「仲良くしようよ。せっかくケイオスさん以外にも『外』からのお友達ができそうなのに……」

「……」

 

 アギは聞かなかったことにした。

 

 

 女であるリュッケにはわからないはずだ。自分が今抱える苛立ちは。

 

 物なんてほとんどない荷物を整理しながら、アギはそんなことを考える。

 

 

 自分だって、2人の何に苛立っているのかわからないのに。

 

 

「……何が戦士だ。勝手なこと言いやがって。俺は……」

「アギ兄? …………んん?」

 

 あれ? リュッケは不思議そうにしてアギに訊ねる。

 

 

「なにか、いい匂いしない?」

 

 +++

 

 

 天幕の並ぶ集落の辺り一面に、肉の焼ける香ばしい匂いが立ち込めていた。

 

 光輝の仕業だ。戦車の装甲板を利用した鉄板の上に、肉厚の分厚いステーキを並べて外で焼きはじめたのだ。

 

 昼食を食べたばかりだというのに肉汁と脂が弾ける音とソースの匂いに釣られ、集落のみんなが鉄板の前に引き寄せられていく。

 

「こ、これは……」

「……(ごくっ)」

「さあ! みんな立ち寄ってくれ。今から試食会をやるぞ」

 

 大々的にステーキの試食を勧めるのは《焼肉の伝道師ロウ》こと大和。

 

 大和は光輝が焼いて細切りにした肉に串を刺し、集まった人へ片っ端に「あーん」して食べさせはじめた。

 

 半ば無理矢理食べさせられた人たちの反応といえば。

 

「……!」

「う、美味ぇ」

「ほんとか? 俺にも食わせてくれ!」

「順番だ。列になって並んでくれ。子どもにも食わせてくれよ」

 

 焼き肉の伝道師は平等だ。老若男女、分け隔てなく一口ステーキを分け与え、肉の素晴らしさを皆に伝えていく。

 

「はい。あーん」

「……(ぽっ)」

「美味いだろ?」

「なんて素敵な人……」

 

 スマイルはサービス。お肉は敬遠しがちな女性さえも次々と魅了していく伝道師。

 

 ステーキは残り僅か。

 

 

「あと少しだ。まだ食べてない奴はいるか?」

「ロウさん?」

「お前らなにやってる!」

 

 遅れて来たのはリュッケとアギだ。何事かと鉄板の前にやってくる。

 

「これって、お肉?」

「まさか……おい、マガヤン。こいつは」

「……」

「無視するんじゃねぇ!」

「……うるさい。俺は忙しい」

 

 今の光輝は鉄板職人だった。雑音アギを無視して目の前の肉に集中している。

 

「聞けよ!」

「無粋な。お前にはこのコテ1つに肉のすべてを懸ける、俺の情熱がわからないのか?」

「そうだ。肉は激しく、時に優しく返さないといけないんだ」

「何言ってやがる!?」

 

 もちろん光輝と大和もわかっていない。

 

 ノリだ。

 

 

「まあ落ち着けよアギ。お前ら試食まだだろ。料理長、2人に焼きたてを頼む」

「シェフと呼べ」

 

 どうでもいい文句を言いながら、ステーキを切り分ける光輝。

 

 焼きたての最後の1枚を半分。また半分のもう半分。

 

 半分。さらに半分にして串を刺す。それから半分に切って串。

 

 ソースに絡めて。

 

「ほれ」

「……おい。なんで俺の肉はリュッケより小さい」

「レディーファットと言ってな、もっと太れという俺の厚意だ」

「マガヤンさん?!」

「いいから食え。あーん」

「「……」」

 

 何故だろう。大和(爽やか美形)がやるのと、光輝(陰険眼鏡)がやるのではお得感が随分違うのは。

 

 兄妹はそれぞれ差し出されたステーキを口にした。

 

 焼くことで程良く落とした脂は甘くて、肉はとろっとしてやわらかい。

 

 香ばしいソースは醤油ベースで実は光輝のオリジナル。大和が大砂漠から回収してきた荷物の中にある調味料を使っている。

 

 これは。

 

「お、美味しい! これ、本当にお肉なの!?」

「これが4グレード上の、王の味だ」

「う……やるじゃねえか」

 

 リュッケは絶賛。アギは「美味い」と言ったら負けだと、意地で踏み止まる。何を意地になっているのかよくわからない。

 

 ただ、「どうだ」と言わんばかりに眼鏡を光らせる光輝がムカついた。

 

「これがあの、岩みたいなやつなのか?」

「外皮のない尻尾の根元を切り落としたものだ。試しに味見しようと思ってな」

「……マジかよ」

 

 一生忘れられないような味だった。信じられないといった感じで目を見開くアギ。

 

 それを見て光輝は、「かかったな」と悪そうな笑みを浮かべる。

 

 改まって声をかける光輝にアギはたじろぐ。

 

「な、なんだよ」

「前にも言ったがあの尻尾は『王蜥蜴』、つまり魔獣の肉だ。だから本体から切り離されても肉に含んだ魔力のおかげでしばらく腐ることがない」

「魔力だと!? じゃあ、まさか俺達は」

「安心しろ。魔力といっても微小量で細菌みたいなものだ。時間が経てば循環しない魔力は揮発して自然に還るし、しっかり焼いて食べれば人体にも影響がない」

「そ、そうなか?」

 

 焼けばOK。それだけはわかった。

 

 アギは少し前に見た巨大な岩の塊もとい、肉の塊の大きさをを思い出す。

 

「あの肉が、まだあんなに……」

「ただな。俺が見たところ、日没までしか保たない」

 

 光輝は言った。尻尾の肉に含まれた魔力はあと4、5時間で揮発して完全に消失、ただの肉塊になって腐りはじめるという。

 

「つまり。今日中にあの肉を保存できるように加工しないと駄目になってしまうわけだ」

「ええっ! そんなの、もったいないよ」

「俺もそう思う。だからロウと2人でどうにかしようと思ったんだが……」

 

 リュッケに頷く光輝は再びアギの方を見遣る。

 

「あのサイズだ。2人でやるのは骨が折れるし、きっと殆どの肉を無駄にしてしまう」

「……何が言いたいんだよ」

「それはな」

 

 今度は大和の方に目を遣る。大和も光輝がアギたちに説明した同じ内容を、『王蜥蜴』の尻尾ステーキを試食した皆に伝えていたようだ。

 

 大和の周囲に集まる人からも「もったいない」「もっと食わせろ」といった不満の声が上がってくる。

 

 その中で焼肉の伝道師である大和は、彼等に訊ねた。

 

 

 

 

 お前たちも、肉が食いたいか?

 

 

 

 

「俺はもっと食べたい。だから、みんなの力を貸してくれ」

「導師様……」

「共に往こう。今晩は……焼肉だああっ!!」

「「「「おおっ!」」」」

 

 肉の魔力に魅入られた集落の民たちは今、大和の魂の叫びの下、1つになった。

 

 

「こういうわけだ。手伝ってくれないか?」

「……」

「アギ兄?」

 

 

 別にお前たちのためじゃない。

 

 そうだ肉だ。肉をもっと食べたいし、もったいないからだからねっ!

 

 

 妙な葛藤の末。アギは協力を約束した。

 

 +++

 

 

 こうして集落にいる者、全員を巻き込んでおこなうことになった焼肉大会とその準備。

 

 作業は効率を重視して3隊に別れた。A班はお肉となる『王蜥蜴』の尻尾を解体するという、重要な役割を課すチームだ。

 

 

 A班副リーダーの光輝は自前の『真鐘建設』のロゴ入りヘルメットを被り、解体作業の説明をはじめた。

 

「これからA班は、尻尾の爆破作業に取り掛かる」

「おい」

 

 早速突っ込むのはA班リーダーのアギ。人望の面でこうなった。

 

「馬鹿かお前! ぶっ飛ばしたらなにも食えねぇじゃねえか」

「いちいちうるさいな。いいか。まずは尻尾の肉を覆う岩のような外皮を取り除かないといけないんだよ。これを見ろ」

 

 光輝はA班の面々に千切れた尻尾の根元、直径10数メートルという断面を見せて説明。

 

「こいつは……」

「見ての通り外皮は切り株の年輪のように何層も重なってとても分厚い。強度はお前たちの言う《虎砲》の全面装甲、その約50倍だ。厚さも2メートル前後と半端ない」

「これが岩に見えた正体か。まるで鎧じゃねぇか」

 

 大和の拳を弾くほどの強度だ。この外皮も素材として使えると光輝は踏んでいる。

 

「肉を加工するにあたってこの殻みたいな外皮は邪魔だ。だから爆破して除外する」

「でもどうやってだ? 火薬なんて集落にはねぇし強力なゲンソウ術もできねぇぞ」

「爆薬なら俺が持ってる」

 

 大砂漠に落としてきたはずの光輝の荷物を、大和が回収してきたのだ。

 

 空間圧縮の技術で容積を『誤魔化した』光輝特製のバック。中には《文房具セット》という暗器、トランプに見せかけた《回路紙サーキットペーパー》の魔法カードなど、光輝の装備が色々と入っている。大和の荷物は厳選の調味料サバイバルセットだ。

 

 

「実はもう、爆破の準備はできていたりする」

「仕事はええな」

「手持ちがそんなにないんだ。効率よく爆破しないと」

 

 先に準備していたのは、複雑な計算が光輝しかできないのでアギたちに任せられなかったという理由が1つ。

 

 もう1つの理由は……

 

 

 光輝は服の胸ポケットからボールペンを取り出した。これが起爆装置だ。

 

 ペンの頭、ノック部分に光輝は親指をあてる。

 

「というわけでダッシュで離れろ。爆破まで3、2、1」

「カウントもはええよ!?」

 

 逃げようと振り返ったところでカウント0。カチッ。

 

 

「ぎゃあーーっ!!」

 

 

 悲鳴を掻き消す轟音。アギたちは大爆発に呑まれて吹き飛んだ。

 

 ……ようにみえた。

 

「何やってるんだ?」

 

 ヘッドスライディングするようにして一斉に転ぶアギたち。それを見てげらげら笑うのは光輝。

 

 ドッキリだ。酷いのは音だけで、周囲に爆発の影響はまったくない。

 

「なっ、なんだ?」

「言っただろ。効率よく爆破するって。爆風の威力を外に逃さないよう事前に結界シールドを張っておいたんだよ」

「先に言え!!」

 

 マジギレした。

 

「でだ。上手くいったのか?」

「……多分な」

 

 制裁を受け、砂地を這いつくばって答える光輝。ヘルメットのおかげで致命傷は避けている。

 

 尻尾の周囲を囲むシールドが解除されたあと。爆発で巻き上がって充満していた土煙が収まったあと。光輝たちが見たものは、全体的にひび割れた『王蜥蜴』の尻尾。

 

「失敗か? あの岩みたいな殻、吹き飛んでねぇぞ」

「十分だ。これ以上の爆破は中身が痛む。……ここからが本番だぞ」

 

 光輝はツルハシを担いでアギに言った。

 

「砕いて外皮を剥ぐ。遺跡堀りの一族である砂漠の民の出番だ」

「ちっ。しゃあねえな。みんな! 頼むぜ」

 

 アギの一声で、屈強な砂漠の男たちが尻尾に群がっていく。

 

 そこに光輝とアギも加わり、各々でツルハシやハンマーといった工具を振るう。

 

 

 お肉の採掘作業がはじまった。

 

 +++

 

 

 一方。大和率いるB班。

 

 

「肉だ。ほれ!」

「焼き肉だ。掘れ!」

 

 

 大和はひたすらに穴を掘っている。

 

 +++

 

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