3A-03b まがやんと《バンダナ兄妹》 2
+++
当時の砂漠の民の生活は貧しい。帝国兵が略奪しに来ることもあって碌に蓄えがない。生活に必要な物資は集落で1つにかき集めて共有し、平等に分配することでなんとか暮らしている。
毎日の楽しみである食事も節約して1日1食。炊き出しのようにして僅かな量を皆で分け合っていた。
「じゃあ、ごはんの準備に行って来るから、マガヤンさんはそのへんで遊んでていいよ」
「俺の扱いが随分ぞんざいになってきたな」
家畜小屋から出たリュッケはそう言って光輝と別れようとする。
「手伝うか? 自慢にならんがそれなりに料理はできる」
「え? いいよ。料理は女の仕事。男の人がするなんて変だよ」
「偏見だぞそれは」
光輝は特に気にせず「男女差別だ」と言ってみると、
「駄目駄目。そうやってアギ兄たちも手伝うふりをしてつまみ食いしたり、味が薄いってお塩をたくさん入れたりするんだもん」
とリュッケ。集落の男たちは、台所に立つことが許されないほど信用がないらしい。
そんな彼等と同類扱いされるのは心外ではあるが、光輝は一応納得してみせ、その場でリュッケと別れた。
というわけで。
食事ができるまでの間暇となった。「遊んでろ」とリュッケに言われた手前、彼は素直に『遊ぶ』こととする。
光輝は穴を掘りはじめた。
「……何してんだよ、お前」
「宝探し」
《虎砲》のジャンクパーツで作った即席スコップを手に答える光輝。
話しかけたのはアギだ。仲間と一緒に狩りから帰ってきたらしい。
アギは道端でせっせと穴を掘る光輝が不可解だった。
「宝だぁ? 遊んでねぇで働けよ」
「妹に散々こき使われた。今もあのバンダナ女に言われたからこうして遊んでいる」
「なんだそりゃ」
「それより。狩りの成果はどうだ?」
「……おらよ」
アギは渋々といった感じで仕留めた蜥蜴を光輝に見せた。蜥蜴は砂漠地帯で獲れる貴重なタンパク源だった。
蜥蜴の全長は40センチほど。これが大きいかどうかは光輝には判別がつかない。
これが1匹。
「これだけか」
「悪いかよ」
不機嫌そうなアギ。彼の仲間もさっぱりだったらしい。リュッケの言ったとおり、彼等の狩りは『遊び』程度だったようだ。
しかもアギが狩ったらしいこの蜥蜴。見たところ彼が持っている銃に撃たれた形跡が見当たらない。
「大体なあ。この銃がいけねぇんだ。全く当たんねぇし壊れてるんじゃないか?」
「あ? 見せてみろよ」
光輝はケチを付けるアギから銃を受け取ると、その『目』で銃を『診る』。
弾倉の中は空。フレームは確かに多少の破損が見られる。
しかし。これは、
「あのな。銃ってのは精密な部品でできたデリケートな武器なんだよ。なのに銃で殴って仕留めやがったな。壊すな」
「うっ。見てたのかよ?」
「診ればわかる。ったく」
流石に光輝は怒る。大和だってこんな酷い使い方はしない。
「骨董レベルなんだぞ。細心の扱いが必要だって言ったのに鈍器に使いやがって。しかもなんだお前、銃身を両手で握って棍棒みたいに振り回す奴がいるか。野蛮人かよ」
「うぐっ」
文句を言ったアギの方が光輝に責められている。アギはなんとなくバツが悪い。
それでアギは、何故光輝がそこまで知っているのかを深く疑問に思わなかった。
「こいつはもうバラしてパーツ送りだ。勿体ない」
「あー! 壊して悪かったよ。……なんだよ。お前や帝国兵の奴らはどうしてこんなもん簡単に使えんだ?」
アギは喚くように愚痴をこぼした。最初銃を手にした時は意気揚々としていたものの、実際に狩りで扱ってみて、その難しさを理解したようだ。
銃は撃てば必ず弾が当たるという代物じゃない。相応の訓練をして狙撃術を磨かなければ、動かない的にさえ当たらず使いものにならない。
「1発1発の命中率を上げるには地道に訓練するしかない。連射で補ってもいいが、どの道ここには余分な弾はない」
「駄目じゃねぇか。これならゲンソウ術の攻撃術式の方がマシだ」
「……ゲンソウ術か」
そういえば光輝はゲンソウ術というものを『創想の超能力』と聞かされただけで詳しく知らない。唯一彼が『見た』ものといえば、アギがゲンソウ術らしい見えない壁かなにかで銃弾を弾いたところだけ。
丁度いいので使い手らしいアギに訊いてみようと光輝は思う。しかし、逆にゲンソウ術を知らないことを知られるのは余計に怪しまれないかとも考える。
ここは少し捻って訊ねたほうがよさそうだ。
「銃がゲンソウ術に優れているのはなんだと思う?」
「あん? そうだな。そりゃお前、早さじゃねえか?」
アギは意外とすんなり答えた。
「どういうことだ?」
「術式の発動速度だよ。初級術式の《火球》を『再現』するだけでも1発撃つのに10秒くらいかかるだろ」
「……そうだったな」
適当に相槌を返しながら光輝は思った。
(その話が本当なら遅すぎる、実戦で使えるレベルではない)
光輝の知る魔法とは《マナ》、《オド》といった魔力をコストにして瞬時に発動できる人為的な超常現象。異能の力だ。彼の知る悪魔達ならば、10秒も時間があれば大規模な破壊をもたらす違法レベルの魔法だって発動できる。
(利点は魔力を使わないだけなのか? 『再現』と言ったが、そこが肝みたいだな)
ゲンソウ術は『魔術の術式』から《幻創》すること(*ここでは魔術をイメージすることをいう)で魔法(*魔力を消費することで起こす奇跡)を再現することができる。思考してイメージを完成させるのに要する時間がそのまま魔術の発動速度となるのだ。その手法は媒体と詠唱を使うと再成世界の『魔術』(*ここでは悪魔が使う魔法ではなく、人が使えるものを指す)と比べるとあまりにも効率が悪い。
また。再生世界にはイメージ増幅器なるブースターというものがある。これはゲンソウ術の発動を補助してイメージの再現度の強化などを行なっているが、再生紀1000年以前である当時にブースターは一般には普及されておらず、一部の《魔術師》たちの秘技とされていた。
魔神を殺し魔力を失った再生世界。ここでは魔法をゲンソウ術という力を使い再現している。
ただし。それはゲンソウ術の主流であっても一端にすぎない。
想いを現す力。
それがかつてこの世界を救った勇者たちの編み出した、真のゲンソウ術である。
このあとも光輝はアギからゲンソウ術のことを探ってはみるが、一般人の彼の話を聞いたくらいで流石にそこまでは理解できなかった。
「驚いた。詳しいな、お前」
「だろ? 学校には行ってねぇが、これでも勉強したんだぜ」
アギは少し自慢気に胸を張る。
「《技術交流都市》にケイオスっていう頭のいいダチがいてな、そいつから教わったんだ。ゲンソウ術は物が無くても物を燃やしたり灯りを創ったりと色々便利だからな」
「なるほどな」
技術交流都市にケイオス。光輝は一応その名を覚えておく。
特に技術交流都市という街らしい地名のことは詳しく訊いておこうと思ったが、それは後回しにした。
「話を戻すか」
「あ?」
「銃の話だよ。銃の良いところを簡単に言えば、引き金を引くだけで弾が出る。それで離れた場所からでも簡単に人を殺せる。それだけだ」
「おい」
光輝があっさりと言うものだから不審げに鼻白むアギ。
「なに言ってんだよ」
「じゃあ、銃の悪いところはなんだ?」
「だからなんで」
「答えてみろよ。なにもわからないのか?」
「ああ?」
アギは挑発に乗った。
「ちっ。ケイオスみたいなこと言いやがって。……まずはあれだ。撃っても当たらない」
「10点。言っただろ。使いこなすのにある程度訓練しなければいけないって。動きながら撃つなんてまず当たらないと思え。他は?」
「その点数はなんだよ。あとは……壊れやすい」
「30点。精密機械だから強い衝撃で不具合を起こしやすい。火薬も使うからモノによっては火や水、あと電気にも弱い」
光輝はすらすらと答える。
「整備も手間がかかるな。怠れば命中精度は落ちるわ弾づまりで暴発するわで録なことにならん。あとで教えるから銃の分解掃除くらいできるようになれよ」
「掃除? めんどくせぇな」
「暴発しても知らないぞ。銃を壊して火傷するくらいならまだしも、下手すると失明したり指が吹き飛ぶ」
「……マジか?」
「マジだ。お前、蜥蜴を殴った時弾を撃ち切ったあとでよかったな。振り回した時に自分の腹とか撃ってもおかしくなかったから」
これには顔を青褪めるアギ。銃なんて使うもんじゃねぇ、と思わないこともない。
「ほら。次」
「あ、ああ……。あれだ。弾がないと使えない」
「そうだな。当然なんだがこれは重要だ。銃は無限に撃てるわけじゃない。予備があるとしても持ち運ぶのにかさばるから1度に持てる弾倉だって限られる。相手の弾切れを誘うのは戦術として正解だ。逆に自分の弾切れは絶對に悟られるな。最悪銃を突きつけるだけでハッタリになる」
少し喋り過ぎた。まるで優真を指導しているようだったな、と光輝は内心反省。
まあ、よしとする。
「……なるほどな」
「まだあるか? 他にもあるぞ。例えば」
光輝はアギに銃口を向ける。
「なっ! なんだいきなり」
「このままだとお前、どこを撃たれる?」
「頭だよ。やめろ」
アギが向けられた銃を腕で払い除けたを見て、光輝は笑みを浮かべた。
「そうだ。銃は銃口を向けた方向へ弾を撃ち出す。背後からとか不意打ちでなければ狙いがわかる。遠くからでも誰が狙われたくらいは」
達人レベルなら銃口の先を読んで射線を躱す事もできるというが、それはあまりアギには関係ない。
ちなみに光輝は条件付きで射線を見切ることができる。大和に至っては撃たれるよりも殴り飛ばす方が早かったりする。
「大きな音が鳴るのも良くない。撃てば1発で位置を特定される。まあ、これは銃の性能にも拠るがな」
「その2つは別に当たり前なんじゃねぇのか? 《火球》だって掌を向けた方へ撃ち出すし音だって出るぞ」
「じゃあ同じなんだよ」
知っていれば、気付くことができたなら銃だって対処できる。光輝はそう言った。
「銃なんて武器の1つ、ただの道具だ。扱うのが人間ならどこかに隙や癖がある。やりようがあるはずだ」
「そうか?」
「そうだよ。それに銃の威力だってたかが知れている。この小銃程度なら人は撃ち殺せても、分厚い金属を貫通させたり、巨大な岩を破壊するなんて無理だ。お前だって『それを知っていたからゲンソウ術で銃弾を防げたんだろ?』」
「……!」
驚いた。図星だったのだ。
アギの《幻想の盾》の基となるイメージ、つまり《幻想》は間違いなく岩をイメージしていた。
アギには岩陰に隠れて帝国兵の銃弾を凌いだ経験があって、それを《幻想の盾》に活かしている。彼の《幻想の盾》の強度といった性能は岩そのものだったといえる。
加えると、アギは《虎砲》が主砲で岩を粉砕したのを見たことがある。そのイメージが自身のゲンソウ術に《幻操》として上乗せされ、どうしても《幻想の盾》で主砲を防ぎきるとは信じられなかった。
自分のゲンソウ術を一発で見抜かれたアギは「た、確かに……」と驚きながらも、光輝の指摘を認めた。
それでアギはまた気付かない。光輝の『《幻想の盾》の性能が岩レベルということに気付いた』という異常さに。
気付かなくて当然でもある。何故ならアギは、光輝が『ゲンソウ術を知らない』という前提を知らないのだから。
光輝と話をして銃のことを知り、なんとなく感心するアギ。
ここで彼はふと、自分は今こいつと何をしてるんだ? と今更ながら疑問に思った。
「お前、なんでこんな話をしたんだよ」
「自分が使う武器くらいちゃんと知っておかないとな。実際に銃を使ったことも踏まえて知らなかったこと、というよりも気付いていなかった事が多かっただろ?」
「それがなんだよ」
「帝国兵が使っている銃もこれだ。簡単に話をしたが参考になるはずだ」
何の、とは光輝は言わなかった。代わりに別のことをアギに言う。
「俺はクリエイター、なにかを作ることが本職だ。自分が作ったものには責任を持つし、同時に正しく扱ってくれる使い手も俺は選ぶ」
「技術士のホンカイってやつか? ますますケイオスみてぇだな」
アギの茶々は無視。光輝は壊された銃をアギに見せるように前に突き出す。
「この銃は俺が手を加えてお前に渡したんだよ。だから無闇に壊すんじゃねぇ、と言いたいわけだ」
聞けば聞くほど不可解だった。
だから、アギは光輝に訊ねる。
「なんでお前、俺だけに銃を寄越した? 俺じゃすぐ壊して満足に使えねぇってわかっただろ?」
「それでも。お前だけだったんだよ」
光輝は答えた。間違いなくこれが彼の本心だった。
「アギ。お前だけがあの時、帝国兵に捕まった妹を助けようとして外に飛び出した。無謀にも挑みかかった馬鹿はお前1人だけだ」
「……馬鹿で悪かったな」
「褒めてるんだよ。半分くらいは」
もう半分は馬鹿にするように、それでいて僅かに親しみを持って光輝は笑う。
「戦士ってやつだな。お前はこの集落の中では唯1人、間違いなく守るために戦える人間だ。だから俺はお前の力になる武器を渡すことにした」
「戦士……?」
「守らなければならない時、戦うべき時に力がない。そういうの嫌だろ、お前」
「……」
断言されてしまった。だけど。アギは何も言い返せなかった。
力が欲しい。そう思ったことは今まで何度もあった。
『砂喰い狩り』に巻き込まれてリュッケの家族が殺された時。自分の家族が《帝国》の奴隷として帝国兵に連れ去られた時。勇敢だったダチが帝国兵に楯突いてあっけなく撃ち殺された時。いつだってアギは何もできなかった。
戦える人間だと光輝は言う。だけど、そんな褒め言葉をアギは鵜呑みにすることができない。
違う。リュッケを助けたこいつらとは。俺はそんな立派な人間じゃない。
だけど――
さっきまで玩具のように振り回していた銃。これが自分の欲した『力』だというのなら、アギはもう2度と同じように扱う気にはなれない。
何より。年もそうは変わらない光輝に偉そうに、見透かされたように言われるのがアギは気に入らなかった。
銃を見て神妙な顔をするアギに光輝は言った。
「深く考えなくていい。単なるおせっかい、と言いたいが、本当は暇つぶしのムダ話だ」
「暇つぶしだあ? ……なんだよ。それ」
「ほら。お前も飯ができるまで穴でも掘れ。地の底まで」
「……付き合ってられねぇ」
アギは訳のわからない光輝の誘いを無視すると、蜥蜴を妹に捌いてもらおうとその場をあとにした。
+++
食事の準備ができた。
今日の献立は蒸かした芋が半分と蜥蜴の肉入り豆スープ。明日以降はこのメニューから肉抜きとなる。
料理の味は素材そのもの。申し訳ない程度に塩が使われている。正直言って薄い。アギたちがやたらと塩を入れたくなるのがよくわかる。
スープを一口啜ると光輝は押し黙った。細かく切り刻まれた肉片はやけに固い上、蜥蜴の出汁とやらも薄すぎてよくわからい。
(……多分。蜥蜴の調理法が間違ってる。煮たら駄目だ。蒸すか揚げるかしないと)
(だいたいコレ、下茹でとかして肉の臭みを抜いてるのか?)
「……」
「マガヤンさん?」
思わず「料理ナメんな!」と近くにいるリュッケに向かって叫びそうになる光輝。
でもここは我慢して別のことを口にした。
「昨日に比べると随分と質素だな」
「うるせ。この前俺が買ってきた食いもんは、ほとんど山のようにして帝国兵の奴らに出しちまったんだよ」
そういう意味では昨日の彼等の食事は、帝国兵の残り物でごちそうだった。
アギは隣に座る光輝の小言を聞いて彼を睨みつける。他の砂漠の民に絡まれないところをみると、余所者である光輝たちの面倒はこの兄妹達に一任されているようだった。
「文句があるなら食うなよ」
「そんなことはない。……ロウの分は俺が貰う」
「あっ、てめぇ! それは俺んだ!」
「2人とも食事中に暴れるの禁止!」
大和が帰ってきていないことをいい事に2人で彼の食事を奪い合う。リュッケが仲裁に入っても止まらない。
そこへ丁度よく大和が帰ってきた。どこからでもごはんを嗅ぎつけ、飯時に必ず現れることこそ彼がはらぺこ狼たる由縁である。
大和はボロボロとは言わないが全身砂まみれだった。
「ロウさん!」
「ただいま。……何してるんだお前ら?」
「アギがお前のメシを食おうとしてたんだ」
「何言ってやがる!?」
しれっと嘘をつく光輝に驚くアギ。大和は流石に光輝の相棒を名乗っているらしく、彼の嘘を簡単に見抜いた。
「ったく。飯のことで喧嘩なんてするなよな。……これだけか」
取っ組み合いをする2人に呆れる大和。だけど、自分の食事を見た瞬間の彼のがっかり感は周囲にバレバレだったりする。
尻尾頭がしおしおになってる。リュッケは申し訳なく思って大和に謝った。
「ごめんなさい。ロウさん体大きいからこれだけじゃ足りないよね。よかったらわたしの分も……」
「気にしないでいいよ。これお土産」
大和がリュッケに渡したのはなにかの果実。楕円球の形をした小ぶりな実で赤と黄色の2種類が抱えるほどある。
「途中で立ち寄ったオアシスで採ってきたんだ。なんだろうな?」
「ナツメヤシの実と同じものだ」
知らずに採ってきたのかと、呆れながら答える光輝。
「普通に食べれる。実の成熟具合で食感と甘さが違う」
「だろうな。味見してそう思った。ほら。リュッケちゃんも遠慮せず食べて」
「で、でもこんなにたくさん」
「それなら他の子にも分けてあげてくれ。これは世話になってるお礼だ」
「あ。ありがとう……」
よしよし。といった感じで大和に頭を撫でられ頬を染めるリュッケ。光輝と比べるとまだ慣れていないようだ。彼が目を見張る美形でお姫様抱っこなんてされたりもしたから当然かも知れない。
それで気が気じゃないのはお兄ちゃんなわけで。
「おい。なんだその手は」
「俺達には土産はないのか?」
妹に手を出すんじゃねえと、険のある声を出すアギ。光輝は光輝で1人だけ外で何か食べてきただろう大和を睨んでいる。
「まさか肉食動物のお前が、果物採って終わりだなんてないよな?」
「ああ。それなんだが、お前の『目』で見てもらいたいものがあるんだ。集落の外に置いてきてある」
「俺の?」
「戦利品なんだ。でも俺じゃどう食べたらいいかわからない」
毒があったら怖いと大和。
「毒? なんだよそれは?」
「肉だ」
「……だからなんのだよ。蜥蜴なら間に合ってるぞ」
「あ? どういう意味だコラ」
「アギ兄! 喧嘩は駄目」
「蜥蜴がどうしたんだ?」
大和はよくわかっていない。
「なあ、とりあえず見てくれよ。それで食えるようにしてくれ」
「……はぁ。わかったよ」
了解する光輝。彼も食事が物足りなかったので大和の調達した『食材』に興味はある。
「…………大体食中毒なんて気にするクチかよ。生で食え」
「聞こえてるぞ」
たかが肉を調べるのに『目』を使う必要なんてないはず。
光輝は大和の頼みなんて話半分にを聞いていたのだが。
+++
次回「ロウの『お肉』」
光輝、『王蜥蜴』を調理する。