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幻創の楽園 外伝シリーズ  作者: 士宇一
第3章外伝 sideA
2/13

3A-00b ミコトという名の《魔女》

ここまでが序幕。再成世界に関して情報不足な為、不明な点が多いのは流してください。

 

光輝達の、『非日常』の一端。

 

 +++

 

 

 夏休み初日。光輝は大和を連れてミコトが在籍する《日耀大学》へと足を運んだ。この大学は月陽高校と同じく《七曜グループ》という学校法人及びその教育連盟の傘下にある。

  

 簡単に説明すると、七曜グループとは古代の新人類(天使)と異世界人(悪魔)の存在する再成世界において『共存』を理念に掲げる、世界各国のどこよりも早く『異邦人』の受け入れ体制を整えた先進的な組織である。光輝が訪ねに行くミコトという人物はこの七曜グループにおいて重要な立場にいる。


 彼女は考古学を専攻する教授である。助手と共に世界中の遺跡を巡っては『再成する以前の世界』のことを調べている。七曜グループが組織した人材派遣会社の警備課、《ガード》のオブザーバー兼メインスポンサーでもあるが、その豊富な知識はともかく一教授が何をして稼いでいるのか不明。

 

 また。彼女はある事件を境にガーディアン《ナイト・ファミリア》の初代リーダーである桜井十六夜さくらい・いざよいと専属契約を交わしてもいる。その関係で彼女は、当チームの2代目リーダーである光輝に仕事を手伝わせ、こき使っている。当人たちも浅からぬ縁である。

 

 まあ。それはさておき。

 

 

「待ってたよ、お2人さん」

「「……」」

 

 彼女の研究室で光輝達を待っていたのは、ベリーショートの黒髪にスラックスの女性用スーツという出で立ちのミコト。年齢不詳の彼女は一見すれば光輝たちとそう変わらない少女に見える。

 

 これでも20年近く大学に務めていたりするのだ。その若々しさから皆に《魔女》と呼ばれているとか。あながち間違いでもない。

 

 いくつもの顔を持つ謎だらけの女。まずは聞きたい。

 

 何故ここにいる?

 

 

「詳しい話を聞こうじゃないか。ええ? そこの略奪系考古学者さんよぉ」

 

 

 光輝は凄んでミコトに詰め寄り大和に止められた。ミコトは「あはは」と、ごまかし笑い。

 

 昨日「捕まった」の「助けて」などとメールしたはず彼女が今日になって平然と彼等を呼び寄せたのだ。このパターンで光輝はよく厄介ごとを引き受ける羽目になる。

 

「落ち着けよ、コウ」

「離せ。メールができる時点で怪しかったんだ。騙したならタダではすまさん」

「どーどー。落ち着いて。捕まってるのは本当なんだ。今も現在進行中」

「あ?」

「ほら。『もう1人の私』だよ」

「あっちかよ」

 

 ミコトの言い分に光輝は一応納得してみせた。ほんとうの意味で彼女の正体を知らない大和だけはよくわかっていない。

 

「どういうことだ」

「あ。大和くんは知らないか。私って実は2人いるの」

「……。双子なのか?」

 

 光輝はいちいち説明するのが面倒で「魔女だからだ」と1言で片付けた。

 

 話を続ける。

 

「それで。あっちの、ミコト=ソルディアナがどうしたって」

「うん。実は私のほうが大学でちょっと忙しくて、君に頼まれてた鉱石の採掘はあの子に任せてたんだ。だけど昨日ちょっとトラブルがあったみたいで」

「捕まったと」

「一応無事みたい。ただ厄介ごとに巻き込まれて救援が欲しいって言うものだから。助けに行きたいんだけどほら、私ってあの子がいないと普通のか弱い女の子だから」

「か弱い? ベテランの遺跡荒らしが何言ってる」

 

 フン、と鼻を鳴らす光輝。

 

「大体いくつだよ。魔女のくせに。おばさんかばばあの間違いだろ」

 

 と言った直後。分厚い本が頭に直撃。光輝はぶっ倒れた。

 

 本を投げたミコトは顔を真っ赤にして精一杯主張する。

 

「おねえさん! 体感年齢なら24だよ!」

「どの道適齢期ギリの年増……ぐっ!?」

 

 2冊目。的確に本の角ぶつける絶妙なスローイング。

 

「あー!」

「ミコトさん、暴れないでくれ。コウもつまらないことで突っかかるなよ」

「……つまらないだぁ?」

 

 女性に年齢のことを突っ込むのは厳禁。構えられた辞書の矛先が大和に向く。

 

 しかし大和はその整った顔を彼女に向けて、

 

「年なんて些細なことだろ? ミコトさんが若くて綺麗なのは本当なんだ」

「……あー、うん」

 

 真面目な顔でみつめ、そんなこと言うものだからミコトは照れた。美形は何を言ってもキマるという1例。

 

 大和のストレートは特に威力がある。光輝はこれを見てつくづく思った。

 

「……天然め」

「あははっ。いやだなぁ大和くんは。私には来世を誓った旦那様がいるのに」

「言ってろよ」

「駄眼鏡はうるさい。大和くんはお菓子でも食べる?」

「いただきます」

 

 上機嫌なミコトから高級そうなお菓子の缶箱を貰い、大和はこの上なく嬉しそうな顔をした。尻尾頭が歓喜に揺れている。

 

「……クッキーか」

「この野郎。それは俺が貰ったんだ」

 

 早速缶の蓋を開けた途端、お菓子を1つ奪われて大和が睨む。光輝はこれを無視してクッキーをかじった。

 

「その1枚。覚えてろよ」

「いちいち細かい。……ともかく。俺達を呼び寄せたのはもう1人のあんたの救出に行ってくれという話なんだな。《魔女の依頼》というわけだ」

 

 改めて訊ねるとミコトは頷いた。

 

「ちょっと厄介な場所にいるんだ。私のことを知る君にしか頼むことできないようなとこ」

「助手はどうした?」

「優人くん?」

 

 御剣家の父のことである。嫌な話ミコトの下僕としては光輝の先輩にあたる。

 

「1月前に2人で《東の遺跡》をぶっ壊しに行ったっきりだね。罠にかかって100人くらい囲まれた時、囮にして置いてったんだけど」

「鬼か」

 

 あれは大冒険だったとヘラヘラするミコト。

 

 お茶目で済まされないことを平然とやるこの女。この辺りは事あるごとに大和をけしかける光輝と同類だった。

 

「家族は心配してたぞ」

「大丈夫。タマちゃんには『出張』ってちゃんと話してるし、優人くんだってお嫁さんと2人の子供を置いて簡単に死にはしないよ」

「家に返してやれ。娘の誕生日に間に合わなかったら、あの人に一生恨まれるぞ」

「それって優花ちゃん? ……そっか。じゃあ迎えに行かないと」

「じゃあ、って」

 

 放置せずにすぐ助けに行けよと、呆れる光輝。大和はクッキーに夢中で話を聞いていない。

 

「まあ、優人くんを捜すにしてもあの子がいないと捜しようがないんだけど」

「なんだって」

「というわけでふくろうくん。私の救出作戦、お願いしてもいいかな? 君が頼んだ素材もあの子が持ったままだろうし」

「厄介だよ。あんた」

 

 諦めて溜息を吐くしかなかった。

 

 もう1人のミコトの救出。それが光輝がプレゼント作成するために必要な素材入手と、ついでに行方不明の御剣父を捜索するための必須条件ということらしい。

 

「タダとは言わないよ。元々あの子の不手際のせいだし。お詫びというか迷惑料に君が頼んでいた『アンチマナダイト』にプラスして、使えそうなオーパーツもいくつか譲るからさ」

「当然だろ。大和、お前もこの高給取りに何か強請ねだっとけ」

「大学の学食。フルコースで」

 

 とは缶箱を空にした大和の要求。

 

 ここで言うフルコースとは、大学内の全店全品という意味である。

 

「安いな。あとどんだけ飢えてんだよ。……それでどこへ行けばいい? まさか天界や魔界とか言うんじゃないだろうな」

 

 化物退治や怪しい組織潰しでなければ、ミコトのお願いなど大方どこかの遺跡ダンジョンの攻略だろう。

 

 だけど外国ならまだしも、現在の世界の果てである月や地底にまで行きたくない。

 

 希望は国内で日帰りと光輝は言うのだが。

 

 

「ううん。異世界」

 

 そうはいかない話らしい。

 

 +++

 

 

 光輝達のいる『作り直された世界』とは別の世界。その存在を光輝は知識として『見た』ことはあるが『行く』となると初めてのことであった。2人はこれから貴重な体験をすることになる。

 

 千年で著しい発展を遂げた再成世界においても、世界移動の技術はまだ確立されていない。悪魔と呼ぶ異世界人の先祖にしても、片道通行の大魔術を以ってこちらにやってきたという。2世界間を行き来することなんてこの先数百年は不可能と言われていた。

 

 《精霊紀》の時代を生きた、《魔女》である彼女を除いて。

 

 

「トランプにゲーム機。予備のバッテリー」

 

 光輝と大和は揃いのショルダーバックの中身を漁っている。

 

「砂糖塩、醤油と味噌。カレー粉に……コウ。マヨネーズ知らないか?」

「どこに行く気だよ。タバスコは持ってるぞ。あとはスコップとロープに睡眠薬。……ガソリンはどうするか。大和のサラダ油で代用してもいいが火力が」

「ふくろうくん。君も大概だよ」

 

 修学旅行なのか完全犯罪なのか。

 

 ミコトに言われ事前に用意していた装備の最終点検。異世界に旅立つにあたって不測の事態に備えるが何か違う。

 

 もちろん戦闘の備えはしている。愛用の武器もあるし重ね着のシャツにジーンズ、タンクトップにフェイクレザーのパンツと一見普通の服装の下にも2人は防刃用のインナーを着込み、魔術防御用の護符を裏に貼り付けている。

 

 

「簡単に説明したけど向こうの世界のこと、わかったかな?」

「ファンタジー要素が強い割にマナが枯渇して魔法が主流でない。代わりにゲンソウ術とかいう創想の超能力が発展した」

 

 光輝はミコトの再生世界についての話を要約してみる。

 

「技術体系、レベルはともかく文化は地方、国ごとに偏りがあって平均して俺達よりやや下、そうは変わらない。言葉はこっちの3族共通語が通じる。といったところか」

「そう。魔獣には気をつけてね。肉弾戦がメインの大和くんは問題ないけど、魔力のない向こうじゃ君は色々と制限があると思うから」

「魔法が全く使えないわけじゃないんだろ? ガンプレートがあれば十分だ」

 

 むしろ魔力が『見えない』方が気分がいいと光輝。ミコトそれを聞いて少しだけ陰りを見せた。

 

「……戦闘は程々にね。作戦と言うのもなんだけど、状況がよくわからないんだ。私があの子のいる付近に2人を送り込むから現地で情報収集。助けたら即離脱を心がけて。あんまり派手なことしないように」

「了解」

「了解」

 

 《ナイト・ファミリア》のオーナーとしての彼女に返事を返す光輝と大和。

 

 《梟》と《狼》。依頼の内容はどうあれ、2人が《魔女》の使い魔として依頼を受けたのは久しぶりのことだった。

 

 

「それでミコトさん。世界ってどうやって越えるんだ?」

「そうだな。世界移動はあんたともう1人のミコトしかできなかったはずだが」

「そうなのか?」

 

 光輝の言葉に首を傾げる大和。異能、魔術、超技術といったジャンルは彼の専門外である。

 

「任せて。確かに世界移動は私しかできないけど、この前《EWG》システムを改造して人を飛ばせるようにしてみたんだ」

 

 自信を持って答えるミコト。

 

 改造? 飛ぶ? 光輝はそれで嫌な予感にとらわれる。

 

「EWG? コウも持ってるゲームのあれか」

「大和くんの言うそれとは別の機能だね。《EWG》システムはいくつかの機能があるんだけど、これは《Exchange World Gate》 っていうやつ。私がもう1人の私と世界を越えて『交換』することができる、擬似テレポート装置のことだよ」

 

 ミコトはこのシステムを使うことで時間、距離、次元のどれがどんなに離れてていようが、もう1人の自分と意見を交わし合ったり物の交換、あるいは『身体の入れ替え』ができるという。

 

「向こうのミコトとあんたが入れ替われるのか。だったらそれを使えば救出に行かなくてもいいじゃないか」

「だから。それだと今度はあの子がこっちに来て私が捕まっちゃうでしょ。あの子の安全を確保してほしいから頼んでるのに」

「わかってる。そのシステムをどう改造したんだ?」

 

 光輝はクリエイターとして、もう1人のミコトの安全よりはそちらが気になるらしい。ミコトは答える。

 

「汎用性を高めてみたんだ。《EWG》を使った私とあの子との『やりとり』を『道』にして、人を行き来できるように」

「それは……あんたたち自身を世界間を繋ぐ《門》に見立てるというのか?」

「そうそう。差詰めエクスチェンジじゃなくてエクスポートになるのかな。私達は世界を跨いで物が交換できるから人でもできるかも、って考えたわけなんだけど」

「俺達は実験動物じゃないだろうな」

 

 ジト目で睨む光輝。ミコトはまさかと手を横に振る。

 

「いいや。もう実験済み」

 

 優人くんで。と彼女が言えば、光輝は御剣家の大黒柱に少しだけ同情した。

 

 今度会ったときは優しくしようと思う。会えることができれば。

 

「『喚び寄せる』でも『送り出す』でもない、『交換』。この方法だと《世界》の課す『ルール』をすり抜けられるんだ。問題は術者である私達自身が移動できないことなんだけど、これを応用して媒体で代用できるようになれば、2世界への介入が容易になる」

「《世界》を騙すなんて、何の悪巧みをしてるか知らないが、完成の暁に俺達への依頼は異世界に進出、余計こき使われるようになるわけだ」

 

 その指摘をミコトは笑って誤魔化した。

 

 なにかあれば《世界》に喧嘩を売りかねない彼女の協力者は少ない。光輝は重宝されていた。

 

「コウ。つまりどういうことなんだ?」

「理屈を抜きにすると、『こっちのミコト』から『向こうのミコト』の所へ行ける1方通行のワープだ。帰るときに向こうのミコトの力を借りることができなければ、異世界に取り残される。……危険だと思うか?」

「いいや。もう1人いるというミコトさんを助ければ問題ないんだろ。ならいい」

 

 単純ながら頼もしく答える相棒。光輝は一息吐いてミコトに向き直った。

 

「というわけだ。こっちはいつでもいい。はじめてくれ」

「いつもありがとね。……いくよ、システム起動」

 

 ミコトが部屋の壁に触れると、《門》の形成の為に壁面の空間が歪みだした。

 

 

 あらゆる技術を持ち込むことで文字通り「《世界》を超える」ことに成功した彼女の魔術。

 

 この先、彼女は《魔女》として、この魔術を武器に《世界》に挑みはじめる。

 

 これが人を介して2つの世界を繋ぎ、人と人を繋いで新たな可能性を生み出す奇跡。

 

 出会いの魔法。

 

 

「ミコト=ソルディアナ間のリンク開始。……コンタクト成功。シンクロッ……!」

 

 部屋の中で風が発生。渦巻く突風の先、壁面の歪みが広がって中から姿見のように大きな鏡が生まれた。

 

 壁の前に立つ光輝と大和。鏡には2人の姿が写って見える。

 

「これは……!」

「《鏡界》だよ。互いの世界を映し合う境目。鏡の先を覗いて。見える? 向こうにいる私が」

「まだだ」

 

 彼女の姿は見えない。《鏡界》を覗いた先は砂漠だった。

 

 視点は高いところにあるようだ。砂漠の中心に大きな国があって、宮殿のような城が見える。

 

「……駄目。今あの子の意識がない。これじゃ情報の精度がイマイチ……ううっ」

「大丈夫なのか?」

 

 《門》の制御に苦しむミコト。脂汗が滲み、少し長めの前髪が額に張り付く。

 

「だ、大丈夫。ちょっとムズムズするだけ。元々2人で使う魔術だから1人だと負荷が大きいんだ。……あのお城のどこかにいるのは確かなんだけど」

「十分だ。近くに行けるようにしてくれればいい。大和」

「おう」

「ごめん。像の座標ピントを合わせるから飛び込むタイミングを合わせて。……カウント5」

 

 鏡の中の視点が部屋の風に合わせてぐるぐると回り、上下に揺れる。

 

 異世界突入まであと4秒。2人は覚悟を決めた。

 

「3……2……1……ふぇ」

 

 次の瞬間。鏡の中がはっきりと映し出される。

 

「行くぞ」

「っ!」

 

 2人が床を蹴ったその直後。

 

 風に揺れるミコトの前髪。

 

 

「ふぁ……はくちゅ!」

「「――!?」」

 

 

 可愛らしいくしゃみと同時に鏡の中が再び大きく歪んだ。《鏡界》の向こうで光輝は驚愕し、振り返る。

 

 もう遅い。

 

「テメェ! なんてベ……」

 

 タなことしやがるぅぅぅぅぅぅーーっ!!?

 

 …………。

 

 ……。

 

 

 

 

 こうして。

 

 光輝と大和はそのまま壁の中に消えてしまった。

 

 

 

 

「……やっちゃった」

 

 彼なら大丈夫か。ティシュどこかなーと、散らかった部屋の中で鼻を啜るミコト。

 

 +++

 

 

 そして現在。

 

 どこかの砂漠。小高い砂丘の上立つ大和と、その隣で途方に暮れて寝そべる光輝。

 

 

「死んでやる。ここで焼け死んであの鼻タレ魔女にとり憑いてやる!」

「コウ。馬鹿な事言ってないで起きてくれ。……着いたのか?」

「ああ憑いた。それに憑かれた」

 

 わかりにくいボケをかましながら、光輝は立ち上がった。

 

「『脱線した』とわかったからこっちで『目測して』強引に『道』を引き戻した。ズレが生じたのは位置だけのはずだ。……くそっ。発動した魔術の軌道修正なんて真似、俺じゃなかったら誰ができるんだよ!」

「自慢か?」

「ああそうだよ。俺がいなきゃお前は時空と次元を越えて古代人が未来人、果ては2次元の仲間入りだ」

「ありがとう。助かった」

 

 荒れた時はとりあえず感謝しておけばいい。長年の経験から淡白な対応をする大和だった。

 

 

「砂漠か。でも実感ないな。ここが異世界なんだろ?」

 

 大和は周囲を見渡して言った。

 

 別に砂漠なんて自分達の世界にもあるのだ。太陽も1つ。そう考えると大して珍しくもない。

 

「再生世界というらしい。名前といい俺達の世界と基盤が同じなんだろう。……そうだな」

「? おい」

 

 光輝はおもむろに眼鏡を外したあと、次に『コンタクトレンズ』を外した。大和は驚く。

 

 それで光輝は久しぶりに裸眼で世界を見渡した。

 

 空の色。砂原のかたち。風で巻き上がる砂埃も。光輝にそれ以上のモノを何も見せない。

 

「大丈夫なのか?」

「見えないな。普通だ。すごく……気分がいい」

 

 心なしか光輝の表情が緩んでるのが大和にはわかる。

 

 魔力のない世界。それは光輝に『何も見させない』。

 

 良い世界なのかもしれない。これだけのことで大和はそう思った。

 

「そうか。……よかったな」

「ああ」

 

 光輝はコンタクトだけを外して、眼鏡をかけ直した。

 

「いらないんだろ?」

「全くないわけじゃないんだ。余計なモノは見たくない。……行くぞ」

「ああ。こっちのミコトさんを助けにだな」

「違う。俺達をこんな目に合わせた、あの女を締め上げにだ」

「コウ……」

 

 いくら世界が変わっても、どうしてその歪んだ性格は直らないのだろう。大和は考える。

 

 やはりその陰険眼鏡が原因なのか。

 

「こっちのミコトさんは関係無いだろ」

「違うな。そもそもここへ来る羽目になったのはあの女がヘマしたからだ。こっちを締め上げたあと、向こうは吊るす」

「言ってろよ。……コウ」

「なんだよ」

「お客さんだ」

 

 次の瞬間。周囲の砂地に潜り潜んでいた魔獣の群れが姿を現した。その数は20といったところ。

 

「鮫と亀と蜂と、あと硬そうな草食恐竜みたいなの。他にもたくさんだ」

「1歩も動いてないのにエンカウントかよ。手荒い歓迎だな。……大和!」

「おう!」

 

 準備運動だ。いや、憂さ晴らしだ! 活き活きとして戦闘態勢を取る2人。

 

 しかし。彼等を待ち受けていたのは魔獣の群れだけではなかった。

 

「ーーーーァアアッ!!」

「な!?」

「山が!」

 

 声にならない雄叫びがあがって、砂山が大きく盛り上がる。

 

 姿を現したのは、山のように大きな蜥蜴の化物。

 

 『王蜥蜴』。世界最難関の遺跡の1つ《西の大砂漠》のヌシと言われている超大型魔獣だ。

 

 縄張りにいきなり現れた侵入者に、この魔獣の王は気が立っている。

 

 

 そう。光輝たちが《転移》した先は、不幸にも《西の大砂漠》の中だった。

 

 

「でけぇ。……いいな。これでこそ異世界」

「はしゃぐなよ。来るぞ!」

 

 

 いきなりラスボス戦開始。

 

 +++

 

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