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明らかに弱味を握られた圭人は、彰太の言う通りにせざるを得なかった。
やはり彰太はガキ大将だ。
家に着いて、台所の母親に話しかけた。
「お母さん、俺、友達ん家に泊まってくる」
「友達ん家? カッちゃんのとこ?」
カッちゃんは圭人の友達の一人だ。
家も近所である。
「ううん、リトルのメンバーの家」
母親は料理をする手が止まった。
「誰?」
「彰太。多分、お母さんは分かんないよ」
「家はどの辺なの?」
一瞬返答に詰まる。
分からない、と言えばこの交渉は即失敗に終わるだろう。
「あの、学校の向こう側の辺り」
適当な嘘を付く。
だがそこは同一の学区内、母親が知らない児童がいるはずがない。
「あの辺に彰太くんなんて子はいないでしょう」
「う……。ねえ、行っちゃだめ? 何も変なところに行くわけじゃないんだから」
圭人は涙目で訴える。
ばらされたらたまらない。
「そんなに仲が良い子なの?」
母親は味噌汁の味見をする。
「ちゃんと帰ってこれるの?」
「うん」
実質的に許可が下り、圭人の顔は明るくなる。
そして、できるだけ急いでグラウンドまで自転車を飛ばした。