2-1
ある練習での事である。
「あれー?」
圭人はバッグの中をまさぐっていた。
その日は大会が近付いているので、午前と午後に跨がって練習が行われる日だった。
ところが、バッグの中に弁当箱は入ってない。
おまけに水筒まで。
三時間もキャッチャーの装備で練習していたから、空腹と耐え難い餓えが圭人を襲う。
圭人はもう一度確かめる。
しかし、やはり無い。
家に戻るにしても、往復していたら弁当を食べる時間は無い。
「どうしたの?」
うちひしがれる圭人の隣に彰太が座った。
「弁当忘れた」
「飲み物もねーの?」
「うん」
へえと呟いて、彰太は水筒に口を付けた。
「これやる。あと飲んでいいよ」
彰太はその水筒を差し出した。
「い、いいよ、俺は水で」
「遠慮すんなよ。そうだ、弁当もやるよ」
弁当箱の中に、ご飯もおかずもまだ半分は残っている。
「本当にいいの? 彰太、腹減るよ?」
「いいんだよ、ちょっと多かったし」
彰太は立ち上がった。
「その代わり、ちょっとだけ、その、後で俺の言うこと聞いてよ」
圭人の方を振り向かずにそう言った。
「言うこと?」
圭人は水筒の内容物を飲んだ。
スポーツドリンクより、心なしか甘い。
「まあ、後で」
彰太はどこかへ歩いていってしまった。