1-2
練習はまず準備体操から始まり、次にキャッチボールをする。
圭人のキャッチボールの相手はいつも決まっていた。
「彰太、投げるよー」
圭人は両手を挙げる。
「おう」
間隔を空けて立つ少年が応答した。
圭人の手を離れたボールは、緩やかな弧を描いて彰太のグラブに届いた。
「行くぞー」
と言い、今度は彰太が投げる。
割りと直線的な軌道だ。
このように何度もキャッチボールを繰り返した後、守備練習に移った。
ここで、圭人は一人バックネット裏に向かった。
出来るだけ練習に使える場所を広く確保したいので、荷物はすべてそこに置くことになっている。
ただしみんなが雑に置くので、いつも荷物はごった返している。
その中の一つから圭人は黒いバッグを引っ張り出した。
チャックを開けると、きちんとキャッチャーの防具が入れられている。
そこに、彰太がやってきた。
「早く早く」
彰太は投げたくてうずうずしている。
「ちょっと待ってて」
圭人はプロテクターを広げ、着けた。
「手伝ってやるよ」
そう言うと、彰太はレガースを持って圭人の後ろに回った。
そしてしゃがんで、圭人の左足の脛にあてがい、後ろで留めた。
「あ、ありがとう」
「いいんだよ」
彰太は同様に右足にも着けた。
その間に圭人はファウルカップ、股間を保護する防具を装着し終えた。
「ほら」
彰太はキャッチャーマスクとヘルメットを差し出した。
受け取りながら、圭人はやはり妙だと感じていた。