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新霊体験隊  作者: waku


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桜山の碑の結界

 隼人は桜山にある碑の結界を張る為、瑞希と共に共同で向き合っていた。

***結界の形成***


「まずは結界石を正確に設置しましょう」瑞希が冷静に指示を出す。


美優、夕子、隆、秀が石碑の四方に散らばり、慎重に結界石を配置していく。

夕暮れの薄明かりの中、メジャーで距離を測りながら、正確に5メートル間隔を保って四角形を描くように設置した。


「北東の角、少しずれてるわ」瑞希が美優に声をかける。


「あ、すみません」美優が慌てて石の位置を調整する。わずか数センチメートルのずれだったが、結界には正確性が求められる。


隆がカメラを回しながら不安そうに呟く。

「本当にこれで霊を封じ込められるんでしょうか?」


「大丈夫よ。でも全員の心を一つにすることが大切」瑞希が答える。「一人でも気持ちが散漫になったら、結界は破られてしまうの」


石が設置されると同時に、目に見えない透明な壁のようなものが石碑を取り囲んだ。

空気がわずかに震え、黒い影の動きが鈍くなったように見えた。


「感じる…何かに囲まれてる」夕子が小声で報告する。


「それが結界よ。今度は塩を撒いて」瑞希が夕子に指示する。


夕子は震える手で塩の袋を開け、結界の内側に白い線を引くように撒いていく。

塩が地面に触れるたび、「ジジッ」という小さな音が響き、同時に石碑の表面の黒い影が激しく蠢き始めた。


――やめろ…近づくな…


再び低い声が響く。今度は明らかに苦痛を帯びていた。


「順調ね。霊が反応してる」瑞希が頷く。「でも油断は禁物よ」


***最初のアクシデント***


その時、突然強い風が吹き抜けた。


「きゃあ!」美優の悲鳴が響く。


風に煽られて、北西の角に置かれた結界石が転がり始めたのだ。


「結界が!」隼人が慌てて走り寄る。


石が元の位置から1メートル以上離れた瞬間、石碑から黒い霧のようなものが噴き出した。


――自由だ…ついに自由だ…


声が歓喜に満ちている。


「まずい!」瑞希の表情が一変した。「皆、すぐに護符を握って!そして私の側に集まって!」


メンバーたちは瑞希から渡された護符を握りしめ、彼女の周りに身を寄せた。


瑞希が懐から別の霊符を取り出し、「臨兵闘者皆陣列在前!」と呪文を唱える。


途端に、彼らの周囲に薄い光の膜が現れた。


黒い霧は光の膜に阻まれ、それ以上近づくことができずにいる。


「今のうちに結界石を戻すのよ!」瑞希が叫ぶ。


隼人が転がった石に向かって走る。だが、石に手を伸ばした瞬間、激しい寒気が彼を襲った。


「うっ…」隼人の息が白くなる。


「隼人!無理しちゃダメ!」美優が心配そうに叫ぶ。


それでも隼人は歯を食いしばって石を掴み、元の位置に戻した。


瞬間、黒い霧が石碑の周囲に引き戻されていく。


「ふう…何とか持ちこたえたわ」瑞希がほっと息をつく。


「すみません、僕が風を読み間違えて…」隼人が謝る。


「いえ、こういうことはよくあるの。霊が結界を破ろうと抵抗するのは自然なことよ」


***瑞希の術***


結界が再び安定すると、瑞希は本格的な浄化の準備を始めた。


懐から取り出したのは、古い和紙に朱色の墨で書かれた複雑な呪文だった。文字は漢字と梵字が混在し、素人には読むことすらできない。


「これは祖母から受け継いだ浄化の呪文よ。数百年前から伝わる秘伝なの」


瑞希は石碑の前、結界の中心に正座し、静かに目を閉じる。


「皆も私の後ろに正座して。これから長い戦いになるから、心の準備をして」


隼人たち5人も瑞希の後ろに座り、彼女の動きを見守った。


瑞希が呪文を読み上げ始める。最初は日本語だった。


「この地に眠る魂よ、汝の苦しみを我は知る。長い間の痛み、怒り、悲しみ…全てを我に託しなさい」


すると石碑の表面を蠢いていた黒い影が、まるで瑞希の声に反応するように激しく動き始めた。


――何者だ…なぜ我の苦しみが分かる…


今度は困惑を含んだ声だった。


「私は霊能者の瑞希。汝を救うために来た」瑞希が答える。


――嘘だ…誰も我を救おうとはしなかった…皆、我を恐れ、忌み嫌った…


「確かにそうだったでしょう。でも今は違う。この子たちも、汝を理解しようとしている」


瑞希が振り返ると、隼人たちに視線を向けた。


「皆、この霊に語りかけて。恐れずに、心を込めて」


隼人が最初に口を開いた。

「僕たちは…あなたを怖がってるわけじゃありません。ただ、どうして苦しんでいるのか知りたいんです」


美優も続く。

「もし私たちにできることがあるなら、手伝いたいです」


――本当に…か?


声に、わずかながら希望の響きが混じった。


***霊の告白***


瑞希が再び呪文を唱えると、石碑の周囲に淡い光が現れた。その光の中で、ぼんやりと人影が浮かび上がる。


それは着物を着た若い女性の姿だった。顔は悲しみに歪み、長い髪が風になびいている。


――我は…かつてこの地に住んでいた娘…


霊が語り始めた。


――江戸の末期、この村で疫病が流行った時…我は薬草の知識があったゆえ、村人を助けようとした…


「薬草の…」夕子が息をのむ。


――だが、我が作った薬で症状が悪化した者がいた…それは我の責任ではなく、疫病そのものが原因だったのだが…


霊の声が震える。


――村人たちは我を疫病神と呼び、石を投げ、この山に追いやった…我は寒さと飢えで死んだ…


「それで、ここに…」隆が小さく呟く。


――死んでからも村人の恨みの声が聞こえ続けた…我は自分を責め、恨み、そして恐れた…もう誰も信じることができなくなった…


瑞希が静かに頷く。

「だから石碑に縛られ続けたのね。自分を責める気持ちが、成仏を妨げていた」


――そうだ…我は悪い存在なのだ…だから皆が我を恐れる…


「違います!」美優が立ち上がって叫んだ。「あなたは悪くない!村人を助けようとしただけじゃないですか!」


――しかし…結果的に…


「結果なんて関係ない!」秀も声を上げる。「人を助けようとした気持ちに偽りはないでしょう?」


霊の姿が揺らめく。


――本当に…そう思うのか?


「はい」隼人が力強く答える。「あなたは立派な人です」


***二度目のアクシデント***


その時、突然地面が激しく揺れた。


「地震!?」隆が慌てる。


だが、揺れているのは石碑の周囲だけだった。他の場所は静まり返っている。


――信じたい…だが、もし再び裏切られたら…


霊の感情が激しく動揺し、それが物理現象として現れたのだ。


結界石の一つにヒビが入り、薄い光の膜が揺らぎ始める。


「結界が不安定になってる!」瑞希が警告する。「このままだと霊の感情に飲み込まれてしまう!」


石碑の周囲の空気が渦巻き、木々の枝がバキバキと折れる音が響く。


「どうすれば!」夕子が叫ぶ。


「皆で手をつないで!心を一つにするのよ!」瑞希が指示する。


隼人、美優、夕子、隆、秀が手を取り合い、瑞希を中心に円を作る。


その瞬間、全員の心に同じ思いが浮かんだ。


――この霊を救いたい。


「南無阿弥陀仏…」瑞希が念仏を唱え始める。


「南無阿弥陀仏…」メンバーたちも続く。


最初は小さく震えていた彼らの声も、次第に力強く、そして温かみを帯びていく。


すると不思議なことに、地面の揺れが収まり、空気の渦も静まった。


霊の姿もまた、次第に穏やかな表情になっていく。


***共感の力***


念仏が響く中、隼人たちの心に霊の記憶が流れ込んできた。


薬草を煎じる若い女性。


熱に浮かされた子供の額に冷たい布を当てる姿。


必死に看病する日々。


そして、村人たちの冷たい視線。


石を投げつけられ、山に逃げる場面。


寒さに震えながら、最後まで「村の皆が無事でありますように」と祈っていた姿。


「見えた…あなたの記憶が…」美優が涙を流しながら言う。


「最後まで村人のことを心配してたんですね」夕子も涙ぐんでいる。


――君たちに…我の心が…


霊も驚いている。


「あなたの気持ちが伝わってきました」隼人が答える。「とても優しくて、強い人だったんですね」


――我は…本当に人の役に立ちたかっただけなのだ…


霊の声から怒りが消え、深い悲しみと、そしてかすかな希望が感じられた。


瑞希が立ち上がり、石碑に向かって歩く。


「もう苦しまなくていいのよ。あなたは十分に尽くした。今度は安らかに眠る時」


霊符に火をつけると、薄紫色の煙が立ち上った。


「皆、一緒に彼女を送りましょう」


***全員での浄化***


瑞希の指導の下、新霊体験隊のメンバー全員が石碑を囲んで座り直す。


今度はより深い集中で、心を込めて念仏を唱えた。


「南無阿弥陀仏…」


「南無阿弥陀仏…」


隼人、美優、夕子、隆、秀の声が重なり、やがて美しいハーモニーとなって夜の森に響く。


石碑の黒い影が、徐々に薄らいでいく。


代わりに、温かい光が石碑の表面に現れた。


霊の姿も、苦痛に歪んでいた表情が安らかなものに変わっていく。


――苦しい…長い間、とても苦しかった…


「もう大丈夫」瑞希が母親のように優しく語りかける。「あなたは間違っていなかった。村人を救おうとしたあなたの心は、とても美しい」


――本当に…許されるのか?


「許すも何も、あなたは何も悪いことをしていない」美優が涙声で答える。


――ありがとう…初めて…理解してくれる人に出会えた…


霊の周囲に、柔らかな光の粒子が舞い始める。


「もう一度、村の人たちに会えるかもしれませんね」夕子が微笑む。「きっと、あちらの世界で待っていますよ」


――そうかもしれぬ…我も…会いたい…


光の粒子がより輝きを増し、霊の姿を包み込んでいく。


***最後の試練***


しかし、浄化の最終段階で予期せぬことが起こった。


突然、石碑の表面にもう一つの影が現れたのだ。


――待て…まだ行くな…


新たな声が響く。今度は男性の声だった。


「何!?」瑞希が驚く。


――我もこの地に縛られている…独りにしないでくれ…


「複数の霊が…」隆が青ざめる。


女性の霊が振り返る。


――あなたは…あの時の猟師…


――そうだ…お前を石で追い立てた一人だ…だが、後で真実を知った…お前が悪いのではなかったと…


男性の霊の声は、深い後悔に満ちていた。


――疫病で妻と子を失った後、自分の愚かさに気づいた…お前を責めることで、自分の無力さから逃げていただけだった…


「この方も…」瑞希が理解する。「後悔の念でこの地に縛られていたのね」


――許してくれとは言わぬ…だが、独りは辛い…


女性の霊が、ゆっくりと男性の霊に近づく。


――私も…辛かった…でも、あなたが真実を理解してくれていたなら…


二つの霊が向き合う。


――許してくれるのか?


――私たちは皆、苦しんでいたのですね…お互いに…


女性の霊が男性の霊に手を差し伸べる。


その瞬間、二つの霊の周囲に、より強い光が現れた。


「一緒に成仏するのね」瑞希が微笑む。


隼人たちも、この美しい和解の場面に感動していた。


「最後は…仲直りできたんですね」美優が呟く。


***浄化の完了***


念仏が続く中、隆のカメラが奇跡的な光景を捉えていた。


石碑の周囲に、無数の光の粒子がゆっくりと舞い上がっていく。

それは蛍のようでもあり、星のようでもあり、そして桜の花びらのようでもあった。


二つの霊の姿も、光に包まれて次第に薄らいでいく。


――ありがとう…皆さん…


――君たちのおかげで…真の平安を得ることができた…


最後に聞こえたのは、深い感謝の言葉だった。


光の粒子は夜空に向かって昇り、やがて満天の星空に溶け込んでいった。


石碑の表面から黒い影は完全に消え、代わりに穏やかな静寂が辺りを包んだ。


そして不思議なことに、石碑の文字が以前よりもはっきりと読めるようになっていた。


「『静魂安眠』『地霊永続』…」隆が読み上げる。


「本来の文字が浮かび上がったのね」瑞希が感心する。「これで本当に供養が完了したわ」


蝉の声が戻り、夜風が爽やかに吹き抜けていく。

石碑の周囲の冷気も消え、自然な夏の夜の温度に戻っていた。


それどころか、どこからともなく桜の花の香りが漂ってきた。


「桜の香り…7月なのに」秀が不思議がる。


「あの女性の霊の好きな香りだったのかもしれないわね」夕子が微笑む。


***予期せぬ発見***


後片付けをしていると、美優が石碑の根元で何かを発見した。


「あれ?これ何でしょう?」


土の中から、小さな陶器の破片が出てきたのだ。


瑞希が破片を手に取ると、それは古い薬壺の一部であることが分かった。


「やっぱり…彼女は薬草を調合していたのね」


破片には、うっすらと文字が刻まれている。


「『村民安康祈願』…村の人の健康を祈っていたのですね」隼人が読み上げる。


「これも供養として、石碑の前に供えましょう」瑞希が提案する。


全員で破片を丁寧に洗い、石碑の前に置いた。


すると、また一瞬、桜の香りが強くなった。


「喜んでいるのかな」美優が優しく微笑む。


「きっとそうよ」瑞希が頷く。


***後片付けと帰路***


結界石と残った道具を片付けながら、メンバーたちは今回の体験を噛みしめていた。


「本当に…浄化できたんですね」美優が感動に震える声で言った。


「ええ。あの霊たちは長い間、この場所で苦しんでいたの。でも皆の真心が通じて、ついに成仏できた」瑞希が微笑む。


隆が感慨深そうに言う。

「最初は怖い霊かと思ったけど、本当は優しい人だったんですね」


「人は死んでも、生前の性格や想いは変わらないものよ」瑞希が教える。「だからこそ、霊と向き合う時は相手の立場になって考えることが大切なの」


秀が首を振る。

「でも、なんで俺たちを最初は拒絶したんだろう?」


「長い間裏切られ続けたから、他人を信じられなくなっていたのよ。でも最後は、皆の本気の気持ちが伝わったわ」夕子が答える。


隼人が深く頷く。

「今回は…本当にいい経験になった。ただ心霊現象を調べるだけじゃなく、霊を救うこともできるんだな」


「それが霊能者の本当の役目よ」瑞希が真剣に答える。「恐怖を煽るのではなく、理解と共感で霊を救済する。これこそが正しい霊能者の在り方なの」


山道を下りながら、全員が満足感に満たされていた。


今夜は確実に、良いことをしたという実感があった。


***翌日の部室での総括***


翌日、部室に集まった新霊体験隊のメンバーたちは、昨夜の出来事を詳しく振り返っていた。


「録画した映像を見返すと、光の粒子だけじゃなく、霊の姿もはっきり写ってるよ」隆が興奮気味に報告する。


モニターに映る映像は、確かに二つの人影が光に包まれて昇天していく様子を捉えていた。


「これは貴重な資料になるわね」美優がメモを取りながら頷く。「でも、公開する時は慎重にしないと」


「そうね。霊のプライバシーも考慮しなければ」夕子が同意する。


瑞希も同席し、詳細な総括を行った。

「皆、本当によくやったわ。今回の件で学んだことは多いはず」


隼人が振り返る。

「結界が破れた時は焦りましたが、チームワークで乗り越えられました」


「アクシデントはつきものよ。大切なのは、その時どう対応するか」瑞希が教える。「今回は皆が冷静に行動できたから成功した」


秀が感心する。

「それにしても、霊との対話がこんなに深くできるとは思いませんでした」


「霊との対話で一番大切なのは、恐れることではなく、相手を理解しようとする気持ちよ」瑞希が強調する。「今回皆が示した共感の心こそが、浄化を成功させた決め手だった」


「はい」全員が声を揃えて答える。


「ただし」瑞希が表情を引き締める。「今回は比較的穏やかな霊だったけれど、中には本当に危険なものもいる。怨念が強すぎて、対話が不可能な場合もある」


美優が質問する。

「そういう霊の場合はどうすれば?」


「その時は無理をしない。すぐに撤退して、より経験豊富な霊能者に依頼するのよ」瑞希が答える。「勇気と無謀は違う。調査する時は必ず慎重に、そして一人では絶対に行かないこと」


隼人が深く頷く。

「分かりました。これからも、安全第一で活動していきます」


***新たな発見***


数日後、隆が興味深い発見をした。


「皆、聞いて。図書館で桜山の歴史を調べてたら、面白い記録を見つけたよ」


隆が持参した古い郷土史の本を開く。


「ほら、ここに書いてある。『明治初期、桜山中腹にて薬草採取及び調合を業とする女性あり。疫病流行の際、献身的に村民の看病に当たるも、心無い者たちにより山中に追放される。後に村民有志により供養塔建立』って」


「供養塔…それが今の石碑ね」美優が理解する。


「続きもあるよ。『追放に加担した猟師の一人、後年深く後悔し、女性の墓前にて自害。村民これを哀れみ、共に供養す』」


「だから二人の霊がいたのか」秀が納得する。


夕子が感慨深そうに言う。

「私たちが体験したことが、歴史的事実として記録されていたなんて…」


「これで今回の調査の裏付けが取れたわね」瑞希が満足そうに頷く。


隼人が提案する。

「この記録をもとに、きちんとした調査報告書を作りませんか?」


「それは良いアイデアね。でも」美優が慎重に言う。「霊の名前や詳細は伏せて、プライバシーを守りましょう」


全員が賛成し、新霊体験隊初の本格的な調査報告書作成が決まった。


***地域への貢献***


一週間後、完成した報告書を町の図書館に寄贈することにした。


「地域の歴史として、後世に残す価値があるわ」瑞希が提案したのだ。


図書館の司書さんは、報告書を見て驚いた。

「こんなに詳しい調査をしてくださったんですね。桜山の石碑については、実は時々質問を受けることがあったんです」


「そうなんですか?」隼人が興味を示す。


「ええ。最近では、石碑の周辺で不思議な現象を体験したという報告がなくなったという話も聞いています」


メンバーたちは顔を見合わせた。


「もしかして、私たちの浄化が効果を上げているのかもしれませんね」美優が小声で言う。


司書さんが続ける。

「それと、石碑の文字がより鮮明になったという話もありました。最近、桜山を訪れた人たちの評判も良いようです」


夕子が嬉しそうに微笑む。

「本当に良いことをしたんですね」


「皆さんのような若い方が地域の歴史に興味を持ってくださって、とても頼もしいです」司書さんが感謝を表す。


報告書は「桜山石碑に関する調査報告書 - 新霊体験隊」として図書館の郷土史コーナーに収められることになった。


***夏の終わり・新たな始まり***


桜山での一件以来、新霊体験隊は大きく成長していた。


単なる心霊体験を求める集団から、本当の意味で霊と向き合い、必要があれば救いの手を差し伸べる存在へと変わっていた。


さらに、地域の歴史や文化を調査し、それを後世に伝える役割も果たすようになっていた。


夏休みの終わり、部室の窓から見える桜山は、以前よりもずっと穏やかに見えた。

あの石碑の下で長い間苦しんでいた霊たちは、今頃は安らかな場所で眠りについているだろう。


「次は…どんな調査をしようか?」隼人が仲間たちに問いかける。


「今度は図書館で、この辺りの歴史をもっと詳しく調べてみない?」美優が提案する。「きちんと背景を知ってから調査した方が、相手の気持ちも理解しやすいし、より安全に活動できるわ」


「それは良いアイデアだ」隆も賛成する。「今回みたいに歴史的背景が分かると、霊の動機も理解しやすくなる」


秀も手を上げる。

「俺も賛成。それに、地域の人たちからの情報収集も大切だよな」


夕子が頷く。

「そうね。霊現象の背景には、必ず人間の歴史や想いがある。それを理解することから始めましょう」


瑞希が感心したように微笑む。

「皆、本当に成長したわね。最初は怖いもの見たさで始めた活動が、今では立派な霊的調査研究になっている」


「瑞希姉さんの指導のおかげです」隼人が感謝を表す。


「いえ、皆の真剣な姿勢があったからよ。私は少し手助けしただけ」瑞希が謙遜する。


***新たな情報***


その時、部室のドアがノックされた。


「失礼します」


入ってきたのは、学校の用務員の田中さんだった。60代の優しそうな男性で、学校のことなら何でも知っているベテランだ。


「田中さん、どうされました?」隼人が立ち上がる。


「実は…君たちが桜山の調査をしたと聞いてな。あの石碑について、少し話しておきたいことがあるんだ」


全員の目が田中さんに向けられる。


「私の祖父から聞いた話なんだが…」田中さんが椅子に座る。


「その石碑な、実は昔から『お薬師さんの石碑』って呼ばれてたんだ。村の人たちは、病気の時にあそこにお参りに行ってたそうだ」


「お薬師さん…」美優が呟く。


「そう。薬師如来の加護を願う気持ちもあったが、それ以上に、あの女性への感謝の気持ちだったそうだ」


瑞希が身を乗り出す。

「感謝の気持ち?」


「ああ。疫病が治まった後、村の人たちは自分たちがしたことの重大さに気づいたそうだ。彼女を追い出したことで、貴重な医療知識を失った。それに…」


田中さんが声を落とす。


「彼女が最後に残した薬草の調合書が見つかったそうだ。それには、疫病に効く薬の作り方が詳しく書かれていた。もし彼女の言うことを聞いていれば、もっと多くの人が救えたかもしれない」


部室に重い沈黙が流れる。


「それで村人たちは後悔し、石碑を建てて供養したのね」夕子が理解する。


「そうだ。でも、それだけじゃない」田中さんが続ける。「その後も、あの石碑に祈ると病気が治るという話が絶えなかった。彼女の魂が、まだ人を助けようとしているんじゃないかってな」


隆が驚く。

「でも僕たちが体験した時は、すごく警戒的で…」


「それは最近のことだろう?」田中さんが聞く。「実は、数年前から石碑の周りで嫌な噂が立つようになった。霊が出るとか、呪われるとか…」


「それが彼女を苦しめていたのね」美優が気づく。


「恐らくな。人々の恐怖や偏見が、彼女の魂を再び苦しめていたんだと思う」田中さんが頷く。


瑞希が深くうなずく。

「だから私たちに警告したのね。これ以上恐れられたくない、誤解されたくないという気持ちで」


「でも今は違います」隼人が力強く言う。「僕たちが真実を伝えることで、きっと正しい理解が広まります」


田中さんが嬉しそうに微笑む。

「君たちのような若い人が、こういうことに真剣に取り組んでくれて本当に心強い。祖父も喜んでいると思うよ」


***地域との連携***


田中さんの話を聞いて、新霊体験隊の活動方針がより明確になった。


「地域の方々との連携も大切ですね」美優がメモを取る。


「そうね。私たちだけでは知り得ない情報がたくさんある」夕子も同意する。


隼人が提案する。

「定期的に地域の方々からお話を聞く機会を作りませんか?」


「それは良いアイデアね」瑞希が賛成する。「霊現象の背景には、必ず地域の歴史や人々の想いがある」


田中さんも協力を申し出た。

「私で良ければ、いつでも昔の話をしますよ。それに、他にも詳しい方を紹介できます」


秀が手を上げる。

「俺、町内会の人たちとも話してみるよ」


隆も続く。

「僕は商店街の人たちに聞いてみます。古い写真とかも持ってるかもしれません」


こうして新霊体験隊は、地域密着型の調査活動を展開することになった。


***桜山のその後***


それから数日後、隼人たちは桜山の様子を確認しに行った。


今度は調査ではなく、純粋にハイキングとしての訪問だった。


石碑に到着すると、驚くべき変化があった。


「花が…」美優が息をのむ。


石碑の周りに、季節外れの桜の花が数輪咲いていた。


「7月に桜?」秀が不思議がる。


「これは…」瑞希が花を見つめる。「彼女からの感謝の印かもしれないわね」


石碑の文字も、前回よりもさらに鮮明になっていた。


そして何より、辺り一帯に漂う空気が温かく、優しい感じがした。


「本当に浄化されたんですね」夕子が安心したように微笑む。


隼人たちは石碑の前で黙祷を捧げ、桜の花に水をあげてから山を下りた。


下山途中、何人かの登山者に出会った。


「あの石碑の辺り、最近すごく気持ちが良いですよね」という声が聞こえた。


「そうそう、前はなんとなく近づきにくかったけど、今は違う」


「桜の花まで咲いてて、神秘的だった」


メンバーたちは顔を見合わせて微笑んだ。


確実に良い変化が起きている。


***夏休み最後の活動***


夏休み最後の日、新霊体験隊は特別な活動を行った。


桜山での体験を踏まえて、「霊現象の正しい理解」についての啓発資料を作成したのだ。


「霊現象は怖いものではなく、理解すべき現象」


「霊の多くは、生前の強い想いや後悔によって現世に留まっている」


「恐怖や偏見ではなく、共感と理解で接することが大切」


「危険な霊もいるので、専門知識なしに近づくのは禁物」


これらの内容を、分かりやすくまとめた小冊子を作成した。


瑞希が監修し、田中さんをはじめとする地域の方々にも意見をもらった。


「これを学校の図書館や、町の公民館にも置いてもらいましょう」美優が提案する。


「正しい知識が広まれば、無用な恐怖や偏見も減るはず」隆も同意する。


隼人が皆を見回す。

「僕たちの活動も、新しい段階に入りましたね」


「そうね。ただの心霊体験から、教育的な活動へ」夕子が頷く。


秀も感慨深そうに言う。

「最初は怖いもの見たさだったけど、今では本当に意味のある活動になったな」


瑞希が誇らしそうに微笑む。

「皆、本当によく成長したわ。これからも、この調子で頑張って」


***新学期への準備***


夏休みが終わり、新学期が始まる前日。


部室で最後の片付けをしながら、メンバーたちは今後の活動について話し合った。


「新学期になったら、新入部員も募集しましょう」美優が提案する。


「ただし、興味本位だけの人は困るわね」夕子が心配する。


「面接で、しっかりと動機を確認しよう」隼人が答える。「正しい理解を持って、真剣に取り組める人だけを受け入れる」


隆がカメラの整備をしながら言う。

「機材ももっと充実させたいね。音声解析ソフトとか、温度計とか」


「予算の問題もあるけど、少しずつ揃えていきましょう」秀が現実的に答える。


瑞希が提案する。

「私の知り合いの霊能者さんたちとも連携できるようにしましょう。より高度な事例に対応するためにも」


「それは心強いです」隼人が感謝を表す。


こうして、新霊体験隊の今後の方向性が決まった。


***エピローグ・新しい季節***


秋の午後、部室の窓から桜山を眺めながら、隼人は一人静かに考えていた。


この夏の体験は、彼らにとって忘れられない思い出となった。


恐怖から始まった活動が、理解と共感に変わり、そして救済へと発展した。


桜山の石碑で出会った二つの魂は、今頃は安らかな眠りについているだろう。


そして彼ら新霊体験隊も、単なる学生サークルから、地域に貢献する意味のある活動団体へと成長した。


「隼人、何考えてるの?」


振り返ると、美優が資料を抱えて入ってきた。


「いや、この夏のことを思い出してたんだ」


「そうね。本当にいろいろあった」美優も窓の外を見る。「でも、全部良い思い出よ」


やがて他のメンバーたちも部室に集まってきた。


「今日は新入生の見学者が3人来るんだったね」夕子が確認する。


「ちゃんと説明しないとな。僕たちの活動の意義を」隆が資料を準備する。


「怖がらせちゃダメよ」秀が笑う。「でも、真剣さは伝えないと」


午後3時、約束の時間に3人の新入生がやってきた。


1年生の男子2人と女子1人。皆、興味深そうに部室を見回している。


「新霊体験隊では、ただ怖い体験をするのではありません」隼人が説明を始める。


「霊現象の背景にある人間の想いを理解し、必要があれば救いの手を差し伸べる。それが僕たちの活動です」


新入生たちの表情が、最初の好奇心から真剣なものに変わっていく。


美優が桜山での体験を、写真や映像を使って説明した。


「最初は怖かったです。でも、霊の気持ちを理解した時、恐怖は共感に変わりました」


夕子も続ける。

「霊は敵ではなく、助けを求めている存在なんです」


隆と秀も、技術面や安全面での注意点を丁寧に説明した。


最後に瑞希が話す。

「この活動は、決して遊びではありません。時には危険も伴います。でも、正しい知識と真摯な心があれば、きっと意味のある体験ができます」


新入生たちは真剣に聞いていた。


「僕、参加したいです」男子生徒の一人が手を上げる。


「私も」女子生徒も続く。


「僕も是非」もう一人の男子生徒も意思を示す。


隼人が微笑む。

「では、まず一週間の見習い期間から始めましょう。その間に、基礎知識を学んでもらいます」


こうして新霊体験隊は、新しいメンバーを迎えることになった。


部室の外では、秋風が桜山の木々を揺らしている。


あの山で出会った魂たちの想いは、確実にこの新しい世代へと受け継がれていく。


隼人たちの活動は、これからも続いていく。


恐怖を理解に変え、孤独を救済に変える。


そんな温かい活動を。


窓の外の桜山が、夕日に照らされて優しく輝いて見えた。


きっとあの石碑の前でも、季節外れの桜が静かに咲いていることだろう。


感謝と平安の象徴として。


そして新霊体験隊の新たな始まりを祝福するかのように。


*****完*****


(物語後記)


この夏、新霊体験隊は大きく成長しました。単なる心霊体験から始まった活動が、霊魂の救済、地域史の調査、そして後進の指導へと発展していきました。


桜山の石碑で出会った二つの魂─薬草に詳しい女性と、後悔に苛まれた猟師─は、隼人たちの真心によって安らかな眠りにつくことができました。


恐怖は理解に、孤独は共感に、そして苦しみは救済に変わりました。


これこそが、真の霊的体験の意味なのかもしれません。


新入生を迎え、新たな季節を迎えた新霊体験隊。


彼らの活動は、これからも続いていくことでしょう。


より多くの魂を救い、より多くの人に正しい理解を広めるために。


桜山の石碑に刻まれた「静魂安眠」「地霊永続」の文字は、今日も静かに輝いています。


そして季節外れの桜が、訪れる人々に優しく微笑みかけています。


感謝と祈りを込めて。

 購読、ありがとうございました。今回は、一旦、ここで終了にします。

色々と忙しくて、あまり書けなかったので、また、時間が取れたら再開する予定です。


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