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記憶の欠片
ポタポタと頬に冷たい水滴が降り注ぎ
ぼんやりと視界に映る影が私の肩を強く抱き寄せ、慟哭する。
先程までの耐え難い激痛は嘘かの様に
もう何も感じる事はない。
あぁ、自分はもう死ぬのだと悟った。
生暖かく鉄臭い濃赤の水溜りがあたり一面に広がってゆく。
私を抱き寄せる影から微かに香る嗅ぎ慣れた香りは、私を心地良くさせてくれると共に、悲しくもさせた。
私の愛する人.....。
私を生死の間に立たせている張本人。
アレクサンダー・グレイオン
「シェリー、ダメだ。僕を置いて逝かないでくれ、お願いだ。どうすればいいんだ。何度この苦しみを....。くっ。僕は...何を間違えたんだ。」
悲痛な声で私に呼びかける。
薄れゆく意識の中、必死の呼びかけに答えようとするも、すでに私の口から声を出す事はできなかった。
「シェリー、シェリエル...目を開けてくれ、君のいない世界など何の意味も持たないんだ。君は僕の全てなんだ。」
彼はそう呟くと、呻き声と共に私の胸に顔を伏せた。
-何度?....彼の言っている意味はわからないが、心のどこかで死にゆく事に安堵している自分がいた。