表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/19

1-7. ダンジョン潜入準備

次の日、エイルとアインツは再び冒険者ギルドを訪れた。

朝にも関わらず、昨日と同様に冒険者達がひしめき合っている。


いつもこんな感じなのだろうかと考えていると、知らない人が歩み寄ってきた。

深い真紅のゴスロリのワンピースを纏った、エルフの女性だった。

どこかの令嬢のような佇まいで、ギルドの雰囲気からかなり浮いていた。


「ごきげんよう、“ブルーレース”の冒険者様」


・・・ブルーレース?

ふとパーティー名をルイのお店と同じ“ブルーレース“で登録したことを、エイルは思い出した。


(わたくし)は本日からお二人のサポーターを努めさせていただきます、リコリス・ウィリアムズと申します。

どうか気軽にリコリスとお呼びくださいませ、ハイパー様、クリスト様」


そういって彼女はにこにこしながら丁寧にお辞儀をした。



エイルは少し驚いた。

彼女がギルドの人だったこともそうだが、少しだけ既視感がある。

そう思い記憶を遡ると、ある人物に思い立った。


昨日ギルドでエイルを見ていたエルフの男性にそっくりだ。

服装や表情は違うが、顔が瓜二つだ。

加えて、少し茶色がかった長くて白い髪とチョコ色のメッシュの位置も一緒だ。

彼女の髪を一つに束ねて服装を入れ替えてしまえば、全く見分けがつかない。




「あの、どうかされましたか?」


エイルは考えに耽っている中、リコリスをじっと眺めていた。

彼女から問いかけにハッと我に返ると、失礼なことをしてしまったことに気づいた。


「あ、すみません。

なんか昨日ギルドで見かけた男性にそっくりだなぁと思って・・・」


申し訳なさそうに力なく笑っていると、彼女は何か思い当たったようだ。


「あぁ、恐らくそれは私の双子の兄だと思います」

「え?あ、兄・・・?」


思わずエイルはきょとんとした。

確かに見た目はそっくりだが、冷徹そうな彼と無邪気そうな彼女では性格が真反対だ。

血縁者というのは納得だが、あまり兄妹には見えない。


「ハイドと申しまして、 “アクアマリン騎士団”の幹部なのですよ。

普段はあまりいらっしゃらないのですが、昨日はたまたま何かしらの任務があったのでしょう」



アクアマリン騎士団の名前は、エイルも耳にしたことがある。

“秩序”を重んじ、警備や治安維持を行っている都市の要だ。

強者ぞろいの冒険者達を監視・制裁できる実力者が多く集っているらしい。

噂では訓練目的でダンジョンに潜ることがあり、そこで数えきれないほどの功績を挙げているとか。


彼がそんな騎士団の幹部となると、この都市で指折りの戦士ということだ。

アインツに続いて、只者ではない人物にエイルは目を付けられたことになる。

自分の運命の複雑さに、エイルは重苦しさを感じるしかなかった。



「全く、来ていたのなら一言言ってくださればよかったのに。

最近顔も見せてくれませんし、ほんっとうに冷たいお兄様です。

今度見かけたら一発お見舞いしてあげないといけませんね」


そういってリコリスはムスッと膨れ顔を見せた。

どうやらあまり仲は良くないらしい。

二人が同じ場所にいたら一体何が起こるのやら。




そんなやり取りの中、蚊帳の外になっていたアインツはコホンと咳払いした。


「あっ、申し訳ございません。

話が逸れてしまいました」


リコリスは申し訳なさそうに2人に頭を下げた。

エイルもすっかり自分が来た目的を忘れていた。


「本日はダンジョンに潜りにいらしたのでしょうか?」


アインツが「そうだ」と告げると、彼女はクスっとほほ笑んだ。


「それでは、まず武器を支給させていただきますね」






彼女に案内されるがまま向かった先は、剣士用の武器庫だった。

中は相変わらず質素だが、色々な種類の武器が所狭しと置かれていた。

流石に都市の武器屋でも、ここまで品ぞろえの良いところはないだろう。

こんなに充実した倉庫は、そうそうお目にかかれないかもしれない。


「ここからお好きな装備をお選びください。

私はクリスト様を魔術師用の武器庫にご案内して参ります。

お決まりになりましたら、倉庫の外にいらしてください。

それでは、ごゆっくりどうぞ」


そういってリコリスは軽く会釈して、武器庫の外に出た。




武器の山の中からじっくりと選別した結果、エイルは一本の剣と軽装の防具を選んだ。

どちらも高級品ではないが、頑丈で精巧なものだった。


剣はありふれたデザインだが、振り回してみるととても軽くて扱いやすい。

すぐに手や体に馴染む、とても優れもののようだ。


一方の防具も、とても動きやすく軽い素材で作られている。

重厚なつくりではないが、叩いてみるととても丈夫なのが分かる。

感覚任せで戦うエイルにとって、どちらも一生使い続けられるような代物だ。


「うん、これでいいかな」


満足感を得て壁に掛けられた時計を見ると、思ったよりも時間が経過していなかった。

かといって、これ以上悩んでも仕方ない。

エイルは選んだ武器と防具を身に着けて、武器庫の外に出た。




「もういいのか?」


いきなり声を掛けられて反射的に振り向くと、待ちくたびれた様子のアインツが壁にもたれかかっていた。


「あれ?

装備を貰いに行っていたんじゃ?」

「いや、必要ないからここで待ってた」


しかし、杖や魔道書らしきものを一切持っていない。

どう見ても手ぶらだ。

隣にいるリコリスの困り顔を見るに、どこかに隠し持っているというわけでもなく支給を断ったみたいだ。


魔法は専用の道具を使わない限り、魔力が拡散してしまい使用できない。

子供でも知っているこの世界の常識だ。

魔術師の彼は、このことをエイルよりも十分に理解しているはずだ。

一体アインツは何を考えているのだろうか?


「えっと、本当に必要ありませんか?」

「ああ、逆に荷物になる」


リコリスの念押しを、彼はあっさりと流してしまった。

どうやらこれ以上説得するのは不可能みたいだ。

このことで大惨事にならないことを、エイルは願うしかなかった。




次に彼女から渡されたものは、冒険に必要な物品の数々だった。

野営用のテントに炊事器具、回復薬、バッグ、水筒などどれも欠かせない代物だ。

支給品だけで何日もの間野外で生活できそうだ。

しかもそんな安価なものではない。


どうやらギルドは建物の内装といった見た目よりも、冒険者のサポートの方にお金をかけているようだ。

とてもしっかりした組織だ。



装備が一通り揃った後、ギルドの奥へと案内された。

そこには、とても大きくどっしりとした扉が目の前に構えていた。


「こちらがダンジョンの入り口となります」


そういってリコリスは大扉をゆっくりと開けた。






中は今までの質素な感じと比べて、とても重厚なつくりだった。

頑丈な石でできた空間はとても広く、パーティー会場並みだ。

いろんな冒険者がギルドの受付よりも多く集まっていて、尚更何かしらの催しが行われているように見えた。


それに反して、全体的にグレー一色で色彩というものが感じられない。

そんな場所に5つの石製の扉が円形状に並んでおり、中心にはうっすらと魔法陣らしきものが床に描かれている。


エイルが思い浮かべていたダンジョンは、とても薄暗くて広い洞窟だったり歴史ある遺跡だった。

だが目の前の光景はまるで何かの儀式の祭壇のようで、エイルが想像していたものとは全く異なっていた。



そうエイルが驚愕している傍ら、アインツは少し落ち着きがなかった。

明らかに早くダンジョンに入りたいと言わんばかりだ。


「こちらの“世界の扉”は手前からそれぞれworld A、world B、world C、world D、world Eと呼ばれる世界に繋がっております。

各世界は大きく環境が異なっており、攻略難易度はAからEの順に上がります。

ですので、まずはworld Aで肩慣らしをして頂いて、余裕が出ましたら他の世界を順番に探索されるのをお勧めいたします」


確かにその方が良さそうだ。

魔剣の力を制御するために一刻も早く強くならないといけない。

だが、慌てすぎて命を落としたら元も子もない。

それこそ、アルメリア達に合わせる顔がない。

ここは焦る気持ちを押させるべきだ。


「何かご質問はございますか?」


説明の終わったリコリスは、2人の様子を伺った。


「俺は以前学校の授業で何回か潜ったことがあるから特にないな」


アインツがため息交じりに言ったことに、少し合点がいった。

これまで退屈そうにしていたのは、もう既に知っていたからだったのか。

どうりで早く中に入りたそうにしていたわけだ。


「えっと、私も大丈夫です」

「ふふっ、そうですか」


そういって彼女は可愛い笑顔を見せた。

少し耳が上下にピクピク動いたところから察するに、とても満足げのようだ。



「それでは、記念すべき最初のクエストを発注致しますね」


リコリスは2人を紫色の瞳でまっすぐ見つめた。


「依頼内容は『world Aでゴブリンを一体討伐せよ』、です。

倒した証拠として、ゴブリンの角を私にご提出ください。

冒険者でしたら誰でもできる難易度ですので、あまり緊張なさらなくて大丈夫ですよ」


彼女の励ましに反して、エイルは生唾を飲み込んだ。


初心者用クエストらしいが、逆を言えばこれを達成できないと一人前の冒険者になれない。

今までの親友との訓練は負け続きだった。

正直、ゴブリンに勝った自分の姿を想像することができない。

でもここで勝たないと、自分の罪も贖罪も何もかもが台無しになる。

何が何でも成功させないと。



world Aの重い扉を開けると、中は真っ暗だ。

一寸先も見えず、黒い壁がただ佇んでいるかのようだ。

一瞬躊躇するエイルをよそに、アインツはそそくさと入って行ってしまった。

そんな彼を見てエイルは覚悟を決めて、慌ててアインツの後を追った。


「行ってらっしゃいませ」


そういってリコリスはにこやかに手を振って2人を見送った。


<<人物紹介>>

名前:リコリス・ウィリアムズ

性別:女性

年齢:16歳

種族:エルフ

所属:冒険者ギルド(スタッフ)

特徴:かわいいものにはとげがある・・・?

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ