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4-7. 犯人を探せ

 ロバートとエイルは、とにかくギルドへと駆けていた。

 その間にロバートはエイルに起きたことをかいつまんで説明し、自分が今すぐダンジョンに潜らないといけないことを伝えた。

 するとどんどんエイルの顔は青ざめていく。

 何となくは分かっていたが、今かなりまずい状況であることを察した。


「エドワードは千里眼のスキルを持ってる!

 だからオレ達の行動は筒抜けだ!

 急がないと捕まる!」


「――!? 分かった! 手出して!」


 エイルに言われるがまま、ロバートはきつく縄で縛られた両手を差し出した。

 するとエイルは腰の剣を引き抜き、一振りで縄を切り彼を自由にする。



 素早く剣をしまうと、ロバートが急にエイルの体を担いだ。


「舌噛むなよ!?」


「え――」


 エイルが何のことか聞く前に、ロバートは全力で地面に踏み込んだ。

 直後、彼は信じられないスピードで走り出す。


(――速っ!!)


 ロバートの足は、全速力のエイルを遥かに凌いでいた。

 シルヴィがスキルを使わずに本気で走っている時と同レベルだ。

 しかもそんなスピードで、くねくねと複雑に曲がっている路地を進んでいく。


 彼の顔を見ると、髪と長い耳を後ろに流しながら歯を食いしばっている。

 後方支援のロバートがここまで速いなんて、正直驚愕だ。




 瞬く間に、2人はギルドの前に辿り着いた。

 入り口の前には、既に騎士団の警備隊が数名構えている。


「そこの2人、止まれ!」


 警備隊は入り口を塞ぐように立ち、武器を構えた。

 流石と言うべきだろうか?

 こんなにも早く人員を手配するなんて。

 でも今は、そんなことに感心している場合ではない。


「ちっ!!」


 ロバートは大きな舌打ちをしたかと思うと、さらにスピードを上げた。

 そして警備隊の目前に迫ると、地面を思いっきり踏み込んで飛び上がる。


「な――――」


 ロバートはエイルを抱えたまま、警備隊を飛び越えてしまった。

 そして地面に着地すると、再びギルドへと駆け出す。


「――おい、待て!!」


 警備隊は全速力で2人を追いかけ始めた。

 しかし全速力のロバートには、全く敵わない。

 2人はそのまま距離を詰められることなく、ギルドの中へと飛び込んでしまった。




 玄関に入った途端、ロバートはそっとエイルを下ろした。

 流石に限界みたいで、ぜぇぜぇ言いながら膝に手を乗せて下を向いている。


「すまん……ちょっと……休憩……させてくれ…………」


「えっ? でも騎士団の人が――」


 エイルが慌てて振り返ると、警備隊の人は玄関の前で立ちすくんでいた。

 何故か入れない様子で、エイル達をただじっと眺めている。


「エドワードが……ダンジョンは管轄外って……言っててな……

 だったら……逮捕しにギルドに入れないんじゃと……思ってたが……

 予想通りだったな…………」


 ロバートは息を切らしながら、安堵のため息を漏らした。

 であればしばらく、騎士団に邪魔されることはなさそうだ。

 これで何とか、ヤンソンの門下生を探すのに専念できる。

 エイルも緊張の紐がほどけ、その場で崩れそうになった。


「ありがとう、ロバート」


「礼を言いたいのは、こっちだ……

 オマエが来なかったら……オレは今頃、檻の中だ……」


 エイルが彼の顔を覗き込むと、まだ苦しそうな顔をしていた。

 しかし息がある程度整った段階で、顔を上げてエイルの方を向く。


「時間がない、とっとと行こう」


 エイルは頷くと、彼と一緒に受付へと足早に向かった。




 一度本当にヤンソン達が来ているのか確認するために、受付で確認を取ることにした。


「あっ! エイル! ここですよ!!」


 声の主を確認すると、受付の隅からリコリスが普段通り笑顔で手を振っていた。

 2人はまるで彼女に何か縋るように、大慌てで近づく。


「ふふっ、今日はクリスト様はご一緒ではないんですね?

 どういったご用件で――」


「魔術学校のヤンソン先生は来てないか!?」


 ロバートはリコリスが言い終わる前に、彼女の肩を掴んで問いただした。

 リコリスは声を上げて、流石に戸惑っている。

 しかし2人のただならぬ様子を察したらしく、事情は聞かずに答えてくれた。


「えっと……はい、つい先程学生さんを連れていらしましたよ。

 確かworld Bで期末試験を行うとか……

 恐らく今丁度入られた頃かと」

「やっぱりか!

 何で嫌な予感はすぐ的中するんだよ!」


 ロバートはそそくさと、そのままダンジョンの方に向かってしまった。

 エイルもリコリスに簡単にお礼を言うと、そのまま彼を追いかける。

 残されたのは、いまいち状況が飲み込めずに唖然としているリコリスだけだった。






 エイルはロバートに置いて行かれながらもworld Bに入ると、そう遠くない場所で複数の人影が見えた。


(あれって……ヤンソン先生とロバートだ!)


 どうやら既に2人は接触したみたいだ。

 近くには、以前出会ったヤンソンの教え子たちが全員そろっている。

 エイルは砂に足を取られながらも、必死に走って彼らとの合流を急いだ。



 エイルがヤンソン達のもとに着いたときには、ロバートが彼にすべての事情を話し終わったところだ。


「お願いです! 学生と話をさせて下さい!

 少しの間だけでも構いません!!」


 ロバートは必死にヤンソンに向かって頭を下げた。


 学生達は明らかに動揺していた。

 当然だろう。

 この中で盗みを働いた者がいると、ロバートは言っているのだから。

 近くにいる人とヒソヒソ話をして、事の真偽について討論していた。


 その中でエイルは、この前行動を共にしたディックの様子が目についた。

 彼も皆と一緒にソワソワしているが、わざとらしくこちらと目を合わせようとしない。

 本人は必死に隠しているみたいで、ヤンソンと他の生徒は気づいていない様子。

 でもエイルやロバートにとっては、彼が一番怪しいことは一目瞭然だった。



 ヤンソンは一切取り乱さず、少しの間黙り込んでいた。

 やがて腹が決まったように、学生達の方を振り向く。


「少し外して頂けませんか?

 彼らと話をさせて下さい。

 試験を受けないと成績をあげることはできませんので、その点は注意してください」


 ヤンソンは学生達に逃げないように釘を刺した。

 すると学生達は互いを見ながらも、ゆっくりと何処かに行ってしまった。




 その場に残ったのは冷静さを欠いていないヤンソンと、息を呑んでいるロバートとエイルだけとなった。


「せ、先生……」


 ロバートが消えそうな声で呟くと、いになりバチンと大きな音が鳴り響いた。

 彼はもちろん、エイルにも何が起きたのか分からなかった。

 しかしロバートの頬が赤く腫れ上がっているのと、ヤンソンが右手を上げている光景を見て状況を理解する。


 ……ヤンソンが、ロバートの顔を平手打ちしたのだ。


「……見損ないました」


 ヤンソンは、聞いたことのない重たい声で言い放った。

 ロバートは信じられない様子で、叩かれた頬をそっと触った。

 それでも手を上げられたという事実を飲み込めず、情けない顔でヤンソンを見つめている。


「言うことを聞かないだけでなく、今度は私の教え子を犯罪者呼ばわりですか?

 ふざけるのも大概にしてください。

 そんなに私が破門にしたことを、根に持っているのですか?」

 

「っ!? 違う! それとこれと話が違――」

 

「黙りなさい!!!」


 ヤンソンは怒りを顕にし、大声を出した。

 どうやらロバートがデタラメを並べて、自分を不快な思いにさせていると思い込んでいるようだ。

 明らかにロバートの言い分に聞く耳を持つ気はなさそうだ。



 エイルはすかさず、2人の間に入る。


「ちょっと落ち着いてください!

 ロバートが言っていることは事実です!

 彼の工房は燃えて、資料も盗まれたのは確かなんです!」


 エイルが必死になだめると、ヤンソンは少しずつ落ち着きを取り戻した。

 しかし難しそうな顔は、一切崩れない。


「……それくらいわかっています。

 彼は誠実で、こんな嘘は絶対につきません。

 あなた達が焦る気持ちも、十分理解しています」

 

「だったら――!」


 エイルが反論しようとすると、ヤンソンがきりっと睨み返してきた。

 殺気と言うより憤怒と悲哀を真正面からぶつけているような、重苦しいものだった。

 そのせいでエイルは、出かけた言葉を思わず飲み込んでしまった。


「ですが、教え子が盗んだという証拠はあるのですか!?

 あなた達の勝手な想像と信念で、これ以上他人を振り回さないでください!

 こうなる危険があるからこそ、私はあなたに何度も警告したのですよ! ロバート!!」


 彼の剣幕に押され、エイルとロバートは黙り込んでしまった。


 確かに、証拠はない。

 ロバートはほぼ確信しているし、ディックの反応を見るに犯人が彼である可能性は高い。

 が、あくまで推測の域を出ない。

 ヤンソンの言っていることは、何も間違っていなかった。



 ヤンソンは荒くなった息を整えると、再び低い声を出した。


「……どうやら今までの仕打ちでは、かなり甘かったようですね」


 そういって彼は、懐からあるものを取り出す。

 以前エイル達を追い詰めるのに使った、魔物を呼び寄せる遺物――

 ”アッドゥクティオ”だ。


<<少し後ギルドにて>>

リコリス「クリスト様! ちょうどいいところに!」

アインツ「どうした? 俺は七番を探していて忙しんだが」

リコリス「ちょうどその話なんです! 実はエイルとモーガン様が大慌てでお見えになられて、ヤンソン先生という方を探しにworld Bへ入られたんです! ただ事ではなさそうでしたので、すごく心配で……」

アインツ「……そうか、教えてくれてありがとう。ならあいつらを探しに俺も入りたいんだが、構わないか?」

リコリス「っ!? ……規則では単独の潜入はダメですが、お願いします! エイルを助けてください!!」

アインツ「……」

(アインツはリコリスに見守られながら、ダンジョンの方へと向かった)

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