4-6. 今こそ責務を全うする時
ロバートは自分の推測を、エドワードに詳細に共有した。
彼はその間、相変わらず相槌すら打たなかった。
でも全てを聞き漏らさないようにという態度は伝わってくる。
「……貴様の推理は一応筋は通っている。
被疑者が魔法学校の学生であるのは、ボクも同意する」
彼が放った第一声はそれだった。
エドワードは記録係と近くの部下に色々な指示出しを始めると、彼らは突然何処かに立ち去ってしまう。
「早速彼らに事情聴取するよう、人を手配した。
ファミリーの関連は薄くなったが、最後まで責任持ってボク自身が調査する。
可能な限り早く解決するよう尽力することを、約束しよう」
ロバートはほっとため息をついた。
ヤンソンの門下生への疑いはあくまで推測だが、ほぼ確信に近かった。
刑事隊の腕なら、犯人の自供を取ったり証拠を掴んだりするのは決して難しいことではない。
これなら、この後全部彼らに任せても問題ないだろう。
しかしそう考えたのも束の間、ロバートの頭にあることがよぎった。
「……今日の日付は?」
「6月21日だ」
「っ!? しまった!!」
6月下旬は、学校の学年最後の期末試験の時期だ。
ヤンソンは毎年、自分で作った魔道具を披露するという課題を与える。
学生の中にはとても危ないものを作ることがある。
そのため、安全を考慮してダンジョンに潜って毎年試験を行っている。
「皆、ダンジョンの中にいるかもしれない!」
「……なんだと?」
もし盗んだ計算用紙からロバートの技術をもう読み取っていたら、既に魔道具に組み込まれているだろう。
まだ良い方向に使われるならともかく、盗みを働くほどだから悪用されるリスクが高い。
一度そういうものができてしまえば、技術の拡散を止めることはできない。
下手をすると、自分が予想してきた最悪のシナリオ”兵器への応用”に繋がりかねない。
そして技術が暴走すれば――
(それだけは、絶対にダメだ!!)
一刻も早く止めないと、大惨事になりかねない。
今まさに、”技術師としての責務”を是が非でも全うしないと!
ロバートはすごい剣幕で、エドワードに詰め寄った。
「今すぐダンジョンの方にも人手を手配してくれないか!?」
「無理だ」
エドワードは焦っているロバートは正反対に、淡々と否定した。
「ダンジョンは冒険者ギルドの管轄で、騎士団でも容易く調査で立ち入りできない。
入るとしたら、数日にも渡る事務的な手続きが必要となる。
もし貴様の予想が正しい場合、我々が入る前に被疑者らが出てくるだろう」
まずい。
そんなに呑気に待って事故でも起きたら、元も子もない。
それこそ、ロバートの最も恐れることの1つだ。
であればやっぱり、自ら行動するしかない。
「だったら今すぐオレを解放してくれ!
オレは冒険者だから、ダンジョンの出入りは自由だ!」
ロバートは必死に懇願した。
彼は脂汗をかきながら苦虫を嚙み潰したような顔をしている。
誰の目から見ても、ただ事ではないことは明らかだ。
しかしエドワードはあからさまにため息をつき、彼を睨むように見つめる。
「自分の立場を忘れたのか?
貴様には今、様々な罪の容疑がかかっている。
情状酌量の余地はありそうだ。
しかし貴様の罠が本当に侵入者を守る仕組みになっているのか、吟味する必要がある。
それまでは解放できない、被疑者」
(クソ! 融通の利かないヤツだな……!!)
ロバートは心の叫びを声に出しそうになった。
でも何とか必死にこらえ、青ざめながら目を回し始める。
状況は圧倒的に最悪。
このままヤンソン達を放っておくわけにはいかない。
何とか隙を見て、逃げ出さないと……!
(でも相手はプロだ! どうやって搔い潜る……!?)
ロバートは歯ぎしりしながら必死に頭を回転させた。
そんな彼の様子を、エドワードは一切見逃さない。
エドワードは彼を連れて騎士団の本部に戻ろうとした。
そんな時、遠くから聞き覚えのある声がした。
「ロバート!!!」
振り返ると、金色のショートヘアの青少年の姿が目に入った。
相手は蝶の耳飾りを揺らして、息を切らしながら走ってくる。
「え!? エイル!?」
ロバートは目を丸くした。
魔法店で待つように言ったのに、心配で来てしまったようだ。
しかも腰には剣をぶら下げていて、傍から見たら無理やり現場に押し入ろうとしているとも解釈されかねない手際の良さだ。
エドワードもロバートの反応を見て、エイルの方を向いた。
「身勝手な行動はするなと警告したのに、これか。
どうやら、さらに厳しく厳重注意をしないといけないようだ」
彼は足先をエイルの方に向けた。
そしてゆっくりと、背中の大鎌に手を伸ばす。
その時だった。
ロバートは倒れ込むように、近くの焼け残った魔道具を咄嗟に拾い上げた。
直後縛られた両手と口を駆使して、栓のようなものを引き抜く。
そしてエドワードが反応する前に、思いっきり空高く投げた。
「――っ!?」
エドワードがロバートの行動に気付いた時には、辺りは眩しい光に包まれた。
かなり強い光だったため、しばらく目が痛くて動けなかった。
しかし何とか目を開けると、隣にいたはずのロバートの姿がない。
遠くにいたエイルも一緒だ。
「……逃げたか」
エドワードは誰にも聞こえないほど小さい声で囁いた。
しかし慌てる様子は一切見せず、全神経を目に集中させる。
そして目を大きく見開いて、スキルを発動させた。
<<透視の魔眼<<
すると彼の目には、都市に住む人々の目線が次々と映し出された。
その中から必死に、ロバートかエイルの視点を探し始める。
彼のスキルには、使用時間と回数の制限がある。
更に、一キロ以上離れた相手の視線を覗き見るのは不可能だ。
しかし、まだ離れて間もない相手であれば問題ない。
更にエドワードがいる場所は、人通りが少ない。
スキルの制約は、この状況ではほぼないに等しい。
探し出すのにそこまで苦労はしなかった。
「……見つけた」
彼の目に映し出されたのは、ロバートの背中を追うエイルの視点だった。
周囲の景色から察するに、彼らは路地を縫うようにギルドの方に向かっているようだ。
何か話しているようだが、かなり焦燥感に駆られている様子は伝わってきた。
エドワードは火災現場の監視をしていた団員に向かって、声を張り上げて指示を送る。
「警備隊、被疑者が逃走した!
蝶の耳飾りをつけた金髪の青少年と、オレンジ髪のうさぎの獣人だ!
彼らはギルドに向かっている!」
団員の一人が敬礼すると、慌ただしく他の警備隊に情報を伝達しに行った。
エドワードも職務を全うするため、エイル達を走って追いかける。
「――クソが」
彼は騎士団の人間らしからぬ、怒りに満ちた言葉をボソッと吐き捨てた。
しかしそれは、誰の耳にも入ることはなかった。
<<同刻都市の路地裏にて>>
アインツ「全く、本当に世話が焼けるな。何で俺があいつらの尻拭いを手伝わないといけないんだ? ルイも心配しすぎだし……ん?」
(アインツの横を、全力で走るエドワードが通り過ぎる)
アインツ「……あいつ確か刑事隊長、だったか? 何で一人でいるんだ? しかもかなり慌てているようだな」
(アインツはしばらく、その場で考え込む)
アインツ「まさか、面倒ごとに発展していないだろうな? はぁ……どうやら彼を追いかけた方が良さそうだ」




