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4-5. 現場検証

「おい、この縄を解け!!」


 ロバートは拘束されたまま、半ば強制的に火災の現場へと連行された。

 試行錯誤して自力で解こうとしたが、ただ縄がきしみ締め付けられる痛みが走るだけ。

 どうあがいても、全て徒労に終わる。

 そんな彼を、エドワードは冷静に眺めていた。


「では質問する。

 もし現場検証が終わった後にボクが拘束すると言った場合、貴様は大人しくできるのか?」


「それは――!」


 ロバートは言葉に詰まった。

 多分現場を見れば、資料を盗まれたのかがすぐにわかる。

 もしかすると、犯人まで割り出せるかもしれない。


 そうしたら、居ても立っても居られないだろう。

 最悪、エドワードを振り切ってでも自分で犯人を捕まえに行きかねない。


「であれば、今の時点で拘束するのが理にかなっている。

 法律的にも問題ない、的確な処置だ。

 状況次第では、現場検証後に開放してやる。

 大人しくしていろ」


「ぐっ……!」


 ロバートは歯を食いしばった。

 不本意だが、今は言うことを素直に聞く以外に方法はない。

 こうなってしまった以上、真実を全て話してすぐに自由になれるよう努力するしかない。

 そう自分に言い聞かせて、彼は怒りや焦りを無理やり抑え込んだ。




 工房があった場所につくと、エドワードは近くにいた警備隊のメンバーと事務的な話を僅かに行った。

 その後ほどなくして、ついてきた記録係を含めた3人は立入禁止の事故現場へと足を踏み入れる。



 工房だったものは、黒焦げになり無残に焼け落ちていた。

 ものが焦げた独特の匂いがして、しかもまだ少しだけ熱気が残っている。


 ロバートは思わず顔をしかめた。

 だがエドワードや周囲で調査を進めている彼の部下は、無反応のまま自分の仕事をこなしている。

 ……本当に彼らには、感情というものがないのだろうか?


「ついて来い」


 よそ見しているロバートをよそに、エドワードはずんずんと現場の中に足を踏み入れた。

 ロバートもそこら中に転がる瓦礫に足を取られないように注意しながら彼の後を追う。

 するとあるところで、エドワードは急に足を止めた。


「ここが火元だ。

 場所から察するに、玄関から入って右奥の隅だろう。

 何を置いていた?」


 彼が場所を明示した瞬間、ロバートは一気に青ざめた。


(クソッ! よりにもよってモササウルスの資料かよ……!)


 だがロバートは、モササウルスの存在をエドワードに明かしていなかった。

 詳しく説明すれば、状況が更にややこしくなると判断したからだ。

 それに彼らにとって、ロバートが何を作っているかなんてそこまで重要ではないだろう。


「……オレが作った魔導具のメモが入った金庫だ。

 だが一番重要な部分は抜けている。

 魔導具専門の人間にとってもあまり価値のない内容だ」


 嘘はついていない。

 実際、彼オリジナルである『遺物の応用技術』に関しては全く書いていない。

 書いてあるのは設計時に必要だった計算式と、骨組み部分の組み立て方だけだ。

 そこからモササウルスを再現するのは、不可能だ。



 しかし、万が一と言うこともある。

 もっと詳しく調べないと。


「瓦礫をどかしてもいいか?

 かなり頑丈な金庫だから、燃え残っているはずだ」


「ダメだ」


 エドワードは冷たく即答した。

 咄嗟にロバートは言い返そうとしたが、その前にエドワードが近くにいた団員に声を掛けた。

 すると2人が反応し、彼の後ろで静かに待機する。


「場所を言え、部下がどかす」


 どうやら少しでも触らせたくないらしい。

 だが、自分の要望を受け入れてくれただけありがたいことだ。

 そう思い少し不満ながらも、ロバートは場所を指さした。




 部下達は慣れた手つきで、丁寧に瓦礫をどかし続けた。

 建物の破片を手にしたら、特定の場所に積み上げる。

 重たくて1人で持てないものは、2人がかりで作業を行う。

 その中には、黒くなったロバート自作の魔道具も含まれていた。


 そうしているうちに、下から黒い金属製のものが顔を出し始めた。


「それだ!」


 ロバートはそわそわしながら、瓦礫が全て撤去されるのを待った。

 部下達が離れると、ロバートはそそくさと走り寄る。

 そして金庫の状態をじっくりと観察した。


「……こじ開けられているな」


 後ろにいたエドワードが、ロバートに聞こえるように呟いた。



 彼の言う通り、資料を入れていた金庫の扉はひしゃげていた。

 そして何かバールのようなものでこじ開けたかのような擦り傷が、扉の部分についている。

 もちろん、ロバートがそのようなことをするわけがない。


「ところで、一体どんな罠を仕掛けていた?」


 エドワードはゆっくりと首を傾げた。

 相変わらず彼は無表情だが、じっとロバートから目を逸らそうとしない。

 なるべく普通に振舞っていたが、隠し事をしていることに薄々気付いている様子。

 今嘘をついたりすれば、絶対にバレる。

 ロバートは覚悟を決め、ぽつぽつと真実を話した。




 この中身は、工房にあった資料の中で一番重要なものだ。

 だから仕掛けてあった罠も、最も厳重なものになっていた。


 まず、金庫をこじ開けると天井に吊るされている瓶がひっくり返る。

 中身は最高純度のアイスポーションで、頭から被るだけで周囲の温度が急激に低下する。

 一見ただの嫌がらせに見えるが、これは侵入者の身の安全を保障するための仕組みだ。



 次に発動するのが、近くに置いてあった大量の油が床にこぼれる仕掛け。

 その後に火のついたランプが落ちることで、油が一気に燃え上がる。

 結果的に、この有様になるわけだ。


 因みに侵入者はアイスポーションのおかげで熱さから守られるため、逃げることができる。

 但しここまでの仕掛けは僅か数秒で完了するため、そこから資料を持ち出すことはほぼ不可能。

 侵入者はパニックになるだろうから、逃げることを優先するはずだ。

 それによりロバートの全ては消え去り、情報漏洩を守るという仕組みだ。




 ロバートの説明を聞いたエドワードは、少しの間頭を整理していた。


「……つまり貴様は、危険な罠を仕掛けてはいたが犯人の身の安全も考慮していたというわけか。

 なるほど、よく考えられている」


 彼の様子だと、ロバートの罪は何とか軽くはなるようだ。

 それだけでもなんだかほっとしてしまう。

 だが、念を入れたほうがいい。


「一応、金庫の中身を確認させてくれ」


 ロバートはエドワードの部下にそう頼んだ。

 最初彼らは無反応だったが、エドワードが命令したことでやっと動く。

 すると、何枚もの紙の束が出てきた。

 2人はエドワードはその中の一枚を手に取り、興味深く眺める。


「何も書かれていないじゃないか」


「いや、ちゃんと書いてあった。

 でもオレが愛用していたインクは高温で色が消える特殊なヤツだから、炎の熱で消えたんだ。

 多分オマエ達でも、復元は不可能だろうな」


 その時、エドワードの眉がほんの一瞬だけ動いた。

 ロバートの最後の言葉に反応したらしい。

 普通の人間の尺で考えれば、自分達の限界を指摘されたことで憤慨しているというところだろうか。

 ……彼らが本当に、感情を失っていなければの話だが。



 ロバートはわざと、彼の反応を見なかったことにした。


「それでも、何が書いてあったのかは紙の種類でおおよそ分かる。

 設計図なら方眼紙、計算なら厚紙、アイデア整理ならただの紙……と言った感じでな。

 それを確認しても?」


 エドワードは少し間をおいて、彼の提案を承諾した。

 紙の束を持っていた部下は、エドワードの命令でロバートにそれを渡した。

 ロバートは紙をパラパラとめくり、そのデザインを確認する。


「……厚紙が、ない」


 必死に何度も確認したが、やっぱり計算に用いた紙だけごっそり抜き取られている。


「ちっ! どうやって……!!」


 ロバートはかなり困惑し、動揺した。

 かなり念入りに仕組んだのに、まさか盗まれるなんて。

 こんなこと、あり得るはずがなかった。




 一旦、整理しよう。


 盗まれたのは、計算用紙。

 しかも的確に選ばれている。

 恐らくロバートの思考経路や設計の組み立て方を参考にしたかったのだろう。

 その方が設計図よりも汎用性が高いのは確かだ。


 この時点で犯人は、物取りみたいな技術に疎い人間ではない。

 魔道具に精通している何者かなのは確実だろう。


 だとすれば、犯人は計算式から何を作っていたのかを推測して、技術を剽窃するつもりだろう。

 ロバートが何を開発しているのかを知っている人物は、ヤンソンか魔法店のメンバー。

 しかし彼らが盗みを働くとは、到底思えない。

 となると、次に怪しいのは彼らに親しい人物。


 更に、計算用紙を何十枚もある紙の束から選ぶのには時間がかかる。

 アイスポーションで身の安全は保障されるが、炎の熱から資料を守るような仕組みはない。

 できるとしたら、氷魔法などを駆使してインクの色が落ちる前に入手するくらいだろうか。

 であれば犯人は、魔法にもかなり精通しているだろう。


 といって、アインツでないのは確かだ。

 火災時、彼はロバートと一緒にダンジョンに潜っていたからだ。

 絶対に無理だ。



 これらの犯人像をまとめてみると、ロバートの頭の中で1つの結論に至った。


(まさか、ヤンソン先生の門下生か――!?)


 それ以外、考えられなかった。


<<同刻魔法店にて>>

ルイ「……? エイルはどこに行った?」

アインツ「ああ、ロバートを心配して飛び出していったよ」

ルイ「そう……君は行かないのか?」

アインツ「大丈夫だろ、あいつらなら自力で何とかするだろうからな」

ルイ「…………(ジト目でアインツをじっと見つめる)」

アインツ「……はいはい、分かった。追いかければいいんだろ?」

(アインツは嫌々ながらも、店を出た)

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