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4-3. 捜査依頼

 あの後、ロバートはエイル達と一緒に魔法店に向かった。

 彼が魔道具の修理を請け負うようになった時、使われていなかった地下の一室を臨時の作業場としてルイが与えていた。

 今日はそこで一夜を過ごしたいみたいだ。


 多分、一人になりたくなかったんだろう。

 でも彼は着いてからほとんど話さなかった。

 いつも明るくて誰かと会話しているのに、ただ黙々と仕事をしていた。


 その日の夕飯は出来合いのものになり、ピザを作るという話は持ち越しとなった。

 流石に今の彼に、凝ったものを作ってほしいなんて言えない。

 ロバートは夕飯の後、そのまま地下室にずっと籠っていた。






 翌朝エイルが台所に行くと、ロバートが朝食を作っていた。


「おはよう!」


 彼はいつもの調子で、こちらに笑顔を投げかけてきた。

 テーブルを見ると、既に料理が何品か置かれている。

 まるで昨日のことがウソみたいだ。


「……もう、大丈夫なの?」


 エイルが心配そうに彼を見ると、少し気まずそうに耳の裏をかき始めた。


「あー……完全に、とは言えないがだいぶ落ち着いた。

 昨日は悪かった、オマエに手を挙げちまって」


 エイルはゆっくり首を横に振った。

 ロバートと同じ状況だったら、自分もああなるかもしれない。

 逆に、もうほとんど立ち直ってしまっていることが信じられない。

 ただ心配されないように虚勢を張っているだけかもしれないが、彼の精神は相当強いようだ。


 だけどそのおかげで、エイルはほっと息を漏らすことができた。


「さて、2人が起きてきたら食おうぜ!」


 ロバートは明るい声で、少し雑に大皿に乗ったサンドイッチをテーブルの中心に置いた。

 それから数分後に、ルイとアインツも部屋から出てきた。

 そして4人で、いつもの賑やかな朝食を囲んだ。




 魔法店の開店前、エイルとルイは営業の支度をし始めた。

 アインツは自室で何やら別の作業をしているようで、姿がなかった。

 一方ロバートは身支度を整え、どこかに出かけるつもりみたいだ。


「今度こそ、犯人を捜してくる。

 何か盗まれていないかも確認しないといけないしな」


 ルイは無言で了承した。

 代わりに彼はかたが付くまで、仕事を休むことを提案した。

 しかも無期限で。


 ロバートは少し申し訳なさそうにしていたが、ルイは譲歩しなかった。

 結局、ロバートは渋々彼の好意を受け入れた。


「私もついて行っていいかな?

 何か手助けできるかもしれない」


「え? それは……」


 ロバートは困った顔で口を噤んだ。

 でもエイルは、彼の目の前で「夢を応援したい」と宣言した。

 だからこそ、ここで彼の背中を押してあげたい。


 その気持ちは、しっかりとロバートに伝わったようだ。


「はぁ、分かった行こう」


 エイルがルイを見ると、「行ってきなさい」と目線で促してくれた。

 エイルは身支度を整え、ロバートと一緒に店の外に出ようとした。




 そんな時、ドアベルが部屋の中に鳴り響いた。

 訪問者はゆっくりと扉を開けると、音も立てずにすっと姿を現す。


 その人は、上品なエルフの男性だった。

 少し長めの金髪に、青い貴族服。

 とても大人びていて、多分エイルよりも年上だ。

 だが背中にある赤い大鎌を見るに、ただの高貴な人間でないだろう。


「失敬、ロバート・モーガンはいるか?」


 彼は、全く抑揚のない声で淡々と話した。

 感情というものが、全く感じられない。

 なんだか機械的に話しているような雰囲気だ。


 エイルはそんな彼に、恐怖を覚えた。

 人間なのに、人間味が全くない。

 ただきつい人物なだけかもしれないが、それにしては異様だ。



 気がつくと、エイルは正面を向いたまま歩を後ろに少し進めていた。

 ルイも少し警戒し、知らない訪問客から目を逸らそうとしない。


「オレが、ロバートだ」


 ロバートはゆっくりと相手に歩み寄った。

 大してエルフの男性は、彼をじっくりと観察する。

 彼が本当にロバートなのか見極めているかのように。


 しかしやがて満足したようで、ロバートをまっすぐと見据えた。


「ボクは、エドワード・ジキル。

 アクアマリン騎士団の刑事隊長を努めている」


 エドワードは懐から何かを取り出し、ロバートに見せた。

 騎士団の紋章が刻まれた、銀色のバッチだ。

 それが彼が嘘をついていないことを示していた。



 エイルの心臓が、一瞬高まった。

 刑事隊は、名前の通り都市内の事件や事故の調査を行う部隊だ。

 であれば彼が来た理由は明白だ。

 昨日の火災の調査だろう。


 でもどういうわけか、彼はエイルを凝視していた。

 まるで犯罪者を尋問しているかのように。

 そのことが、エイルの頭の中であの時の魔剣と村の悲惨な光景が蘇らせる。


(まさか、私を捕まえに来たの……?)


 エイルは何度もそれは違うと自分に言い聞かせた。

 でも嫌な考えというものはなかなか消えない。

 ただの火災事件に隊長が動くという違和感が、さらに悪循環を助長させていた。



 そうしてエイルが動揺しているのを、エドワードは見逃さなかった。


「……何をうろたえている?

 ()()()()()()()()


「え……? 何で、私の、名前を……」


 心臓の鼓動が、さらに騒がしくなった。


 彼とは一度も話したこともないし、会ったこともない。

 なのになんで、自分のことを知っているのだろうか?

 やはり彼は、エイルが魔剣を暴走させたことを知っているのではないか?


 そう考えずにはいられなかった。




 すると、ルイがエイルの肩を擦った。

 そしてエイルの耳を自分の口元に近づけて、そっと囁く。


「……大丈夫、騎士団員は皆このような感じだ。

 君が想像しているような事態には至っていない」


 彼の優しい声に、エイルは自然と肩を落とした。

 今まで抱いていた邪念も静かに消え、心臓の高鳴りも静かに収まっていく。

 そうして、エイルはやっと今の状況を冷静に判断できるようになった。



 エドワードはその様子を終始ずっと見ていた。

 しかしやがて見る価値を失ったと判断したかのように目を背けた。

 そして何もなかったかのように、ロバートに話しかける。


「昨日の火災の件で、いくつか聞きたいことがある。

 騎士団の本部まで同行を願おう。

 但しこれは協力依頼のため、強制はしない」


 ロバートは腕を組んで考え込み始めた。

 本人としては、いち早く自分で調査したいはずだ。

 事情聴取であまり時間を使いたくないだろう。


 でも、相手は捜査のプロだ。

 彼らと協力した方が、いち早く犯人を見つけ出すことができるかもしれない。

 それにいつかは、騎士団の捜査に協力しないといけないのは目に見えている。



 ロバートは、そう判断したようだ。


「……分かった、同行する。

 でも、1つオレの願いを聞いてほしい」


 エドワードはこれといった反応を示さず、ただ黙って要望を言うように促した。

 ロバートは一旦息を飲み込んで、思っていることを口にする。


「オレを現場に連れて行ってくれ!」


「無理だ」


 即答だった。


「アクアマリン騎士団捜査規範第88条により、我々は調査が終了するまで状況保存をしなければならない。

 それまで、捜査関係者以外は立入禁止だ」


 ……まずい。


 それでは、完全に騎士団に丸投げするしかない。

 でももし捜査が難航し時間がかかってしまったら、どうなる?

 最悪技術が盗まれていたら、そんな悠長に待っていては悪用されかねない。

 それだけは、避けないと。




 ロバートはしばらく、眉間にしわを寄せていた。

 しかしふと何か思い立ったようで、口を開き始める。


「……オレの工房には、侵入者用の罠が仕掛けてあったんだ。

 火事の原因は、それが作動した可能性がある。

 だが罠の数はかなり多くてな、オレ自身が現場に行って説明した方が早い」


「…………」


 とても気まずい沈黙が流れた。


 エドワードは目を細め、ロバートの腹の内を探っていた。

 頭の中では、せわしなく提案をじっくりと吟味している様子。

 一方のロバートも、自分の意思を伝えるかのように強気の姿勢だ。



 やがて、エドワードは後ろを向いた。


「……特例だ。

 ボクの指示に従う限り、立ち入りを許可する。

 だが少しでも余計なことをすれば、直ちに貴様を外に連れ出す」


 ロバートは首を縦に大きく振った。

 するとエドワードが歩き出し、彼もその後に続いていく。




 エイルはロバートの手助けができればと、2人の後についていこうとした。

 だがそれに気付いたエドワードが、いきなり大鎌を手にした。


「部外者は引っ込んでいろ」


 エイルは思わず、身震いした。

 彼の声色は一切変わっておらず、鎌もこちらには向けられていない。

 にも関わらず、禍々しい殺気が放たれている。

 従わないと斬るぞと言わんばかりに。


「警告だ、エイル・ハイパー。

 貴様は身勝手な行動が多すぎる。

 後悔したくなければ、凡人らしく自重しろ」


 怖くて頷くこともできなかった。

 隣にいるルイは、エドワードを睨みながらエイルを庇うように前へ出た。

 しかしエドワードは、一切それを気にしない。


「……ついでにもう1つ忠告だ。

 これ以上、ウィリアムズをたぶらかすな」


「えっ? ”ウィリアムズ”って……リコリスのこと?

 たぶらかすって……どういう……?」


 理解が追い付かない。

 彼は、リコリスのことを知っている?

 ……いや、兄のハイドが騎士団の人間なのだからあり得ない話ではない。


 でもなぜ、彼女のことをエドワードが触れるのだろう?

 というより、自分はリコリスに一切何もしていない。

 なのに、どうして彼女を惑わしているような言い方をしているのか?



 エイルが困惑している中でも、彼は睨んでいる。

 そのせいで、エイルの頭がパニックになりそうになった。


 そこで助け舟を出してくれたのは、ロバートだった。


「エイル、もし分かったことがあったらあとでオマエにも教えるよ。

 だからここで待っててくれないか?」


 そういって彼は、エイルを安心させようと爽やかな笑顔を見せた。

 正直納得できないところが多いが、エイルは引き下がった。

 エドワードも武器を引っ込めて、冷たい空気を纏いながらロバートと一緒に店を後にした。


<<人物紹介>>

名前:エドワード・ジキル

性別:男性

年齢:20歳

種族:エルフ

所属:アクアマリン騎士団 刑事隊長

特徴:「秩序の傀儡であれ」

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