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4-1. 珍獣討伐依頼

 ロバートが正式加入してから数週間した頃、エイル達はある魔物の討伐依頼を引き受けていた。


 その魔物の名は、"デザートホエール"。

 world Bに生息している魔物で、砂漠の中を泳ぎ回るクジラだ。

 なのに、なかなか見つからない。


「ねぇ、デザートホエールって本当に実在するんだよね?

 それっぽい後はあるみたいだけど……」


 事前に調べた知識では、相手はかなりの巨体だ。

 だが数日間泊まり込みで調査しても、魔物が通った後しか見つからない。

 しかも道中で無関係な魔物にも襲われるから散々だった。


「こんなもんだろう。

 奴は珍獣と呼ばれるほど個体数は少ない。

 だから野宿できるように色々持ってきたんだ」


 一番前を歩くアインツは、冷静にエイルに返した。

 少し不安になりながら彼を見ていると、ふと太陽の位置を確認し始めた。


「そろそろ夜になるな。

 風邪をしのげる場所を探そう」


 エイルは力なく頷くと、ロバートが励ますように肩を優しく叩いてくれた。



 エイル達は砂嵐に巻き込まれない場所を探し、テントを張った。

 寝ている間に遭遇でもしたら、自分達が砂に埋まってしまう。

 だからこそ、風を遮られる場所を選んだのだ。


 夜になるとロバートが夕飯を作ってくれた。

 スープなどの簡単なものだったが、とても美味しくてエイルはいつもお代りしていた。

 彼はその度、エイルの食べっぷりに苦笑しながらよそってくれる。


 ただし、アインツが混ざっていた赤パプリカをエイルの皿にポイッと投げた時はブチ切れていた。


「放り投げるな!!」


 ロバートがそう言うと、アインツはきょとんと彼を見る。


「捨ててないからいいだろ?

 生理的にダメなんだ、赤いやつは」


「だからって……んああもう!」


 ロバートは頭を掻きむしり始めた。



 アインツが冗談ではなくて本当に赤い物を体が拒絶するのは、彼もよく知っていた。

 ある時、アインツが間違えて細かく刻まれたトマトを食べてしまったことがある。


 それを知った途端、彼はトイレに駆け込み吐き出した。

 そして翌日には40度近くの熱を出し、一週間寝込んでいた。

 その時は皆で付きっきりで看病し、とても大変だった。


 それ以降、アインツの偏食について誰も言及しなくなった。

 本人曰く、アレルギーというわけではないらしい。

 いつも飲んでいる赤い薬が不味くて、トラウマになってしまっているようだ。

 だとしたら尚更、無理して食べろとは言えない。



 ロバートは折角作ったものをぞんざいに扱ったことに、腹を立てている様子。

 でも無理して食えとは言えず、どうすればいいのか分からないようだ。


「えっと……アインツ、もし赤い食べ物が入ってたら言って。

 そしたら私のお皿渡すから」


 エイルが困り気味に言うと、アインツは少し恥ずかしそうにどこか向いて頷いた。

 ロバートはそれを見て、ムスッとしながらも落ち着きを取り戻す。



 でも、一時期ロバートが責任を取る形でパーティーを脱退したのがウソのようだ。

 もうこんなに仲間と馴染んでしまい、今では彼は欠かせない存在だ。

 そう考えると、エイルは自然と笑みがこぼれていた。


 この日はそのまま、食後片付けして皆すぐ寝てしまった。






 翌日、荷物を片付けて再び魔物探しを始めた。

 しかしこの日は痕跡すら見つからず、ずっと右往左往していた。


「ねぇ、あと物資どれくらい持つ?」


 エイルが不意にロバートに尋ねると、自分が持つ荷物の重さを確認した。


「……予備も含めて、1日だな」


 つまり、明日までに見つけないと出直しする羽目になる。

 だからといって焦るのは禁物だが、何だかやるせない気分だ。

 出来ればこのまま戻りたくない。



 そんな中上の空で歩いていると、急に地面が揺れ出した。


「――何!?」


 エイル達は周囲を警戒した。

 周囲を見渡しても、何も生き物らしき影はない。

 だからと言って、ダンジョン内で地震が起きるなんて聞いたことが無い。



 揺れはどんどん大きくなり、立っているのもやっとだった。

 確実に、何かが起きている。

 でも、それが何なのか分からない。


 エイルが焦りながらも頭を回転させると、ある1つの考えが浮かぶ。


(まさか……下!)


 大慌てでその場から離れようと、砂を蹴ったその時だった。




 エイルの真下に、大きな空洞が開いた。

 そして左右に大きな壁のような、何かの顎が飛び出る。

 それがクジラの顎だと分かったときには、もう遅かった。


 突如現れたデザートホエールはそのまま、呆気にとられるエイルを飲み込むように口を閉じてしまった。


「っ!? エイル!!」


 青ざめたロバートが叫ぶも、魔物は何もなかったようにその姿を露わにした。

 砂漠にいること以外は、巨大なザトウクジラそのものだ。

 魔物はそのまま優雅にジャンプし、砂漠の中に姿を消してしまった。


「追いかけるぞ!」


 アインツは全力でデザートホエールの向かった先へと走り出した。

 気が動転しかけたロバートも咄嗟に、彼を追いかける。



 幸い魔物がいるところは砂が大きく盛り上がっており、居場所はすぐに特定できた。

 でもなかなか出てこないため、エイルの救出方法が思いつかない。


 ロバートは思い付きで、懐から小さい杖を取り出して詠唱を始める。


「轟く雷鳴よ、我が怒りに呼応せよ!

 汝の制裁を持って、敵を粛清したまえ!

 『裁きの稲光(ジャッジサンダー)』!!」


 すると激しい雷光が彼の杖から発射され、魔物へ向かって走り出した。

 反動でロバートは体のバランスを崩したが、相手は悲鳴すら上げなかった。


 だがダメージは通ったようで、砂から顔を出した。

 これなら何とかなるかもしれない。



 ロバートは思いつく限りの魔法をデザートホエールに向かって発動した。

 しかし相手にかすり傷を与えるだけで、エイルを救い出せそうにない。

 かと言って、敵があまりにも大きすぎて手持ちの魔道具で何とかできそうにもない。


「くそ! もう少し魔法がうまく扱えたら……!」


 彼の実力では、これ以上は限界だった。

 魔力も底をつきそうになっていて、これ以上攻撃するのも難しい。

 ロバートはただ、下唇に血を滲ませながら魔物の横を並走することしかできなかった。



 やがて、デザートホエールは再び砂に潜ろうとし始めた。


「やむを得ないか!」


 ここまで手出ししなかったアインツは、咄嗟に数多の氷柱を形成し始めた。

 そしてすべてを魔物にぶつけようと構えたその時だった。


「ボォォォォン!!」


 突然、デザートホエールは呻きだした。

 何かに悶えて、苦しそうにしている気がする。

 やがて魔物は甲高い声を上げて、砂の上をのたうち回り始めた。



 アインツとロバートは何事かと驚いてそのまま眺めていた。

 その内、魔物の腹から何かが這い出ようとしているのか、少しだけ膨らみ始めた。


「な、なにが起きているんだ……?」


 ロバートの呟きとともに、魔物の腹から切り裂くようにあるものが出てきた。

 鮮血の中に紛れて出てきたそれは、剣を抜いたエイルだった。




 エイルはそのままの勢いで、砂漠の上に放り出された。

 2人が慌てて近づくと、エイルは血と胃酸にまみれていた。


「ゲホッゲホッ!!

 し、死ぬかと思った……」


 エイルは飲み込まれた後、そのままの胃の中に入ってしまった。

 周りは暗いが、生臭い匂いで鼻が曲がりそうだった。

 このままでは消化されて死んでしまうのが、明らかだった。


 だからエイルは必死に、目の前の肉の壁を切り刻んで無理やり外に出たのだ。




 少し息を整えてからエイルがデザートホエールの方を見ると、体が徐々に崩れていた。

 どうやら抜け出した際に、一緒に止めを刺していたようだ。

 脱出の際に何か硬い感触があったが、どうやらそれがコアだったようだ。

 必死すぎたのと暗かったのが相まって、一切気がつかなかった。


「おい、大丈夫か!?」


「な、なんとか……少し体がひりひりするけど」


 ロバートに聞かれてエイルは自分の体を見た。

 所々、少し皮膚が溶けて火傷のような傷ができている。

 だが大した怪我はなく、普通に動き回れる余力も残っていた。



 更によく見た時、エイルは頭が真っ白になった。

 服が所々溶けて破けており、かなりきわどい格好になっていたのだ。


「――――っ!!!」


 エイルは顔を真っ赤にしてその場にかがみ込んだ。

 あまりにも恥ずかしすぎて、穴の中に埋まりたい気分だ。

 そんなエイルの反応に、アインツは不思議そうに首を傾ける。


「何恥ずかしがっているんだ?

 男に裸を見られても問題ないだろ?」


「……オマエ、自分が何を言っているのか分かってないだろ?」


 ロバートはドン引きしながらアインツを睨んだ。

 どうやらアインツはエイルを男性だと思っていて、ロバートは女性だと思っているようだ。

 中性的な見た目とはいえ、どうして性別を勘違いされるのかエイルには解せなかった。


 どっちにしろ、誰かに裸を見られること自体とんだ黒歴史だ。


「はぁ、もういい。

 確かこの辺りにオアシスがあったはずだ。

 エイル、そこで一旦体を洗って着替えた方がいい。

 アインツ、オマエはドロップアイテムでも拾ってろ」


 ロバートの提案に、アインツはなんだか納得できない様子。

 だがロバートが無言の圧力をかけ続けると、とうとう折れて了承した。


 エイルは彼に連れられて、オアシスで水浴びをした。

 その間、ロバートは遠くに離れて目をしっかりと逸らしていた。

<<アインツの一言メモ>>

全く、どうして七番は乙女みたいな反応をしたんだ?

ロバートも冷たい目で見てくるし、一体俺が何をしたって言うんだ?

……はぁ、どうでもいいか。

あいつが想像以上に恥ずかしがり屋ってことだけ覚えておこう。

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