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紙細工の英雄 ー大罪人が偉業を成し遂げるまでー  作者: 清月 郁
3章 傲慢な技術師ロバート
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外伝Ⅵ 伝説と学生の会話

 これは、ヤンソンとエイルが始めて出会った時の話。


 ヤンソンの門下生4人は伝説のOBであるアインツに偶然出会い、彼に少しの間講義をしてほしいと頼んだ。

 world Bに入った後、全員色々と魔術に関することで盛り上がっていた。

 だが皆興奮して我先にと話すせいで、アインツは一度に複数人の会話を聞かざるを得ない状況になってしまう。


「おいおい、少し落ち着け!」


 アインツはため息を漏らしながら、時間を置いて学生達の興奮の熱を冷ました。


「一気に話されても困る。

 順番に質問をしてくれ、十分に時間を取ってやるから」


 学生達はお互いの顔を見合わせた。

 流石に困り果てた彼を見て、申し訳なく思ったみたいだ。

 彼らは一斉にアインツに向かって「すみませんでした!」と頭を下げた。

 そして示し合わせたかのように拳を前に出し、白熱したじゃんけんが始まる。




 それから数分後、やっと順番が決まった。


「おっしゃぁぁぁ!

 うちが一番乗りじゃぁぁぁぁ!!」


 血気盛んな女子学生、ブリッタはみんなの前で勝利のガッツポーズを見せびらかした。

 敗北した人達は、皆悔しそうに彼女を睨みつけている。

 そんな光景を、アインツは満足そうに眺めていた。


「じゃ、早速質問させてもらいまーす!

 ……コホン、うちは先生のもとで魔術用の杖に関して色々と教えてもらっているんです。

 少量の魔力でより高威力の魔法が扱えるようにすれば、とても画期的かと思いまして」


「へぇ、それは面白いな」


 ブリッタは彼の反応を見て、目を輝かせた。

 それを皮切りに、アインツに向かって自分のアイデアをぶつけ始めた。

 材料を別のものに変えてみるとか、こういった回路を考えているとか、など。



 途中で他の学生が「そのアイデアはないだろ」と言って、時々茶々を入れてきていた。

 しかしアインツはブリッタの言ったことを否定することはなく、ただ黙って聞いてきた。


「……なるほど、お前は結構頭がいいんだな」


「えっ?」


 伝説の第一声が、まさかの称賛であることにブリッタは驚きを隠せなかった。

 そんな彼女をよそに、アインツは続ける。


「俺は魔道具に関しては並の知識しか持っていないから、細かいことは分からない。

 だがな、既存のものを壊して新しいものに挑戦するという姿勢は伝わってきた。

 しかもどれも現実味があるし、魔力の効率面で明らかな間違いはない。

 その調子で頑張れば、きっとうまくいくさ」


 皆言葉を失っていた。

 様子から察するにヤンソンからは色々とダメだしを受けていたようだ。


 しかしアインツは、全面的に認めた。

 技術面に関してはともかく、考え方は正しいと擁護したのだ。

 これほど、ブリッタにとって嬉しいことはない。


「あ、ありがとうございます……!

 アインツさんの言葉、絶対に忘れません!」


 ブリッタは鼻先を赤くして、深々と頭に下げた。

 彼女は恐らく、卒業した後は立派な技術師になるだろう。

 そして画期的なアイデアを世に出し、一躍有名になるはずだ。

 アインツはそう確信していた。




 ブリッタが満足そうにしていると、隣にいた学生が興奮気味に手を挙げる。


「はいはい、じゃあ次は俺の番だ!」


 そうして早口気味なクラースは、アインツにありったけの質問をぶつけ始める。

 魔法の相性、魔力向上の訓練方法、魔法の効きづらい魔物の倒し方……

 彼からは、疑問が絶えず飛んできた。

 周囲の人達が質問の数えるのも億劫なほどに。


 学生の一人のディックが、とうとう苛立ちを露わにした。


「おい、クラース!

 質問しすぎだ、こっちの時間も考えてくれよ!」


「えー! だってこんな機会滅多にないし、聞けることは全部聞きた――

 いででで! やめろブリッタ! 髪を引っ張らないでくれ!!」


 アインツを独占しすぎていたクラースを、隣にいたブリッタが制裁した。

 しかし彼の疑問が尽きることはない。

 アインツとしても全部に答えてあげたいところだが、流石にこれ以上は残りの2人に申し訳ない。


「もう1つだけ質問に答えよう。

 それが終わったら大人しく引くんだ」


 クラースは、少し不満げな顔を見せた。

 でも皆から冷たい視線を浴びせられたことで、渋々納得する。

 彼は少し考えた後、最後の疑問を口にした。


「じゃあ、これだけ……

 アインツさんって、遺物のことをどれくらい知ってるんですか?」


「……? 質問の意図が読めないんだが」


 遺物に関することは、一応魔法学校の講義でこと詳しく教わる。

 だから基礎的なことは、クラースも知っているはずなのだ。

 しかもまだ多くある疑問の中からこれを選んだのだから、本人にとって重大なことなのだろう。

 だからこそ、彼の要望に沿った答えをアインツは言いたかった。


「アインツさんって今魔法店で働いているんですよね?

 そこが遺物を鑑定できるって聞いたんです。

 だったら、アインツさんも詳しいかなって」


「ああ、そういうことか。

 学校で教わらないことを知りたいんだな」


 クラースはゆっくりと頷いた。

 確かに、遺物に関することはアインツも良く知っている。

 と言っても、詳細な種類とか話しても彼のためにはならないだろう。

 であれば、学生が知らない遺物の歴史について話すのが一番かもしれない。


「龍族を知っているか?」


「……何ですか? それ」


 クラースは口をポカンと開けていた。

 他の学生も何のことか分からず、眉間にしわを寄せている。

 アインツは少し笑みを浮かべて、説明を始めた。



 龍族は、大昔に実在した種族だ。

 彼らがどんな特徴を持っていたのか分かっていない。

 現在よりも発展した独自の技術を持ち、人々を導いていたのは確かだ。


 しかしある時を境に彼らの存在は消え、忘れ去られた。

 残されたのは彼らが発明した魔道具、”遺物”だけ。

 そのため、知る人達には”おとぎ話の種族”と言われている。


「そ、そんな種族がいたんですか!?」


 クラースは目玉が飛び出そうな勢いで驚愕していた。

 世界のほんの一握りで、ヤンソンでも知らないはずだ。

 それくらい、彼らのことは知られていないのだから。


「ああ、確かに存在した。

 どうして彼らが姿を消したかも、なぜ知っている人達が口を噤んでいるかも謎だ。

 でも遺物の存在自体が、龍族がいた何よりの証拠だ」


 アインツが学生達の方を向くと、信じられない目を向けていた。

 だが真剣な眼差しを返すと、作り話ではないことを理解した様子。

 皆、とんでもない情報を聞いて戸惑っていた。


「……さて、質問の答えはこれで十分だろう。

 次、行こうか」


 アインツは少し気まずい空気を変えるために、話題を変えることにした。

 クラースも文句を言わないので、特に問題はないだろう。

 そうして次のエルフの女の子、イェリンの番となった。




 イェリンは突然、その場でもじもじし始めた。

 どうやら緊張しているらしい。

 ……質問順を決めるときは、皆にも劣らない気迫を見せていたが。


「あ、あの……アインツさんが魔法に興味を持ったきっかけって……何ですか?」


「……ほう?」


 アインツは口に手を添えて、少し考え始めた。

 周囲の学生達も、かなり興味津々な様子。

 ここは話せることを素直に話したほうがいいだろう。


「俺は元々孤児でな、小さい頃に魔法店の店主のルイに拾われたんだ。

 彼はとても魔法に詳しくて、沢山専門書がを持っていたんだ。

 それを暇潰しに読んでたら、『魔法に興味あるのか?』って聞かれてな。

 その時はそこまでじゃなかったんだが、何となく頷いたら色々と教えてくれて、魔法の面白さと有用性を知ったんだ。

 ……で、今に至るというわけだ」


 皆、黙り込んでいた。

 さっきの龍族の話の時と同様、衝撃が走ったらしい。

 しかしアインツ本人は、一体どこにそんな驚く要素があるのかわからなかった。


 やがて、イェリンが皆の疑問を代弁し始めた。


「アインツさんって、てっきりどこかの裕福な家の生まれかと……」


「そんなに驚くことか?

 俺は選ばれた人間ではないからな。

 むしろ――」


 アインツはその時、空を見上げながら言葉を詰まらせた。

 一体何事かと学生達が顔を覗き込むと、どこか少し陰りがあった。

 まるで忘れたいことを思い出したかのように。


「……いや、よそう。

 これ以上暗い話は良くないだろうからな。

 君の好奇心は満たされたか?」


「え? うーん、まぁ……」


 困り気味のイェリンをよそに、アインツは何もなかったかのように爽やかな笑みを返した。

 本人としては過去を掘り返すこと自体、特になんとも思っていないらしい。

 だが、あまり赤の他人に言うようなことではないと判断したようだ。

 イェリンは少し納得できていなさそうだが、何も言わなかった。




 残りは気さくな学生、ディックだけだ。

 彼は相変わらずご機嫌なアインツに向かって、話し始める。


「へへっ、やっと俺の時間が来た!

 アインツさん、この前あんたが書いた論文を読んだんだ。

 勉強不足で分からないところが多かったが、奇想天外なところが多くてすごかったぜ!」


「くくっ、当たり前だ。

 あれは俺の集大成だからな」


 アインツは明らかに、今までの中で一番ハイテンションになっている。

 それだけ論文に触れてくれたことが、相当嬉しかったようだ。

 ディックは心の中でガッツポーズを取りながら、話を続ける。


「そこで思ったことがあるんだ。

 人間って、魔物みたいにコアがないから魔法を扱うのに苦労しているんだろ?

 もし体内にコアを埋め込んだら――」


「ダメだ」


 突然、アインツは聞いたことのない低い声を出した。

 彼の顔からは笑顔が消え、汚物を見るような目でディックを見ている。

 あまりもの豹変ぶりに、学生達は一斉に身震いしてしまった。


「い、いやぁ……

 流石に実際にはできないけど、仮定のはな――」


「仮定も何もない。

 議論する意義もない」


 アインツは一切反論の余地を与えなかった。

 ここまで皆の話を否定しなかった彼が、真っ向から話を拒否している。

 ディックは驚きと恐怖で、言葉を失ってしまった。



 アインツからはとても強い怒りが滲み出ていて、恐ろしい形相になっている。


 ……いや、怒りと言う生易しいものではない。

 凍えそうな空気。

 心臓を圧迫される痛み。

 首に刃を突きつけられているような緊張感。


 ――これは、強烈な”殺気”だ。


「いいか、人間を使った仮説や実験は絶対にしてはいけない。

 例え頭の中だとしてもだ。

 いつか必ず、痛い目を見るぞ」


 ディックは思わず後ずさりした。

 アインツの警告は、命の危険を感じさせるような気迫を纏っていた。

 「無視したら殺す」と言わんばかりに。

 でもどうしてここまで怒っているのか、ディックには理解できなかった。




 言い訳でもしようと彼が言葉を探していると、後ろからヤンソンが声を掛けてきた。


「皆さん、そろそろ目的地に向かいましょう」


 そこで重たい空気は、どこかへ消えてしまった。

<<ラトーの一言メモ>>

アインツの旦那、楽しそうですねぇ。

ですがあの反応……誰か逆鱗をつついてしまったのでしょうか?

ああ見えてあの方、結構色々抱え込んでいそうですから。

おお怖い怖い、アタシも気をつけないと毛をむしられそうだ。

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