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紙細工の英雄 ー大罪人が偉業を成し遂げるまでー  作者: 清月 郁
3章 傲慢な技術師ロバート
33/40

3-3. いざ、world Bへ

ロバートと出会ってから一週間後、早速三人でworld Bに潜入することになった。

その前にまず、リコリスに頼んでロバートがダンジョンに入れるように手続きをした。




エイルとしては、ロバートをもう正式な仲間として迎えてもいいと考えていた。

出会って日が浅いが、彼はとても誠実でどこか信用のおける人だと感じていたからだ。


ロバートはルイから頼まれたことはしっかりと完璧にこなして、時には期待以上のことまでやってくれる。

それに自作の魔道具を持ってきたことがあったが、全て性能が優れている上に説明書なしで扱えるほど使い方がシンプルだった。

実際、店頭に並べてみるとすぐに売れてしまうほどだ。


たまに良心で客の個人的なことに突っ込んでしまい、厄介ごとに巻き込まれがちなのが唯一の欠点かもしれない。

だが、そこがかえって親しみやすい。

話も合うし、エイルは自然と好印象を持っていた。



しかしアインツの意見で、自分たちとの相性を見極めるためにロバートは仮加入となった。

確かにパーティーのリーダーとして慎重になるのは正しいのかもしれない。

仮加入の理由ももっともだ。


だが二人は時間の合間によく専門的なことを討論していて、素人目に見てもとても白熱しているようだった。

普通ならあそこまで話していれば、お互いの腹の内くらい見えてくるだろう。


それでも未だにアインツはまだ完全に気を許していないようで、どうやら彼にとってロバートは赤の他人のようだった。

ロバートは気にしていないどころかむしろその方が気楽なようなので、心配しすぎなのかもしれない。

でもアインツは、わざと距離をとっているように見える。

自分の時は出会った当初から手を差し伸べてくれたことを思い出すと、エイルとしては少しやるせなかった。




そんな気持ちを無理やり奥にしまい込む中、手続きはすぐに終わってしまった。

一枚の書類にロバートとアインツがサインするだけで、代筆係をしているエイルの出番は一切なかった。


「仮加入期間は三か月となり、延長は原則できません。

そのため期限が来ましたらモーガン様を正式に加入するかどうか決めて頂く必要があります。

それまでに見極めてくださいね」


リコリスはいつものようにアインツに笑いかけた。

アインツも軽く返事をするだけで、早くダンジョンに行きたい様子だ。


一方、ロバートの方は少し顔が火照っているような気がする。

この場所が暑いのか、はたまたこれからダンジョンに行くから緊張しているのか。

恐らくそんなところだろう。


……ただ妙に目線がいろんな方向に行っているのが気にはなったが。

リコリスは何かを察したのか、そんな彼に優しく微笑んでいた。

まるでロバートをからかうように。






その後、リコリスにworld Bの入り口の扉まで案内された。

見た目はworld Aの扉と全く同じ石製で、これといった違いはない。

恐る恐る重い扉を開けた先も、これまでと同様に黒い壁のようなものが目の前に広がっているだけだった。

彼女は仕事が溜まっているようで、エイル達の無事を祈り名残惜しそうに自分の持ち場に戻ってしまった。



world Bはworld Aよりも強くて狂暴な魔物が多く生息している。

加えて緑あふれる自然の世界が広がっているわけではない。

エイルはロバートと一緒に、その場で息を飲んでいた。


その一方で、これからの探索に胸が高鳴っている。


「ほら行くぞ」


アインツは仲間の気持ちを気にすることなく、world Bへ入ろうとした。

エイルも少し置いてかれそうになりつつも、彼に続いて歩き出す。


「待った」


そそくさと行くエイル達を、ロバートは冷静に引き留めた。


「入る前に、オマエらが普段どんな風に探索しているのか確認してもいいか?

どんな方針で動くつもりなのか知っていた方が、お互い連携しやすいだろ?」


確かに、その通りだ。

急に魔物に遭遇した時に、皆の行動指針が分かっていた方が動きやすい。

アインツでも言わなかったことを指摘するなんて、彼の思慮深さに感心してしまう。




アインツは少し頭を整理した後、ロバートに今までの探索の仕方を共有した。


「――はぁ!?」


最後まで話を聞いたロバートは、物凄く呆れていた。

いや、それを通り越して怒りを露わにしている。


「オマエ、エイル一人に戦わせていたのか!?

強くするためとはいえ、いくら何でもそれはないだろ!」

「だが俺が介入すれば、こいつのためにはならない。

一時的に他のパーティーと共闘していたし、危険な時は俺も参戦した。

それに、これからは()()()()()()()積極的に戦うつもりだ。

何も問題はないだろう?」


ロバートは開いた口が塞がらない様子だ。

当然だろう。

彼なりに精一杯考えてのことだろうが、流石に自分の負担が大きすぎると前々から思っていた。

彼が加わったことに、エイルは改めて嬉しく思った。


「はぁ……オレは正式なメンバーじゃないからこれ以上は止めておく。

但し、オレはエイルの手助けをさせてもらうからな?

オマエらの役に立てるよう、いくつか魔道具を持って来てるし」


アインツは何か言いたげの様子だった。

対してロバートは、これ以上譲歩するつもりはないらしい。

鋭い目つきでアインツを睨んでいて、いつ噛みついてもおかしくない勢いだ。


だがやがてアインツは大きなため息を溢し、下を向いた。


「ハァ……ほどほどにな」

「え……」


アインツが、折れた。

いつものような余裕ぶりはどこにもなく、なんだか小さくなっているように見える。


エイルは驚きを隠せなかった。

まさか、こんな彼を見ることになるなんて。

エイル一人では、アインツにここまで譲歩させることはできなかっただろう。

もしかすると、ロバートの存在はこのパーティーではとても大きいものなのかもしれない。

まだ彼が入って間もないというのに。



「じゃあ基本的に私が前衛でロバートがサポート、アインツは予備戦力って感じになるのかな?」

「どうやらそうらしいぜ?」


エイルの言葉に、ロバートは同意した。

アインツも少し不満そうだが、何も言い返さなかった。

彼も賛同したと受け取っていいだろう。




打ち合わせが終わった後、三人はworld Bへの扉を潜り始める。


「……俺が『予備戦力』、か。

もっと良い言い方があっただろうに」


ふとエイルの横を通り過ぎる際に、アインツがボソッと呟いた。

どうやら不機嫌だったのは丸め込まれたわけではなかったらしい。



文句を溢したいのはエイルの方だった。

確かにアインツの実力は常人離れしているが、ほとんど手伝ってくれない。

少しはリーダーらしいことをしてもいいのではないか?

そう考えずにはいられなかった。


どうやらロバートも同じことを思ったようだ。


「アイツ、一回ぶん殴ってやりたい」

「……同感」


ロバートの小さな愚痴に、エイルは無意識に返してしまった。

<<リコリスからの一言メモ>>

モーガン様って……ふふっ。

私を見てあんな可愛らしい反応をなさるなんて、いじり甲斐がありそうですね。

でも、私の心はエイル一筋ですよ?

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