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外伝Ⅲ 百合デート!?

本エピソードには、作者の短編小説『チート勇者が魔物を殲滅する旅の先には―――』の内容が含まれています。

本編には直接関わりはありませんが、物語をお読み頂くとより一層楽しめる内容となっております。

ぜひ、そちらも併せてご覧ください。


ある時、エイルは最近根詰めてダンジョンに籠っていたため息抜きをすることになった。

しかしいきなり休めと言われても何をすればいいのか分からない。

どうしようかと悩んでいると、ふとリコリスのことを思い出した。


以前シルヴィ達がご飯を奢ってくれた際に彼女を誘ったが、急な仕事の関係で行くことができず落ち込んでいたことがあった。

その時は後日一緒に出掛ける約束をしたが、今がちょうど良い機会かもしれない。




エイルはリコリスと予定を合わせて、次の休日に公園で待ち合わせをすることになった。

当日のお昼前、公園のシンボルである噴水の前にエイルは立っていた。


都市はどこも賑わっているが、ここも例外ではなかった。

老若男女が色々な場所で思うように過ごしており、傍から見ていてとても心が和んだ。

遠くではカップルらしき男女が肩を寄せ合ってよい雰囲気を醸し出している。

あまりにも二人の愛が熱く、思わずエイルは顔を赤くして下を向いてしまった。




「ハイパー様!

遅くなって申し訳ありません!!」


声のした方を向くと、リコリスがこちらに向かって走り寄ってきていた。

彼女は相変わらずゴスロリファッションで、公園内でも少し目立っていた。


「ううん、そんなに待っていないから大丈夫だよ」

「いえ、本当は一時間前に到着する予定だったんです。

ですが、目覚ましをかけ忘れてしまって大慌てできたんですよ!」


リコリスは少し息を切らしていたが、今の時点でも待ち合わせより十五分早い。

そんなに慌てる必要ないのにと、エイルは言葉が出かかった。

しかし今日の約束をしたときに楽しそうにしていた彼女の表情を思い出すと、言い出せなくなった。



「ハイパー様、本日はどうしましょうか?」

「え?あ……」


リコリスから質問された時、エイルは待ち合わせ以外に何も決めていないことに気づいた。

……どうしよう?

正直、エイルはこれまで訓練一筋で友達と出かける経験をあまりしたことが無い。

こういう時、どうすればいいのか全く分からなかった。


「えっと……ごめん、何にも決めてないや…………」


エイルは必死に考えたが、何も良い案が思い浮かばなかった。

こういった時は、素直に言うしかない。

リコリスに対して、とても申し訳ない気分だ。


「えへへ、大丈夫ですよ!

こんなこともあろうかと、いくつかプランを用意してきました!

ゆったりと過ごす『のんびりコース』と濃密な一日を過ごす『いちゃいちゃコース』、どちらが良いですか?」


(い、イチャイチャ!!??)


思わず頭の中にほんの一瞬だけ、とんでもなくピンクな光景が浮かんでしまった。

だがすぐに一体自分は何を考えているんだと言い聞かせ、エイルは焦点が合わない中よこしまな考えを振り払った。


一方でリコリスは嬉しそうに、尖った耳をぴくぴく上下に動かしている。

この子、意外とぐいぐい来るタイプなのだろうか?

彼女の計画性には救われるが、こちらが恥ずかしさで爆発しそうだった。

エイルは溺愛する恋人と一緒にいる気分になってしまった。



「じ、じゃあ、のんびりコースで……」


照れくさそうにエイルが答えると、リコリスは少ししょんぼりしていた。

どうやらいちゃいちゃコースを選んでほしかったようだ。

だが彼女の様子を見ても、エイルには選択を変える勇気がなかった。


「……コホン。

では早速最初のプラン、昼食へと参りましょうか」


リコリスは自分の気持ちを飲み込んだ後、いつもの無邪気な笑顔を見せた。

そして少し戸惑っているエイルの手を引いて、都市で有名なレストランへと引っ張っていった。






格式のある店内の雰囲気の中、二人は食事を楽しんでいた。

日常の愚痴や最近の噂話に花を咲かせる中、注文が決まったときや水が足りなくなった時はリコリスが積極的に店員を呼んでいた。

その姿は、まるでとても頼りがいのある彼氏のようだった。


だがリコリスは女性で、今回はデートではなく友達との遊びだ。

エイルは時々、自分がリコリスと付き合っている感覚に襲われ鼓動が高まっていた。

その度にエイルは首を横に振るが、リコリスはその様子を見てきょとんとしていた。


「そういえば、『ギルドの七不思議』をご存じですか?」


彼女から知らない言葉が発せられたことで、エイルは我に返ることができた。




冒険者ギルトの職員の間では、次の七不思議が密かに噂されているようだ。



①ダンジョン内には実在するはずのない冒険者がいる

②夜になると、ダンジョンの入口から死んだ冒険者が戻ってくる

③各世界の最強の魔物、ノスフェルは人の言葉を話す

④ギルド内で仮眠をすると水音がすることがある

⑤ギルドの最奥には誰も入れない隠し扉がある

⑥真夜中廊下を歩くと、白い服の少女が現れる

⑦ギルドの代表は幽霊で、設立されてから1000年もの間交代していない



ざっくりまとめるとこんな内容だった。


「一つ目って、もしかしてラトーのこと?」

「そうなんです!もしかして、既にお会いしましたか?」


エイルが頷くと、彼は本当にギルドに登録された形跡がないとリコリスが説明してくれた。

だがギルドは冒険者以外のダンジョンの立入を禁止しており、厳重に管理している。

余所者が勝手に入ることは決してあり得ないことだ。


彼に関しては色々な憶測が飛び交っているが、本当のことは分からずじまいだそうだ。

そう考えると、確かに七不思議のひとつとしてふさわしいだろう。




エイルが最も興味を惹かれたのは、最後の七つ目だった。

彼女の話では、幽霊なのかは分からないが代表が交代したという記録は本当にないそうだ。

実際、彼女でも代表の姿を見たことが無いらしい。

ある人の話では、五つ目の噂である謎の扉の先に鎮座しているのではないかということだ。


ギルドはとても身近な存在なのに、こんなにも謎が多いというのは予想外だった。

もしかすると、都市の中で最も謎めいた組織なのかもしれない。




「あ、もうこんなに話し込んでしまいましたね。

次のプラン、移行しますか?」


時計を見ると、もう二時間近くレストランに居座っていた。

確かにこれ以上は店側に迷惑をかけてしまう。


エイルがそうだねと告げると、リコリスは二人分の会計を気づかないうちに済ませて再びエイルの手を引っ張っていった。






次に連れられてきたのは、大きな劇場だった。

この劇場は、“ストロベリークォーツ劇団”と呼ばれる都市では有名で大きな演劇集団の本拠地だ。

演劇の練習という名目で役者がダンジョンに潜ることがあり、エイルでもその名前を聞いたことがあった。


あまりにも人気で、当日券は取りづらいとパナサーから以前愚痴をこぼしていた。

しかしリコリスはあの手この手を使って、なんと二人分のチケットを事前に入手していた。

そのため二人は難なく、前の方の席に座りゆっくりと劇を鑑賞することができた。




上演されたのは、孤独な勇者が魔物を狩る旅に出る物語だった。



主人公の彼は、謎の強力な力を以て魔物に脅かされた世界を救っていった。

しかし彼は何故か誰にも打ち解けることなく、やがて人前から姿を消していった。


主人公がこのような行動をとったのには、しっかりとした理由があった。

なんと彼は人々を魔物に変え、この世に解き放った張本人だったのだ。

本人にはそういった意図はなかったが、彼自身も魔物化の呪いに苦しんでいた。


魔物を殲滅した彼は、世界の守護者である女神に見守られながら最後の魔物である自分自身を自らの手で消し去り、この劇は幕を閉じた。



この台本自体は昔から言い伝えとなっているおとぎ話の1つだ。

だが主人公の境遇と自分の境遇で重なるところがあり、何も考えずにはいられなかった。


主人公が自ら命を落とす際、女神は「そなたは真の勇者であった」と告げた。

自分もおとぎ話のような英雄になるために、彼のような選択ができるだろうか?

そう思うと、女神の最後の言葉が頭から離れなかった。



加えて、俳優の演技がとても素晴らしかった。


特に主人公役の劇団の副団長は、声のトーンから指先の動きまで繊細に演技をしていた。

彼の動きは遠目で見ても空虚で胸が締め付けられてしまうほどだった。

それに魔物を倒す時の戦闘もとても美しく、演技の美と戦闘の美が見事にマッチしていた。

こんな見事な演劇、恐らく一生に残る思い出になるかもしれない。




客席が明るくなった時に隣を見てみると、リコリスが号泣していた。


「こ、こんな結末……私、受け入れられません……!!」


周囲の人達が次々と席を立つ中、彼女はエイルに抱きついてわんわんと泣き始めた。

エイルは服をぐっしょりと濡らしながら、リコリスを連れて劇場を後にした。






その後いろいろな店でウィンドウショッピングをしていたが、気が付くと暗くなり始めていた。


「本日の私のプラン、いかがでしたか?」


前を歩いていたリコリスがエイルの方を振り向くと、いつもの無邪気な笑顔を見せてくれた。


「うん、とっても楽しかったよ!

こんな充実した一日を計画してくれて、本当にありがとう」


エイルは素直に感謝を口にした。

リコリスは「いちゃいちゃコースだったらもっと楽しめたのに」とボソッと呟いたが、まんざらでもない様子を隠せないでいた。



「あ、あの、ハイパー様」


リコリスは少し姿勢を正してもじもじし始めた。

エイルもつられて、少し顔が熱くなってきてしまった。


「その、これから『エイル様』とお呼びしても良いですか……?」

「えっ?」


彼女の言葉に、少し拍子抜けしてしまった。

深刻な話をされるのかと思ったが、思ったよりも些細なことだったからだ。


「もちろんだよ!

むしろ呼び捨てでもいいよ」


当たり前のようにエイルが返事すると、リコリスの顔はパッと明るくなった。

そして目がうるうるし始めたかと思うと、思い切りエイルに抱きついた。


「ありがとうございます、エイル!!」


エイルは彼女の反応に少し驚いた。

だけど悪くない気分で、リコリスの背中に肩を回した。




「――エイル。

私、エイルのことが好きです」


突然の彼女の発言に、エイルは思わず声をあげそうになった。


「私、これからもあなたのサポートを続けたいです。

ずっと、エイルの味方でいたいです」


リコリスの言葉は、なぜか少し震えていた。



エイルも、リコリスとこれからも仲良くしたかった。

こんなに自分のことを思ってくれる人には、初めてあったかもしれない。

ずっと彼女と()()でいたい。




エイルはリコリスの頭を優しくなでた。

すると、彼女の力が自然と強くなった。

まるで今の感触を忘れまいとするかのように。


しばらく二人は、そのまま抱き合っていた。






その様子を、遠くの屋根の上からリコリスに瓜二つの男性がじっと眺めていた。


<???の一言>

………………

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