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2-9. 最強生物の出現

オーガの一件から、エイルはシルヴィ達と一緒にダンジョンを探索するようになった。

いや、協力と言った方が近いかもしれない。

持ち回りでクエストを発注、そしてみんなで攻略していた。




戦いはエイルの成長を考慮して、エイル中心で行っていた。

もしエイルで対処が厳しいときは三人がフォローし、改善点があれば丁寧に教えてくれた。

彼女たちのアドバイスはとても的確で、十分に参考になった。



特に間近で他の人の戦い方を観察できることが、エイルの大きな刺激となっていた。

シルヴィは双剣を使ったスピード重視の戦い方で、相手を翻弄させる。

フィーネは魔法剣士で派手に戦いながら、敵を引きつけつつ攪乱する。

ユリアは前衛が対処できないところを埋めたりして、味方のフォローに回ることが多い。


エイルは主に考える前に直感を頼りにする戦い方をしていた。

だが勘が全て当たるわけもない。

そのためあらゆる場面で対処できるような、スピードもあり小回りの利く戦法がエイルにはとても適していた。




そんな戦い方で参考になったのは、シルヴィの動き方とフィーネの回避の仕方だった。


シルヴィは駆けるとき、体の重心を前に傾け、姿勢を低くしていた。

姿勢など気にしたことのなかったエイルだったが、試しに真似てみると今までよりも明らかに速く動けた。

もしかすると重心の位置をもっと意識して戦えば、移動以外の動きももっと速くなれるかもしれない。



一方のフィーネは敵の攻撃を認識すると、軌道を予測して必要最低限の動きで躱していた。

大きい攻撃の時は全力で逃げるが、簡単に回避できるときはうまく体をひねらせていた。

確かにいちいち大げさに回避していれば、余分に体力を消耗するだけだ。


シルヴィの時と同様にエイルは実践してみたが、今度は攻撃の軌道をうまく避けることができなかった。

それを見たフィーネは、まず相手の動きをよく観察する訓練をするようにアドバイスした。



おかげでエイルは以前オーガ一体でとても苦戦していたのに、今ではもう確実に倒せるようになった。

今まで一人で黙々と戦っていた時と比べて、最近の成長はとても目まぐるしい。


(これなら、おとぎ話の英雄みたいに強くなるのも本当に夢じゃないかも?)


三人との出会いは、エイルの自信をより強くするきっかけとなった。




そんな中、アインツは相変わらず少し離れたところで読書していた。

何度かシルヴィ達に小言を言われたものの、自分が参戦したら秒で終わると言って流していた。

彼の態度に彼女たちは怒りを露わにするが、エイルが仲裁に入ることが日常茶飯事だった。

だが最近みんな説得するのをあきらめたようで、アインツはいないもの扱いされるようになった。






そんな日々が続く中、エイルはこの日だけ森の様子がおかしいことに気が付いた。

いつもは小鳥のさえずりが聞こえているのに、今日はなぜか異様に静まり返っていた。

加えてクエストの対象となる魔物を探しにかなり奥まで進んでいるが、気配すらない。


「ね、ねぇ。

ちょっと、おかしくない?」


フィーネも気が付いたようだ。

シルヴィとユリアの様子を見ると、二人は少し顔がこわばっていた。


エイルも背筋がとても寒くなった。

流石に今の感じは異質すぎる。

一旦world Aから出た方がいいかもしれない。




そう、エイルが言いかけた時だった。

前方の木影から、ぬるりと何かが顔を出した。



3m以上はあるだろうか?

人型の魔物だった。

全身が樹皮で覆われており、木でできた人間のようだった。


足は牛のようにずっしりとしていて、手は鷹のように鋭い。

顔の部分は羊の骸骨のような見た目で、目の奥から淡い光が漏れていた。

他の魔物と比べてその姿は、明らかに異質だ。



こんな魔物、見たことがない。

こんなに禍々しい生き物なんて、初めて見た。

まさに、()()だ。




あまりにもの光景に、一行はその場から動けずにいた。

やがて怪物は、ゆっくりとこちらを向いた。

恐ろしい目の中には、狂気と殺気、そして獲物を見つけた喜びが入り混じっている。


「――逃げろ!!」


アインツの一声に、みんな一斉に走り出した。




「あ、アレ、いったい何!?」


エイルが全速力で走りながら、みんなに聞いた。

するとシルヴィが強張った顔をしながらエイルの方を向いた。


「“ノスフェル”だよ!

騎士団でも戦いを避けるほど、厄介な奴!

あんなのと戦ったら、いくつ命があっても足りない!

滅多に出くわすことはないのに、今日は運がついてないわ!」

「エイルはん、外に出ることだけを考えや!

他のことは一切気にしちゃあかん!!」


後ろからは、太い木々をなぎ倒す音が聞こえてくる。

確実にあいつは追いかけてきていた。

エイルはユリアの怒号の通りに、ただ前だけを向いて走った。




息が切れて足がもつれそうになった頃、背後が静かになっていることに気づいた。

さっきまでの異様な気配も感じられない。

もうあきらめたのだろうか?


気が少し抜けた時、後ろから何か空を切る音が耳に入った。


「危ない!!!」


何かを察したユリアが、急にエイルを押しのけた。

思考が追い付いていないエイルの目の前で、彼女の肩を何かが貫いた。

そしてそのまま、エイルに覆いかぶさるかのように倒れ込んだ。


「ユリア!?」


一部始終を見ていたシルヴィとフィーネが慌てて駆け寄った。

ユリアはうなりながら動けそうにない。

ノスフェルから放たれたものはそこまで大きくなかった。

傷口はそこまで大きくないはずだ。



だが、彼女の苦しみ様は尋常ではなかった。

まるで腕が切断されたかのような激痛に耐えているかのようだった。


「もしかして、毒……?」


だがそれにしても、なんか変な感じがする。

ユリアの傷口のあたりが、服の下で少しもぞもぞと動いている気がしたのだ。

もしかすると毒よりも厄介なものかもしれない。



どのみち、今すぐ対処しないと危ないのは確かだ。

しかし、奴はこちらにゆっくり近づいている。

一体どうすればいいのだろうか?


「一旦どこかに隠れるぞ」


アインツはユリアを抱えると、出口とは別の方向に走り始めた。

エイル達も彼に続いて、その場を離れた。




彼が向かった場所は、ジャイアント・アントの巣窟だった。

主は危険を察知したからなのか、周囲に影すらなかった。

一行は一目散に巣の中に入った。


外ではノスフェルがうろうろとゆっくり歩き回っている音が聞こえる。

どうやらこちらを探しているようだった。



アインツはユリアを降ろすと、傷口を見ようと彼女の服をめくった。


「何……コレ…………」


ユリアの肩からは、白いユリのような小さい花が咲いていた。

咲き誇っている花だけ見れば、とても綺麗なのだろう。

しかし花には点々と鮮血が付いており、光が反射してキラキラと輝いている。

それに彼女の皮膚から根のようなものがうっすらと浮き上がっている。

エイルは思わず目を逸らしてしまった。



アインツは手で口を抑えて険しい顔をしながら、その植物をじっくりと観察した。


「……見たことのない植物だ。

だがこれは宿主の体力を徐々に奪って、死に至る厄介な奴みたいだ。

あのノスフェルは、こうやって獲物を弱らせて食事にありついているんだろう」


アインツの冷静な分析に、エイルは気分が悪くなってしまった。

その間にも、植物は徐々に成長していた。

一瞬引き抜こうかと思ったが、明らかにユリアの体の深くまで根を張っている。

無理やり引っ張ったら、かえって悪化するかもしれない。


「どうやったら治せるの……?」

「見たところ、取り除く前に彼女の命が尽きてしまう可能性が高い。

でも、“魔物が植え付ける植物”は大抵植え付けた魔物を倒せば枯れることが報告されている。

確証はないが、ノスフェルを倒せば助かるかもしれない」


シルヴィとフィーネは絶望するしかなかった。

あんな化け物と戦っても、勝てるのか分からない。

だがこのままではユリアを見殺しにすることになる。

二人はどうすればいいのか分からなかった。




エイルは一度深呼吸した。

一度気持ちを落ち着かせると、エイルは装備を整えて外に向かって歩き出した。


「ど、どこに行くの?」

「……あいつを倒しに行く」


フィーネの問い対して、エイルは迷いを一切見せなかった。

シルヴィ達は一瞬驚いたが、反射的に止めようとした。

その前に、エイルは続けた。


「ユリアは私を庇ってこんなことになっちゃった。

だから、絶対にユリアを助けないといけないんだ。

止めないでね。

私はもう、二度と後悔なんてしたくない」


そう言うエイルの頭には、あの日の村の光景が浮かんでいた。




自分の軽はずみな気持ちのせいで、故郷と大切な人達を失った。

そのことを忘れたことは一度もない。

今でも夢に見てうなされることがある。


あの時、魔剣を手にしていなければよかった。

もっとちゃんと剣の練習を積んで、勝利を取りたかった。

もっと、アルメリアと話したかった。

そんな後悔を、いったい何度したか分からない。


だからこそ、もうこれ以上後悔なんてしたくなかった。

最大限の努力をして、できる限りのことをやりたい。

それが、罪を背負う自分の責務のような気がした。


エイルの意思はもう固く決まっていた。




「全く、ユリアを助けたい気持ちはシルヴィ達も同じよ。

シルヴィも一緒に行く。

ユリアを苦しめているアイツに、ぎゃふんと言わせてやるわ!」

「う、ウチも一緒に行く!

正直言うととても怖いけど、大事な仲間を見捨てるわけにはいかないから。

そ、それにエイル一人であんな奴のところに行くなんて見てられないよ!」



エイルの決意を見て、二人も迷いが消えた。

シルヴィとフィーネもエイルに続いて、装備をまとめた。

アインツは少しため息をついたが、みんなを止める気はないようだった。


「アインツ、ユリアをお願い」

「分かった、できる限りのことはやる」


エイル達はアインツとユリアを残して、ノスフェルの方に向かって歩き出した。


<<ルイの一言メモ>>

ダンジョンの各世界には、ノスフェルと呼ばれる狂暴な生物が潜んでいる。

奴らは尽きることのない欲のままに人間の血を貪り、遭遇した多くの冒険者が命を落としたと聞く。

だが、エイルのそばにはアインツがいる。

心配する必要はないだろう。

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