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2-1. 冒険活動の再開

物取りを追い返してから二週間経った頃には、エイルは全快していた。

アインツも既に体調が回復しきっており、すっかり顔色が元通りだ。


療養中エイルは無理のない範囲で基礎訓練をしつつ、魔法店の手伝いをしていた。

と言っても、エイルは魔法に関することに疎いのでルイの指示通りのことをしただけだが。


その際に、二人から色々ためになることを教わった。




まず、強い冒険者は一つだけ“スキル”を持っていることだ。

スキルは持ち主の経験や考えに基づいた、その人に適した強力な異能のことだ。

多くの場合自身にバフをかけることができ、基本的に魔法とは違って魔力や詠唱を必要とせず強い感情を抱けば使えるらしい。


ただ、使用の際には何かしらのデメリットが伴う。

それに発現方法など分かっていないことが多く、入手は運任せに近い要素があるらしい。

唯一分かっているのは、とても強い願望を持った時に水の上を歩く幻影を見て発現することだけみたいだ。


(なんだか不思議、迷信みたい)


エイルがそう自然に思ってしまうほどだ。



しかしこのことはよく知られていて、とても信憑性があるようだ。

実際既にスキルを持っているルイとアインツも、発現前に海のような場所にいる幻を見たそうだ。


「強い冒険者になるためには、スキルの発現は不可欠になる。

そのためにも、まずは色んなことを経験するんだ。

そうだな、簡単に実現ができそうな目標を立ててみるのはどうだ?

確かにおとぎ話の英雄を目指すことはよいことだ。

その目標に近づくためにも、もっと具体的で達成しやすいものもあるべきだ。

例えば憧れの冒険者を見つけるとか、な」


アインツからそうアドバイスされた。

分からないことが多いとはいえ、何か心が揺さぶられた。

これが“ロマン”というものだろうか?


だが『憧れの冒険者を見つける』というのは、時間をかけてやるしかないだろう。

エイルは冒険者になったばっかりで、どんな同業者がいるのかほとんど知らない。

これから他の冒険者と関わった際に探してみるといいかもしれない。




もう一つ面白かったことは、ダンジョン内には稀に“遺物”と呼ばれるものが度々発見されることだ。


千年以上前に作られたとされる遺物は、失われた高度な技術が使われている。

種類が豊富でそれぞれ特有の効果を発揮し、現在の魔道具よりもとても便利らしい。

だがどうして昔にそんな技術があったのか、どんな仕組みで動いているのか全く不明だ。



そう考えると、この世界には魔剣やダンジョンなど謎に包まれたものが多い気がする。

しかもどれも太古のもので、今ではそれを生み出した技術が失われている。

魔法の歴史に詳しいルイでも、このことに関しては口を噤んでいた。


ただ、もし遺物を見つけたら持ち帰って問題ないらしい。

詳しいことはギルドで聞くように言われたが、遺物は探索に大いに役立つはずだ。

それにある程度の使い方や用途に関しては、ルイなら分かるそうだ。

今度何かわからない人工物を見つけた際には、彼に見せた方がいいかもしれない。



他にも今探索できるworld Aにはどんな魔物がいるのかや、魔道具に関する簡単な知識も教えてもらった。

つかの間の休息期間ではあったが、エイルはとても有意義に過ごすことができたような気がした。




***




前回の潜入からしばらくした頃に、エイルとアインツは再び冒険者ギルドを訪れた。

ギルドは相変わらずにぎやかで、少し息苦しく感じる。

そんな中、奥から見知った女性がものすごいスピードで駆け寄ってきた。


「ハイパー様ぁ!!」


サポーターのリコリスだった。

彼女はエイルに思いっきり抱きついたかと思うと、そのままの勢いでバタンと押し倒した。

思ったより背中が痛かった。


「先日魂が抜けたような顔で帰られたので、とっっても心配しましたよ!

それに長い間お見えにならないし、てっきりもうこちらにいらっしゃらないかと!

もう本当に寂しくて全然寝付けなくて・・・!!」


そう言って大粒の涙を流しながら、わんわん泣き出してしまった。

周囲の人達からは何らかの修羅場かと思われたようで、視線がとてもチクチクと刺さる。



そういえば、前回放心状態でギルドを後にしてから彼女に会っていなかった。

まだ出会って間もないのに、ここまで心配してくれるなんて。

とても申し訳ないことをしてしまった。


「ごめんリコリス、すごく心配させちゃって。

でももう大丈夫だよ。

だから泣かないで」


エイルはリコリスの背中をさすった。

しかし彼女の泣く勢いは止まる気配もなく、尖った耳が若干下を向いている。

アインツの方を見ると、やれやれと言わんばかりだった。






「申し訳ございません。

つい取り乱してしまって・・・・・・」


しばらくしてリコリスが落ち着きを取り戻した後、受付の方に場所を移して深々と二人に頭を下げた。

近くにいた野次馬達は、もうこちらへの興味を失っている。

だが彼女の目や鼻はまだ赤みを帯びていた。


「気にしないで、気を遣えなかった私も悪いから。

でも心配してくれてありがとう。

リコリスがそこまで私のことを思ってくれて本当にうれしいよ」


そういわれた彼女は、とても恥ずかしそうにしていた。



「ところで、そろそろ本題に入ってもいいか?」


アインツが今の空気を変えるかのように、無理やり話題を逸らした。


「あ、そうでしたね。

本日は再びダンジョンに潜りにいらしたのでしょうか?」

「ああ、今の俺達に出せるクエストはあるか?」

「はい、お持ちしますので少々お待ちくださいませ」


リコリスはエイル達に笑いかけると、一旦受付の奥の方に行った。

やがてあまり時間が経たないうちに、色々な書類をまとめてこちらに戻ってきた。


「お二人に発注可能なクエストはこちらになります」


そう言って目の前に持ってきた書類を広げると、エイルとアインツは覗き込んだ。




複数体のゴブリン討伐、ハチの魔物の蜜の回収、マンドラゴラの採取など種類は豊富だった。

しかし、エイルはまだ自力でゴブリン一体の討伐すらできていない。

これらのクエストの中から一番簡単そうなものを選ぶのが妥当だろう。



エイルが達成できそうな依頼を探していると、アインツがあるクエストをおもむろに指さした。


「じゃあこれで行こう」

「「・・・・・え?」」


エイルとリコリスは一緒に思わず声を上げてしまった。


―――『ジャイアント・アントの討伐』だった。




ジャイアント・アントとは、名前の通り超巨大なアリの魔物のことだ。

最近得た知識によると、外骨格が固い上に攻撃の威力も高く、とても狂暴な個体だったはずだ。

強い冒険者でも、油断をすれば命を落とすことがあるらしい。

だからあまり近づかない方がいいと、魔物の専門書に書いてあったような気がする。



「あの、クリスト様。

(わたくし)から提案しておいてなんですが、こちらは少々難易度が高いものになります。

お二人は冒険者になられてからまだ間もないので、もっと簡単なクエストを選択された方がよろしいかと」


リコリスの言葉に、エイルは強く同意の意志を見せた。

流石にそんな危険な魔物と対峙するのは早計過ぎる。

一体アインツは何を考えているのだろうか?



「問題ない。

確かにこいつにはまだ課題はあるが、今なら十分にこなせるはずだ」

「いやいや、前回のことを考えたら絶対に無理だよ!?」


エイルは即座に彼の言葉を否定した。


「気持ちの問題をあまり侮らない方がいい。

初心を思い出して二人のチンピラを追い返したんだ。

剣の腕も申し分ないし、大丈夫だろう。

俺が保証する」


アインツはどうやら自信を持っているようだ。

こちらの意見を全然聞いてくれない。


リコリスは彼の説得は不可能だと判断して、無理をしないことを念押ししつつもクエスト発注をしぶしぶ承諾した。



確かに彼はしっかり熟考するタイプではある。

けれど、今の自分がジャイアント・アントを討伐できるなんて想像できない。

あまりものプレッシャーに、体がずっしりと重く感じる。

本当に大丈夫なのだろうか?





こうしてエイルは、大きな不安を抱えながら再びworld Aに入ることになってしまった。


<<ギルドの受付嬢の会話>>

A「そういえばリコリスさぁ、最近死人みたいな顔してたけど今日急に明るくなったよね?

 奥で鼻歌まで歌っちゃってるし」

B「ああ、なんかお気に入りの冒険者が久々に顔を出してくれたみたいだよ~」

A「もしかしてあの金髪の?まさか、百合ってやつ!?」

B「あの子、男の子でしょ?」

A「え?」

B「ん?」

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