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1-10. 息抜きデート・・・?

夜の特訓の後、アインツとエイルは魔法店に戻った。


「そういえば、君はどうして強くなろうとしているんだ?」


当たり前の質問に、思わずエイルはきょとんとしてしまった。

どうしてそんなことを聞くのだろうか?


「それは、魔剣の力を制御するためだけど・・・」

「ああいや、そういう意味じゃない」


彼の考えていることは、想像より遥か先を行っているようだ。

しかし言いたいことが一体何なのかまでは分からなかった。

アインツはただ、真面目に話を続けた。


「質問を変えよう。

なぜ訓練を始めたんだ?」


エイルはすぐに返そうとするが、言葉に詰まってしまった。

いや、そうではない。

実際には、答えられなかった。



思い返してみれば、小さい頃から親友と一緒に強くなろうと一生懸命になっていた。

しかし、何に憧れてどういうきっかけだったのか全く思い出せない。

それだけ、エイルの心はボロボロになっていたのかもしれない。


焦っている様子に気づいたアインツは、エイルの肩を優しく掴んで少しほほ笑んだ気がした。


「初心に帰ることができれば、もっと落ち着いて戦えるようになるかもしれない。

それに力の制御以外の強くなる目的を持てて、より“強い自分”が想像しやすくなるはずだ。

だが、今答えなくても構わない。

焦らなくてもいつかちょっとしたことで思い出せるはずだ」


そういうと、手を振って自室に入っていってしまった。

エイルも置いてきぼりを食らいながらも部屋に戻り、今日の出来事を振り返りながら寝支度をした。



***



翌日、エイルのメンタルに重い負荷がかかったことを考慮して、しばらくの間休みを取ることをアインツから提案された。


最初は少しでも早く強くなりたいと思って断ろうとした。

しかし、昨日のアインツの言葉を思い出して出かけた言葉を飲み込んだ。


今焦っても、また魔物を前にしたときに敗北の恐怖に押しつぶされてまた負けるだろう。

それならこの機会を利用して、訓練を始めたきっかけを思い出した方がいい。

少し迷ったが、結局エイルは彼の気遣いを受け取った。



数日間エイルは自室にこもり物思いに耽っていたが、初心を思い出せずにいた。

小さい頃の楽しかったことを思い出そうとすると、村が燃えている光景が脳裏にちらつく。

今はそんなことを考えてはいけないと振り払い、再び小さい頃の記憶に遡ると苦いことをまた思い出す。


まるで広い砂浜から小さな貝殻を見つけようとしても、ずっと猛毒のカニや虫を探し当ててしまうような気分だ。

そんな堂々巡りがずっと続いていた。


「ダメだ、これじゃ埒が明かない」


座っていた椅子の背もたれに全体重をかけ、天井を見上げた。

記憶の中を旅しても、これ以上は進展がなさそうだった。

アインツは急がなくてもいいと言っていたが、やはり自分が何を志していたのかどうしても気になって仕方がない。


だが、他に方法が思いつかない。

いったいどうすればいいのだろうか?




ふとドアをノックする音が耳に入った。

エイルが我に返って椅子から立ち上がりドアを開けると、そこにはルイが立っていた。


「あれ、お店の方は?」

「今日は休業日だ、心配はいらない」


そういうと、彼は少し顔を傾げた。


「せっかくの機会だ。

気分転換に一緒に買い物に行かないか?」


どうやら引きこもっていたエイルを心配していたようだ。

実際、エイルは少し落ち込み気味だった。

それにパライバトルマリンに来てから一回もちゃんと散策したことはない。

断る理由はなかった。

だが、1つだけ気になることがあった。


「アインツは誘わないの?」


エイルが尋ねると、ルイは遠くを見つめた。


「―――昨日道端に落ちていたものを拾い食いしたようで、お腹壊して寝込んでいる」


・・・・・バカなの?






買い物といっても、ほとんど二人で都市を黙々と散策しているようなものだった。

ルイは事前にもう何を買うのか決めているようで、店に入ってもすぐに目当てのものを探し出して購入していた。

エイルはただ彼の後ろについていくだけで、すごく気まずかった。


そんな気持ちを察したのか、ルイは時々欲しいものはあるかと聞いてきた。

だが彼が訪れる店は本屋や金物店、薬屋、そして何かの標本が並べられた変な店などすぐに何かが欲しくなるようなところではなかった。

エイルは申し訳なく思いつつ、首を横に振るしかなかった。




そんな中、とうとう空気に耐えられなくなり今まで胸に秘めていた疑問を投げかけた。


「そういえば、どうしてあの時私を助けてくれたの?」


ルイは突然の質問に驚くことなく、エイルの方を向いた。


「人助けに理由が必要なのか?」

「あ、いや確かにそうかもしれないけど、少しに気になって・・・」


彼は立ち止まって少し考え込んだ。

もしかして、本当に理由なんてないのだろうか?

そんなことをエイルは考えたが、ちゃんと答えが返ってきた。


「昔の知り合いに少し似ていたからだ」

「知り合い?」


ルイはああと言って、再び歩き始めて懐かしそうに話し始めた。


「僕の手伝いをしてくれていた人だ。

彼女はいつも明るく振舞っていたが、一人の時は何かを抱え込んでいるように見えた。

君を始めて村で見かけた時、何か悪巧みを考えて少し楽しそうにしていた顔がそんな彼女にそっくりだった」


恐らく、人目を盗んで魔剣を手に入れようと画策していた時のことを言っているみたいだ。

あの時はとても必死だったが、確かにどうやって関門を突破しようか考えて実行していた時はとても楽しかった。

何だか少し複雑な気分だ。


「そうだったんだ。

その人は今どうしているの?」


エイルの気ままな質問に、ルイは押し黙ってしまった。

どうやらあまり触れたくない事だったらしい。

彼の態度で、エイルは大方の予想がついた。


「あ、ごめん。

変なこと聞いちゃって」

「・・・・・」


答えは返ってこなかった。



だがルイはおもむろに立ち止まり、その場にしゃがみこんだ。

そしてそのまま何かを訴えるように、エイルの方をただ見つめていた。


「疲れた、おんぶして」

「―――へ?」


シリアスな雰囲気の中急に子供じみた発言が出てきて、無意識に変な声が出てしまった。

彼の目は幼い子が親にねだるときの目つき、そのままだ。

まさに自分のワガママを通さんと、意地を張っているように見える。


困惑したエイルは、反応が遅れてしまった。

その間も彼はじっと見上げていた。

ルイがテコでも動かないことを察し、諦めて彼の前で背を向けてしゃがみこんだ。

ルイがエイルの背中にもたれかかると、そのまま彼を背負って立ち上がった。


「・・・あたたかい」


背後から、肉親の体温を感じて安心した子供のような声がした。

エイルに聞かれたくなかったのか、服に顔を埋めながら呟いたかのように小さかった。

ルイはまるで誰かに体を委ねていることの確証を得るかのように、エイルの体をしっかりと掴んでいた。




ルイは昔の知り合いにも、同じことをおねだりしていたのだろうか?

そう考えると、エイルは周囲の視線を忘れてしまった。

彼は普段感情を表に出さないが、もしかすると本当は色々抱え込んでいるのかもしれない。


(私、ルイのために何かできるかな?)


もちろん、ルイに助けてもらった恩を返したいという気持ちは強い。

しかしそれより、彼から感じた寂しさがエイルの心を締め付けた。

なんだか、ほっとけないような気がしたのだ。

まるで彼の心はヒビだらけのガラス細工で、少し触っただけで壊れてしまいそうだった。


「ルイ、私はずっとそばにいるよ。

いなくなったりしないから、安心して」


ルイは黙り込んでいた。

だが代わりに、エイルを掴む力が強くなった。


彼が今何を思っているのか分からない。

でも迷惑に感じていないことは、背中越しに伝わってきた。

二人はそのまま、都市の大通りを進んでいった。





ルイの示す方向に歩いていくと、あるお店の前にたどり着いた。

彼を下ろした後その店の看板を見て、エイルは驚きを隠せなかった。


―――アクセサリーショップだった。

しかし、ルイはアクセサリーに興味があるようには見えない。

そう考えると、思いつく理由は一つしかない。


「まだ冒険者になったお祝いをしていなかっただろう?

折角だから一緒に来てくれ」


そういうと、ルイはエイルの手を掴んで店の中に入った。




ルイはエイルを入口に待つように言って、まっすぐカウンターに向かった。

彼は店員と少し話をした後、何かやり取りを始めた。


エイルが店の中を見渡すと、精巧につくられたアクセサリーが並べられていた。

どれも一目見ただけで高価なものだと分かる。

落ち着いた色合いと細かなデザインのものが多く、派手ではないが思わず目を惹かれた。

店の中に多くの人がいるということは、恐らく有名なお店なのかもしれない。


「お待たせ。

これが君へのプレゼントだ。

改めて冒険者になったこと、心から祝福する」


ルイは小さな黒い箱をエイルに差し出した。

エイルは箱を受け取り、促されるままに蓋を開けた。




中に入っていたのは、一対の耳飾りだった。

内側が白く外側が黒い二色の蝶が、細かいところまで精巧につくられている。

そんな蝶が、金属製のひもで留め具と繋がっていた。


「これは元々指輪の魔道具だ。

だが剣を使うとき、この大きさだと邪魔になるだろう。

ここの店長が僕の店の常連客で、相談したら耳飾りに加工してくれると言ってくれたんだ。

『幻蝶、汝の行くべき場所へ導け』、困ったときはそう唱えるといい」

「・・・・・」


エイルは言葉が出なかった。



自分は取り返しのつかないことをした。

普通なら見捨てられてもおかしくない立場だ。

だがそんな自分を突き放すばかりか、大切に思ってくれている。

まだ会って間もないのにも関わらずだ。


エイルは涙が浮かんできた。

自分がここまでこられたのは、彼らの支えがあったからだ。

あの時、ルイに出会っていなければ自分はどうなっていたのだろうか?


「ありがとう、大切にするよ。

私、絶対に強い冒険者になるよ」


エイルの言葉にルイは少し嬉しそうだった。


「期待している」


エイルの目からは、少し甘い涙が一粒零れ落ちた。

ルイはそっと、優しく頭を撫でた。


<<アインツからの一言メモ>>

い、いたい・・・・・・・

しにそう・・・だ・・・・・

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