法人減税など大企業優遇策が国民にとって「無意味」であるデータをまとめてみた
◇法人減税額は過去最高額
筆者:
本日は当エッセイをご覧いただきありがとうございます。
今回は所得税の壁を引き上げる(事実上の個人への減税)については「財源」が叫ばれているのにも関わらず、
法人税を下げる政策については「財源」がスルーされていることを問題提起していきます。(そもそも財源を拘る必要性は無いと思いますが、対等では無いという意味で)
そして法人減税が日本にとってちっともプラスになっていないデータをまとめてみましたのでどうぞご覧ください。
質問者:
実際にどれぐらい法人税が減税されているんですか?
額が少なければ問題が無いような……。
筆者:
時事通信の25年1月29日の『法人税控除、過去最大1.7兆円=23年度投資・賃上げ税制など』という記事では、
『企業の投資や賃上げなどを促進するために法人税負担を軽くする「租税特別措置」のうち、法人税額から一定額を差し引く税額控除による2023年度の減税額が1兆7338億円に上ったことが29日、政府が国会に提出する調査で分かった。前年度(1兆3289億円)の1.3倍で、11年度の調査開始以来、過去最大を更新した。
23年度の税額控除は17種類で、適用件数は前年度から4.3万件増の31.4万件。減税額は、研究開発などへの投資額を税額から一定割合を差し引く「研究開発税制」が9479億円、賃上げに積極的な企業を減税する「賃上げ促進税制」が7278億円となった。』
とあります。
前々から言っていますが、この中で特に「賃上げ促進7278億円」というのは完全に無駄です。
なぜなら、賃金が低いところは単純に採用申し込みが減ったり転職されたりされることから、人を雇うためには自動的に上がっていきます。
完全に「給料上げて補助金まで貰えて得」という状況なのです。
似たようなことをしたいのであれば、むしろ「賃上げをしない企業を増税」するぐらいでなければならないのです。
質問者:
確かに……。しかもこれで財務省などが大好きな「財源」の話になっていないのはもっと違和感がありますね……。
筆者:
現状では賃上げをされても、「所得税の壁」すら上げないという状況では国民の手取りはサッパリ増えません。
同じ減税であれば企業に対する減税では無く国民一人一人が潤う減税政策にするべきなのです。
生産年齢人口1人あたりのGDPだと日本はアメリカよりも成長しているにも関わらず(これは高齢者の割合が日本が高いため)、
エンゲル係数は過去最悪の水準と言うのはどう見ても日本の政治システム、税金の取り方、配分システムに欠陥があると言って良いでしょう。
◇トリクルダウンは起きていない
質問者:
2010年代から始まっている法人減税をすることでいわゆる「トリクルダウン」というのは起きていないのでしょうか?
筆者:
24年11月20日の日本経済新聞の『法人減税、波及乏しく 11年度改正から段階下げ 政府税調会合「投資・賃金増えず」』という記事では、
『政府の税制調査会(首相の諮問機関)は19日、EBPM(証拠に基づく政策立案)を活用して税制の効果を検証する専門家会合の2回目を開いた。財務省は法人税率が2010年代から引き下げられてきたにもかかわらず、国内の設備投資や賃金は増えていないとの分析を示した。』
とあります。財務省はこの法人減税系統がトリクルダウンを起こしていないという事に気づいておきながらお得意の「財源論」のメスを握っていないという事なのです。
※平成23年度(2011年度)税制改正:30.0% 2016年には法人税は23.2%となっています。
さらに最近では先ほど触れた賃上げの法人減税などを行っています。
また、24年9月6日の朝日新聞の『大企業の労働分配率、昨年度は過去最低 内部留保は過去最高』という記事では、
『国内企業の通期決算を集計した財務省の法人企業統計調査(2023年度)をもとに、記者が独自に分析した。企業が生み出した付加価値(役員と従業員の人件費、経常利益、賃借料、一部の税金や利払い費、減価償却費の合計)のうち人件費が占める割合を、労働分配率として算出した。
金融・保険業をのぞく全産業では、前年度より約1ポイント下がって52.5%となった。これは1973年度の52.0%以来の低さだ。
さらに企業の規模別に算出すると、資本金10億円以上の大企業の落ちこみが際立った。前年度より約2ポイント下がって34.7%となり、統計のある1960年度以降で最も低かった。資本金1億円未満の中小企業は、前年度とほぼ同じ66.2%だった。』
と、価格上昇による利益が増えても労働力分配には全く繋がっていないことが分かっています。
正直言って大企業の値上げは「給料を上げるから」と言った「便乗値上げ」と言って良いでしょうね。
質問者:
どうして法人税を減税しても給料への効果が薄いんでしょうか……。
筆者:
これは「利益の額」というのに影響するもののほとんどが配当金の増加になっているからです。「株主資本主義的」な考えが害悪だと言えます。
「内部留保」は設備投資に使われるのですが、国内投資は横ばいであることから「外国の設備投資」を行っていると思われます。
これは人口減社会だからある意味当たり前と言えば当たり前ですけどね。
不幸にも日本国民から吸い上げた利益を海外投資に使っているという事なんです。
つまり、法人税増税で利益が減ろうとも日本国民としては何のマイナスにもなりません。
現状の税制では個人用の減税以外の手段において国民一人の手取りは増えません。
質問者:
なるほど……。
確かにそもそも、利益は余裕のある金額ですから給料と関係無いですよね……。
筆者:
また、給料が上がっているのは大企業の若手と極一部のみです。
既存の社員は儲かっている所でもクビになっています。
25年1月13日の東京商工リサーチで『2024年の「早期・希望退職」3年ぶり1万人超 募集社数57社、募集人数は前年の3倍に急増』と発表がありましたので引用しますと、
『2024年に「早期・希望退職募集」が判明した上場企業は57社(前年41社)で、前年から39.0%増加した。募集人員は1万9人(同3,161人)と3倍に急増、2021年の1万5,892人以来、3年ぶりに1万人を超えた。相次ぐ大手メーカーの大型募集で人数が膨れ上がり、黒字企業の構造改革も目立った。)
と、黒字企業が更に利益を出すために、積極的にクビにしているのです。
質問者:
赤字で人員を削減するならともかく、どうして黒字で解雇するんですか?
筆者:
これも全て少しでも利益を出すことで「株価」と「配当」が増えていくためです。
研究開発の人員を流出させたりしたら技術の流出にも繋がるのであまり望ましいとは思わないのですけどね。
政府の言い分としては「海外からの買収阻止」「開かれた企業風土のための海外役員」などとしていますが、
海外からの買収を阻止したいのであれば、単純に法律で規制すればいいだけのことですし、わざわざ海外の人を役員で連れてくる必要は無いです。
この流れを続けることで政治家や官公庁に「利権」があるんでしょうね。
◇大企業に天下りしたい官僚
質問者:
結局、自分達だけが良い思いをしたいだなんて……。
筆者:
また、給料と言うのは消費税控除(消費税が減る)ことに全く寄与しないことから、
「給料の上げ甲斐が無い」というシステム的な欠陥があります。
消費税も大企業にとっては還付が「輸出補助金」の面の性質が強く、これも実質的な大企業優遇策と言えますね。
質問者:
この話を聞くと消費税の廃止とまではいかなくても、
最低でも食品の消費税ゼロ、給料の所得控除、大企業の還付の廃止ぐらいやって欲しいですね……。
筆者:
消費税の還付の廃止をすればそれだけで「増収」になると思うのですが、
全く選択肢に無いですし、議論の机上にも上がってこないのは財務省は完全に大企業に対して「忖度」していると思いますね。
大企業の減税をやめたくない理由は天下り先が減るからです。
増税をして配るパイを一般国民から増やして、更に省庁を増やし大企業の役員など天下り先を確保していくのが彼らの仕事としてあるんです。
表向きでは「国民の生活を良くしたい」お題目を唱えていますが、実情は「上級国民しか潤っていない」というのが現実です。
◇企業向けで許されて良い補助金
質問者:
法人税減税が日本国民のためにあまりなっていないことは分かったのですが、
日本の企業が海外から見た場合、車産業以外技術力が無いことも事実だと思うんです。
日本企業の技術革新が進むための補助金と言うのはどうしたら良いんでしょうか?
筆者:
大企業に対して支援していい部門としては適切なところの技術開発支援です。
これに関しては成功如何に関わらず長期投資をするべきです。
(ただし一定の進捗状況の報告はしていくべきです)
理化学研究所などの国の機関と組んだ先端技術開発支援、
(理化学研究所などの雇用体制の改善は必須、現在は10年でクビにしやすくなる制度)
AIなどの世界を変えるだけの技術、海底資源採掘の技術などです。
質問者:
現状の日本は理系の大学院生の行き場所があまりにも無さすぎることから、
高学歴でありながらワーキングプアを生んでいるとも言われていますよね……。
筆者:
ゆっくりと研究できる環境を整えることが大事だと思います。
偉い官僚の方々はこれらのデータを分析できていないと思えないので、
「小出しにして分析させないようにしている」と見ることが可能です。
マスコミも追及しないのが本当に酷いと思います。
質問者:
筆者さんのお考えですと、社会保障負担の低所得者の減免と
消費税の減税か廃止ですよね。
筆者:
法人税は2010年より前の水準まで戻して「賃上げ税」を作れば「財源」は一定レベル確保できると思いますよ。
国民一人一人の所得を増やす政策を拒絶している、与野党の第一党が同じようなことをやると言うのが今一番「詰んでいる」とも言える状況だと思います。
(賃上げが進まなかったのは立憲を支持している連合が雇用の維持と引き換えにしてきたため)
これは国民側が「この流れが間違っている!」と声を上げていくしか打開策が無いと思いますので、僕も力を尽くしていければと思いますね。
という事でここまでご覧いただきありがとうございました。
今回は、法人税を減税しても給料は増えずトリクルダウンが起きていないことを示すデータを集め、社会保障減免や消費減税を行うべきだという事をお伝えしました。
今後もこのような政治・経済について個人的な意見を述べていこうと思います。
どうぞよろしくお願いします。