校門前で ~美紀~
折り返し
「ちょっ?!」
突然の、予想だにしない居候の言葉に周りの空気が変わったのを感じた。
幾多もの好奇の視線が私にも降り注いでくる。同時に、顔が熱くなった。
「お待たせしてしまって申し訳ない。……しかしお譲様、少々問題が」
「――っ!?」
怒りも沸いたが、込み上げてきた羞恥心の方が強い。
妙な静寂が辺りを支配していた。雨の音がやけに小さく聴こえる。
周りの生徒達が無言で私に注目している所為だと思うのは、絶対に気のせいではないはずだ。
「実は……」
「みっちゃ~~~ん、どうしたのー?」
そこへ遙が追いついてくる。バカ、今私の名前を呼ぶんじゃないっ。
「来なさいっ!」
なんだか大事になりそうで恐くなってきた。
とにかく、何処でもいいので誰もいない所に場所を移さなくてはならない。
「いえ、その前に言わなければいけないことが……」
「いいから来いっ!」
「お、お譲様っ?!」
「黙れ!」
周りの目に急かされながら、私は早足でそいつを引っ張っていく。
遙にも着いてくるなと一蹴して、少し濡れるのは我慢して玄関から少し離れた階段下まで移動した。
外界へと直接繋がるコンクリ階段の裏側。
ここなら人目もないし雨も凌げる。声も向こうまでは聴こえまい。
「やめてよねっ! あんた一体何がしたいわけっ?!」
すぐに不満の声が迸った。
「お嬢様に傘を届けに参りました」
「まず、その変な口調をやめろ!」
「え……変だったか?」
「私をからかってるわけ!? あんた私の学生生活を無茶苦茶にする気!?」
「いやいや、俺はただ執事になろうとだな……」
「は? 迷惑以外の何でもないでしょ!? そんなこともわかんないの? バカじゃないの?」
「気にするな。冗談だ」
スゲーむかつくな、おい。
「……で、何しに来たのよ」
腸は煮えくり返っていたが、なんとか抑える。
私がこいつに怒鳴ってもこの状況は好転しないと思ったからだ。
そっぽを向いた私は、降り頻る雨を眺めながら居候の返事を待つことにした。
「傘持って行ってなかっただろ?」
「ああ、そうゆうこと」
その一言で大体理解できた。
こいつの姿も、ここに来た理由も。
母さんの差し金に違いない……まったく、余計な事を。
「で、なんで私の傘差してんの?」
「……告白しよう。俺の傘はない」
バカか? おまえは?
「雨が降ってきてから気付いたんだが、すぐ近くまで来ていたからな」
「コンビニがあったでしょ? 傘くらい買いなさいよっ」
「……買ってくれんの?」
バカだな、こいつは。
呆れながら手を開いて差し出す。
「ん!」
「ん?」
「傘っ」
「ああ」
悪いな、と苦笑いしながら傘を渡してくるそいつに私は無性に腹が立った。
何故が腹立つって、へらへら笑うその面が美形だったからだ。バカなのに。
「さて、ここで一つ聞きたいんだが……」
何、と短く返事を返す。
どうしてなのか、胸はまだウルサイくらいに高鳴っていた。
「俺の分の傘がない」
「?」
「ここから導き出される推論は何だ?」
「何、言ってんの?」
意味が分からないが真剣な顔だった。
私は思わず見とれそうになるのを、なんとか誤魔化そうとしていて。
「はぁ……おまえ、国語の成績悪いだろ」
「…………」
「いや待て、今のは失言だった」
「ふん、今さらね」
不思議だ。
こうゆう性格なんだと思えば、怒りは沸いてこない。
「それで、さっきからあんたは何が言いたいわけ?」
「先に言っておくが、返事は『YES』か『はい』で頼む」
「……つっこまないわよ」
目を瞑って肩を竦める姿も様になっていた。
「そうか、なら相合傘をしても文句はないな?」
「…………」
「…………」
ザーッという雨音だけが空白を埋める。
「……今、何つった?」
「はい、つっこみ禁止」
とりあえず、殴ろうと思った。
『そういえばこいつの顔……ちゃんと見たことなかったかも』




