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高校で ~ミケ~

ホストか執事の2択だったのです


雨が降っている。

少しずつ、しかし段々と強まる雨足。

理沙さんの言っていた通り、そいつは4時過ぎ頃に幅を利かせ始めた。


降り出して、傘を差そうとして、気付く。

俺の傘がない。急いでいたので失念していた。

仕方なく俺は花柄ピンクの可愛らしい傘を広げて身を守った。


一旦自分の傘を取りに帰ろうと思い、次に考えを改める。


雨は降り続いていた。

その間、美紀に待たせてしまうのは忍びない。

さらにここで帰ったら、理沙さんに何を言われるかわからない。

最後に、金もない。

以上の理由から、俺は妙案を断念せざる得なかった。


そして俺が美紀が待っているだろう高校に辿り着いたのは4時10分頃。

普通に部外者であるこの俺が、こうも自然に校内へと潜り込めたことに一端の不信感を覚えながらも、俺は下駄箱があるであろう(生徒達が立ち往生している)場所へ向かってゆっくりと歩を進める。





――――美紀は怒っている。


たぶん……いや、ここは最悪を期していこう。

作戦とは常に最悪の状況を想定して行われるべきだ。

何故ならそうなったときの心理的ダメージを極力、最小限に抑えたいからである。


とまぁ、その前に。


そもそもの話、俺が須藤家に居候する際に反対の意を示したのは美紀だけだ。

俺としても気持ちは解かる。俺が美紀の立場なら同じ様に猛反対しただろう。

よって美紀は俺に対して少なからず警戒心を抱いている。

しかしだからこそ俺は、そんな美紀の事を好ましく思っていたりもする。


だってあの家は少し警戒心が薄過ぎるのだ。

見ず知らずの行き倒れである俺を拾って、挙句そのまま引き取ってしまうなんて。

ひとつ間違えれば……例えば俺がその気になれば、須藤家はすぐにでも脆く崩れ去ってしまうだろう。


だからこそ、だ。


美紀が俺をうとましく思っていることは、逆に俺にとっては喜ばしいものとなる。

美紀があの家の最後の良心だ。アイツが居なければ危なっかしくて見ていられない。

だから嫌われていることに安堵する……あれ? これじゃ俺がマゾみたいじゃないか?


「違うぞ」


俺は一人虚空に向かって弁明する。


とりあえず話を戻そう。

美紀の……なんだっけ……ああ、怒っているからどうしようって話だ。


状況は最悪だ。

美紀は俺に警戒心を抱きまくっている。

なのに俺は美紀の傘を差して迎えに来てしまった。

さらには自分の傘を忘れてくるという体たらく。……もう一度言う、状況は最悪だ。


振り絞るなけなしの知力。

思い浮かぶのは強烈な言葉だった。


即ち、“相・合・傘”の三文字である……!


俺としては何ら問題はない。

美紀がどうでるかが問題だ。

果たして俺との相合傘を許可してくれるだろうか?

でなければ、俺は一体どうやって帰ればいいのか?


要するに、事態はすでに俺の手を離れていたのだ。


雨が降り出してから10分間。

俺は答えのない問いを考え続けて高校を目指し。

そして玄関に佇んで此方を見つめている美紀の姿を確認した。


降りしきる雨のカーテン。きっとそれは境界線だ。


美紀は日常から、俺は非日常から。

互いをかたどったそれぞれの世界から、俺達は視線を交わす。


美紀が異分子である俺に対して警戒心を向けてくるのは。

俺が日常を守ろうとする美紀を好ましく感じているのは。


結局はどちらも、同じ想いに端を発しているのかもしれない――――。


――――そう思うと自然に笑みが零れた。

俺はそれを誤魔化すように、うやうやしく口上を述べる。


「お迎えに上がりました、お譲様」


『美紀が見つからなければ乗り込むつもりだったのだがな……』

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