小学校で ~ミケ~
ミケのターン
“MINI-CROISSANT”
それがこの店の名前。
孝則さんの、延いては須藤家の宝。
オススメは勿論ミニクロワッサン。みんな、よろしくな!
……こんな感じか?
なんて宣伝のセリフを考えながら俺ことミケは道を往く。
目的地である颯太の通っている小学校はすぐそこだ。
家から歩いて5分とかからない場所に、その建造物は俺を待ち構えていた。
人気のない小さな公園を通り過ぎて家々の隙間を潜り抜けた後、木々が等間隔で立ち並ぶ歩道をひたすら往けば、右手方面に見えてくるのが小学校。
緑の繁茂に浸食されたその錆びれたフェンス。
そんな物寂しい囲いにも、しかし様々な思い出が詰まっていることだろう。
そうやってフェンス越しから感慨深気に見た校舎の時計は、現在時刻が午後3時30分であることを示していた。
……4時頃だっけ、雨降るの。
理沙さんから遠ざかるためとはいえ、少々早く来すぎたようだ。
いや、しかし胸倉を掴まれたからな……あれはマジで怖かった。
そうぼやく俺の傍には、すれ違ってゆく小学生の子供たちの姿が……って、おい!
「ちょっとそこの小学生」
これはまずい、と知らない小学生の一団を呼び止める。
「え、俺!? お前だって!? ダメ、お前が言え……いや、無理だって!?」
見た感じ高学年の仲の良い男子グループ。
だが俺が話かけたことにより内輪に不和が生じているようだ。
「少しいいか?」
「え……あ、な、なんですかっ?」
仲間の内のヒエラルキーに弾きだされた不幸な少年は、とても緊張している。
ふっふっふ。まぁ、こんなスーツ姿のハンサム美男子(自称ではない!)に声を掛けられたのだ。それが当然の反応というものだろう。
「君たちは何年生?」
「えーあー……5年……です」
「ほう。なら3年生の子はみんなもう下校してるのか?」
「えと、はい。たぶん、そうだと……思います」
ぬぬ、入れ違いになっていたか。
「……貴様、名は?」
なんとなく、すごみを効かせる。
「……か、かかかか」
ははは、ビビってるビビってる。
「かか、景山……鷹史、です」
「鷹史君」
「は、はいっ」
「もう行ってもいいが、絶対に振り返るな。わかったな?」
「はいっ!」
そそくさと立ち去っていく鷹史。
因みに彼の仲間は少し離れた所でこちらを窺っている。
「おい、鷹史」
「えっ「振り返るなっ!」」
「ははは、はい!」
と、俺が険しげに気弱な少年を送りだした時であった。
「あっ! 兄ちゃんだー!」
「ん?」
颯太の元気な声が辺りに響いた。
「何でそんな頭してるの? 何でそんな格好してるの? 何でここにいるの?」
俺は放課後になってもいまだにテンションが衰えていない颯太を仲間に加えた。
「おお、良かった。お前に用があって会いに来たんだよ」
「え、何? 僕に?」
見ると颯太の後ろには友達と思われる少年少女たちがいる。
「後ろの子はお前の友達か?」
「うん、彰と信二くんと亜美ちゃんと佳奈ちゃんだよ」
覚えるのは面倒なので順にABCDとする。
「颯太の兄のミケだ。よろしくな」
「…………」
あ、挨拶したのに反応が薄い。これがイケメンの苦労か……。
「ねえ、兄ちゃん。用ってなに?」
「いや、実は理沙さんから雨が降るとのお達しがあってな。お前に傘を渡しに来たんだが……あんまり意味なかったな」
「え? 雨降るの?」
「そうらしい」
しかしお前達は雨が降る前に家に帰れる。つまり傘は要らなかった。
ここまで来るのはとんだ無駄足だったというわけだ……わかってたよな、理沙さん。
「彰、どうする? 雨降るんだって」
「ホントか? 晴れてるのに?」
少年たちの雑談タイム。
どうやらこの後、二人で秘密基地で遊ぶ約束をしていたらしい。
どうする? やめる? 家で遊べばいいじゃん? など熱い議論が交わされる。
「……ん?」
俺はその熱い議論を静かに見守っていたのだが、ふと視線を感じて顔を上げる。
見ると残された颯太の友人B、C、Dの面々から熱い視線を注がれているではないか……!
おいおい、そんなに気になるのか?
ならば、この超絶ハンサムの魅力を惜しみなく堪能するがいい!
――――ニコッ(俺は0円の爽やかスマイルを投げかけた)
Bは顔をそむけた。
Cは落ちた。
Dは落ちた。
男も女も顔を真っ赤にして俺の視線から逃れる。
男はどうでもいい……寧ろ遠慮願いたいが、女子生徒はもう俺の魅力にメロメロなようだ。
なんてこった、俺は今までこんな才能を気付かずに持て余していたというのか……。
「兄ちゃん兄ちゃん」
「何だ、弟よ」
「彰の家で遊ぶことにしたから傘貸して!」
そのまま遊びにいくつもりなのか?
「皆も彰の家だったら近いし遊べる?」
「うん、大丈夫」
「亜美も大丈夫だよ」
「……わ、私も」
やはり子供はバイタリティが違うな。
雨が降るってのにこれから遊ぶとは。
……まぁいい、これでまずは一つ片付いた。
「それじゃあ、みんな気をつけて帰るように。遊ぶのなら傘を忘れるなよ」
「「「うん」」」
「あと、ミニクロワッサンも忘れずにな」
最後にお店の宣伝を忘れずに颯爽とこの場を後にする。
さて、これから俺は美紀の所へ行かねばならないのだが……。
雨が降る前に着ければいいが、ここから美紀の通う高校へは歩いて20分はかかる。
チラリと垣間見たバカデカイ時計の長針は、今にも10の数字へと差しかかろうとしていて。
………………、………。
「あ、間に合わねー」
『だが走らん。俺は歩いて美紀の高校へ向かう』




