須藤孝則
主人公は美紀とミケ
† This is my life of... †
By TAKANORI
須藤孝則と言います。今年で45……あ、6だったかな?
家内と一緒にしがないパン屋なんかを経営しております。
パン屋は私の子供の頃の夢でしたからね。はい、今はとても充実しております。
突然ですが、須藤家の家族は5人います。
私(孝則)と家内(理沙さん)、長女(美紀)に長男(颯太)、それに愛犬。
そして最近もう一人、相坂ミケという青年(居候)が加わることになりました。
それはある雨の日の事。
私が何気なく近づいた窓の外から、奇妙な鳴き声が聴こえて来たのが始まりです。
とても苦しそうな声だったんですよ。う~んとか、ぁああああとか。
だから居ても立っても居られなくなって、その声の主を捜しに行きました。
すると、家の傍に人が倒れていたんです。いやぁ、驚きましたよ。
何しろ凄い雨や風の中だったものですから、ひょっとして死んでいるのではないかとも思ったり……声が途中で聴こえなくなりましたから。
まあ、それがミケ君だったという訳なんですけどね。
当然見捨てることも出来ず、私は急いで彼を家まで連れ帰って介抱したのですが。
事情を聞くとどうも家出してきたらしく、行く当てもないようで。それなら、と……まあ、はい。
あ、それと実は私が聞いた声というのは彼の腹の虫だったようで、パンを上げると泣きながらお礼を言ってくれました。
あと、本音を言うと理沙さんはこの件に反対してくると思っていたのですが……。
彼女は嫌な顔一つせず賛成してくれました。その時はもう本当に後光が見えましたよ。
まあ当然、娘には大反対されましたがね。
かと言って彼にはやっぱり駄目だ、なんて言えませんし……。
おかげで娘が反抗期に入ってしまいました……。
なんとか颯太は受け入れてくれましたが……いえ、もう過ぎたことです。
◇
理沙さんを愛して止みません。
颯太も大変愛しております。
美紀も大変愛しております。
ミケ君も好きですよ。うん、助けて良かった。
チェリーは……好きなんですけどね。なんだか僕は嫌われているみたいなんです。
◇
時間は昼頃。
今日もパン屋は忙しくなる。
あと夕方頃もお客さんが多くなるが、彼らは基本売れ残り狙いのゲスト達だ。
よって、この時間帯のお客さんの確保がお店を営業していくに当たっての肝となる。
――チリンチリン。
「いらっしゃいませー」
「ぃらっしゃーあせー」
扉につけられた鈴が鳴るのはお客さん来訪のお報せ。
接客の声は二つ、理沙さんとミケ君だ。
私は店の奥でパンを焼きながら店内の様子を耳で探る。
店の構造上、向こうからは此方の音は聴こえないが、此方からは店内の音が良く聴こえるようになっている。
「オススメですか。ふむ、これなんかどうでしょう?」
「えと……それじゃあそれを6つ下さいっ」
「あざーす♪」
耳を澄ますと若い女性の声と若い男性の声が頻繁に聴こえる。
「ミケ、こちらのお客さんにも」
「はいはいはいー」
「返事は一回で宜しい」
「はーい」
ふむふむ、今日も飛ばしているねミケ君。
少しにやつきながら、私はそんなことを思う。
ミケ君が家に来て嬉しい誤算があった。
パンを買いに来るお客さんは、やはり女性客の方が断然多い。
前からそれは変わらなかったのだが、ミケ君が来てからさらに女性客が多くなったようなのである。
「まあ当然よね。ミケって美形だもの」
理沙さんはそう言って、店の儲けがどうのこうのと盛り上がっていた。
私の焼いたパンが目当てなのでなくて、ミケ君が目当てということに関しては、私としても思う所はあるのだが……。
まあ、嬉しいことに違いはない。
新しいお客さんにも是非私の焼いたパンの虜になってもらいたいものである。
「んーーー、降ってきそうねぇ」
多忙だったお昼を過ぎて、今は3時のおやつ時。
客足も疎らになって、暇だからと店の外を掃除し終えた理沙さんがそんな事を呟いた。
「雨っすか? 天気予報じゃ今日は晴天でしたよ?」
「そうだけど、でも空気が温いし、少し雲も出てきたし」
これは彼女の特技の一つだ。(全部で何個かは教えてくれない)
何故だか知らないが、理沙さんの天気予報は的中率100パーセントを誇る。
本当だ。今まで何度その予報に救われたかわからない。
そういえばここ数年、コンビニの傘を買った覚えもない……いや、それは基本店の中にいるからか。
「確か前もそんな事言って、マジで降ってきましたよね? 何でわかるんすか?」
「逆に問うけど、なんでわからないの?」
質問に質問で返しちゃいけないよ、理沙さん。
「基本的な命題はその真とする事柄が成り立たない場合その対偶もまた存在基盤を失い」
「うっさいわよ」
「……聞いたのは理沙さんですよね?」
「なんか言った?」
「いえ、なにも!」
……私も少し暇だし、向こうへ行ってみようか。
そう思って店の奥から店内へと向かう。
ミケ君が家に来てから、店内が前よりも賑やかになった。
私も良く持ち場を離れるようになったと思う。こうゆう変化が一番好ましい。
「あら、あなた聞いてた? ミケが私の肩を揉んでくれるって」
「なんで?!」
きっとこの青年は私達……いや、須藤家にもっと良い変化を与えてくれる。
「まあ、その辺で勘弁してやりなさい」
不思議と私はそんな風に感じていた。
「え~なに? あなたはミケの味方なの?」
「孝則さん。肩凝ってませんか?」
「いや、いいから……ああ、それで理沙さん、子供達は大丈夫なのかい?」
「あ、そうね。困ってるかも」
「それは大変だ、なんなら俺がやっときましょうか?」
「いいのかい?」
「なに、二人分の肩揉みくらい俺に任せてくださいよ」
「…………」
たぶんね。
『次話は家内の話です』




