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相坂ミケ

あの小さい三日月、美味しいよね。


† This is who's legend of... †


By MIKE



相坂ミケ。21歳、独身、無職。名前をローマ字で書くとM.I.K.E。

マイクじゃないから、ミケだから。ここ、大事な所なんで覚えとこうな?


とりあえず、こんな素晴らしい名前をつけて下さった両親はもういない。

……嘘。一応生きてはいる。(今は知らない)

縁を切った……と言えば少しはマシだろうか? 実際は家出だったりする。

まぁ色々と深い理由はあるのだが、今さら思い返す事は何もない。遠い日の思い出だ。


家を出てから紆余曲折を経て、今は須藤家にお世話になってる。

そこに至るまでを細かく話すと、全米が軽く涙してしまって大変なことになるので、今は省略。


初めに言っておくが、俺は須藤家の皆さんにはとても感謝している。

それは訳あって俺の命を救っていただいたからなのだが……実は後ろめたい理由もあるにはある。

少し誇張表現は混ざっているが、感謝してるのは本当。


……暫くは居候として生活していくつもりだけど、先の事なんてわからない。





孝則さんには頭が上がらない。この人こそ、俺を救ってくれた人。

理沙さんにも絶対服従。孝則さんの奥さんね。

美紀は……仲良くはしたいんだけどね。今は難しいお年頃ってやつ。

颯太はすっげー懐いてくれた。嬉しい。

チェリーは好き。本当は犬より猫の方が好きなんだけど、そこは黙っとく。





「起きなさい、ミケ」

「ぐおっ!?」


人妻に蹴り起こされる朝。……なんか、甘美だ。

なんて邪な煩悩を払いつつ、開ききらない瞼を擦って俺は起床する。


「おはよ」

「はよっす」


なんで俺が蹴られたのかは知らないが、理沙さんはこの家の頭首だ。

誰も逆えないので頭首。真の主でもいい。怖いので口には出さない。


きりっとした顔立ちに気の強そうな瞳。

髪は茶色がかったサイドポニー。

歳は30代後半だと思うんだけど、見た目は20代後半に見える。

だから、もしかしたら本当に若いかもしれない。(歳は教えてくれなかった)

魅惑のボイスに加えて、スタイルも中々な美人さん。これぞ須藤家クオリティ……!


「ほら、モタモタしない」

「ふぁ~い」


欠伸をしながら返事を返す。


俺の……というより、須藤家の朝は早い。

それはこの家がパン屋を営んでいるからだ。

準備とか準備とか準備とか、色々と大変なわけ。


顔を洗って、パパッと服を着て。

それから屋上に行って……あ、この家は3階立てだ。

一階がお店(パン屋)、2階が住居(ここで寝てる)、んで3階は……まだ良く知らない。俺には未知の領域。

屋上では愛犬のチェリーが鎖に繋がれて暴れまわってる。

俺はこいつに餌をやる係。で、今から餌をやるわけなのだが……。


「キャンキャンキャン」


また朝から五月蠅いくらいに迷惑な奴なんだ。

周りの家が苦情を言ってこないか心配である。

ちゃんと付近の皆さま方は安眠を約束されているんだろうな?


「オラ、大人しろ! 餌が食べたいんだろ?」

「クゥン……」

「まだだ、俺が合図するまでは絶対に動くな」

「…………クゥン」


首を垂れて、ついでに耳も垂れる。

こいつはこの通り従順な奴でもある。

まぁ、それは俺が此処へ来てすぐの頃に調教してやったからだが……いや、少し上下関係をビシッとな?


とは言っても、今はそんな回想に浸っている暇はない。

チェリーに餌をやった後は、微かに残る眠気は無視して俺は一階への階段を下る。


「ミケ君、おはよう」

「おはよーっす!」


俺に挨拶してきたのは、すでに工房で仕事に掛っていた孝則さん。


この人がパン屋と須藤家を支える大黒柱。そして俺を拾ってくれた人でもある。

優しいマスクの裏には相応の年季と影が見え隠れしている、すげー渋いオジサンだ。

パンを作るのは意外に力作業が必要なのか、ガタイもいい。

顔は冴えないけど俺にはカッコ良く見える。これは俺の脳が勝手に補正してるせいかもしれんな。


挨拶を交わした後は、もちろん俺も手伝いに移る。

先に降りていた理沙さんと一緒に店の開店準備だ。

俺はほとんど雑用なのだが、素人なので仕方ない。

恩もあるので、力仕事くらいで助けとなるのならお安いご用である。





手伝い始めてから1時間半。

そろそろかしら、と言って理沙さんが持ち場を離れる。

彼女は母親と職人の二つの顔を持つ。そして母親の顔になったということは……。


「兄ちゃん、おはよー!」

「おう、はよー」


颯太がせわしなく降りてきた。今日も元気な声である。

腕白盛りの小学生。その顔は……あれ? 誰にも似てない……ぞ?


「じゃあよろしくね」


そう言って、悩む俺に颯太を任せる理沙さん。

彼女は一仕事終えた顔でまた仕事場へと戻って行く。


「今日は自分で起きれたか?」

「ううん、お母さんに起こしてもらった!」


お約束の言葉を交わして、颯太と戯れる。

この時間になると俺の仕事は一段落しているので、結構暇だ。

別に決められてはいないが、颯太が学校にいくまでの間は俺が相手をする感じになっていた。


「――――でね? 今日は彰と一緒に遊ぶんだ!」

「彰?」

「彰は僕の友達。学校のテストとかもいっつも100点で偉いんだ」

「俺と同じだな」

「え? 兄ちゃんもなの!?」

「当然だろ。俺は100点以外取ったことはないぞ」


思わず嘘を吐いてしまった。


「すっげーーー! 兄ちゃんすげーーー!!」

「おまえは人を疑うことを覚えた方がいいな」


――――タン、タン、タン。


そうこうしてる内に今度は美紀が下りてくる。

薄いブロンドに染め上げた長髪(染め過ぎだろ)がなびいて、少女の輪郭が色めいた。


「美紀か、おはよー」

「お姉ちゃん、もう行くの?」


今日も今日とて、それは日常になりつつあった。

孝則さんと理沙さんは奥で仕事中なので、代わりに俺達が見送る。

けれども、美紀の視線は俺の方へは向かず颯太だけに向けられて。


「何言ってんの、いつも通りでしょ? じゃあね颯太、あんたも遅れないようにしなさいよ」

「「いってらっしゃ~い♪」」

「……んー」


猫みたいな唸り声を上げて、美紀が家を出ていった。


う~ん、と俺も唸りを上げてみる。

やっぱりまだ俺のことは避けてるご様子。

まあ、突然家に転がり込んできた見知らぬ男なのだから、仕方がないと言えばないのだが……。

そろそろここへ来て一週間が立つ。……これじゃあいけないよな。


「兄ちゃん、どうしたの?」

「……颯太、姉ちゃんは俺のことなんか言ってたりするか?」


俺は小学生相手にそんな質問を投げかける。半ば、本気だ。


「そういえば昨日なんか言ってた」

「なんて?」

「早く出て行ってくれないかなって」

「……さいですか」


嗚呼、子供ってホント無邪気だよなぁ。



『次は颯太、やつは颯太、やっぱり颯太』

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