変わってゆく日常で
ここまで読んでくれてありがとう!
その後の話を話そうと思う。
あれから私の日常も少しずつ変わっていった。
言いたいことは沢山あるけれど、まずはお店の話から。
ミケが来てから女性客が急増したらしい。
私は学校に行ってるから実感はないんだけど、本当みたい。
父さんも嬉しそうだったけど、母さんの方が一段と喜んでいた。
でも悪い事もある。
あの雨の日の一件以来、学校に噂が広がった。
ミケのことだ。他人の視線に当てられた私はひどく鬱になる。
さらに、噂を聞きつけたハイエナ共がワラワラと店にまで集まり出した。最悪だ。
何故か知らない連中も話かけてくるし、ミケの話ばっかり聞いてくるし……ムカついたから無視しといた。
ああ、ムカつくと言えばミケのこと。
あいつはバカだ。それだけは絶対に譲れない。
でも、事あるごとに私を苛立たせるあの才能だけは認めよう。
あとすごく頑丈。
殴っても蹴ってもケロッとしている。
そのせいで私はいつも暴力に掻き立てられる。本当はか弱いのに、不愉快だ……。
家では時々、颯太と一緒にゲームしてる。
大人気ないミケは颯太に勝ちを譲らない。だから私の出番がくる。
ゲームでもボコにしてやって、私はお姉ちゃんの威厳をさらに大きくする。
偶にゲーム以外のこともしてるけど、詳しくは知らない。その時の颯太は嬉しそうだ。
…………。
それから、ちょっとした事件もあった。
この前、遙と一緒に帰っていたときに絡まれたのだ。
相手は5人、いわゆるナンパってやつだと思う。人気のない場所を狙われた。
しつこかったので抵抗すると、相手は犯罪を仄めかしてきた。
私は遙を逃がすために、目の前の男の股間を思いっきり蹴り上げた。
けっこーピンチ。遙は逃げられたけど、私はピンチ。
残りの4人が薄気味悪い笑みを浮かべて私を取り囲む。情けないけど、足が震えた。
そんな時、何処からかミケが現れた。
ここからは先は圧巻の一言。未だに信じられない。
震える私の目の前で、ミケが瞬く間にナンパ野郎をのしていったのだ。見直した。
けど、私にふざけた口調を向けてきたから思わず殴ってしまった。……ありがとうって、言えなかった。
と思ったら、お礼を催促してきた。言い難い。
でもって言えなかった言葉を言うと、むちゃくちゃ驚いていた。勿論殴っといた。
あと、気を失っていたチンピラの財布からお札と個人情報を抜き取っていた。最低な奴だ。お礼なんて言うんじゃなかった。
とりあえず殴っといた。お金も個人情報も返しといたけど、あれは全然懲りてないな。
私の居ない所でやっていそうなので、注意が必要だ。今後はミケの財布をチェックしておく。
その後、遙とも合流して一緒に帰った。
どうやらミケは宣伝の途中だったらしい。遙がミケを呼んでくれたのだった。
ミケは私を家に送り届けると、次に遙を送っていった。……別に、なんとも思ってない。
そうして私の日常はまた変化した。
ミケがボディーガードと称して、私に張り付いたのだ。
どうやらミケが、父さん達に私が絡まれていたことを話したらしい。
親の命令により、ミケが帰宅途中の私のお守りをすることになった。
私も最初は反対したけど、また同じような目に遭うのも避けたい……ので、期間限定で妥協した。
今日もミケと一緒に帰る。
ミケは携帯を持っていないので、私が家に連絡しなければ来ない。
まぁでも、親の決めたことなので、仕方なく30分前に連絡する。
ミケは校門前の坂を下りた場所で私を待っていた。
最初は尾行するだけだったけど、バカが警察に捕まったからだ。
つくづく警察と相性が悪いらしい。不本意だったが、その時は私も一緒に謝った。
今は髪ボサボサのエプロン姿。
ミケが言うにあれは戦闘モードらしい。
「しかし、美紀よ」
ミケが一度無駄に溜めて、私の名前を呼ぶ。
こいつがそんなことをする場合、続く言葉は十中八九アホなことだ。聞き流すに限る。
「おまえ友達少ないな」
「うっさい」
話題がシビア過ぎて、つっこんでしまった。
「遙がいるわよ」
「他には?」
「……亜衣とか」
「その意味深な間が気になるな」
亜衣は中学時代の友達だ。仲は良かった。
引っ越してしまったので会っていないが、偶にメールのやりとりはしている。
「あんたはどうなのよ」
他に学校で話すやつもいるが、名を聞かれても面倒だったので矛先を変えた。
「そんなに俺のことを知りたいか?」
いちいち偉そうな態度がむかつく。
「どうせいないんでしょ?」
「友達100人」
「絶っ対嘘」
「実は5人」
「多すぎ」
「本当は2人だ」
「……へぇ」
意外だ。友と呼べる人間がミケにもいるなんて。
因みに最近気付いたのだが、ミケが『本当は~』と言った場合、それは真実である割合が高い。というか、ほぼ事実だ。
たぶんいつもはふざけているので、自分で線引きしているのだと思う。
気付いた時はちょっと嬉しかった。でも言ったら変えられそうなので、言ってない。
「5人は信じないのに2人は信じるのか?」
「……なんとなくね」
絶対に言わないことにする。
「男?」
「男と女」
「名前は?」
「シゲちゃんとテツ」
「……どっちが女?」
「徹子」
「…………」
冗談なのか判別できない。
「まぁ冗談だが」
「どっからよ」
「義経と雪」
義経って……凄い名前ね。
「雪って子が女の子?」
「義経が女ってのもな」
確かに。
「どんな人?」
「義経?」
「雪」
「天才とはそいつのことを言う。俺も偉いがそいつには敵わんな」
「……何歳なの?」
「俺と同い年」
「か、可愛い?」
「興味津々だな」
「ちがっ……わなくもないわね。あんたの友達でしょ? 想像できないもの」
「……褒めてる?」
「褒めてる褒めてる」
嬉しそうな顔すんなっ。貶してんのよ。
「で、どうなのよ?」
「顔か? 顔は……まぁそれなりに、だな」
「具体的には?」
「常に無表情だ。可愛いと言うより怖い。すぐ睨むし……切り裂き魔みたいな奴だな」
「……危ない友達ね」
「俺の唯一の親友だ」
……義経はどこいった?
「じゃあ義経は?」
「あいつは美人だ」
「…………美人?」
「ああ、胸も大きいし、腰もくびれてて、ついでに尻もデカイ。あいつが近くにいると本能が理性を奪いかねない。ま、俺の理性なら十分耐えられるけどな」
「待て待て待て待て待て」
義経って女? 雪も女で……え、意味分からんっ!?
「それって義経のことよね?」
「義経の胸がデカイわけないだろ。怖い事言うなよ」
ならどういう意味よ!?
「義経は切り裂き魔だって言ったろ? 今は雪の話をしてるんじゃないか」
「逆か!」
「騒がしい奴だな」
「あんたが紛らわしいこと言うからよっ」
「足踏むな、地味に痛いし」
痛くしてんのよ。
「で?」
「で、とは?」
「雪は何歳?」
「美紀と同じ」
「……本当に友達?」
「義経の妹だ。小学校の頃から知ってる」
「まさか、あんたの……?」
「言っておくが、俺は義経をお兄さんと言うつもりはないぞ? まぁ雪は俺にとっても妹みたいなもんだが」
……ふーん。妹ね。
ふと思った。
「ねぇ、あんた兄弟いるの?」
「ん……一応、いる」
声のトーンが2段階くらい下がった。
「……何人?」
聞こうか迷ったけど、知りたかった。
「二人」
「妹はいるの?」
「兄と妹」
「何歳?」
「22と15」
話す度に不機嫌になっていくミケ。
それは、私の知らない横顔で。
「そう」
私はそれ以上聞けなかった。
「…………」
「…………」
沈黙が訪れる。
たぶんそれは、私とミケが近づき過ぎたから。
思わず踏み出した一歩が、思わぬ場所に降り立ってしまった――――。
――――ミケの兄妹。
それがミケが家出した理由に繋がっている。
……きっと、そうだ。
「…………」
「…………」
私は感じ取っていた。
何かが変わっていく予感。
ミケと出会い、私の日常は加速してゆく。
これから、様々なことが私を待ち受けている――――。
遙がミケに告白すると言い出して、私がミケに伝えることになったり。
街のチンピラ達の抗争に巻き込まれ、家にも迷惑を掛けてしまったり。
そのせいでミケが出て行こうとして、何故か私がそれを止めることも。
ミケの親友の義経さんと雪にも会って、私達はその二人に助けられる。
やっと抗争が終わったと思えば、今度は雪が居候するとか言い出して。
色々あって雪と協定を結んだ後は、突然家にミケの妹が訪ねてきたり。
妹からミケが家出した理由を教えてもらうと、またミケが姿を消して。
何故か私は泣いて、なんでか一人でミケを捜しに行って……見つけて。
ミケを連れ戻してからも、沢山沢山、色んなことがあるんだけれども。
――――今はまだ、何も知らない。
ただ、予感だけが私の胸を取り巻いている。
希望に満ちて、私はそれを待ち望んでいた。
私の中で、ミケの存在が大きくなっていく。……そんな、小さな予感。
「ミケ」
「え……?」
新しく始まった日常を、私は小さな期待を抱いて駆け抜けていく。
「ミケ」
「なに」
今、その一歩を踏み出した。
「ミケって変な名前ね♪」
「うっせ」
『笑って、踏み出した』




