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相坂ミケの悲劇

次がラスト!


† This is who's legend of the MINI-CROISSANT †


By MIKE



店を出てすぐ、進路を南にとってひた走る。

少し行った先には、美紀と思われる後ろ姿と、ケツを振って歩くチェリーの勇敢な後ろ姿が映し出されていた。


「…………ふぅ」


まったく、理沙さんにも困ったものだ。

どうして俺がこんなことをしなければならんのか。

考えても意味が解からん。全く以て、理解不能である。いや、マジで。(ニヤニヤ)


そう思いながら、速度を緩める。

当然だが美紀はまだ気付いていない。

ワンコも歩くことに集中しているようだ。


俺は足音を潜め近づいて――――おどかしてやった。


「待てゴラァ!」

「ぎゃぁああああああああ!!??」


…………。


……。


反応が良すぎて、逆に俺の方が困惑する。

付近の皆様は悲鳴を聞いて何事かと思っただろう。

そして振り向いた美紀の顔は、驚愕から憤怒の形相へと変貌を遂げていて……。


「……じょ、冗談な?」

「っ……殺すっ!!!」


俺の必死の弁護は聞き入れてもらえず、次の瞬間、拳と膝が飛んできた。






「……イタタタタ」


顔だけはやめてくれと言ったのに、顔だけ狙ってきやがった。

俳優は顔が命だって言うのに。なんて残酷な女なんだろう。


「ついてくんなっ!」

「俺の意思じゃない」


一通りボコにされた後、俺達は犬の散歩を再開していた。

美紀は足取りが速く、競歩でもしているのかと思うくらいに真剣だ。


「チェリーも大変だな。息乱れてるぞ」

「だから、ついてくんなって!」

「俺が行く先におまえが……まぁまぁ、落ち着け」


いまだに俺への殺意は収まっていなかった。


「さっきも言ったが、これは俺の意思じゃない。理沙さんからの命令だ」

「……なによそれ」

「ボディーガードを頼まれた」

「嘘つけ!」

「他にも店の宣伝やら犬の散歩やら頼まれた」

「……マジ?」

「マジマジマジック……いや、本当だから」


睨むな。


「だから店のエプロン着てるだろ。昼もこれで街中を駆けまわっていたんだぞ?」


あれは大変だった。半分見世物だったからな。

女性に声を掛けられるのは良かったが、チンピラに絡まれたのは予想外。

まぁ、大捜査線の真似事で逃げ切ってやったが……途中、迷子の子供にも出くわしたし。


「駅前で職質にもあった」

「当然ね」

「『失せろ、政府の犬が!』と、言ってやったら4人の警官に取り囲まれてな」

「嘘だろおいっ」

「まさか聞こえるとは思わなかったんだ」

「……あんたバカでしょ」


なんとか平謝りして許してもらった。

拳銃をチラつかせてきた時は、さすがの俺も焦ったぜ。

撃つわけないだろうとも思ったが、本当に発砲しそうな奴が一人混じってたからな。


「という訳だ。俺がおまえを守ってやる」

「何がという訳、よ。帰れ」

「俺がおまえを守ってやる」

「気持ち悪いから帰って!」

「…………」


意外とショック……。


「……な、なによ、もしかしてへこんでんの?」


……でもないか。


「そう思ったのなら、もっと優しくしてくれ」

「帰って寝れば?」


こいつ、性格悪すぎな。


「ところで、この辺には良く来るのか?」

「え?」


気付けば土手に辿り着いていた。

大きな川が広がり、その流れに沿って一本道が続いている。

遠くには橋があって、夕焼けが水面に反射して煌いていた。

まさに、一枚の絵画のような風景がそこには存在している。


「いい景色じゃないか。この街も好きになれそうだ」

「…………」


この朱は郷愁を誘う色……どこか物寂しくて、どこか温かい。


「いいね、今度写真に撮ろう」

「…………」

「……で、なんだその目は?」


美紀はお化けが見えるらしい。


「あんたがそんなことを言うなんて……」

「言っちゃダメなのか?」

「ちょっと、意外」

「意外でもなんでもないだろ。このセンチメンタルな俺に向かって」


さすがに全米ほどではないが、感動の涙くらい俺も持ち合わせてる。

小説を読んだ時しかり、映画を見た時しかり、足の小指を角にぶつけてしまった時しかり……ほら、こんなにも俺は涙もろい。


「あんたバカだし」

「えれぇよ」

「ふざけてばっかじゃない」

「どっちかっていうと真面目な方?」

「そうゆうトコとか」

「今のは真面目に答えたつもりだっ」


おかしいな? 俺と美紀との間で意思伝達に齟齬そごが生じているようだ。


「キャンキャン」

「お、おまえもそう思うか?」

「キャンキャンキャン」

「いやいや、それはないだろ」

「キャンキャンキュー」

「あっはは、笑える笑える」

「キモッ」


言われると思ったぜ。


「だってさ、チェリー」

「あんたのことよっ!」

「あんたのことよっ!」

「…………」

「……なぁ」

「黙れ」


口真似したら、黙れと言われた。

俺はただどれほどの出来だったか気になっただけなのに。

しかし俺は真面目な人間なので、言われた通りに黙ることにした。


「…………」

「…………」


喋れないので、景色を楽しみながらてくてく歩く。

橋で折り返して、来た道を逆戻り、すれ違ったランナーを睨みつける。


「…………」

「…………」


そして黙ったまま店先に到着。

孝則さんと理沙さんの奇妙な視線を受けた俺達は屋上へ。


「…………」


チェリーの首輪を犬小屋にくくりつけて、美紀はさっと立ち上がった。


「…………」


チラッと俺を見てから、無言で踵を返す。

俺はそのまま背中に張り付いて二階へと侵入。

玄関で急に止まった美紀の背中を風の如くに躱し切って。


「…………」


俺達はただ無言を貫き徹していた。


「…………」

「…………」


美紀の部屋の前まで来た時、ピタッとその足が止まる。


「いつまでついてくんのよっ!」


先に限界を迎えたのは美紀だった。


「勝った」

「何が!」


言いつつ、美紀は敗者の顔を晒している。

本当は解かっているはずだ。そう、自分は負けたのだ、と。


「ふっ」

「!?」

「ウップ!?」


鼻で一笑してやった所、鳩尾を強打された。


「~~~~っ!?」


痛い、息ができない。しかしダメだ……ここで手を出したら、負けるのは俺……っ!


「ふんっ」


――バタン。


苦しむ俺を余所に、扉は堅く閉じられた。


「…………」


このまま下へ戻っても良かったが、俺は思いとどまる。

痛む鳩尾を我慢しつつ、俺を拒絶するかのような扉の前で仁王立ちだ。


「ふぅ」


この痛み(恨み)、晴らさでおくべきか。


「美紀ー?」

「…………」


返事はないが、声は聞こえているだろう。


「聞こえてるかー、美紀ー」

「…………」


部屋の中でガサガサと人の動く音がした。


「ひとつ、言い忘れていたことがある」

「…………」

「実はおまえに、ずっと言おうかどうか、迷っていたんだが……」

「…………」


音はしない。


「いいか、良く聞けよ?」

「…………」


……ゴクリ。


「おまえ、鼻毛出てるぞ」


――ガタガタッ!


反応があった。


くくく、焦ってる焦ってる。


「俺が言いたかったのはそれだけだ」

「…………」

「あーすっきりした」


さて、戻るか。


――ギィィィ。


満足した俺が扉に背を向けた時、それは開いた。


「…………」


恐る恐る振り返ると――――。


「…………」


――――鬼……!


「……気にすんな。俺とおまえの仲じゃないか」

「…………」


鬼は無言で重そうな国語辞典を振り被る。


「……ほら、アレ、ほんの軽いジョークだって」

「死ねぇええええええええええええ!!!!!」


そして、それは凶器と化したのだった。


『だが悔いはない』

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