須藤孝則の困惑
客の姿が……。
† This is my life of the MINI-CROISSANT †
By TAKANORI
――チリンチリン。
扉につけられた鈴が鳴るのはお客さん来訪のお報せ。
裏を返せば、お客さんとの送別の合図でもある。
昨日と違い緑のエプロンを羽織った青年の後姿を、私達は温かい目で見送っていた。
「やっぱイカすわー。ミケを拾ったのは正解だったわね」
理沙さんは満足そうに一人頷く。
昨日に続いて、今日も理沙さんの機嫌は良いらしい。
「へぇ、そんなに彼が気に行ったのかい?」
「そりゃあそうよ。これでまたお客さんが増えるわね、きっと」
「しかし……あれで本当に大丈夫だろうか」
「ふふふ。大丈夫、私の目に狂いはないわ」
理由は明白。ミケ君が彼女の趣味に付き合わされているからだ。
まぁ、本人も別に嫌がっているわけではなく、寧ろ進んで協力しているようだが……。
兎に角、理沙さんの命により昨日と同じ格好になったミケ君は、今度は店の制服を着せられて、たった今街中へと放り出された。
「これから忙しくなるわよ~」
「ははは、それは楽しみだね」
私は今時の流行りは知らないので何ともいえないが……。
理沙さんが言うのならそうなのだろう。
「ねぇあなた、面白いことになってきたと思わない?」
ミケ君を送り出した後。
新しく焼けたパンを並べ終えて。
客足の途絶えた店内でまったりと寛いでいた所だった。
「面白いこと?」
「なによ、気付かなかったの?」
唐突過ぎる。私には何のことだかわからない。
「……はて?」
「昨日のことよ。二人で帰って来たじゃない」
「……ああ」
言われて、そういえばと思い出す。
しかし、あれのどこが面白いのか……。
「美紀が怒ってたことかい?」
「あなたにはそう見えたの?」
「いや、見えるも何も、一方的に怒鳴ってたじゃないか」
昨日の話。
美紀とミケ君が帰ってきた時のことだ。
「美紀はまだ納得してないんだろうね」
傘を忘れたミケ君にも怒っていたが、そうじゃない。
ミケ君が家に居ることを、美紀はまだ反対しているのだろう。
「あら、そうかしら?」
笑みを浮かべながら、理沙さんがそう答えた。
「私はそうは思わないわよ?」
何故か自身満々だ。
「……それじゃあ、美紀はなんで怒ってたんだ?」
「あれはたぶん照れ隠しよ」
「……反抗期じゃなくて?」
「あの子、ミケに惚れちゃったんじゃないかしら」
「…………」
理沙さんはさらりと凄いことを言う。
「まさか、それはないだろう」
「そう? 私にはそんな気がするんだけど」
美紀がミケ君に……?
いやいや、そんなはずはない……とも、言い切れない……か?
確かにミケ君は女性受けが良い。
それは店内の様子を見ていればわかる。
ということは、美紀にも同じことが言えるかもしれない……。
「……なんだか私もそんな気がしてきたよ」
「でしょ、面白くなってきたと思わない?」
カラカラ笑う理沙さんを見て思い出す。
そういえば……。
私も出会った当初は、理沙さんによく怒鳴られていた気がする。
それを言えば彼女は否定するだろうが……まさか、そういうことなのかっ!?
『いやいや、真意はまだわかりません』




