表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/17

帰り道で ~美紀~

これが書きたかっただけ。最初はね。


最初は少し緊張していた。


今までほとんど話したこともなかったっていうのに。

そいつはまるで何事もなかったように話かけてくる。


避けていたのは私だけだった。

話そうとしてなかったのも私。


『美紀は俺のことが嫌いだよな?』


そいつは直接、私の心に斬り込んできた。


私は、居候のことが嫌い。


だって、今日も私は憂鬱だった。

昨日だって一昨日だって、私の心は雨模様。

それは居候が原因で、それは当り前の事で。


私も嫌われてると思ってた。

それが、当然だと思ってた。

だから、私は困惑していた。


『単純に気になるだけだ』


相合傘をした理由。


濡れて困るのは居候だけじゃない。

それから、ほんの少しだけど、可哀想だと思ったのもある。

だから仕方なく傘に入れて上げることにした……じゃないと、おかしい。


『……確かに、あんたは嫌いよ』


ならば一瞬、胸の奥に走ったあの痛みはなんだろう。

どうして、この胸は未だに高鳴ったままなんだろう。

いつの間に、憂鬱な気分はなくなっていたんだろう。


私には、理由がわからなかった。

わからないまま、私は雨の音を聞いて歩き続けていた。

隣には、何を言い出すのか予想がつかないバカがいた。


「そういえば美紀よ」

「あによ」


でも一つだけ。


「俺は誰だ?」

「はぁ?」


一つだけ、わかったことがある。


「頭おかしんじゃない?」

「実は偉い」

「……それが言いたかっただけ?」

「はぁ……もう一度だけ言うぞ。俺は誰だ?」

「偉そうに言うな」

「おまえの方が偉いなら、俺が何を言いたいのかが判るはずだ」


認めたくないけど。


「……記憶喪失?」

「昨日の晩飯はスパゲッティだったな。美味かった」

「ハンバーグよ」

「最後のチャンス。俺は誰だ?」


こいつのこと――――。


「……もしかして、名前で呼べってこと?」

「まぁ、広義的にはそんな意味も含まれる」

「バカ?」

「そう悲観的になるな」

「あんたのことよっ!」


バカで、偉そうで、かなりムカつくやつだけど。


「私はあんたのこと嫌いって言ったでしょ?」

「それでも名前くらい呼ぼうぜ」

「言う訳、ないでしょ」


自分勝手で、アホなことばっかり言うやつだけど。


「……なら明日も高校に行っていいか?」

「なっ!? 卑怯よっ!」

「明後日も行くとしよう」

「わ、わかったわよ! 言えばいいんでしょうが言えばっ!」

「嫌なら別にいいんだぞ? 強制してるわけじゃないからな」

「嘘つけっ!」


すごく、すっご~く性格の捻くれたやつなんだけど。


「い、言うわよ……」

「さて、須藤美紀さんの憧れの男性はだぶえっ!?」

「次やったら、殺す」

「…………」(無言でコクコクと首を振る)


本当に、そうなんだけど。


「あ、相坂……」

「相坂?」

「ミ……」

「ミ?」


だけど。


「………ヶ」

「…………」


どうしてだろう?


「言ったわよ」

「言ってねぇよっ!?」


私は、こいつのこと――――そんなに嫌じゃないみたいだ。





少しだけ。





雨は弱くなっていた。



『嫌いは嫌いよ』

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ